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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの体は旅をする
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日本のエルフ達と犬?



 超可愛いミムナの空中演舞が終わって地に足がちょこんとつく。

細い腰に挿してある細い木の筒を取り出し口に咥えると音楽が流れた。

アレはミムナ用に細かな細工がされたリコーダーだ。

ガレ達にドキアに着くまでは渡すなと言っていたはずの物を、何らかの手段で手にしたのだろう。

当然権力だと思う。

色香や幼女のおねだりでは無いはずだ。

絶対!

耳に心地よく響く音楽は、俺の記憶に無い曲だった。

この地球では音楽を聴くのは初めてだったとカインの里で言っていたので、もしかしたら火星の、自分の故郷の曲なのかも知れない。

ゆっくりでそして心湧き立つ様なテンポ。

こんなのがカンタービレってやつなのかも知れないな。

知ってるそれっぽい言葉を思い浮かべてみる。

音痴な俺は批評などお駒がしいが、集まった30名ほどのエルフがゆっくり体を揺らす姿に、俺の体もつられて揺れていた。


「これは音楽とゆう物だ、言葉や表情の他に思いを伝える物・・・。 このセトの地は初めに戻った。 何度目かの初めに・・・。 これから先の長い務めの合間に、疲れを癒す道具とすることを許す。 詳細はあやつに聞け」


何とも穏やかな雰囲気だった円陣の視線が、一気に俺を貫いた。

なぜならば、ミムナが指差す方向に俺が座っていたのだから。

また丸投げされた?

 それからは忙しかたのは言うまでもない。

ミムナのリコーダーを再現するには素材も時間も無かったので試行錯誤で横笛を作ることになったから。

楽器の素材探しで倉庫らしき所で見つけたのは細身の竹。

ケーナや尺八も頭に浮かんだが、手製の尺八で短時間で音を鳴らす自信が俺にはなかった。

首を振るのに八年かかるのだ。

エルフのみんなが音を鳴らせるまでにいくらかかるのか見当がつかない。

カインでは丸二日あったが、明日の夕方にはセトの里を去るのだ、時間はない。

急いで木工スキルを全開にし、ちょうど良さそうな長さに切断し、精密な穿孔作業してこれまたカインと同じく簡素で初歩的な横笛を作った。

勇気ある挑戦者にだけ試作の数本を渡し、何と言っても初心者の俺がレクチャーを始める。

俺はもうこの旅で恥とか地位とかの概念は捨てている。

元々地位はないので捨てれるのは恥しか残っていないのも事実だ。

俺の小さな音楽知識を彼らの長いエルフの時間で崇高なものにしてくれるだろう。

作りかたと使い方を教えられればいいのだ、俺も丸投げする気満々だ。

自分を納得させてミムナの無茶振りに全力で応えていた。

結構時間が経っただろう頃に木を叩く音が数回広場に響いた。

太鼓か何かを誰かが準備したのかと思って音のする方へ視線を向けると、オトが大きな木の器を持っている姿が見えた。

オトがまた器を数度叩くと、至る所から動物達が集まってきた。

数は20匹以上いてどれもこれも小さい子供の様だ。

一見して猪や犬、狸や狐達の子供。

大きな木の器を足元の小さな器に近づけ、しゃもじで小分けし始める。

横笛に挑戦中の勇者をシャナに任せて、オトの元へと歩み寄った。


「オトさん、この子達はどうしたんですか?」


もちろん食用の為に餌をあげているなどとは微塵も思っていない。

これまで神聖とされるエルフの里に動物は見たことがなかったし、モフですら結界が解除されないとエルフの里に入れなかったのだから。


「この小さな動物は数少ない生き残りです。 そして中でも生命力の強かった物達なのです」

「生命力の強い? ですか?」

「そうです、草木も動物も、ましてや人間も・・・。 生きることを諦めてしまえばその先の成長はありません。 これらは諦めなかった命達です」


何だか胸が締め付けられる。

俺の前世の終盤を批判されている感じがしていたたまれなかった。

ここは地中の空間だったが、穴があったら入りたい気持ちでいっぱいになる。

平常心を装って、湯がいた木の実を貪る獣の子供達の側にしゃがみ込む。

一心不乱に食べている。

どちらかと言うと猫が好きだが、その他が嫌いとゆう訳ではない。

猫の距離感が俺の性格に馴染んでいたと言える。

何と言っても自由気ままな猫の性格。

空腹の時だけ甘えてきて、少し遊んであげればすぐに飽きて自分一人で遊びだす。

あとは窓辺で日向ぼっこ。

散歩や遊びをせがむ犬と一緒だと俺が疲れてしまう。

それと何より、撫でた時のモフモフ感が猫の方が絶対柔らかい!

