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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの体は旅をする
63/156

日本のエルフ達3



 空も山の境が分からない闇の中を俺は飛んでいる。

腰に添えられた手は優しさが感じられるが『黒柱』の高質な手甲だ。

目印にしているのは先を飛ぶミムナの姿。

『樹皇』を出発してからはもう30分は経っただろうか?

竹箒の先にぶら下げた光の水晶だけが空を飛ぶ3人だけの空間を淡く照らしている。

それだけ見ると有名な宅急便のワンシーンが連想されて頬の肉が緩んでしまうが、地上は火山灰に覆われた生き物の住んでいない死んだ大地。

柄の上を行ったり来たるする黒猫の姿が無いのが少し寂しい。

こんな時にやはり動物は癒しになるのかなぁ、とサラの姿を思い出す。

人との触れ合いとは違ったあのモフモフ感がいい。


「ナームよあそこだ」


辛うじて見えるミムナの姿が指差す方向に仄かな灯火が確認できた。

太古の日本のエルフの里だ。


「見えました。 このまま後をついて行きます」


徐々に高度を下げるミムナに追従して俺も地上に向かった。

降り立った場所は『雲落ちの巨人』の洞窟の入り口に似ていた。

ラーラスが立ったまま二人並んで入れる大きさの穴が山腹に口を開けていて、穴全体が淡く光を発している。

そんな所も似ていた。

入り口には出迎えの姿もなくミムナは無言のまま竹箒を壁に立てかけると奥へと入って行く。

それにならい隣に竹箒を立て掛け『黒柱』と後を追った。

緩く曲がりくねる道を進むと、両脇の壁に人の姿があった。

身長は俺の2倍はあるこれまで接してきたエルフ達と同じ身体に感じた。

性別は男性と女性だ。

着衣はドキアともカインとも違い、両肩からクロスする感じで垂らされた二枚の布を腰の紐で抑えた感じだ。

ミムナに対して深くお辞儀したので胸元も背中も深いV字だったのが見えた。


「オセ、オト。 出迎えご苦労」

「・・・ミムナ・様。 遠路お疲れ様でした。 まずはゆっくりお休みください」

「そうだな、遠かったし色々あったからまずは休ませてもらうよ。 それと後ろの二人は・・・」

「承知しております。 お二方の休み処も準備しております」


オセと呼ばれた男性のエルフはミムナに後に続く様にと仕草で合図して奥へと歩き出す。

俺達の案内役はオトと呼ばれた女性が案内してくれるみたいだった。

途中の分かれ道で俺達とミムナは別々の道になって別れることになった。

数カ所の分岐を経て招かれた所は、地中の大広間と言った感じだ。

キャロルちゃんの訓練場ほど広くは無いが、小さなライブは開催できそうな程には広く天井も高い。

ほぼ円形だろう壁には幾つもの穴が口を開けていて、その一つに案内された。


「ナーム様・・・、『黒柱』こちらがお二人用に用意した部屋です。 長旅の疲れゆっくりと癒してください」

「案内ありがとう、オトさん」


軽く会釈してオトは立ち去った。


「同じエルフの民でもいろんな処に住んでいるんだな?」


扉の代わりののれんをめくり部屋へ入る。

中はビジネスホテルのツインルームみたいになっていた。

入ってすぐの左側に洗面所。

奥にはシングルベッドが二つ並んでいる。

これは、エルフサイズなので人間と同じ体格になった俺にはクィーンサイズのベットだ。


・その土地にあった居住スタイルなんでしょうね


シャナウも部屋の中を見渡し感想を口にする。


「シャナ、俺先に体水で流していいかな?」

・どうぞそうしてください姉様。 私は後から使わせてもらいますから

「ではお言葉に甘えて、お先でぇす」


俺は片方のベットに近寄りマントと着衣を脱いで全裸になった。

全裸のまま洗面所へスタスタ歩いて行き水晶のシャワーで身体中に着いた誇りと火山灰を洗い流す。

魔法少女の服は体に密着しているので、あっちこっちから入った砂が肌と擦れて気持ち悪かったのだ。

シャナウは俺の脱いだ服を水洗いして、すぐに乾燥させている。

とりあえずサッパリして風邪で乾かした体に、棚に準備してあった現地の着衣を身につける。

長ぁぁい布が一枚と腰紐一本だったので着方を悩んだが、シャナウに手伝ってもらってなんとかそれなりの格好になった。

説明するとこんな感じ。

まずは布の端を合わせて二つに折る。

布の1/2を背中側にして、1/4を両肩に乗せて前をクロスさせる。

背中もクロスさせて腰骨の所で広げ重ねて腰紐で結ぶ。

相変わらず上も下もスースーするので下着はつける事にした。

モガ服もそうだったが動きを阻害しないで実に着心地がいい。

どちらも簡素だが十分だと感じた。

両手を広げて一回転してシャナウに見てもらったらベタ褒めしてくれた。

シャナウも体を洗うと言うので乾かしてくれた魔法少女の服を畳みながら盗み見してみたら、なんとも豪快だった。

手に持った水晶を頭上に掲げ水を出すと同時に、鎧の関節やその他のつなぎ目から一斉に砂混じりの水が吹き出した。

水が綺麗になると風が吹き出し表面が一瞬で乾く。

女の子の水浴びとはとても思えない豪快なものだった。

なので俺が服を畳み終えた時にシャナウはもうベットに腰掛けていた。

体をベッドに放り出して仰向けになり瞼を閉じる。

今日だけでも色々な情報があったし心境の変化もあった。

ゆっくり思考を整理してみる。

