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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの体は友を探す
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セトの村人


 ・早いぞナーム! 高いぞナーム! 目がシバシバするぞナーム!

初めて空を飛んだのか両腕で胸の間に抱えられたリンは、ウザかった。

手足をバタバタと動かし暴れるは、首をあっちこっち巡らして見知った場所を見つけては地名を叫ぶはと、何度も捨てたく成った。


「さっきからウルサイ! 大人しくしてなさいリン!」

・うぉぉ! 三本松の崖があんなに小さいぞナーム!


こいつ、聞いちゃいねぇ!

竹箒やモガ服ならばゆっくりも飛べるし手荷物も運べるが、ブラック・JK姿は一定の高速飛行でないと風の魂の消費効率が落ちる。

超烈な風の中、目をひん剥いて上空からの景色探訪しているリンの顔は大量の涙とヨダレでグチョグチョだ。

走行中の車の窓から外を眺めてた飼い犬もそうだったなぁ、ドライブ後の掃除も大変だった事を思い出し、俺自身がリンの汁で汚れる前に村に着かなくてはと速度を上げた。

 妖怪達のピラミッドを出発して30分もたたずに村が見えて来た。

まずは村人と話をしてるだろうシャナウ達と合流すべく空から見渡すと異変に気がついた。

湾内の船から煙が上がっていて喧騒が耳に届く。

騒ぎの原因はシャナウ達だと直感し現場へ急行した。

煙を上げていた船は停泊させていた『樹皇』に横付けされた大型の船で、近づくにつれ風に血の匂いも混じってくる。

湧き上がる焦りを抑え飛行に集中して、どうにか『樹皇』の甲板に降り立った。

甲板にはシャナウとサラそして人間の姿が数名あった。


「シャナ無事か? なにがあった?」

「姉様おかえりなさい。 早かったですね? もう少しで船の掃除が終わりますから」


シャナウは手に持った事切れてるだろう男を外海に軽く放り投げて答える。


「こいつら荒らし屋か?」


血の池の中に薄汚い皮鎧を着込んで倒れる男達を見つめる。


・商人だと言い張ってましたけど、留守にしていた私達の船から荷物を運び出してました。 泥棒さんには人生をやり直してもらわなければ。 ねぇナーム様

「そ、そうだねサラ」


人生をやり直すとは罰を受けてその後の人生を真っ当に生きるのではなく、死して生まれ変わるの意味だろう。

血で染まったサラの爪が男達を切り裂く凄惨な現場を見て荒らし屋連中を少し哀れに思ったが、シャナウもサラも罪を認め改心した人間にまで人生のやり直しを断行したりはしないはずだ、多分・・・。

