表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの体は旅をする
56/156

カインの地


 頬を撫でる風に流されて綺麗な金髪が肩口を優しく叩く。

揺れない船での快適な旅は2箇所目の目的地に向け順調に航海中だ。

しかし、いつからか上に浮かんで流れていた雲が目線と同じ高さで流れている。

そう、アトラに向かうまでは水中翼を使って海上を航行していたが、今は完全に空を飛んでいるのだ。

眼下は海ではなく陸になっている。

空を飛ぶ経験の無いドキアの同行者は手すりから離れた甲板中央のサラの周りに集まって身を固くしている。

海上を離れるアナウンスもピピタちゃんは当然の様にしてくれなかったので、俺がミムナに詰め寄って問いただす一幕があった。

ミムナいわく、鱗族の管理地が上空通過は禁止されているのと、人間達に目撃されるのを避けるためアトラまでは海上を移動していた。

これから向かっている所は自分達の管理地なので飛んで行くのだそうだ。

エルフの船を見ようと下を覗き込んでみたが、はっきりした姿は確認できなかった。

俗に言う光学迷彩なのか景色に同化してぼんやり輪郭らしきものが判別できるだけだった。

原理を聞いても、どうせミムナに「禁則事項です!」とか言われそうなのでやめておいた。

アトラを出発してからの進路は南西だったのでグルグルアースで確認してみたら、カインの所在地は南米のペルー辺りに思う。

思うと言うのは表示される画面に国境線など描かれてなく地域名も表示されない。

俺の地理の知識は日本ですら県名と県庁所在地が全て言えないレベルで、世界の国の正確な場所など知ってるわけがない。

しかし、ペルーには有名な古代遺跡があるのは知っていた。

インカ文明や空中都市マチュピチュなどは覚えている。

目的地であるカインの響きもインカ文明に似ているので、もしかしたら俺の知る未来に関わりがある事で、俺の耳には似通って聴こえているのかも知れない。

空を飛んでいると言ってもジェット機の速度ではなく、速い飛行船?くらいなので到着は明日の早朝らしい。

とりあえずやることもないので、ピピタちゃんの椅子の後ろで揺れる干された黒サンマを見ながらシャナウの硬い膝枕で俺は寝ることにした。


 目を覚ました時水の音が耳に入ってきた。

目的地近くの湖に到着したのだ。

まだ薄暗い太陽が登っていない時間帯だったのでピピタちゃんの予定した時間通りだ。

起き上がり周囲を見渡すとドキアとは違う雰囲気の森だった。

湖畔には背の低い木々が覆い被せる様に迫り出し、暗い湖面の色をさらに黒くしている。

当然の事だが明かりは一つも見当たらない。

船が速度を落として本来の木造の船体が水を受けて進み始める頃に桟橋が見えてきた。


「カイン、ついた」


ピピタちゃんは到着してすぐに無言のまま自分の船に戻っていった。

ミムナは「また何か工作するのか?」とエレベータの方を見ながら呟いていたのが聞こえた。

船の整備と掃除があると言うのでテトとガレを残して上陸する。

俺達はタラップが下ろされ少し朝日が顔を出した桟橋に降り立った。

丸太を雑に縛った筏みたいな浮き桟橋で少し揺れるし足も濡れてしまう。

あまり沢山の人が乗ってはダメなタイプだ。

急ぎ足で岸に着くと湖畔に数人の人影が待機していた。


「ドキアの方々、お待ちしておりました」


エルフの青年が一人前に出て右手の掌を胸に置く姿勢で軽いお辞儀をする。

この土地の挨拶らしい。

背丈はドキアのエルフと同じで俺の身長の2倍はある。

茶色い毛皮のコートを着込んでいる色白の茶髪だ。

俺とシャナウは軽いお辞儀で返した。


「出迎えてくれてありがとう シューロ」


一番最後に下船したミムナはサラの背中に乗ったまま声をかける。

なんだかんだ言ってた割には本人も猫が大好きな様だ。

挨拶を交わしたのち案内された所は湖から少し離れた石造りの村だった。

中央に光る石が置かれたドキアの”捧げ”の広場に似た場所を取り囲む様に、円形に平屋の建物が建っている。

ここがカインのエルフの里なのだろう。

総勢30名程のエルフが片膝をついてサラから降りて光る石の前へ進むミムナを迎える。

シロンに広場の端で待つ様に告げ、俺とシャナウもミムナの前で片膝をついた。


「カインの山々を見守るエルフ達よ、長きに渡る働き感謝しておる」


一瞬ミムナの体が輝いたので、カインのエルフに賞賛が与えられたのであろう。


「会合に出向いた結果は皆に知らせた通りだ。 アトラの人間達も予想通りに外地への広がりをみせている。 この地に現れるのはまだまだ先になるだろうが、皆の心に留め置いておいてくれ。 今回はドキアの樹海から二人のエルフと数名の人間も同行してもらった。 良きふれあいになる事を期待する」


