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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの体は旅をする
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カインの街


 山を降って二時間ほど歩くと街が見えてきた。

エルフの里では人間の集落と言っていたのでドキアより発展していない簡素な物を予想していたが、素焼きのレンガを使って建てられた家屋が立ち並ぶ立派な街だった。

高台から見下ろした感じだとドキアの街より大きそうだ。

俺も含めて同行者から感嘆の言葉が漏れている。

近づくにつれ行き交う人々の姿も見えてきて、早朝だとは言え活気に満ちている様だ。

街の入り口でハラバが足を止めたので俺たちもそれに従う。


「ドキアの皆さん私の案内はここまでです。 この道を進んで行くと白い建物があります。 そこにここの長が居ますのでお会いください」

「案内ありがとうハラバ。 私とシャナウは夕方には里に帰ります」


一礼して元来た山道をハラバは登って行った。

この地の人間に関する知識を俺は持ってないしシャナウも同様だったので、道すがらハラバに聞いた話だとエルフは恐れられている存在らしい。

ドキアでは恐れ敬われる存在だったが、ここでは敬われては居ないそうだ。

少し気を引き締めて接しなければならないだろう。

取り敢えず俺とシャナウも同じ人間サイズなのでアトラの町と同じに人間として接していく事をドキアの皆には周知させておいた。

サラが街の人間に怖がられない様に俺がミムナみたいに乗る事にした。

帽子を背中にずらして美少女のペットとしてアピールするのだ。

準備ができたのでシロンに言って街に入っていく。

街中の道幅は狭く人が四人は並んで歩けないし、建物ごとに曲がっていて先が見えない。

人とすれ違う時は苦労するだろうな、と思っていたら前から男の子を連れた女性が歩いてきた。

シロンを先頭に歩いていたがサラを見つけると目をひん剥いて叫び声を上げそうだったので、俺は可能な限り頑張って天使のスマイルで手を振ってやった。

お母さんらしい女性は子供の口を抑えて黙らせて、道端にうずくまる。

シロンが何か話しかけると俺を見ながら小さく頷いていた。

壁にめり込みそうなくらいひっついて、サラを交わすと小走りで走って行った。


「気にしなくていいよサラ、初めて見たからビックリしただけだよ」

・気にしないわ、ナームちゃん。 友達と一緒だもの


首筋を撫でながら純粋なサラを慰めてやる。

ハラバは真っ直ぐと言っていたが、迷いそうなくらい真っ直ぐではなかった。

取り敢えずは道なりに進むと小さな広場に出た。

中央に一段高くなった水場があり、水汲みに来ていた大勢の人達の姿があった。

俺達の姿に気づいた男がサラを指刺して「山の黒獣だぁ!」と叫ぶと、桶をひっくり返して逃げてしまった。

他にいた人達も悲鳴を上げながら広場からいなくなる。

俺は黒猫と散歩する魔法使い気分で浮かれていたが、サラには悪いことをしてしまった。

初めての街なのだもっと慎重に行動するべきだった。

街に入る前に気を引き締めるって思ったばかりではないか!