人間のつく嘘など彼女達には簡単に見透かされてしまうのだ。

国家も憲法も法律もないこの過去世界は、狭いエリア内の常識が乱立する世界。

しかし、度を越す我欲の行使は命の取り合いになる事はどこのエリアでも共通してるだろう。

彼らは一線を越してしまった、シャナウとサラの仲間達の聖域を荒らしたのだ。

この場の出来事の正当性を自分の頭の中で組み立てて、息のある男達を尋問しているシャナウの元へ歩み寄る。


「なぁ、なぁ! すまなかったって、ドキアのねえちゃん! 俺達は残った荷物を積めって頼まれただけなんだって!」

「本当だって! 頼まれただけなんだよ、あんたらと話はついてるって聞かされてたんだよ!」


口々に言い訳を叫ぶ男達を軽く外海へ蹴飛ばしシャナウはすでに戦意喪失した男達の間を進む。

人体がしてはいけない折れ曲がった姿で飛んでいくさまを恐怖の眼差しで見送りながら、命乞いをしていた残りの男達の口が閉じられる。


「残った荷物?」

「・・・そうだ・・・、めぼしいもんはあいつらが・・・」


一人の男が力なく上げた腕の先に俺とシャナウが目を向けると、遠く海原に浮かぶ船が確認できた。


「姉様どうしますか?」


いつにも増して無表情な面持ちで問われて逡巡の末頷き返し、俺は右手を船に向け光の矢を連射した。

瞬間煙の様に破片が飛び散って船は姿を消し、暫くしてから破壊音が耳に届いた。


・お前ら・・・、おっかねぇ連中だな・・・


左腕で抱えられたリンが小さく呟いたので睨んでやると直ぐに腕の中で失神してしまった。

俺の手で荒らし屋を片付けたのは今後の憂いを断ち切る為だ。

ドキアの船を襲って生きて帰ってもらっては困る。

成功したのであればうまい話をもう一度と思うだろうし、失敗したのであれば復讐をと思うだろう。

盗賊連中には記憶にも記録にもドキアの船との接触を残しておきたくはなかった。

旅途中で何か諍いが会った時、穏便に事を済ませるためにと積んでおいた金塊やら宝石が裏目に出てしまったと悔やまれる。

俺にとっては何の価値もないものだが、ドキアの人々がエルフの装飾用にとコツコツ集めてくれた物だ後から海底から回収しておこう。

程なく甲板で続いたシャナウの審判もあらかた済んで、ポツンと一人の男が残された。

腕組みしたシャナウに近づくと困った顔で俺の方を見る。


「セトの人間です、姉様」


見るからに荒らし屋とは違う年老いた男。

姿勢を正して座り笑みまで浮かべて俺達を見つめている。

何だ? この爺さんは・・・、と近寄ると


・ニョロじゃないか?


いつ目覚めたのか小脇に抱えたリンが暴れ出した。

力を緩め解放してやると飛び降りて老人の前へ駆けていき周囲を回り始めた。


「ニョロ? なんじゃそりゃ?」

・ナーム見ろ! ニョロだ! ニョロ。 懐かしいなぁー、人間になってたのかぁー、盗人に成ってたのかぁー」

「おいコラ、わしゃぁ盗人じゃないぞ! 何だ? リンじゃないか?」 


リンの旧知の存在と知りシャナウの処断を免れたニョロをサラに頼んで凄惨な現場にならなかった操舵席のある高い位置に移ってもらい、下の甲板に残された血と肉片を大量の水で洗い流した。

臭い盗賊の匂いも、多くの人間の今生を終わらせた負い目も消えてさっぱりだ。

『樹皇』に結ばれた綱を切られ漂い始めた荒らし屋の船のお陰か、セトの村人の喧騒が聞こえ始めたがこの盗賊と一緒に船に乗っていたニョロの尋問を先に済ませることにする。


「さて、ニョロ。 何でこの船に乗っているのか正直に話してくれるかしら?」

・正直に話せよニョロ! こいつら容赦ないぞ! 怖いんだぞ!


俺の眉間に縦じわが出たのを見てか、シャナウが人差し指でリンの横腹を突っつく。

躍動的な剥製と化したリンが静かになる。


「ドキアのナーム様、シャナウ様、サラ様で間違い無いでしょうか?」


正座姿での問いかけに小さく頷くと深く腰を折り頭を下げる。


「私はこの村で鍛治師をしとりますツヒトと申します。 リンが呼んでた名前は昔の名で、神狼様の所にいた頃のものです」

「昔はシロンの所の獣妖怪だったの? それが村の人間に?」

「その通りでございます。 日々の修行と鍛錬の中で御三方のお話はいつも聞かされておりました。 この身で会いまみえる事が出来るとは思いもよりませんでした」


真摯に答えるツヒトの言葉には嘘は感じなかった。

魂での会話も出来る相手とは言葉以上の情報が大量に読み取れる。

彼からは俺たちに対する崇拝の念が伺えた。


「なぜそんな貴方が盗賊の仲間になったのかしら?」

「滅相もございません! 御三方の船から盗みを働くなぞ、考えも及びません!」

・ニョロは嘘なんか言わないぞ! 信じてやれナァ・・・ム


懲りないリンはまたシャナウに剥製にされた。

可哀想な奴を見る目で動かなくなったリンを見つめてツヒトは語り出す。


「昨夕坑道から鉱石を採って村へ戻って来ましたら、御三方の話で村は大騒ぎでありました。 急ぎ自宅へ帰って身なりを整え挨拶に向かおうとした所、この村へ商用で来ていた連中が良からぬ企てをしているのを耳にしまして、船で留守番しているお方のお耳に入れなければと来てみれば誰もおらず夜通し帰りを待っておりました。 夜明けと共に二隻が横付けにされ大勢の盗賊が現れて・・・船底に隠れました・・・」

