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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの体は友を探す
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俺が仲介役!



 「あぁ、こっほん! 私からの話は海辺の人間との争いを辞めて欲しい。 それだけです」

・承知しました


視線が痛くて色んな反応を覚悟して語り始めたが、いきなり承知されてしまった。

答えたのはヨウだけだったので、その他の獣達に視線を巡らしたが不平不満の感触はない。

それよりも何を今更当然の事をといった雰囲気だ。


「あれ? 人間の子供を攫ったり食べたりしてなかった?」

・ご冗談を。 ここに集う言葉交わせる獣は人間を喰らう悪食はおりません。

「そ、それなら良いのだけれど、よかったらあなた達のこと詳しく教えてもらって良い? ちょっと考え違い、いえ、ごめんなさい。 誤解してたかもしれないから・・・」

・それは、人間の話や同族のエルフの話では無く私達の話を信じると言うことですか?


ヨウの話し方は昨夜の時と同じでおっとり口調なのは相手の真意を判断する時に使う術みたいに感じた。

肉体や魂やらが発しているだろう臭いや色の変化を見定める様に声音を変えている。


「・・・あなたの言葉を信じますが、人間とエルフの話も信じます」

・対立しているもの同士の話を全て信じる? それでナーム様はどおされるのですか


鋭い目が細められ尖った鼻の脇にシワが寄るのが見えた。

多分ヨウには上っ面で信じるなどの言葉は見透かされるだろう。


「それぞれの立場に正義があるでしょう。 正義が正面で争うならば私が折り合える所を探します。 大小の誤解があっての不和ならば私が一つ一つ解いていきます。 その為にシャナウとサラは海辺の人間たちの所へ話を聞きに行ってます。 エルフの見守りの土地で無益な戦いをして欲しくないのです」

・私達が生きようと戦う事は無益ですか?

「違います! 相互の理解と対話、それでも生存が脅かされるのであれば戦って勝ち取らなければならない。 ですから私は三者の話を全て信じるのです」

・神狼が言ってた通り熱い方なのは間違いない様ですね。 どの道私達は人間とは闘いませんから、人間たちが武器を手に山を登って来たら他の土地に移るだけです


やっぱりおかしい、頭の中で話が繋がらない。

人間たちにあれだけ嫌われているはずの山の獣妖怪と白い大男、ヨウの返答を聞く限り私の中で獣妖怪たちを変な色眼鏡で見ていた様だ。


「それじゃ、あなたの記憶の最初から詳しく聞かせてくれるかしら?」

・承知しました



 やはりヨウは俺より頭が切れる奴だった。

昨夜のお間抜け子狸リンの説明とはツキとすっぽん? ここは月が無いから雲泥か? だ。 

時間としては150年の歴史を簡略して教えてくれた。

 ヨウの意識は広大な縄張りを持つ山犬の存在を認知するところから始まる。

火山灰で覆われた山々にエルフ達によって植えられた若木の芽を痩せ細った体で草食動物から守り、初めて実をつける頃には熟し落ちた種を芽が出るまで守ったり、強大な力も変だと思っていたが行動も変だった。

木の実を食べたくても怖くて時折遠くから観察するだけだった。

ある年強烈な風と大雨で人間達の家の裏山で山崩れが起きた時、信じられない力で流れを変えて人間を守った姿を見て初めて声をかけたらしい。

同族の狐とは意思は通うが会話が出来なかったが、その山犬とだけは会話ができた事でいつも側にいる様になったのだそうだ。

山犬の行動に興味を持った獣が時折現れ仲間が増えた。

守って来た木々が大きくなった頃、食べ物を求めて山を登って来た人間達を追い返した。

山崩れから守った人間に木の実一個も持ち帰らせ無かった不思議を聞くと「小さな木の実一個では一人の腹も膨れまい? されど、木の実一個が芽を出して300年もすれば100人の腹が満腹になるのだ」と痩せこけた山犬は笑ったそうだ。

