表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの体は旅をする
54/156

荒らし屋の頭


 数名の取り巻きを引き連れて現れたいかつい男は、かけてきた言葉と同じ横柄な態度で近づいてきた。

テト達を背後に庇い前にでたシロンと睨み合う形で立ち止まる。

俺は面倒事になりそうだったのでそそくさとテト達に近づき、袖を引いて宿屋の中に引き込んだ。


「ここはシロンと私に任せて部屋へ行ってて良いからね」

「しかしナーム様!」

「いいの、いいのぉ! ここは私達護衛に任せておいて。 いちおミムナにも知らせておいてね、後は心配いらないって言っておいてょ」


渋るテト達の背中を押して階段へ向かわせる。

シロンの元に戻ると睨み合いは続いていた。


「おじさんなんか用なの?」


俺は見た目に合った声音で男に問いかける。


「何だ? 掃除の黒いチビじゃねえか? お前にゃ用はねえんだよ、あっち行ってろ!」


大きな掌で俺を押しやろうとするが、俺が汚い手をナームの体に触らせるわけが無い!

軽く体をかわし避けると目をひん剥いて睨んでくる。


「俺の仲間に手を出すな! 相手は俺がしてやる!」


シロンは俺と男の間に割って入って睨み返す。

周りは取り巻きに囲まれて、その外のギラついた目のヤカラ達。

元々の野次馬連中もいて道の往来の邪魔になっている。

食堂前は怒声と罵声が飛び交う賑わいだ一画となっていた。


「おう、シロン・ヌケサクとか言ったな? お前のせえで大損こいちまったじゃねえか!」

「大損? 何の事だ?」

「しらばっくれてんじゃねえよ! 今日の闘技場で優勝するのはブロンに決まってたんだよ!」


シロンは俺をチラ見するので


「あっ! あの大剣使いのおっさん?」


一つ手を打って話に参加する。


「でも、大剣使いのおっさん倒したのって、あの黒豹の”強牙”だったんじゃなかった? おじさん?」

「お前達が組んでんのはネタが上がってんだよ! 今日はあいつで一稼ぎしてから出向前に幹部連中と一騒ぎする筈だったんだ。 どうしてくれるんだぁ? コラぁ?」 


目をひん剥いて唾を飛ばしながら俺に凄んでくる。

なんかやな感じ。

話が通じない理不尽な相手は、散々会話しても分かり合えないので嫌になる。

大体こんな連中は言い掛かりで掴みかかって来て、殴り倒せば被害者面して謝罪と賠償を要求してくるのだ。

面倒この上ない。

しかし、闘技場では俺達の強さは顕示しなかったが、目立ったのは確かだ。

こんな逆恨みも当然か?


