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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
終わりと始まりの野営
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元気なシャナウ1


 「ナーム姉様オッはよー!」


部屋にいきなり訪れたのはシャナウだ。

彼女はあれから毎朝の捧げに遅れない様に迎えに訪れる。

あれからとは、オンアがこの地とドキア村の役目について説明してくれた後、村で開いてくれた会合からだ。

その席で最初に驚愕したのはこの村の民達の容姿であった。

エルフなのである。

整った顔立ちに色白で細身の身体。特徴的な長い耳。 

普段は目立たないのだが何かに注目すると左右がピシッと姿を現す。 

気になって自分の両耳を摩ってみたが、この場の皆と同じ形だった。 

これはファンタジー世界では必ずと言ってもいいほど登場してくる“賢き森の民”の姿。

オンアは雷に触れ記憶が混乱しているナームの報告と、皆の助力を求めてくれた。その場で一番先に立ち上がり


「私が姉様のお世話する!」


と申し出たのがシャナウであった。


 60名程がこの村の総員らしく、皆が心配そうな眼差しを自分に向けてくるのが何故か心苦しく感じた。 

女性陣は俺に近寄り黒髪に触れ「黒くなっちゃったの? 可愛そう・・・」と口々に憐れむ。

言われてみれば周りはほとんどが金髪でオンアと数名が白髪、黒髪は一人も見当たらない。 

服装も袋姿は数名で他は動きやすそうな洋服に近い装いで少し安心した。 

袋の中は裸なのでスースーして落ち着かない。 

洋服が有るなら早く着替えたかった。

 会合の場所から吊り橋を一本渡った所にナームの家が有り、シャナウに案内してもらった。 

隣の巨木はシャナウの家でお隣さんらしい。

ナームの部屋で見つけた小さな手鏡で確認したが、自分の姿は可愛いエルフの少女。 

頭を抱えてしゃがみ込んだのは中年オヤジの残り少ない羞恥心からであった。 

室内には綺麗に整えられた数着の着替えがあって、速攻でスリムのパンツとシャツに着替えた。 

下着が全く見当たらないのは習慣が無いせいなのか、とても落ち着かない。

 家は村民各自に一つ充てがわれていて、女性の家は中央に集まっており、男性は其の周りを取り囲む様に配置されていた。 

集落中央には大きな集まりで使う板張りの広場と、共用トイレと洗面所が数カ所中心からは離れた場所に点在されていた。 

ナームの家からはどちらも吊り橋一本で行ける便利な場所なのも分かった。

 シャナウが毎朝迎えに来るのは、捧げを行う広場中央が、シャナウの家から直通で行けない為、ナームの家を経由するのはいつもの道なのだそうだ。 

見た目は大学生位の体格でナームよりは年長者に見えるのだが、何故か「姉様」とナームを呼ぶ。 

理由を尋ねてみたが「姉様は姉様だから」と訳のわからない返事だった。

 今朝も慣れた足取りで細い吊り橋を渡っていくシャナウの後を、一歩一歩足元を確認しながらゆっくり進んでいく。 

距離的には25m程の吊り橋は地表からは15mの高さになる。 

橋と言っても腕の太さくらいの蔓を4本縒り合わせた太い綱を足場に、腰高で片側にだけ手摺を設けた簡素な物。 

何処へ行くにも決死の綱渡りを強要する空中生活。 

また家に篭もりたくもなるがナームとしての務めは果たさなくてはならない。 

シャナウにかなり遅れて広場に着くと直ぐに捧げは始まる。 

集落のほぼ全員が集まって光る石を中心に周囲を囲み、片膝を床に付き両手を掲げる。 

しばらくして少し脱力感を感じた頃オンアの合図で両手を下ろして終了。 

何が起こっているのか、何をやっているのか、始めに聞いたオンアの説明でも理解できなかった。 

ただ「これが定めじゃ」だけだったから。 

捧げが終わると各自決められた務めが有るらしく散っていく。 