そんな感じがする。

小さな瓜坊の背中を撫でながらしみじみと思う。


「それでは、彼らは私・・・、強い命なのですね?」

「周りの山々が元の姿を取り戻せば、これらは自分の役割を十分果たしてくれる事でしょう。 里の周りの弱くはない結界を抜けることの出来た命ですから」


仰ぎみたオトの表情は少しだけ慈愛に満ちた美しいものに感じられた。

そう言えば、ここ四国は動物に関する様々な言い伝えがあることを思い出した。

狸の伝説や犬の伝説、鬼の言い伝えも多かった気がする。

エルフの里があるのだから人間の歴史も相当古いかも知れない。

この小さな獣達ももしかしたら名の通る大妖怪の祖先になる連中かも? と思うと何とも頼もしく思えてくる。

しばらく可愛い子供達の食事風景を眺めてから、横笛に苦戦しているエルフの元へと戻った。

時刻はもう夜半を過ぎていると俺の体内時計が伝えてくる。

精神的に疲れを感じた俺は、皆に断って先に休ませてもらうことにした。

基本は教えたのだあとは有り余る時間で精進してくれることを祈ろう。

広間を後にし与えられた部屋へと戻る。

クィーンサイズのベッドへ体をダイブさせ大きく背伸びをした。

自分の浅い知識を駆使しての楽器作りをここ数日続けてきた。

疲れていない方がおかしい。

しかし、変だ。

そう、おかしいのだ。

結果として出来た楽器はきちんと想定どおりの音色が出た。

作成途中に自分でも不思議なくらいに手際よく工作できた。

出来栄えは別にして、脳裏にはっきりと完成品がイメージできて忠実に手先が動く。

それと、今日の昼に上空で見た太古の日本と俺の知ってる日本の地形の差がはっきりと浮かんできた。

決して記憶力には自信がある方ではない。

歴史の暗記ものも不得意分野の一つだ。

なのに今は学生中に開いた教科書のページが一枚一枚脳内でめくれる感覚がある。

そして、隅々まで読めるのだ。

これは、エルフの脳機能の一つなのだろうか?

違和感しか湧いてこない。

幼い頃の記憶に意識を向けると、幼稚園に向かう道端に咲いているタンポポの花びらの数さえ数えられるのだ。

目を閉じて脳内の記憶を検証しようとしたら足元に小さな毛玉がじゃれつく感覚があった。

薄目を開けると一匹の子犬がスネのあたりに蹲っている。

お腹が一杯になって寝床を探してきたのだろう。

首根っこを摘んで仰向けになった胸の上に乗せてやる。

見た感じは生後半年の子犬。

この位なら食べて少し遊んだらすぐに寝るだろうから、さほど面倒ではなさそうだ。

俺の小さな胸の谷間にちょこんとのった頭を優しく撫でてやると、思った通り目を瞑ってすぐに寝てしまう。

小さな心臓の鼓動が俺の心臓のすぐ上でトコトコ動いているのを感じる。

そして人間より高い犬の体温が心地よい。

これはこれで癒される。

多分もう少し大きくなったら重くなって悪夢の原因になるだろうなぁ、などと考え俺も眠ることにした。



 室内を動き回る人の気配で目が覚める。

シャナウが獣の首根っこを摘んで運んでいる姿が見えた。


「シャナおはよう」

・姉様おはようございます。 そろそろ”捧げ”の時刻みたいですよ?