「おじさんはどうして欲しいの?」

「さっきから、おじさんおじさんってうるさいチビだな、俺の名はペインだ! 掃除のチビなんかにゃ用はねえんだって!」

「掃除も好きだけど、私のお父さん王様なんだけど?」


もちろん嘘だ、こんな奴らを相手に正直に会話するなんて無駄なのだ。

俺の言葉を聞いて頭で理解するのに少しの時間を要したが、凄んでた顔が悪巧みの表情に変わったのは直ぐに分かった。

全く単純で素直な奴らしい。


「おいチビ、いや嬢ちゃん。 王様って言ったな! それって意味知ってんのか?」

「勿論だよペインのおじさん。 森で一番偉いんだよお父さんは!」


シロンは呆れた顔で俺を見ている。

そう、ドキアでは嘘をつく人間はいないのだ。

なぜなら、重ね続ける人生でほとんどが家族の経験があって樹海の民全てが大きな家族なのだ。

小さな嘘も直ぐにバレるだろうし、生活に嘘を混ぜる必要がないのだから。

まぁ、ミムナが王様みたいなもんだし、エルフは皆その子供だろうから全くの嘘と言う訳でも無い。


「そうかい、嬢ちゃんは王様の子供なんだね?」

「そうだよぉペインのおじさん。 お父さんは森で一番偉い人なんだよ! えっへん!」


話に食いついて来た男に小さな胸を張ってみせる。


「王の娘なら話が早えや、こいつとっ捕まえりゃ金になるってもんだぜ!」


取り巻き連中達が俺に掴みかかってくるので軽いステップで身をかわす。


「おじさん達お金が欲しいんだ?」


たたらを踏んで俺の横を抜けていく船乗りらしい臭い連中を交わしながら懐に手を差し込む。


「あったりめえだろこのクソ餓鬼、チョロチョロ逃げてんじゃねえよ、コラぁ!」


取り囲まれた中を一周してから手に持った沢山の小金貨を掲げて大きな声を上げる。


「今日いっぱい儲かったから、一晩この宿屋を護衛してくれた人にお金をあげちゃいます。 欲しい人手をあげて!」 


取り巻くギラついた目の連中が一斉に手を上げる。

俺はそれを確認してから金貨を空中へ放った。

風を纏わせゆっくりと空中を舞い周囲の注目が集まる様にして。

そして身をかわしながらシロンの手を引き宿屋の入り口へ移動する。

我先に金貨を奪おうと駆け寄る人並みはペインと取り巻き達を押しつぶす勢いで集まり、落ちてくる金貨を掴もうとする奴と地面を這って拾おうとする連中とで争奪戦が始まった。