皆日中忙しく活動しているのはここ数日で分かっているので、俺はもっぱら綱渡りの練習だ。



「姉様うまいうまい!」


綱の付け根で両手を大きく振り回している姿は視界の端っこに捉えているが、視線を足元から動かす余裕は生まれない。 

今回は手摺に触らず渡りきる訓練中。 

足の裏にうっすらにじむ汗のせいでとても滑りやすいのだ。 

綱の上部は使用頻度で削れていて此処は比較的狭い。 

片足以上両足未満の幅で長さ15m高さ30m。

シャナウの応援に応える余裕は無かったが、何とか手摺を掴まず最後まで渡りきる事ができた。 

幹に設けられた棚の様な床にヘタリ込み全身に浮き出た汗を服の上から摩る。 

傍に来たシャナウは背中をポンポンと叩いてくれた。


「シャナウさんありがとう」


同じ目線へしゃがみこんできたシャナウの顔がヘニョっと可愛く歪む。


「やっぱし、その呼び方変!ムズムズして来る」


腰から上をくねらせながら片方の手で脇腹をかく仕草。


「姉様は、今までずっとシャナとだけ呼んでたから、覚えてなくても姉様には変わらずシャナと呼んで欲しい・・・」


悲しげな表情に変わり始めたので


「分かった・・・シャナ。 早くみんな思い出せる様に頑張るから」

「急いだり、焦ったりしちゃダメ! これ姉様の口癖!」

「ごめんね」

「大丈夫、私長老からお許しもらってるから、姉様が昔に戻るまでずっと一緒! 戻っても戻ってないって言うから、ずっとずっーと、一緒に居る!」


勢いよく立ち上がりジャンプしながら腕を大きく広げる仕草。 

体に張り付いた布団袋が綺麗な肢体の線を浮き上がらせる。 

ナームよりふた周りは大きい胸の膨らみの成熟した体。 

以前なら間近でこんな艶めかしい姿を見れば即座に性的な欲求が想起されるのだが今はなんか違う。

羨ましいのと、悲しいのと微妙な感覚だ。


「ところで、シャナ。 なんで今日はその格好なの? 動きにくそうだけど?」


両手両足を広げ布全体に張りを出した後、上の両角から手が飛び出す。 感心して見ていると


「これはモガって呼んでる森に出る時の服なんだよ!」


腰に手を当て胸を張って威張ってみせる。 

強調された胸を見てやっぱりムカついた。 

どう見ても動きに制限が出て、トレッキングには不向きに見える。


「普段のこの格好の方が動きやすいんじゃ無いの?」


自分も立ち上がり両手をバタバタ動かしてみせる。 

シャナウは顎を上げ少しの間何か考えると。


「じゃあちょっと待ってて!」


と早口で言うと、螺旋状に幹に巻き付いている蔓を器用に辿りながら上階へ向った。


「姉様—!こっちこっち!」


幾重もある枝で全身は見えなかったが、下を覗き込む顔は見えた。 

かなりの上から声がする。 

シャナウに見える様にこっちも手を振って返す。 

木の最上階であろう吊り橋を、小走りで渡り始める姿を枝を躱して見える位置にこちらも移動する。 

橋の中央で停止し屈伸で足首に一旦手を掛けてからこちらを見やり片手を振る。


「姉様ー! だーい好きー!」


声を発すると同時に足場も綱も無い虚空へ身を投げ出した。


「!」


驚きのあまり口から声は発せられない。 

何もできない俺は固唾を呑むばかり。 

綱の高さは目測で40mはあろう。 

ビルで言えば13階位? 下は柔らかい樹海の地面とは言え激突すれば決して無事で済む高さでは無い。 

スローモーションの様に落下し始めたシャナウだが落下速度は加算される。 

目で姿を追うも太い枝で遮られ、一瞬のうちに視界にシャナウの姿は見えなくなってしまった。 

背筋に冷たい汗がいくつも流れて、床に手を突き地面を探す顎先から雫として落ちて行く。


「シャナー!シャナー! シャナーウ!どこダァー! 大丈夫かー!」


首を巡らし地上を探すが此処からは姿は見えない。

下へ行こうと絡まる蔦へ手を伸ばした時


「姉様ー!こっちぃー!」


シャナウの声だ! 声の方へエルフの耳が即座に反応し位置を知らせて来る。

正面斜め上! 

