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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの体は友を探す
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墓参り


 戸口で待っていたサラと合流し船へと帰る途中後ろをついて来たツヒトが礼を言って来た。


「ドキアの方々、人間と獣妖怪達の諍いを止めて頂きありがとうございます」

「まだだぞニョロ! 木に実がなんなきゃダメなんだぞ!」


振り返るとツヒトとリンは手を繋いで仲良く歩いていて孫娘と散歩する中の良い家族に見える。

柿栗三年桃八年、だったか? 早ければ3年でリンは監視業務から解放されて、人間も山から生活の糧を手に入れやすくなる。

後は野生動物との折り合いだが、その辺はツヒトにお願いして人間達を教育してもらう他はないか。


「ナーム様お願いがあるのですがよろしいですか?」

「何? 言ってみなさい」

「神狼様がお使いになっていた剣ですが、鍛治師として一度で良いので拝見したいと思いまして」


ガレが鍛えた超震える剣の「シリウス」の事だろうけど、あれはシロンの亡骸と一緒に山頂に埋めてしまった。

見せるのは構わないが墓を掘り返すのは気が引ける。

しかしこの地の者達が外敵から身を守る為に武力向上するのにはメリットがある。

考え込んでゆっくりになった俺の歩みで察してか


「姉様、シロンの予備の剣なら『樹皇』にまだあるかもしれませんよ」

「そうなの、シャナ?」

「出向して川を降ってる時シロンが舳先に隠してたの見てました」


よくそんな記憶残してるな、これは空間認識力の男女差ってやつか? 男は広い空間を認識するのに長けているが、とかく女性は身近なものに長けている。

地図を読むのは苦手だが、部屋の小物が入れ替わったのにすぐ気付くってやつ。

そのお陰で男の浮気はバレやすく女の浮気はバレにくいとも聞いたな・・・。

シャナウはお姉さんとして常にシロンを監視していたに違いない。

俺は外しか見てなかったもんな・・・。

って事は俺はこのエルフの美少女の身体をしててもまだまだおっさんだって事だ。


「だ、そうだツヒト。 でもさっきの荒らし屋連中が見つけてたら今は船にないよ。 後で拾ってくるけど」

「それではまた船にお邪魔させてもらってもよろしいですか?」

「約束してもらえるなら、ね。 技は一子相伝で出来た品は外に出さない! それと、獣妖怪達にも納めること!」

「心得ておりますナーム様。 極上の逸品が出来ましたら神狼様の所へ持っていきます」

「よし! ・・・じゃぁ無いわね。 何かしらあれ?」


岬の袂に数人の人影があった。

昨日俺達を取り囲んだ連中3人とサルダだ。

男達の前には大きな木箱があって大きな魚が数匹尾鰭をはみ出しているのが見える。

近付くと全員が低い姿勢になって俺達の出方を伺っていた。

ツヒトが駆け寄りサルダと小声で会話して


「お詫びだそうです・・・。 荒らし屋を止められなかったこの村人を皆殺しにしないで下さいと・・・」


何それ、コワイ! どこぞの独裁者でもあるまいに、こんな美少女捕まえて・・・。

あ! ダメださっきのシャナウとサラのお掃除、俺の憂いを無くす光の矢に恐怖を感じない人間はいないか・・・。


「私達の船を襲った連中はセトの人間では無いでしょ? それとも、ここの人間が手引きして襲わせたの?」


俺の問いかけに全員が無言で全力否定の意を表す。


「それより、少し海を汚してしまったわ。 ごめんなさいね」

「これ食ってもいいのか? こんなおっきぃーの初めて見たぞナーム!」


木箱に駆け寄りかぶりつく様に魚を眺めるヨダレを垂らしたリンを見て、男達は全員のけぞり逃げ腰の口から「通せんぼのリンだ!」と小さな叫び声を漏らす。


「姉様の邪魔しないのリン!」


シャナウに後頭部を小突かれ女の子姿だったリンが子狸姿になる。


・食ってもいいんだよな。 これ、俺にもくれるんだよな、人間!

「私達はあなた方を責めたりしませんよ。 セトの皆さんのご好意であればこのお魚は受け取りおいしく頂かせていただきますけど?」


俺の返事は男達に届いていなかった。

視線はむくむく肥えた子狸姿のリンに釘付けで、いまだ食わせろと叫ぶリンの語りは「キャン、キャン」しか聞こえていまい。


「通せんぼのリンが・・・、狸になった・・・」 


呆けた男達にあれこれと説明をするのは面倒になったのでこの場はあの年寄り達に任せよう。


「皆さん、先ほどこの村の長老達と諸々の話は済んでます後で聞いてみてくださいね」


ご馳走になりますとお礼を言ってから岬への小道に向かう。

大きな木箱だったがサラが咥えるとそんなでもなかった。

軽々と運ぶ上機嫌になった皿の周りを子狸がチョロチョロ付き纏う。


・大猫様! 残してね! リンの分ちゃんと残してね!

・ナーム様とシャナウ様の邪魔ばっかりしてたリンの分は無いに決まってます

・そんなぁ。 リンはお仕事頑張ったのだ。 ちゃんとナームと一緒にいたのだ! お魚食べたいのだ!

