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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
終わりと始まりの野営
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元気なシャナウ2


 毎朝の日課の広場での捧げも今日で6日が過ぎた。 

脱力感は相変わらずだが直ぐに回復されるので何も問題はない。 

シャナウとの綱渡り練習も順調で高さへの恐怖もだいぶ薄れてきた。  

何よりこのナームの身体能力の高さを実感してから引き篭もり中年だった頃の自分が信じられないくらいだ。

外で身体を動かすのが楽しくて仕方ない。 

単純に跳躍力は常識では考えられない高さだ。 

軽くジャンプしても身長の高さを優に超えられる。 

動体視力も反射神経も長時間継続可能な集中力も前の世界では考えられない感覚だ。 

何度か10m位の端から足を滑らせて地上へ落下したが、猫みたいに宙返りし体操選手みたいに両足で着地。 

思わず両手をゆっくり上へあげてしまう綺麗さ。 

その度にシャナウが大喜びしてくれた。

その時ちょっと気になったのがこの地の重力。 

地上に落ちた時、転がってた野球ボール大の石を手に持ってみたら非常に軽い。 

特殊な石かとシャナウに聞いたが普通の石だと言っていた。 

風呂で踵の角質を取るのに使う軽石みたいな重さ。 

試しに放って見たが打席からホームランを打った軌跡で飛んで行った。  

 元から感じていた違和感が木々の太さと高さ、周辺の草達の巨大さ、初日に会えた巨大鳳等、原因は前いた世界との重力の差で生じる生態系の変化なのでは?と考え始めていた。 

体感でしかないが地球の重力の半分か3分の2位と思えた。

確か質量に関係なく加速度9,8m/sだったか?

真空だったら鉄の玉も鳥の羽も同じ速度で落ちて同時に着地するみたいな? 

