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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの体は友を探す
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シロンを探しに


 見間違うはずもない超絶ナイスボディーの美女エルフ、待ちに待った着替えが終わったシャナウのお帰りだ。

店内の喧騒は入り口に顔を向ける数に比例し時間をかけて静かになる。


「シャナァ!」

「姉様!」


俺はとんがり帽子をカウンターに投げ捨て両手を上げて駆け出した。

俺を綺麗な瞳で確認できたのか満面の笑みを浮かべてシャナウも早歩きで近寄ってくる。

すぐに二人は店内の中央で抱きしめあった。

俺のおでこが顎下あたり、背中に回した腕はやっと自分の手首を掴める、両肩に当たる低反発の二つの丘の大きさにも変わりは無いから体格差は以前のままだ。

柔らかい温かいシャナウの体を確かめて顔を見上げると、涙ぐんだ俺の先生兼親友の嬉しそうな表情があった。

静まり返っていた店内がざわめき始め空気に熱がこもるのを気にせず、しばらくの間強く抱き合った。


「シャナおかえり! 待ってたよぉ! 遅かったよぉ! 会いたかったんだよぉ!」

「私もです姉様! もっと早く帰ってこれるかと思ってたんですぅ。 こんなにかかるなんて思ってなかったんですぅ・・・」

「うん、うん。 ミムナと俺たちとは時間感覚に差がありすぎるからなぁ。 ちゃんと説明してくれなきゃ困っちゃうよねぇ」

「姉様にも、里のみんなにも迷惑かけちゃいましたか?」

「迷惑なんてそんな事ないよ。 ただ寂しかったのが長かっただけ!」

「でも姉様が元気そうで安心しました」

「うん、元気、元気! じゃぁあっちで座ってゆっくり話そ!」


積もる話が山程あるのでゆっくりできる場所へ移動しようかと思ったが周囲を見渡し諦めた。

色街がないここレムリでは、外地の人間は女に飢えている。

人間の男と言う生物は何故に年がら年中発情期なのか?と外地の人間を見るといつも思う。

ドキアの人間たちに性に対する欲望を強く感じた事はないからだ。

接する相手に喜んでもらいたい気持ちをいつも感じるが、我欲を強く表に出すのは俺の”挨拶”を懇願するガのつく連中くらいだ。

俺も以前の人生で異性には普通に執着していたのを覚えているので、ショッキングピンクの霧を撒き散らすこいつらの気持ちがわからない訳ではないが・・・、ムカつく!

10年前の俺の入店の時は店内は薄い桜色の霧だった。

周囲の念波が色で見えるようになった俺にはこの差は侮蔑とも取れる差だ!

スケスケモガ服の建設中JKとスケスケモガ服の食べ頃女子大生に対する男供の反応の差がピンクの霧の濃さで実感してしまった!

意味することがわからない訳ではないのだが、ナームに対する評価が低いのにはここに居る人間の男供に怒りが湧いてくる。

それはともかくシャナウの手を引きカウンターの席に向かうつもりが人垣に阻まれた。

酒臭い息を膨らませた鼻から大量に撒き散らし、充血した眼球を見開いた見ただけで体臭が臭いのがわかる連中に囲まれた。


「ここじゃこのての女はいないと諦めてたが、やったぜ!」

「俺が一番だ! いくらだ? 姉ちゃん?」

「ヒュー、ヒュー! ねえちゃん綺麗だねぇ? 俺といいことしようぜ?」

「テメェ、ふざけんじゃねぇぞ! なんでお前が一番なんだぁーこらぁ!」

「いくらだ? いくらなんだ? おりゃ倍出しちゃうぜ? カネ持ってんだぜオイラ!」


押し寄せてくる色ボケした男達に気付き周りを見渡したシャナウの顔は次第に無表情になり右手がゆらりと肩の高さに上がった。

天井を向けた掌に赤い光が集まり始めるのを見て俺は焦って止めに入る。


「シャナ待って、待って! ここはまずいって!」

「てめえら、どけどけ! 俺の連れに何してんだ!」


俺がシャナウを止めようとした時カウンターから怒声を発しながらガレが近寄ってきた。

荒くれをかき分けて美女二人を助けようとするガレの形相は怒りを具現化した修羅。

俺達の前まで来て周囲に睨みを利かせ


「ドキアの女達に手出しをしたらただじゃ済ませないぞ! 俺が相手になってやる!」


威圧するガレを感心しながら見上げる。

普通の女子であればここでキュン!とかなるのだろうけど、ガレが怒ってるのは俺からの”挨拶”を邪魔された事に対してで、よしんばこの場を収めて称賛を貰いたいのが透けて見えた。