ミムナの目配せでシューロが立ち上がり「それでは皆よ、祈りを」の合図で”捧げ”の儀式が始まった。

いつもと変わらぬ掌から抜けていく少しの脱力感で儀式は終わり、ドキアの村同様解散となった。

ミムナはシロン達の所へ歩み寄り俺とシャナウを呼んだ。


「シロン、マカボ、サラよ、 ここは普段人間が入っては来れない場所だ。 今回は私の許しで特別にエルフの儀式を見せた。 人の身でことわりを読み解く糧にしてくれ」


いつの間にかひれ伏していた二人だが、ミムナはマカボに向けて言っていた様に感じた。


「シロンとマカボはここを離れるともうカインの里には入れなくなる。 この地の人間の村で休むと良い。 後で案内させよう。 船で待っていると良い」


立ち上がった二人の顔は真剣だった。

深く一礼すると『樹皇』の方へ歩き出す。

サラもそれに続いて歩いて行った。


「ミムナ私達はどうしたらいい?」

「二日後の夕方の出発まで好きにして良い。 その間の”捧げ”には参加してもらうので泊まりは里に用意させる。 私はこれからシューロ長老達と打ち合わせがあるのでこの地の人間達が見たいなら『樹皇』で待ってると良い」

「わかりました、それでは『樹皇』で待ってます」

・ミムナ私も姉様と一緒に行きます


ミムナは頷き応じると光る石の前で待っていたシューロの元へ歩いて行った。

俺とシャナウはシロン達の後を追いかけた。


 桟橋に着くとサラが一人で佇んでいた。

「シロン達はどうしたんだ? サラ」

・船の掃除、お手伝い

「そうか、アトラじゃ港でゆっくりできなかったもんな、お腹空いていないか?」

・大丈夫


前足に頭を乗せて座っているので首筋を撫でてやる。

なぜか元気がなさそうだ。


「どうしたサラ、元気がないな。 狭い所にずっといたから疲れたか?」

・ナームちゃん友達、優しい。 仲間みんな優しい、光る石、怖い

「そうなのか? あの石って怖いのか?」

・そんな事ないですよサラちゃん、あの光る石はみんなを守ってくれる石なんですよぉ


俺がシャナウに視線を向けると、サラを宥める様に撫でながら語りかける。

ドキアの里でもカインの里でも俺は恐怖を感じた事はなかった。

獣から人間の魂に近付いたばかりで何かを敏感に察知しているのか、それとも初見の大きなサイズのエルフ達に気圧されたのかは分からないが、何かに怯えているのは事実だった。


「大丈夫だよサラ、サラを虐める奴は私が許さないから安心してね」

・ありがとう、ナームちゃん

・私も一緒だからね、サラちゃん!


サラを優しく撫でながら二人で慰めてやった。

『樹皇』の掃除も終わったらしく、シロン達は全員降りてきた。

テトが帽子と竹箒を持ってきてくれたので、これで完璧! 魔法使いと黒猫の散歩ができる。

なんでこんな事でウキウキしているのか分からないが、なんか楽しい!

湖畔でしばらく待っていると、カインの里の方から歩いてくる人影があった。

シューロと同じくらいの身長だが細身のイケメンだった。

シロン以外のドキアの三人はひれ伏している。


「カインのハラバと言います。 シューロ長老より人間の集落に案内する様に言われて参りました」

「ドキアのナームとシャナウです。 それとドキアの街の人間達です。 案内よろしくお願いします」

「少し山を降った所になります。準備はよろしいですか?」


三人を立たせて皆の顔を見ると頷いている。


「よろしくお願いします。 この子も一緒でも集落に入れますか?」


俺はサラを示して問いかける。


「エルフに異を唱える人間は私は知りません」


俺の欲しい答えではなかったが、肯定と受け止めておこう。

歩み始めたハラバの後に続いてドキアの一行は人間の住む集落へ向かった。

次は、カインの街

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