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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの体は旅をする
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闘技場後半



 ハーフタイムなど気の利いた仕組みなどある訳もなく後半はすぐに開始される。

控室から中央へ進み始めた参加者達は前半の雰囲気とはまるで違っていた。

悪い意味で場を和ませたドキアの黒チビや、解体予定の獣も存在しない強者ばかりの参加者だ。

全ての瞳が痛いくらいに俺を睨み殺そうと強い光を放っている。

俺はナー姉ちゃんが言っていたシロン・ヌケサクを演じるだけなのだが。

全員が試合場に入り終わると同時に開始の合図が鳴った。

観ていた前半と違い壁に走り込む参加者はいない。

異質な参加者が二つあった前半とは違い後半の異質者は一人。

そう俺が第一目標で、全員が牽制する様子見の姿勢ではない。

集団対個人戦が最初から組まれているのだから。

案の定、俺はゆっくりした位置取りの動作で中央に孤立し囲まれていた。


「なるほど、アトラの連中は一人を集団で痛ぶるのが好みらしいな?」

「・・・」


周囲は無言で俺を睨みつける。

その中に見知った顔を見つけた。


「アスランじゃねえか? さっきまで試合場に居なかったけどどっから湧いて来た?」

「昨日の夜、切れなかった・・・、またやりたい・・・」

「そりゃすまなかったな、悔しくて寝れなかったのか?」


昨晩奴隷商のホイットの準備した刺客がいつの間にか紛れ込んでいたか・・・。

ホイットの差し金では無いはずだ、あいつはナー姉ちゃんにこっぴどく弄られて、牙も爪も抜かれたネズミにされてしまったから、再戦を考える気持ちには成れないだろう。

物の値段から商売の仕方、アトラの裏を牛耳る連中の事まで全部喋らされていたから。

それが漏れれば仲間から消される、ってナー姉ちゃんは言ってたからなぁ・・・。

別の勢力かアスランの意思か。


「俺は、白髪・・・の民、アスラン。 戦い・・・に、生きる民」

「あぁ、そうかい? それじゃぁ、お手並み拝見と」


膝を曲げて蹲み込んだ姿勢から一気に加速する。

向かった先は身を隠す程の盾を構えた大男。

勢いを殺さず左肩から盾の正面にぶち当たる。

重い鉄と鉄が衝突する音が響き、盾ごと大男が後方へ吹っ飛ぶ。

俺の防具はミムナから借り受けた物。

モトクロスのプロテクター? に似ているらしいがとても軽くて動きの邪魔にならない。

ついでに、壁にぶち当たっても返って来る衝撃はほとんど無い優れもの。

防具は守るだけではなくて攻撃にも使えるのだ。

まずは、決勝戦に向けての個別の戦闘力把握といきますか?

包囲している一番守りの硬そうな盾が押し負け、包囲が崩れる。

抜け出した俺に着いてくるのは白髪の短剣達。

シャー姉ちゃんなら羽虫でも叩くように弾き飛ばすだろうが、俺はそんな事はしない。

ナー姉ちゃんに教わったのだ。

相手と同じレベルで戦う術を。

走りながら着いて来る二人が両脇から斬りつけてくる。

四本の短剣が交互に俺の腕を切り飛ばそうと繰り出されてくる。

肘の防具と拳のナックルで受け流しながら速度を見極める。

剣も足捌きも速いが人間の域を出ていない。

そう、1回目の人生の頂点にも達していない速度だ。

二人の持つ剣を一本づつ折ってから踵を返し他の連中へ向きを変える。

二番目に俺を追いかけていた長剣使い組を、縦回転に横回転を駆使して交わし、立ち位置を変えていなかったクロー二人組に迫る。

俺は元々爪使いだ、こんな外付けの爪を付けた人間如きに負ける気がしない。

って言うか、人間が接近戦で爪なんか付けるんじゃねぇ!

猫が壁に爪とぎする笑える技で向かってくるが、俺に振り下ろされた爪の下から相手の拳を4つ粉砕してやる。

このナックルもミムナが貸してくれた物。

インパクトの瞬間ベクトルの方向に拳大まで膨張する。

腕で抱える太さの木なら粉砕できるのだ! っとミムナは船上で教えてくれた。

意味は分かんなかったが、石のブロックは簡単に粉々になったので俺のお気にりだ。

多分、あいつら肩までの骨は砕けただろう。

残るは、白髪の剣士三人。

アスランを真ん中に俺に向かってゆっくり進んでくる。

短剣二刀流は一本だと自信がないらしく離れて様子見。


「またせたかな? あんまり多いと俺も忙しいから少し整理させてもらった」

「かまわ・・・無い、まとまる、邪魔」

「そうか、お前達は喋るのは得意じゃ無いのか?」

「白髪・・・の民、言葉、いらない。 力だけ」


昨日立ち会ったアスランは人間が出せる速度の限界にかなり近づいていた。

俺にも記憶があるが生半可な修練じゃ、簡単に出せない速度だ。

どんな生活を白髪の民がしてるか知らないが、こいつらは俺が始末しておかないとまずいだろう。

俺も一回目の人間の頂点を出す準備をして、両拳を胸の前近づけナー姉ちゃんのファイティングポーズを真似る。

水上歩行の練習の合間に確かこんなこと言ってた記憶がある。

足は雨を彈く青葉の様に弾ませ、腕は大蛇が巻き付くように体に引き寄せる、体は尾のように細くして敵を誘い込む。

体を小さく縮め少し揺らしながら相手を思った所に攻撃させる? だったか?