・ニョロは弱虫だから逃げ足だけは早い! オコジョだからな!


脳裏に浮かんだのは手足の短い寸胴な獣。

イタチとかテンとか俺には区別が付かない防寒着の襟に縫われた毛皮を想像した。

なぜか小躍りしてツヒトの周りを回っていたリンは、シャナウにつままれサラに向かって投げられた。

俺は気にせず話を続ける。


「それじゃ、私達に危険が迫ってるって知らせに来てくれたってわけね?」

「御三方にもしもの事があっては、この村も神狼様の逆鱗に触れてしまうやもしれません」

「これの製法もシロンから聞いた?」


腰に挿してあったペティーナイフをツヒトに渡すと何度も頷く。

これで、振動刃を持つナイフの出自は判明して技術盗用の小さな疑念は解消された。

それとこの地でも魂の記憶を継承しての人間が誕生できる希望が生まれた事は喜んでいい事なのではと感じた。

まぁ最初が獣のオコジョの魂なのはどお受け取ればいいのかは考えないでおく。

 記憶の継承についてこの頃少しは理解し始めた俺は、この古代日本でも起こってくれたら良いと思っていた。

ドキアの傘の広場でテパや行き交う人々に話を聞いた結果の憶測だが、人生を終える時の感情が大きく影響している様に感じている。

転生を信じた者が死の間際に振り返って自分の人生を総括した時、幸福感に満たされると次に生まれた時記憶が蘇る。

肉体の苦しみや他者への憎しみに溺れ憎悪が勝ると、本当の自分を思い出せないのでは無いかと想像している。

苦しみを味わうだけの人生など試練でしかない。

逃げたいと望むのは当然だろう。

記憶の継承は自らの望みで得られる現象。

そう、それが真実ならば俺に過去の記憶がない理由は、総括で苦難が勝った可能性がどこかで生じたって事だ。

人生に希望を失ったのだ。

自分の記憶の継承は別にして、ここでツヒトが伝承者になってくれて記憶を持つ者が増えたならドキアの様な安寧な地域になってくれるかもしれない。

サラの前足でもがくリンを横目で見ながら陰ながら応援しようと思った。


 一通り荒らし屋の一件は治ったので本題の村人の話を聞きに行くことにした。

村の案内をツヒトに頼んで昨日同様に波止め岬に降り立つと、俺達の上陸を見た人間達は一斉に姿を隠した。

空を飛ぶだけではなく沖行く船を吹き飛ばしたのだ、この反応は当然だろうと思う。

ツヒトを先頭に案内されるまま細い道を進むと一軒のボロ屋の前で歩みを止める。


「皆様この家に村の纏め役が住んでいます」

「ありがとうツヒト。 まとめ役の人って私達の話に耳を貸してくれる人かしら?」


事前情報は大事だ。

ツヒトの表情に陰りを感じ簡単に事は運ばないと感じたが、よくよく考えれば俺達には時間制限なんて無いのだ、一度でダメなら二度でも三度でも話し合いをすれば良いだけだ、何も問題はない!

ツヒトに目配せすると扉に手をかけ横に滑らす。


「イワジ入るぞ!」


暗い室内に臆せず入室していくツヒトの背中越しに、土間の囲炉裏をコの字で囲む板の上に三人の人影が見えた。

外で待っていると室内から小声の会話が数回あってから「ドキアの方々中へお入りください」とツヒトに呼ばれ中に入った。

次は、村人との交渉

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