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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの体は友を探す
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俺が仲介役?



 早朝通った木々に覆われた狭い獣道を重い足取りで歩みを進める。

俺が単身目指しているのは獣達の小さなピラミッドだ。

白狐のヨウに嫌悪感を隠さないシャナウとサラにはセトの人間達の所へ行ってもらった。

里の休み所で打ち合わせした内容は、双方の和解できる妥協点を探す事。

人間達からしてみれば山の幸を独占している獣達は憎いだろうし、獣達からは食い散らかすだけの収奪者を排除したい。

と言った所だろうと想像していたが、実際どうなのか二手に分かれて真意を聞き出す。

とは言っても、俺の足が重いのは海岸へ向かった二人が心配なのと、一筋縄では行きそうにない白狐の攻略。


「俺より賢そうだよなぁ」


目の前に現れた巨大なクモの巣を手に持った枝で払い除け止めた足を前へ出す。

今朝通った道なのにと思ったが、サラが時折跳躍してたのは避けていたからだったのか。

あれこれ考えていたが妙案が浮かばないまま獣妖怪達の広場へ着いてしまった。

足を踏み入れて直ぐに声をかける。


「こんにちわー、エルフのナームだけど、ヨウは居るぅ?」


広場を見渡したが気配は無いので勝手に入らせてもらう。

ピラミッドの下までくると近くの茂みに気配を感じ視線を向けた。


「誰かいるの? 出てきて頂戴」

「コラァー、案内されない人間はここに入っちゃダメなんだぞ!」


見覚えのある少女がテケテケ駆けてきた。


「こんにちわリンちゃん」

「人間は入ってきちゃダメなんだぞ!」

「あ、私エルフだから・・・」

「あれ? エルフは入っていいのかな?」

「いいんじゃない? 人間じゃ無いんだし。 それよりリンちゃんは猫の案内の褒美に何貰ったの?」

「えっへん! リンはシロンの面倒を見るお仕事を貰ったのだ。 どうだ、すごいだろナーム」


背中を俺に向けて背負っていた蔦で編まれた籠を見せる。

中には子犬が3匹団子になって眠っていた。

子狸に呼び捨てにされて少しイラッとしたが、名前を忘れないでいてくれただけでいいかと思い直す。


「すごいね、リンちゃん大事なお仕事貰えて・・・」

「ブラブラしているナームより、仕事を貰えたリンはすごいのだ! えっへん!」


目的があってここには来たのだが遊びに来たとでも思っているのか? しかし、こんなチョロイ子狸を子守に選んで大丈夫なのか?

ヨウが任命したのなら賢そうだと思ったのを撤回しなくては・・・。


「白狐のヨウは居ないの? 話があって来たのだけれど」

「ヨウは大事な見回りのお仕事。 そのうち帰ってくる」

「そうなんだ、それじゃぁ待たせてもらおっかな・・・」

「ダメダメ! ここはお仕事しない獣がいちゃいけないのぉ!」


リンは人差し指を俺の鼻先に指し示し目尻を吊り上げて大声で怒鳴る。

少しウザくなってきたがただ待ってるのも暇だし良い暇つぶしになるとポジティブに考えよう。


「それじゃ、偉いリンちゃんからお仕事貰っちゃおうかな? シロンを1匹面倒見るお仕事」


リンの肩を掴んで半回転させ背中の籠から子犬を1匹抱き上げる。

昨晩遊んだ子犬なのかどうかは分からないが、俺の遊び相手だからどれでもいいだろう。


「ナームはリンから仕事をもらって・・・、仕事があるナームは・・・」

「リンちゃん仕事くれてありがとう」

「・・・し、し真摯に励みなさい!」


表情は納得してなさそうだが、辞令を渡した後の上司の定型文を口にして子守に専念し出した。

俺の掌で丸くなっている子犬はお乳を飲んだばかりかまだ眠たそうだったので、ピラミッドに腰掛けて膝の上で寝かせてやる。

温められた石がお尻に心地よく、鼻歌を口にしながら背中の籠を優しく揺らすリンの姿も微笑ましい。

本当に背負った弟をあやしている幼いお姉さんの様だ。

これでお茶とお煎餅があれば古き良き日本の田舎の風景だろう。

ほのぼのしながらもリンの『薄魂体』は造詣は甘いが実体化の完成度が高いのには感心させられた。

何気に触った両肩も、肩とお腹に回された蔦の紐も実態の体に接している。

手が突き抜ける妖艶サラとの違いは練度なのかそれとも原理が違うのか?