時間が経って多くの仲間が増えたが山犬の縄張りは山全体から山頂へ向けて狭められた。

豊かになった中腹の森に言葉通わぬ獣達が増えて山に迷い込んだ人間が時折襲われているらしい事は知っている様だ。

山頂付近の現存する縄張りは未だ広大だが人間が簡単に木を切れない太さになるか、海面が山を登ってくるまでは獣も人間も遠ざけるのが今の決まり。

そして海向こうにいるらしい巨大トカゲがこの地に来ても、大事な森を荒らされない様に力を付ける為に日々鍛錬する。

言葉通う獣として目覚め飢えと縄張り争いから解放された彼らは、主の決め事を守って平穏に暮らせているのだそうだ。

座って聞いていた俺だが途中から胸の奥が熱くなって来たのを感じた。

エルフを手伝ったシロンの努力があって180年の短い期間にもかかわらず森はこれほどまでに恵豊かになった。

そしてこんなにも慕う仲間ができた。

聞き終えた俺はここのみんなが可愛くて愛おしくてたまらなくなり、上空から称賛の光を垂れ流した。


「ありがとう、ありがとうみんな! シロンの友達になってくれて!」


困惑気味なヨウの前へ降り立つと思いっきり抱きしめる。

耳元でため息が聞こえたが抱きしめる腕に力を込めると温かい何かがまとわり付いた。

妙に感じて身を離すとヨウの首から大量の血が流れて白い毛が赤く染まっていた。


「どうしたのヨウ! 首から血がいっぱいでてる!」

・先ほどの剣を受けた擦り傷でしょう

「何言ってるの? 擦り傷でこんなに血は流れないのよ! 誰か? チドメグサ摘んできて!」

・お構いなくナーム様、じき血は止まります


『薄魂体』の首を切り飛ばしても生身の体には影響が無いのかと思ったら大間違いだった。

誰かが積んできたチドメグサの葉をつみ、清水で洗浄した後にすり潰す。

毛を掻き分けて傷口に汁を優しく塗りつけた。


「まだ怪我してたなら早く言いなさい!」


傷付けたのは俺だが、叱ってやった。


・剣を受け流す時に『魂体』を消すのが遅れたのは私の未熟さ故

「シロンみたいないじっぱりなとこは一番の友達だからって似なくて良いの! まったく!」


汁を塗る指先が痺れる感じに違和感を覚えたが流れていた血は止まった。

腰のポーチから着替え用の洗濯してあったモガ服を取り出して包帯状に切って巻きつけておく。


「後は怪我してない? 意地張らないでちゃんと教えなさい!」


細く尖った口を両手で掴み瞳を睨んでやる。

なんだか弟がもう一人できた感じだ。


・もうどこにも怪我はありません


『薄魂体』との戦いは初めてだったから不用意に相手を傷つけてしまった。

言い訳はできない、シロンは180年で想像以上の成長をしていたのに俺は毎日お茶とお菓子を食べて暇だからと少しの勉強、飽きたからと少しの鍛錬。

ヨウがもう少し弱かったら俺はシロンの大事な友達を殺してしまっていた。

ため息と一緒に立ち上がった落ち込んだ俺は両肩を落としたまま石段に腰掛ける。


「みんなの幸せって何?」

・これはまた、唐突で抽象的な質問ですね・・・。 ちなみにナーム様の幸せを聞かせてもらっても?


獣妖怪達が健やかに暮らしていく為に何が一番大事か知りたくて聞いてみたが、逆に聞き返されてしまった。

俺の幸せってなんだろう?

深く考え込まなくてもすぐに思い当たった。


「気の合う仲間と毎日笑いながら過ごす日々・・・。 だと思う」

・私はこの体朽ちてもまた神狼と出会えたら最高の幸せです


見渡す獣達は頷きと一緒に爛々と光る瞳に渇望の色を込めて俺を見つめる。


「あなた達の希望はわかったわ。 みんなが幸せに過ごせる様に私も頑張るね」

・全てお任せいたします

「それじゃ、人間の村の様子見にいくね!」

・少しお待ち下さいナーム様!

「なに、ヨウ?」

・人間と話をするのであれば下の獣達に詳しい者を同行しては如何ですか? 


呼び止められて随伴者を勧められた。

よくよく考えれば、人間達を襲っているのは中間に生息する獣達、ここの連中と違う野生生物だ。

話の通じる相手では無い。

土地勘の無いサラでは分からない事もあるだろう。

快く受け入れると呼ばれて来たのはリンだった・・・。

お前か!

今まで縄張りへ入って来ようとする人間と害意ある獣を監視していたので詳しいとゆう理由だった。


「それじゃ空飛んで行くよ、準備いいリン?」


子狸姿のリンは後ろ足で立ち上がり前足を広げた。


「なに? どうした?」

・だっこ! リンは空飛ばない。 乗せて


飛ばないんじゃなくて飛べないんだろこいつ!

又してもヨウの選出に疑問を持ったが何か深いわけでもあるのかも知れないと信じ、ムクムク肥えた子狸を小脇に抱え空へ舞い上がった。




 深いため息がエルフの嵐が立ち去った広場の至る所から漏れる。

一番大きかったのはヨウのため息だ。


・相変わらずだなナー姉ちゃんは・・・


ピラミッドの影から灰色の子犬が姿を現す。


・思った以上に手強いですね。 戦闘センスも、コロコロ変わる性格も・・・

・そうだろ? 一緒にいると飽きなくて楽しそうだろ?


子犬が白狐の前まで来ると互いに視線を絡ませる。


・これで確定だな。

・我ら獣妖怪の安泰がですか?

・いや、それは最初から揺るがない。 確定したのはお前は過去のナー姉ちゃんの魂の持ち主だって事がだよ


ヨウは変な姿勢で地べたに倒れ込む。

側から見たら昏倒失神したのでは無いかと思えたが、わずかに口だけは動いた。


・あんなのに成ってしまうのですか・・・

・遠い遠い先の話だ。 それに今のナー姉ちゃんはリセットされた人間と大差無い意識だからな。 お前がどんな道を歩んでナー姉ちゃんに成るのか見れるのが楽しくて仕方がないよ


子犬はプックリお腹を上にして転げて笑っている。


・あのエルフの少女が行動する度に時間軸が確定されていくって話。 私は信じたくありませんがね


じと目のヨウは子犬の喜びっぷりを恨めしそうに見つめていた。

次は、セトの村人

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