 

上?


耳が伝える直感の方へ目をやるとシャナウが居た。 

飛んでた! 

両手両足をいっぱいに広げて重力に抵抗し空気を前身の布に受けて。 

しかも水平に! 知識としては木から木へと飛び移る動物は映像で見た事がある。 トカゲ、へび、小型哺乳類と数種存在しているが、全部落下先の距離を遠くへ伸ばすものでスキージャンプと同じだ。 

飛ぶのではなく遠くへ落ちるだ。

しかし目の前のシャナウは落下しておらず、さほど早さも感じさせずに俺の目の高さで水平飛行している。 

ありえない光景だ! シャナウを追い掛け幹を一周した頃、方向を変えたシャナウが近づいてきた。

幹に激突する事も無く、ふんわりと直ぐ近くの蔦に片手で捕まり微笑みかける。


「姉様ちゃんと聞こえた?」

「え?何?」

「飛ぶ前に上で言ったやつ!」


少しむくれた顔をするが


「そんな事よりびっくりしたって言うか、心配しただろ! 下まで落ちちゃったかと思ったよ!」


逆にこっちが本気で心配していて怒っているのだと感じたのか仕草で「テヘペロ」でごまかす。


「ごめんなさい! そんなに心配かけちゃった?」

「当たり前だよ! 飛べるとは知らなかったんだから!」


バツが悪そうに頸をポリポリ掻きながら


「本当にごめんなさい。 私に飛び方教えてくれたのは姉様だったから・・・。前より上手くなったの姉様に見てもらえるかもって、ちょっと張り切っちゃってて・・・」


背中を向け床のある方へとぼとぼ蔦を降りて行く。


「シャナ・・・、こっちこそごめん覚えてなくて」


別人でとは言えなかった。

シャナウ以外のエルフ達もナームの記憶が混乱していると思っているから、優しく接してくれていると思えた。 

本来のナームの魂が持つ徳の高さのおかげであると。 

ナームの姿をした別人となれば対応は全く変わって来るはずだ。 

張り出した床で座って佇むシャナウの隣に座り


「ちゃんと聞こえてたよ。 ありがとねシャナ」

「ううん。お礼言うのはこっち。 今まで恥ずかしくて言えなかったけど。 この間からの姉様には何でも言えそうな気がするの」

「前とはそんなに違うのかい?」

「うん。全く全然違うから」


別人を見透かされた指摘に狼狽えていると


「前の姉様も大好き! 気高く凛々しくそして優しい!」

「こんな小さい体なのに?」

「大きさなんか関係ないよ!」


こっちへ向き直り胸を張るシャナの胸を見やり、大きさ関係あるよ!と心の中で呟く。


「そんなに大きな器の持ち主だったんだ・・・」

「そうだよ。 誰からも尊敬され期待されて気安く話しかけれない位。いつも凛と遠くを見つめていたから」


元のナームはオンアも期待するほどの巫女見習いだったとは聞いたが、凛々しく気高い、その知識が全くない俺は暫くシャナウに以前の姉様姿を見せられない。


「じゃあ、忘れる前は私も飛べてたんだ。」

「もちろん、今の私なんかよりもっと上手で、高く遠くへいつも行ってた。 この村でも3本指に入るモガの使い手だもの」


両手を広げまたデカイ胸を突き出す。


「髪の色も黒く変わちゃったし、飛べたり出来るかな? まだマトモに橋も渡れないし」

「大丈夫、髪の色は関係ありません! 私が手取り足取り付きっ切りで教えるしずっと一緒だし! 姉様は心配しなくて大丈夫なのです!」


背中に覆いかぶさり両手で抱きしめられた。 

背中に当たる大きな低反発の感触より耳元で囁かれた


「シャナは姉様の綺麗な黒髪大好きですから!」


の言葉が何だか嬉しかった。

次は、元気なシャナウ2

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