「あぁ、そうか。 で? シャナは何してるの?」

・姉様が起きる時の邪魔になるかなぁ? と思って片付けてました

「そいつらが邪魔?」


両手に獣の子をぶら下げて持ち上げて見せる。

シャナウの言葉の意味がわからずに上半身を起こし、シャナが掛けてくれたのだろう毛皮をめくると足元に小さな毛むくじゃらが何匹もひっついていた。

何じゃぁこりゃ?

寝る時には子犬が胸の上に一匹だったはずなのに!

餌付けしたつもりもないのにどうしてこうなった?


・この子達に随分と好かれましたね


言いながらせっせと摘んで自分のベットへ集めていく。

あそこで餌を食べていたほとんどが集まったんじゃないかと思うくらいの数だ。

意味わからん。

子供だと言っても獣だ。

そんなに簡単に初めての人に慣れるなど・・・、野生の根性をどこに捨ててきた?

そして俺なんかにくっついて来るとは何を考えている?

まだひっついて眠っている集団からゆっくり足を引き抜き、何か変な匂いでもしてるのかと思い自分の膝小僧あたりを嗅いでみる。

獣臭かった。

いや決して嫌いな匂いではないが・・・、自分の匂いが獣臭いのはちょっと違うんじゃないかなぁ・・・と思い直し、速攻で朝のシャワーを浴びることにした。

さっぱりした後に、自分が獣臭を発していない事を入念に確認して朝の”捧げ”へと向かった。

 セトのエルフの里にある光る石は最初にミムナと別れた分岐の方にあった。

空間は狭く里のエルフが肌を触れ合う感じでなければ全員が入れない。

奥に深く掘られた所に光る石は鎮座させられていた。

わざと狭くしているのは強度の関係か? などと考えていたら何時もの様に何事もなく終了する。

ここに来る前にシャワーを浴びてきてよかったと内心ほっとする。

これだけ密集するのだ。

あのまま来たら「ドキアの娘の体臭は獣臭」の噂が定着してしまう所だった。

そう、俺はもう加齢臭を気にしないおっさんではなくなっているのだ。

独り言をブツブツ呟きながら円形の広場へと戻っていく。


・姉様本当に好かれてますね?

「あの獣の子供達か? 何だかなぁ、よくわかんないや」

・だって今も抱きつかれてますよ?

「ん?」


シャナウの言葉に足元を見ると小さい獣が足首にしがみ付いている?

いや、噛み付いている!

そう言えば、シャナウの抱きついて来るは襲って来るの意味だった。

噛みつかれている左足を高く上げると、子狐が釣れた。

必死で俺のアキレス腱あたりをかじっている。

エルフのこの身は簡単には傷は負わない。

必死にかじってる割には皮膚が少し凹む程度で、血の一滴も流れていない。


「何なんだこいつ? 他の連中はおとなしかったのに、この子狐だけ俺に反抗的だな! それともお腹が空いて俺が美味しそうだったからか?」


右手で両顎の付け根に指を突っ込んみ、口を開いて無駄な攻撃をやめさせた。

首根っこを摘んで顔をマジマジと見る。

耳は大きくとんがった口、足の先は黒い靴下でモフモフの尻尾の先端が白い。

絵に描いたような小狐の姿。

しかし奥歯まで見える様に威嚇の表情をして、前足は爪を極限まであらわにして俺を引っ掻こうとジタバタしている。

俺はこいつに嫌われる何かしたのかな?

もしかして、寝返りした時に潰され掛けたとか?

訳が知りたくて意識を強く向けようと思ったが断念する。

サラの様に獣を卒業されて獣のペットの数が増えれば俺は面倒見きれないし周りに迷惑がかかる。

訳わからず不機嫌な小狐をそっと地面へ下ろしてやって、手の甲で「あっち行け!」と追いやった。

少しの間戦闘体制チョコチョコうろついていたが、諦めたのかどっか行ってくれた。

また別の獣に抱きつかれたら敵わんと周囲を警戒してるとミムナが小走りで近寄ってきた。


「ナーム! シャナウ! 『樹皇』へ戻るぞ! 緊急だ!」


ミムナの走る姿を初めて見た。

何か大変な事がドキアの使節団に起こった様だった。

次は、強制解除される鍵

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