「おいおい兄ちゃん! そりゃ聞けない話だねぇ! おいてめぇら囲め!」

「おうさ頭!」

「ほいきた頭!」

「任せろ頭!」


ガレがかき分けた俺たちを囲む人垣の反対側が割れ、荒らし屋の7人が一際下衆な笑みを浮かべて姿を現し美女二人を挟んで睨み合う形になる。

ガレもドキアの民、記憶の継承者だ。

体格は船乗りのあれくれ者達より見劣りするが、身体の扱い方は外地の人間を超越しているのは知っている。

鍛冶と細工と建築のマスターの称号は記憶だけではなく身体の鍛錬も無ければ為されない。

武闘派ではないが弱い訳ではない。


「なんだ? お前ら。 レムリの街の者に手を出しをしない、ここの決まりを知らないのか?」

「なんだぁ? 決まりだぁ? そんなもんは拳と剣で何とでもなるんだぁよ! なぁ?」

「おうさ頭!」

「ほいきた頭!」

「任せろ頭!」


腰に刺した剣を鞘から抜き、頭の弱そうな見るからに臭そうな連中が頭の前に集まる。

輩を打ちのめす覚悟をしたのか固く握り締められた拳を胸にガレの顔は冷徹な無表情な者に変わっていた。

まずい! まずい!

これでは10年前の大立ち回りの再来だ。

さっきカリーロに迷惑はかけないと約束したのに破ってしまうことになるではないか!


・ナーム様、シャナウ様。 準備できましたわよ!