長閑にそよ風に揺れる木々達を眺めていると、木立の上を大きく揺らす一陣の風が広場に舞い降りた。

陽炎の様に歪んだ空間が薄れて壮年のヨウの姿が現れる。


「これはこれは、今朝お帰りになったナーム様では無いですか? こんなに早く来られるとは如何様ですかな?」

「こんにちはヨウ。 留守だったので待たせてもらったわ」


ヨウの視線は膝の上で寝ている子犬に向けられて嫌悪感を隠さず顔に出す。


「シロンを連れて行く気なのですか?」


無の構えですり足で間合いを詰めるヨウは完全な戦闘体勢の様だ。

やはり俺より賢いと思ったのは間違いだったか? 感情が外に漏れすぎでは無いか。


「そんな事ある訳ないでしょ? シロンの話は今朝の内容で終わりよ。 私はそんなにしつこくないしねちっこいのも嫌なの。 この子は子守の手伝いでリンちゃんから預かっただけよ」


リンは鋭い眼光で睨まれせいで『薄魂体』が解かれ、蔦の籠に潰されだ子狸になってジタバタしている。


「可愛いのよねぇーほんと。 遊んで欲しくて無駄に吠えないこの位の子犬って」


子犬の背を優しく撫でる無警戒な俺の姿に戦闘態勢から警戒態勢へ軟化したヨウが歩みを止める。

12m弱。自分の最長の間合いといった所なのだろう。


「神狼の話で無ければ・・・、用件は何でしょうか?」

「ごめんなさいね、確認なのだけれども。 今の日本の妖怪達を取り纏めてるのって”あなた”でいいのよね?」

「神狼が戻られるまで私が全権を委任されています」


一呼吸置いてから子犬が起きない様に立ち上がり2匹の入った籠に戻してやる。


「それじゃぁ、ゆっくり話がしたいけど、いいかな? それとも立ち合い、した方がいいかな?」

「神狼を託すのに私の力がお知りに成りたいとナーム様がお望みならば」

「私は信頼してるのよ、シロンを。 セッカチの考え無しなとこはあったけど、相手を見るめはあったから、あなたは誠実で勇敢なのだと思う。 内面はね」


俺の移動で詰まった間合いをさりげなく元の感覚まで戻し冷静さを取り戻した表情には笑みが窺える。

何で強さを求める輩は戦うのが好きなのだろう?


「あなたは私の言葉を受け入れるのに、私の力の判別が必要なのではないかしら?」

「神狼と変わらずナーム様も見るめがある様ですね」

「あら、ありがと」


風を纏って広場へ近づくヨウを感じてから、俺はもう精神も魂も臨界までリンクさせている。

黄金の魂の世界も見える今、ヨウの姿は人形の背中に色艶の良い3本の尻尾が乱舞している。

三尾の白狐。 この時代から日本に居たのか・・・、いや、シロンがこの地で転生したお陰でこんな大妖怪が生まれてしまったのか?

いや、いや、正直に認めるしかない。 ごめんなさい、原因作ったのは最初にナームの体で目覚めた俺です! ほんと、太古の日本の皆さん妖怪のさばらせて、ごめんなさい!