「姉様、今日の晩ご飯は焼き魚と焼き狸でよろしいですか?」

・えぇぇ! 焼かないでぇ、生でお願いします

「それじゃ、狸のお刺身だな!」


俺もシャナウも表情には出さないが盗賊とは言え人間をたくさん殺した後だ、ささくれ立って居心地が悪かった気持ちが今の会話でだいぶ和らぐのを感じた。

連れて来てよかったかも知れないとシャナウに睨まれ剥製になった狸を一瞥してからその場に残し『樹皇』に飛び移った。



 ゆっくりと船内を調べるとそれほど荒らせれてはいなかった。

目に着くところに金塊や宝石を置いていたので、一隻目は早々に目的達成して浮かれて出向したのだろう。

小部屋や寝室の家探しを始めた頃にシャナウ達が到着した様だ。

シロンの予備の剣はシャナウが話した場所にちゃんと有って俺も検分したがサビも歪みもない逸品だった。

積み荷の表と無くなった物を洗い出し夕暮れ近付いた海上へと向かった。

難なく海底の沈めた船から大事な物を引き上げて、戻って来た頃には甲板に晩餐の準備が整っていた。


「ただいま、シャナ」

「お帰りなさい姉様、どうでした?」


万能竹箒に結ばれた綱を引き上げ持って行かれた積み荷を甲板に乗せる。


「大事なものは全部拾ってこれたはず」

「そんなのいいの! 早く座って! ここ座って!」


水晶の明かりで照らされた小さなテーブルに座ったリンが椅子をパンパン叩いている。


「ナームが来なきゃ食べないって、シャナウがいじめっ!」


人の姿でいきなり動かなくなったリンを初めてみた。

シャナウの気に当てられるとすぐに『薄魂体』が解除されていたのに、慣れて来たのか? 進歩してるのか?

まぁ俺もリンのウザさには慣れて来たし、食事したら山に返してやるから好きにさせてやろう。



 食事を終えた俺はリンを連れ竹箒に跨って星空を飛ぶ。

シャナウとサラにはまた荒らし屋達との揉め事見たいのが有ったら面倒なので留守番を頼んだ。

リンを送って行くついでに獣妖怪と山のエルフ達に人間達との話し合いの結果を報告しに行くだけだったから。

竹箒の上をあっちこっちと動き回るリンを見ているとまたアニメのワンシーンが脳裏を過ぎる。

黒猫じゃなく肥えた子狸だが、一人で飛ぶよりは気が紛れていいのかも知れない。

日本は大陸のプレートがせめぎ合う自然災害が頻発するところだ。

台風も津波もこれから幾多も訪れるだろう。

そして人間も動物も山の木々達も不意に命を奪われるのだ。

雨の降らない乾燥した土地、雪に埋もれた凍った土地、どちらも厳しい場所だが住むものは覚悟を持って生きているだろう。

でもここは、穏やかな生活を瞬間に奪われる過酷さがある。

魂の記憶を継続するには厳しい土地なのかも知れない。

上下左右分からなくなりそうな闇の中リンの背中を撫でながら物思いにふけった。


・神狼の匂い!


いきなり尻尾をピント立ててリンが叫んだ。


「リンちゃんシロンの匂いがするの?」

・あっち! あの山上方からするナーム!


狸ほど夜目は効かないが小高い山が見えた。

シロンを埋葬した山だ。

進路を変えて墓のある場所へ降り立つ。


・すっごい神狼の匂いはあるのに・・・どこ? 神狼〜!


リンが大声で叫ぶがもちろん誰も答えない。


「リンちゃんここはシロンのお墓なんだよ。 むかぁし生きてたシロンがここで眠ってるんだよぉ」


積み上げられた小石を興味深げに見ているリンの隣にしゃがみ両手を合わせる。

この時代に宗教など無いだろうが自然とその姿勢になった。


・この厳しい土地で生き抜こうと諍う全ての生き物が、心常に安らぎで満たされます様に・・・


目を閉じて心の中に強く念じた。


・誰だ! こっちに誰かいるぞナーム!


呼ばれて目を開けると灰色の子犬を咥えたリンが小石の山の裏から姿を見せる。

獣妖怪の広場で遊んだ子犬と同じ生後間もなそうな子犬。


「あらどうしたのこんな山上で? 迷子になったの?」


子犬は怯えているのか体を震わせて目も合わせてくれない。


・この匂いは・・・、しっ!


なぜかリンがいきなり剥製になった。

俺は何もしていないのになぜにと思ったが、子犬はこんなに怯えているのだ早く親元に戻したほうがいいだろう。

少し待ったがリンが帰ってこないので腰のポーチからハンカチを取り出し包んでから竹箒に結える。

震えが止まらぬ子犬をお腹のところで抱え獣妖怪の所へ向かった。

 ピラミッドの下に降り立つとすぐにヨウが現れた。

剥製のリンと灰色の子犬を手渡すと、やけに驚いていたが母親に心当たりがあると言っていたので安心だ。

浜辺の村での話を伝え、ツヒトとの連携でうまく事を運べるだろうと助言しておく。

かなりの時間が経っても戻らぬリンが少し心配だったがエルフの里へ向かった。

次は、新たなる展開

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