一段高くなった宿屋の入り口で俺とシロンは冷たい視線で眺めていた。

俺がシロンに手を差し出すと、察したシロンは銭袋を渡してくれる。


「ここの食堂でちゃんと朝まで護衛して頂戴ね!」


喧騒の中、大きな声で注目してもらってから、追い金を空中へ放る。

歓声と一緒に


「ドキアのチビ最高!」

「誰だ今殴ったやつは!」

「朝までぐっすり眠らせてやるよぉ!」

「そいつは俺んだぁ!」

「久々に飯が食えるぅ」


口々に叫びながら金の奪い合いをしていた。

しばらく続いた喧騒だったが金貨は収まるところに収まったらしく、金貨を手にした連中が食堂と宿屋の入り口の壁になった。

中にはそのままトンズラした奴もいただろうが、金には忠実な連中が護衛役を受けてくれたみたいだ。

流石に争奪戦の勝者は屈強そうで頼もしい。


「オラてめぇら! そこどけぇ! オラァそこの嬢ちゃんに話があるんだ!」


ペインが争奪戦に巻き込まれて腫れた顔で急ごしらえの護衛陣に凄んで見せる。


「おぅ、ペインさんよ。 気前のいいドキアの嬢ちゃんよりカネ払ってくれるんなら話は聞いてやるよ。 金持って来なょ!」

「そうだ、出向前に女の一人も抱かせねえ頭よりよっぽど良い雇い主だよ」

「ブロンなんかに戦わせねえで自分で金準備しろってんだ、ケチやろう」


散々な言われようだがドキア遠征の準備で金は手元にあるわけが無い。

下手をすれば借金だらけだろう。


「それじゃ護衛のおじさま達、朝までお願いしますねぇ!」

「おう! 任せておけ! ブラック・JK!」

「気前のいい姫さん最高!」


俺は可愛くウインクしてシロンと部屋への階段を登って行った。


 自分の部屋へ行くと誰もいなかった。

不審に思って気配を伺うと屋上から降りてくる足跡が聞こえた。

部屋の扉が開きミムナ達が入ってくる。


「楽しそうだったな、ナーム」

「なんか変な連中に絡まれて・・・、楽しかったです、はい」

・姉様みんなで屋上から見てましたよ。 サラちゃんも大喜びでした、あんな小さな金なんか追いかけて男達が大はしゃぎですもんね

「食堂のお姉さんといい、外の男達といい、訳わからん・・・」


テト達は不思議なものを見てまだ理解ができていそうも無い。

シロンだけは腕を組んで真剣な面持ちでミムナに問う。


「ミムナ、あいつらが船で襲ってくるのか? ドキアの金を狙って・・・」

「そうだな、さっき絡んで来たペインって男が船団の団長らしいな。 狙いはドキアのカネになりそうな物全部だろう」

「全部って?」

「金も銀も銅も鉄も、綿布も人間も樹木も全てだ、命すらカネに替えられるのがここアトラだ」

「・・・」


皆は無言で考え込んでいる。


「奴らの好きには絶対させない!」


シロンの決意に他の三人も真剣な表情で頷いている。


「その意気込みだ。 みんなでドキアの樹海を守っておくれ」


ミムナの言葉にもう一度しっかり頷き男達は自室へと戻って行った。


「しっかし、鱗族の連中め、厄介な物を持ち込みやがって」

「お金ですか?」


ミムナの呟きに俺が答える。


「そうだ。 短絡的な権力集中の手法だよ。 幻想の価値を与えて集団を掌握するやり方だ」

「でも、使い方によっては便利なんじゃ無いですか? 労働の対価とか品物の売買で支払いは明確にできますし」

「山上さんの世界は通貨があって人間は皆平和で幸せな生活が送れていたのか?」


窓の外の壁チョロ落としをしているシャナウの背に身を預けながら、ミムナは腕組みをして俺を値踏みしている様だ。


「・・・俺の記憶に残る日本はそれなりに通貨は安定して使われてた気がするけど、時々餓死する人の話はニュースになっていました。 逆に金持ちが政治家を動かして都合の良い法律を作ってお金を増やしたりしていました」

「それは通貨制度の一面だ、私が言ってるのは幸せを感じる人間の割合をそれは最大にできたか? だ!」


高級車を乗り回していたり、高いワインを飲んだりしている映像に憧れて、そして嫉妬していた。

贅沢ができないのが幸せでは無いと言うのならば、大半の人間は不幸だと言える。

お金を沢山持っているのが幸せなのだと信じていたが、実際には余るほど金を俺は手に入れる事はなかった。

俺が持つ価値観が全て貨幣の枠組みの中でしか考えられていなかった、それはミムナに言わせれば幻想の価値に踊らされていた事になる。

だから、ドキアの人達が頑張ってる姿が最初理解できなかったのだ。


「・・・貧富の差が大きくて、幸せを感じていた人は多いとは言え無いと思います」

「周りの人の話はどうでも良い、お前は幸せだったのか?」

「不幸だと、・・・感じていました」


ミムナはゆっくり応接セットに近づき椅子に腰掛ける。


「通貨制度は見えない鞭をふるう奴隷制度。 火星ではとっくの昔に廃止された制度だよ」

「奴隷ですか・・・」

「幻想の価値は自分だけを幸せだと錯覚させてくれるだけだ。 そして直ぐに物足りなくなってまた幻想にすがろうとする。 満たされない欲求に追われて際限なく働かせる、見えない鞭と同じだ。 管理者は腕を組んでそれを収奪すれば良い」

「麻薬患者みたいですね・・・」

「全体に幸福を与えるには程遠い。 しかし、権力を集中させるには管理者に取っては扱いやすい。 鱗族が考えている地球で人間が王を選出するには分かりやすいやり方だ。 富を一人に集中させれば良い」


満たされる事のない幸せを求め続けさせる制度、それを管理する収奪者。

集中した富に権力が集まり強い発言力を持つ。

俺が知ってる国の形。


「アトラの町はまだまだ大きくなりますかね?」

「当然なるだろうな。 それこそドキアがやってる耕作がここでも広く始まって食物が増えれば人間は一気に増えるだろうよ。 そうなったら周辺の略奪だけではなくて広く侵食するために外へ向かって行くだろうな」


ドキアの安穏とした社会と全く違う社会が地球に広がっていく? どちらが幸せかと問われれば、今の俺ならばドキアを選ぶ。

なぜならお金欲しさに目をギラつかせる連中の中でハラハラするアトラよりも、周りのみんながいつも心穏やかで過ごしているのに安心感が湧くからだ。

俺が知らなかった通貨を流通させなくても成り立つ文明が、これからどんなふうに発展していくのかも見てみたい。

しかし、我欲に溺れるアトラの広がりを止める事はできるのか? 

不可能に思えて仕方がない、しかし!


「ミムナ、こいつらからドキアを守りましょう。 私はドキアのみんなが大好きですから!」

「そうナームが言ってくれると心強い。 侵食は少しでも遅くしたいからな・・・」


ミムナと俺はテーブルを挟んで固く握手を交わした。

窓辺のシャナウは腕だけ俺たちに向けて親指を上に向け賛同の合図だけしていた。

次は、ピピタちゃんの悪戯

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