サラを慰めながら俺が落ち込んでしまう。

シロンも頭を掻きながら見つけた白い建物の扉をノックしていた。

俺はサラから降りて散らばってしまった桶を拾って水場に綺麗に並べる。

扉が開き中から初老の女性が顔を出した。


「どちら様ですか?」

「私はドキアの街から来たシロンといいます。 こちらの街の長と会いたいのですが」


一度扉が閉められてシロンは俺の方を見たのでガッツポーズで応援しておいた。

しばらくして扉が開き初老の男性が現れた。


「私がこの街の長のドマチです。 どの様な要件でしょうか?」

「私達は海を隔てた大陸のドキアの街からエルフと共にこちらに来ました」

「エルフと一緒に・・・ほう・・・、それで?」

「こちらで二日ほど休ませてもらいたいのですが」

「こちらの・・・・・方々、全員ですかな?」


後ろにいる俺と『黒柱』とサラを見て途中で息が止まっていた。


「お世話になりたいのは、私とここの3名です。 後ろの方々は必要ありません」

「・・・なるほど、話はわかりました。 それでは詳しくお話を聞きたいのでシロンさんと残りの御三方、中へお入りください」

「残りの二人も・・・」

「いえ、いえ。 申し訳ないが外で待っててください」


頑なな言い方で入室を拒まれ困った表情で俺を見るので、俺達に構わず中で話せと合図してやった。


「それではお邪魔させてもらいます」


シロンと他の三人は白い長の家の中へと入って行った。

今までの町とは違った対応で面食らってしまうが、遠く離れて交流がない地域が同じである方がおかしいのかもしれない。

人間の対応はシロン達に任せよう。

俺は気持ちを入れ替えてサラの高感度アップについて考える事にした。

さっき、「山の黒獣」とか言ってたのを思い出し残った三人を見ると、真っ黒だった。

シャナウの鎧姿も黒いしサラは黒豹、俺は黒のとんがり帽子に黒マント、真っ黒黒黒だ。

これは困った。


「なんかこの街ドキアともアトラとも雰囲気が違うね?」

・そうですね、ドキアは緑がたくさんで人間達は優しかったし、アトラは野蛮で煩かったでしたけど人間はたくさん集まって来ましたからね

「初めて見る外地の人間だろうからね、私の髪も肌の色もここの人間と一緒じゃないし怖がられても当然かな?」


まずは、黒を辞めれるのは俺だけだったので帽子とマントをシャナウに預けて露出度の高い魔法少女になってみる。

建物の影からチラホラとこちらを伺う視線がいくつもあったので少し張り切ってみる事にした。

腰に刺してあるロッドを取り出し水場のそばまで歩いていく。

昇って暫くたった太陽の光がちょうど水面に反射していたので、ロッドを空に向けて細かい水滴を風に乗せ霧状にすると広場にかかる虹の橋ができた。

半分しか出ていなかったチラ見していた顔が全部出てくる。

子供の顔が目立つのはやはり好奇心が強いせいかな?

次はさっき並べた桶を手に取って空へと放る。

ロッドから風を吹き出し空中で受け止める。

そう、セクハラ3兄弟と最初に会った時の宴会芸だ。

タイミングをはかり桶を二つ追加すると空中で3つの桶が宙を舞う。

もちろん虹を消すヘマはしない。

これが出来るのも同時に水晶の魂を取り出せるミムナ特製ロッドのおかげだ!

子供達はいつもの水場でおへそ丸出しの金髪美少女が虹が煌めくなか桶のジャグリングしている姿に興味津々だ。

もちろんシャナウもサラも大喜びだ。

暫く続けていると、子供達がもうだいぶ近づいて来たので俺はサラに歩み寄って空中の桶を一つ手にしてサラの鼻の上で回してやる。

子供達もシャナウと同じだけはしゃいでくれた。

回っていた桶を一つずつ手に取って近くの子供に渡してからロッドで水を入れてやる。

空中から水が出てくるのにびっくりする表情が面白かった。

喜んで駆けていく子供達に手を振って子供達を見守るために出て来た大人達にお辞儀をして見せた。

これぞ魔法少女の真髄!