考えてみたがすぐに計測は断念する。 

何せこの村は文明と呼べるものは全く見当たらないのだ。 

長さを測るにも基本の物差し一つ見当たらないし、重さを測る基準もないらしい。 オンアに尋ねたがここには必要なものしかない。

長さも重さも重要ではないらしい。 

下着は絶対必要だと思うのだが無い物は無い。

せめて、パンティーとブラジャーは欲しい。

もちろんいやらしい考えで一回着けてみたいと思った訳ではない。

単純に痛いのだ。 

外で小さい仔犬のように運動して部屋へ帰ると過度の動きで布と擦れ、上下合計4箇所の突起部の皮膚が赤く腫れていた時はとても凹んだ。

ナームの体に傷をつけて申し訳なくて泣けてきたほどだ。 

クラスに良くいた内股で胸を小脇に抱えて走る女の子。 

今なら気持ちが分かる自分もどうかと思うが。 

ナームの体のためには早期に調達しなければなるまい。


 数日前にシャナウが披露してくれたモガを使っての飛行だが、重力が低いとは言え継続飛行の原理がわからなかった。 

落下速度が遅くなり遠くへ飛べるのは分かるが、低速度で揚力を発生している原理がわからない。

今日は理由を教えてくれると言うのでシャナウの家へお邪魔している。 

室内はナームの部屋と変わらず殺風景ではあるが、所持している服と壁際に並んだツボは数も種類もシャナウが豊富だった。 

敷物はヒョウ柄の巨大なものが床一面を覆うっていて、赤いフワフワの座布団毛皮が二つ置いてあった。 

互いにお尻の下にしている。


「あの飛び方は最初姉様が始めたの」


自分を指差し目を見開いてビックリを表現してみた。


「そう、それまでは上段から下段へ飛び移るだけでモガを使ってたみたいなんだけど、一回一回上へ登らなきゃならないでしょ?」

「至極当たり前の力学の基本だ」


当然のように頷く


「そこでこれを使うの!」


近くのツボから無造作に取り出したのは、掌にすっぽり収まる大きさの水晶。

手渡してくれたので直近で眺めてみると、6角柱で片方は平ら、反対が尖っている精巧にできた美術品に近いものだ。


「綺麗な水晶だけど、これどうするの?」

「じゃー、ちょっとやってみるね!」


俺の手のひらから水晶を受け取り、右の人差し指と親指でつまみ尖った先端を上へ向ける。

少し光出したかと思うと中に気泡が湧き上がり、ガス漏れに似た音と共に尖った先端から風が吹き出した。 

勢いは緩やかだが屋根に葺いてある大きな葉がバタバタと音を立ててたなびいていた。


「すごいなそれ!」


綺麗なだけの水晶かと思ったが空気が詰まった容器の様だ。


「も一回見せて」


手渡してもらい、目の前で回してみたり指で弾いてみたりしてみたが、容器と思ったそれの中は空洞はなく中心まで水晶でできている。 

気泡が沸くなど考えられない。 

全て個体なのだから。


「不思議な水晶だね、でもあの風程度では飛べないでしょ?」


当然だ、いくら風が出ても扇風機の最強程度では飛行機は飛ばない。


「さっきは二本指で摘んだからね。 姉様? シャナの最強出力見たい?」


シャナウは悪戯娘の顔になり笑顔満開になってしまった。


「え? いや、ちょ・・・・」


と言ってる間に手を引かれ外の踊り場まで出る。


「練習の成果を姉様に見てもらう!」


辺りをキョロキョロ見渡し、家の少なそうな木々の隙間に握った水晶を向け


「いっくよー!」


掛け声とともに、シャナウの拳が光る。 

強烈な空気が腕が向けられた木々の隙間に放たれ、反動でシャナウの背中が幹へめり込む。 

空気の放出は5秒ほどで止まったが。 

生じた気流は暫く流れを残す結果となった。 

めり込んだ幹から体を抜け出した頃、バシッ!と空気の張る音と共に両目がつり上がったオンアが現れた。


「村の中での水晶の実験は禁止じゃと注意したろうに!」


強烈な怒気に俺はタジタジでシャナウを見やると「テヘペロ」していた。

シャナウのお尻を杖で軽く叩いて罰を与えると


「今度は無いから、次やったら東の見張り小屋へ引っ越しじゃからな!」


と言い残し帰っていった。


「あー、ビックリした。いきなり来るんだもんなー!」

「やる前にオンアの家の方見たけど、居ないかなぁーと思ってたけど・・・」

「居たみたいだねー」

「居たねー!」


二人で顔を見合わせてクスクスと笑った。 

シャナウの背中に付いた木屑を払い落とし部屋の中に戻った。


 冷たい柑橘味の水を飲みながら、二人が同時に漏らしたため息でまた笑いがこぼれた後


「オンアの家ちょうど向かいの上だから、すぐ来ちゃうんだよねー」


うなじをポリポリ掻きながら気まずそうな顔


「前も来たの?」

「そう、いつもは姉様の離れの工房でやるんだけど、どうしても試したいことが頭に浮かぶと我慢できなくて部屋の前でやっちゃうんだよねぇー」

「だから言われちゃうのか。急いだり、焦ったりしちゃダメ! ってね!」


なんか目の前でモジモジし始めたので話題を水晶へ移す。


「それにしてもさっきの風圧はすごかった。 ジェット戦闘機並みの推力出てるんじゃねえか?」

「そのジェットなんとかは分かんないけど、この大きさでだとあんなもんでしょ?  姉様はもちょっと短かったかな?」


排出量は同じで時間が短いって事は瞬間出力が増すって事か? さっきのよりもっと出力出せるのか・・・。


「で、さっきの何回か出せるの? それで?」


水晶を指差しながらきいてみる。


「もうこれからっぽだよ!」


手渡してくれたのでまた目の前で中身を凝視してみるが、全く変化が解らない。 

充填有無等表記もないし。 

この中にさっきの凄まじい風を発生させる何かが封じ込められるのか。 

感心しながら眺め続ける。


「この水晶の作り方を見つけたのがオンアだとみんな言ってた」


うん、うん、感心しながら耳を動かす。


「そして、純度をあげて風を溜め込める水晶にしたのが姉様!」

「え? 姉様凄いな!」

「そう、姉様凄い! その他も色々、便利な物も使い方も考えた。 長く飛ぶのもその一つなだけ」


とっても自慢気に話してくれる。


「本当に凄いな。 この何もない村で色々作るなんて」

「ここには無いけど、姉様の工房にはいっぱいあるよ?」

「何があるの?」


文明を感じるものが周りに無かったので非常に興味深い話だ。


「私にはわかんない物が色々!」

「よし、行こう!今から行こう!」

「急いだり、焦ったりしちゃ だめ!  くふっ!」

「どうして?」


ちょっと意地悪された感じがして聞き返す。


「工房に行くにはモガを使いこなせないと大変。 風の水晶使えたらとっても早く行ける!」

「よし! 明日から飛び方教えて下さい、シャナ先生!」


シャナウは身をよじりながらモジモジし始めた。

次は、どんぐり

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