シャナウは察してか話し掛けてこないでいてくれた。



 情報収集が終わった後のミムナから聞いた話だと、噴火している山は九州の中央から南の山で15日前に噴火したらしい。

その時に大きな地震も津波も発生して、列島の住民5千人のうち7割がその時に命を亡くした。

漁業が主体だった為沿岸に住居があったのが犠牲の大きな理由だったそうだ。

作為的なものではない自然災害とはいえ被害の大きさに絶句してしまった。

直後の災害から生き残った者もここ数日で半数が餓死してしまっている。

降り続ける火山灰の影響で野山の食べ物は木の実も動物も取れなくなり、水質の変わってしまった川の水も飲めなくなって死んでいったそうだ。

数を減らした人間達は小さな集団に分かれてこの地で漁をして何とか生きている者と、火山灰の影響が少ない土地へ逃れた者とがいるらしい。

船上で聞いた時気が付いた。

カインを出発する時日本に向かうと知って喜んだ俺を悲しそうに見つめていたミムナの瞳。

彼女の持つ何らしかの連絡手段でこの惨状は知っていたのだ。

それを知って激情しそうになったが、知ったとて俺には何も出来ないと感じた。

自然の脅威に抗う事などエルフの体を持ってしても数名の命を助けられるかどうかわからない。

俺ごときでできる事など小さな事だ。

一人でこの地にたどり着くことさえできないのだから。

元々エルフが活動するには食料や水はほんの僅かで足りるので、山中をくり抜いたこの里は被害が出ていない。

しかし、ドキアにあるエルフの里同様ただ見守るだけの存在だから助け導くこともしていなかったのだ。

それはいい。

人間の命の大切さとかは環境や立場で捉え方が如何様にも変わってしまうのだから・・・。

しかし、俺は無力だ。

そして、傲慢だ。

瞑想して感じた世界全てに宿っている命の中で、人間だけを別格に思ってしまって助けたいと感じている。

花や木、虫やネズミにも黄金の命が宿っていて、言葉交わせる人間と動物は別だと思っている。

ミムナを筆頭とするエルフ達が見ている世界と俺が見ている世界はかなり違いがある様だ。

俺の視野は極めて狭いと言うしか無いのだろう。

思慮深く判断し行動する

もっともっと世界を知らねば・・・。

人の世界だけではなくて、生き物全ての世界を・・・。




 肩を揺さぶられ目が覚める。

考え事していてそのまま眠ってしまった様だ。


・外の広場にたくさんエルフが集まっているみたいです。 何か始まるみたいですよ

「ごめん、俺また寝てたみたいだな? どのくらい寝てた?」

・15分くらいですかね?


なんだか同じ様な会話を昼間も交わした感じがしたが、これは既視感のはずだ。

ベットから降りて着衣の乱れを治してからシャナウに告げる。


「どれどれ、様子を見にいこうか」

・はい姉様


俺たちがのれんをくぐって円形の広場へ入ると、輪を作って座るエルフの中央にミムナが立っていた。

ミムナも着替えたのかこの地のエルフと同じ着衣だ。

俺より身長が低い為、腰に摘み盛り上がった布がフリルの様に広がってバレリーナみたいになっていた。

超絶美少女のバレリーナ姿。

カメラがあったら激写していた所だ。

俺たちがいるのに気付いて輪の外に座る様手で合図してくる。

今更ながら気が付いたが、ここの里のエルフの髪の毛は皆黒髪だった。

肌の色も顔貌も同じなのだが、これも所変わればってことなのか?

わからん


座ってすぐに始まったミムナの話は、この自然災害での労のねぎらいだった。

よくよく聞くと、全滅してもおかしく無かった人間達に逃げ道を教え救っていた様だ。

動物達や土地の植物の種も保存していたので、復興する時の道筋は里のエルフ達の務めの成果で整っている。

ドキアで毎日各自に割り振られている務めもいろんな事を想定しているのかも知れない。

知らなかった俺は頭が下がるばかりだ。

復興の作業開始は噴火による降灰が収まって、数回の雨で灰が流され地面が落ち着いてかららしい。

大変な作業になるだろうが、オンアも荒れ果てた土地に何度も草木を植えたと言っていたのを思い出した。

人間を助けなかった事で憤慨していたが、エルフ達のおかげでこの日本は緑豊かな土地に戻るのだ。

人間は自分たちで成長して、自分達で身を守る術を身につけねばならない。

教わり成すだけではその先を見つけられないのか?

ミムナなりの優しさなのか?

強靭な肉体と不思議能力、数千年生きれる寿命が導き出した道。

俺の50年の経験では出てこない結論だなぁ。

頬に手を当てて感心していると話題はドキアから持ってきた種子の話になった。

綿花と織物、そして衣服や下着に関して説明し出す。

これほど饒舌にエルフ達に話すミムナの姿を初めて見た。

思うに、災害で暗く沈んだ気持ちを癒したいのかも知れない。

テパの新作のストールも披露していた。

超薄手のそれは布が透けて見える出来栄えで、それで作った服を素肌にきたら超エロいやつだ。

もちろん誰もそんな事はしないが、両肩に掛け風を纏ったミムナは絵巻に出てくる天女の様だった。

もしかしたら、これが起源なのかな? と思ってしまった。

輪の真ん中でミムナが天女の様に宙を舞う姿を見ていたエルフの顔は、災害疲れた暗い顔色では無くなっていて笑みも溢れる明るいものになっていた。

正に先に立つものの姿を見た感じがした。

次は、日本のエルフ達と犬?

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