サラの思念が頭の中に響き、港側の窓が開け放れた酒場の景色が見えた。


「姉様、あっちでお茶しながら話しましょ?」

「うん、そうしよ! ガレ、サラ後は任せるわ!」


すれ違いざまガレの構えられた両拳に軽く触れてからシャナウの手を引き歩き出す。


「はい、承りましたナーム様」

「おい! こらぁ! そこの女! どこ行く? お前らはもう俺たちがいただく事に決まってんだぜぇ?」

「何ぬかしてんだ無名の荒らし屋? この売女は俺が買う!」

「一番は俺だって言ってんだろうが!」

「ドキアの女達に手出しする奴は俺が許さない!」


もう店内は色ボケした男供のシャナウ争奪戦の様相になって盛り上がってきた。

囲んでいた男の一人がシャナうに触れようとしたので、風を纏わせた手刀を振り裸にひんむく。

アトラの2番街でやったアレ、疾風の斬撃である。

行手を阻もうとする連中の全てを動きを止めながらカウンターに向かう俺の頭の中は、シャナウとの久しぶりの会話の事でいっぱいになっていた。

背中から聞こえ始めたのは威勢の良い怒声が情けない悲鳴となって窓の外へ飛んでいく音。

そして外では悲鳴と断末魔の声と、時折聞こえる大きな物が海中へ落とされる盛大な水飛沫の音。

誰にも触れられる事なく俺とシャナウはカウンターに仲良く座って向かい合う。

本当に久しぶりだ。

変わらぬ姿で同じ時間を過ごし、分かり合える存在。

転生を繰り返し交流が続くドキアの人間達とは違う次元で共感が持てる存在。

いろんな意味で俺を助けてくれた一番大切なエルフ。

青い顔をしたカリーロにシャナウの飲み物とお菓子を注文し、会えなかった180年の出来事を洪水のように語って聞かせた。

横目で店内を見るとガレは一人で奮闘している。

両の拳に小さな旋風を纏い、軽いステップで立ち向かって来る輩に殴りつけていた。

拳から放たれ分かれた旋風は臭い男をひん剥いて、臭いそうな布切れと一緒に窓へと宙を飛んでいく。

陽が落ちて暗くなった窓の外ではサラが鼻歌まじりで任務に励む。

次々放り出されてくる男達を仰向けにして、胸に3本の爪痕を刻み石畳の上を豪快に転がしていた。

元気があって立ち上がろうとした奴を見つけると、長い尾と得意の猫パンチで海まで飛ばす。

時々聞こえる水飛沫はそのせいだ。

3本の爪に染みる塩水はさぞ激痛になっただろう。

放れているここには海上の苦悶の声までは聞こえないのは助かる。

これ以上シャナウとの会話の邪魔は入って欲しくはない。

流れ作業のような二人の活躍も店内に数名の色ボケ連中を残して落ち着き始めた。

壁際のテーブル席で小さくなって座っている数名の商人は初老の古参達。

少し見覚えがあるので、10年前を知ってる連中だろう。

経験に学んで大人しくしているのは賢いと言える。


「おい兄ちゃん! て、てめぇ何もんだ? 変な妖術使いやがって!」


取り巻きの仲間を盾に逃げ回っていた荒らし屋の頭が震える手に握った剣をガレに向けて語り掛ける。


「俺はドキアの民、ガレ。 ただのドキアの民。 俺の拳にはドキアの見守りの風が宿っている。 この風はドキアを害するお前らみたいな者達を打ち砕く気高い力だ。 変な術と勘違いするな!」

「ガレ? ドキアの民だと? クッソ! 忘れねぇからな俺様に恥をかかせやがって! 次はペインの首領と来てやるぜ! ドキアの連中に目に物見せてやるぅ!」


じりじりと扉へ後退し剣の間合いを外して戸外へ遁走して行った。

残った色ボケ達もそれに続く。


「ペインの頭領ねぇ・・・。 いつも聞く名前だな」


ガレのつぶやきと同時に頭だろう男の悲鳴と色ボケ男供の絶叫が聞こえた。

店内のテーブル席は壁際の商人連中を除いて一掃され静かになった。

外ではサラが未だ鼻歌まじりで男供の相手をしているが気にしないでおこう。

仕事ができて喜んでるみたいだから・・・。

薄れていく拳の風を見つめながら俺たちの前に歩み寄り跪く。


「気高い見守りのエルフの民シャナウ様、ご帰還おめでとうございます。 ドキアの民は皆心待ちにしておりました」

「元気そうですねガレ。 長い時間留守にしました。 自ら求めた道を迷う事なく歩んでいてくれて感謝します」


立ち上がりガレの儀礼に対してシャナウが受ける。


「ガレお疲れ様! 怪我なかった?」

「あの程度の連中であれば心配には及びませんナーム様。 見守りの風までお貸し頂いたのです無様な姿は見せられません」


そう、さっきガレの拳を触れた時、俺が風の魂の力で旋風を纏わせ操っていたのだ。

カリーロとの約束で店内を破壊する訳にはいかなかったのでガレの戦闘に影ながら加勢していた。

3人の息の合った色ボケ男供の一掃作業だったのだ。

俺の気安い喋り方にも言葉を崩す事なく答えるガレ。

シャナウの前で立場を混同するのは危険だと知っているからだ。


「そうね、忘れる前にシロンの情報の称賛は与えます。 もちろん今の掃除の称賛込みでね!」

「この上ない喜びです! エルフの民が永遠であります様に!」


俺はガレに立つ様に促し、硬直し棒立ちになったガレを軽くハグしてやった。

離れるとすぐさま跪き首を垂れる。

一瞬だが見えた瞳が潤んでいるのが見えた。

何故にこいつらは俺のハグを欲しがる? 未だかつて解せぬ。


「それで、ガレ。 シロンがこの地に帰って来てないのは姉様から聞いたけど、セトヘいく手立ては準備しているの?」

「なにぶん、昨日シロンがいる可能性に思い至ったのでセトヘ渡る準備には及んでいません」

「シャナ気が早いって。 ドキアの街のエルフの館でシャナに引継ぎしてからでいいから。 一人で飛んでいくんだし準備とかいらないから」

「姉様!」

「はえっ?」


両方を掴まれて眼前にシャナウの顔が迫る。


「一人では行かせません!」

・そうよ、私も行くのよ!


どうやって入って来たのかサラの巨体が傍にあった。

先日の夏至の日祭のテパの言葉が頭を過ぎる。


「しかし、エルフの館のこととか街の防衛とか二人には専任のお務めがあるでしょ?」

「しかしもお菓子もカカシもないです! それでは、里で長老交えてお話ししましょう。 サラも一緒にね」

・お話し合いしましょう、ナーム様

「あっ、えっ・・・、でも・・・」


俺の困惑する様子を駄々を捏ねる子供を見つめる眼差しで見つめるガレの視線が解せなかった。

本当に俺一人で世界を巡る旅に出るつもりだったから。

次は、海は広いし大きいし

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