協力してもらったサラを労って撫でてやると、それまで遠巻きにしていた大人達は水汲みを再開し始めた。

まだ消していない虹を不思議そうに中腰で仰ぎ見ながら水の入った桶を運んでいく。

一人の女の子が俺の前に桶を無言で持って来たので、意味なく1回転してからロッドから水を入れてやる。

桶の水量が増えるにつれて口が大きくなっていくのは可愛かった。

ケタケタ笑いながら駆けていくと、次から次へと子供達が空の桶を持って集まって来た。

手ぶらの男の子が近寄って来て、サラに手を伸ばして俺とサラを交互に見る。

触ってみたいらしいので天使の笑顔で頷いてやった。

これまた逃げた腰でサラの前足にタッチすると孟ダッシュで逃げて行った。

離れたところで男の子の歓声が聞こえていたので、度胸試しでもしてたのだろう。

これまた、次から次へとサラにタッチする男の子が現れた。

最初は恐怖で固まっていた広場の空気が今は子供達の歓声が湧く和んだいい雰囲気になっていた。

俺達の所に初老の男性が近づいて来て舐める様に三人を見渡しおずおずと言葉を紡ぐ。


「あのぉ、黒い方々よ。 あなた達は何用でこの街にこられたのか」


この街に来てからの状況を考えると、俺達の来訪は山のエルフから伝えられていない。

それに恐れられているエルフ山のお膝元なので、黒い装いもあってか同類とみなされているのか危険な異邦人扱いだった。


「私達は、旅の途中で休めるところを探してこの街に来たのよ」

「旅ですか・・・、その大きな黒い獣は・・・」

「私の友達のサラちゃん! とっても優しい女の子なのよ!」

「優しい黒獣ですか・・・」


俺がサラの鼻の前に手をかざすと大きな舌で手を舐めてくれた。

一瞬怯んだ初老の男性だったが、どう見てもか弱そうな少女の俺が平然と首筋を撫でる様子を不思議なものを見る目で見つめてくる。


「私達は宿を探しに来ただけなの、街の人達に怖い事しようなんてこれっぽっちも思ってないのよ。 それより友達になりたいの」


なんかやばい、さっきの魔法少女アピールで言葉使いまで変わってしまってきた。

とりあえず、この街では俺のか弱さを感じてもらわなければならないので、ここでのキャラはこれで統一しなきゃだめかな。


「家畜を襲ったり、子供を拐いに来たわけではないのですな?」

「何それ、怖いぃ! そんな事するわけないですよ!」


意味なく一回転してもう一度虹を出してみた。

虹を見上げて何度か頷くと納得したのか水場の人だかりへ向かって帰っていった。


・姉様さっきの技凄かったですね、ガリ達がクルクル回った技で桶まで回せるんですね!

・鼻の上で、回ってた、ナームちゃん

「ごめんねサラ、いきなりお願いして桶回しなんかさせて、痛くなかった?

・め、回った

・クフフゥ

「あはははぁ」


サラの目を寄せる仕草に俺とシャナウは堪えきれずに笑ってしまった。

やっぱり猫ちゃんはめっちゃ可愛い!

広場の人の動きに違和感がなくなった頃シロン達は白い建物から出てきた。


「あれ? ナー姉ちゃんどうしたんだ?」


シロンは凍っていた広場の空気が和んでいたので不思議に思ったのだろう。


「姉ちゃん頑張ってみた!」


細い腕で力瘤を作って見せつけてやる。


「なんだよそれ、意味わかんねぇし・・・」

・シロン楽しかったんだよぉ、可愛かった姉様見せたかったよぉぉ!

「それより長との話はどうだった?」

「まぁ・・・、ちょっと長くなるから休めそうなあの辺で話そうよ」


シロンが指で示した方には小さなベンチらしき物があり子供達がたむろして居た。

シャナウから帽子を渡してもらい頭にかぶってゆっくり進んでいく。

背中でロッドを握って子供達が近づく俺に気付いてから帽子を上に吹き飛ばす。

ゆっくり落ちてきた帽子をまた頭で受けてかぶると、子供達は目をまん丸にして注目してくれた。

それを何度か繰り返しながら近づくと、黄色い歓声と一緒に走り去っていく。


「ナー姉ちゃん何してんだ?」


細められた目でシロンは俺を睨むが「いいの、いいの」とはぐらかしておいた。

ベンチに座って教えてくれた長との話をまとめるとこんな感じだった。


次は、山のエルフ

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