内心で懺悔してるとヨウの身体がブレた。 残像だと気付き左に身をかわすと疾風が肩先をかすめ背中で轟音が鳴る。 瞬間振り向くとピラミッド最下段の大岩が砕け緑の木の葉が突き刺さっている。 ただの風の斬撃ではなく物質も内包した必殺の一撃だ。 初手をかわされて憤慨してるかと思いきや。 笑ってたw。 無様な俺の回避を笑ったのか、好敵手を得て楽しいのか? まぁ後者だろうと思う。 ヤダねぇこんなシロンみたいな戦闘狂。 あ、シロンを主と呼んでいたから育てたのはシロンだ! あいつめ! 手間をかけさせやがって! なんだか腹が立ってきた。 ヨウの身体は間合いは変えずに残像の右側に移動して、同じ攻撃を数度繰り返したが華麗?にかわす私に効果がないと判断したか一気に間合いを詰めてきた。 見切りギリギリで必死でかわしていたのを感じて手加減して欲しかったがそんなに甘くはない様だ。 相手が実弾を使って来たのでこっちも獲物を使わせてもらう。 左右のリストバンドに仕込んだ水晶を使ってライトソードを両手に出現させ、眼前で沈み込んで足を狙って来た首筋を右手の剣で一閃する。 剣筋は首を両断する軌跡で振り抜かれ、まずい殺しちゃった? と思った瞬間お腹を何かが強打した。 後方に吹き飛ばされながら脳内で『一本!』と誰かが叫んだ気がした。 後方宙返りで体制を整えヨウの姿を探すと、人間の姿をやめて総毛を逆立てた白狐が大きく間合いを開けた先に憤怒の気迫で構えていた。 『薄魂体』を斬っても実体には影響が無かったみたいで少しホッとした。 俺の腹部への攻撃は強化した尾だったのだろう。 中央の尾だけ棍棒の様な禍々しいものに変わっていた。


「さすがですね、シロンが認め全権を預けた者の強さは」

・ナーム様、私の負けです。 今の言葉は慰めの褒め言葉と受け取っておきます

「はへぇ? 何で? 今ので終わりなら私の負けでしょ?」


どう考えてもお腹に一発もらって『一本』取られたのは私だと感じていた。


・何を申されますか・・・。 私の負けです


憤怒の毛並みが収まりゆっくり頭を下げて近づいてくるヨウの片方の耳から血が流れていた。

形の良い大きな狐の耳が半ばから先が無く血が滴っている。


「ゲガしちゃったの? ごめんなさい。 ごめんなさい! そんなつもり無かったのに・・・。 くっつけましょ! 切れた耳先、探して、洗って、消毒して、直ぐに縫えば元に戻っちゃいますよ。 心配要りませんよ。 さっ! 探しましょっ!」


先ほどの交戦場所へ俊足で向かい地面の上を目を皿の様にして探す・・・。 

が見当たらない・・・。


「どうしましょぅぅぅ?」

・ナーム様探しても見つかりませんよ。 切られた耳先は光の剣で瞬間に蒸発しましたから

「あぁぁぁ、ごめんなさい。 ごめんなさい。 本当にごめんなさい!」


ヨウに向かって何度も土下座する。

主の姉の立場で少しは良い所を見せようとして怪我をさせてしまうなんて。

最初に右手の剣で狙った首は、防御するか手応えが有れば引くつもりだった。

腿への牙の攻撃も左の拳で防いだのだが、握っていた剣が念頭になかった大きな耳をかすめたのだ。


「あぁぁぁ、右手一本にしとけばよかった・・・」

・そんなに悔やまれては私が惨めです。 こちらは本気でナーム様の命を狙っていたのですから


手の甲をヨウに舐められ慰められたので、お返しに清水で傷口を洗い流し温風乾燥してあげる。

肩を落としてくづれた岩の隣に腰を下ろすと、ため息が出た。

真剣な立ち合いだったがシロンの仲間に怪我をさせる気は無かった。

もっと上手くエルフの立ち位置を分かってもらえるやり方はあったはずなのに、いつもながら思慮深かき行いには程遠い。


・獣衆、全面的にナーム様の言葉を受け入れる準備はできました


その声に俯いて視界一杯だった地面を前面に切り替える。

最前列には白狐が座り、その後ろには数え切れない獣の姿があった。


「いつの間にこんなに集まったの?」

・戦いの気配にじっとしている獣はこの地にはおりますまい

「はぁ、そんなものですか」


次は、俺が仲介役!

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