左肩を前に右足を後ろにして構える。

こちらから仕掛ける様子がないのに痺れを切らしたか、左の剣士が先に動いた。

そう俺が誘った左肩を狙った上段からの振り下ろし!

肩に刃先が触れる前に左のナックルで止めて、右の拳で柄を握った両手を粉砕する。

回転する左肩の力で腰を回し、左足の上段後ろ回し蹴りで首を強打した。

一人目は剣と一緒に吹っ飛び動かなくなる。


「初めて、見る技」

「そうかい? 俺も実戦では初めてだけどな!」


今度は右肩を前に出して同じく構えてやる。

さて、一番近い所をまた狙ってくるか?

緊張を増した二人は俺にも小さく見える。

いや、誘っている場所が見える。

アスランは右膝。

もう一人は左腕。

相手の誘いに乗る戦い方、ナー姉ちゃんの言葉試してみっか?

左腕に誘いをかけている剣士に、誘われてやり下からの右前足蹴りを仕掛けてみた。

微かに口角が上へ上がるのだわかって、引き戻した足のあった空間を右からの突きの剣が走る。

見開かれた目にはもう俺の左足の蹴りが決まっていて石像が倒れるみたいに崩れ落ちていく。


「昨日、もっと、早かった。 遊んで・・・いるか?」

「そんな失礼なことしないよ、戦いも、おふざけも徹底しろってのが姉ちゃんの教えでね!」


俺はまだ1回目の人生の頂点だった速度を出していない。

それは、速度だけでは技には勝てないとナー姉ちゃんが言っていたからだ。

相手の攻撃防御の先を読んで技を繰り出せ、速さだけではなくて頭も使えと。

俺は左肩を前に出したファイティングポーズをとり、アスランと対峙した。

アスランは正眼の構えだったが剣を水平にして時折ゆっくりと大きく回す。

左回り、右回り、右回り・・・・。

変則的な回転に苛ついてくる。

俺はトンボかなんかか?


・モフちゃん!


ナー姉ちゃんの声が聞こえた。

そうだ、いつもいつも注意されていた。

短気は損気!

俺の一番の弱点だといつも叱られていた。

深く深呼吸してアスランを見ると、また右膝が俺を誘っている。

こいつの得意技が仕掛けられているのだろう。

乗ってやるか?

いや、まだ俺も試したいことがあった。

胸に固く引き寄せていた拳を力を入れて交互に前に出す。

空気を切り裂く音がアスランの耳を抜けていってるのがわかる。

速さは普通の人間の限界点。

空気を拳で打ちつけ続けているとアスランの動きが鈍くなり剣を取り落とした。

こめかみを両手で押さえてしゃがみ込む。

両の耳から血が流れ始め遂には仰向けに倒れた。

繰り出していた拳を止め、辺りを見渡すと二刀流二人と盾持ちの大男が不思議なものを見る目で俺を見つめている。

そう、俺は拳でアスランの耳の鼓膜に連打を浴びせていたのだ。

ナー姉ちゃんが言ってた人間の急所。

戦士なら一撃で殺せる場所を知って、狙うとき外す時を弁えて使え! 戦力だけも奪える場所も知って使いわけろ。 殺すだけが男の戦士の役目ではない。 それが護衛戦士の役目だ。

ナー姉ちゃんの言ってた聴力を奪う術。

俺は倒れている白髪の剣士達から視線を上げて残った三人に向かって駆け出した。

一本になった剣士達は俺のアスランとの戦い方を見ていて戦意は喪失していたが、訳あって逃してやれなかった。

ナー姉ちゃんみたく上手く全員失神とまでは出来ないだろうが戦力は奪わさせてもらう。

落ちた剣の刃先を拾い、腰が引けて前に出された無防備な腿に向かって投げる。

狙われた剣士は動作の少ない手首のスナップだけの投擲に、なす術なく貫かれその場で丸くなる。

残った剣士は震える両手で握られた剣で俺に向かってくる。

しかし、適当に繰り出される大振りはそれはもう剣士のそれではなかった。

地面に放置してあった剣を拾って往なしながら、盾の大男の位置を確認する。

相手の剣撃に数度押し負けてやると、俺が剣技は苦手だと思ってくれて調子に乗ってくれた。

それを見ていた大男も加勢してくる。

俺を挟み込む感じで退路を断つ作戦みたいだ。

有頂天になって剣を振ってくる剣士に押されて俺の背中は盾の壁に遮られる。

好機! とばかりに袈裟斬りされた剣を皮一枚で受け止めて、背中の盾に身を預けてしゃがみ込む。

お返しに金蹴りをお見舞いしてやった。

悶絶し崩れ落ちてくる体を俺の胸で受け止めて仰向けで倒れ込んだ。

振り下ろされた件は俺の右脇の下で支えられ垂直に立っている。

覆いかぶさった剣士の体で隠されて。

相討ちに見えただろう。

盾に隠れていた大男には状況は見えていなかったはずだ。

静かになった二人の姿を、盾の陰から覗くように確認して周囲を見渡す。

そこには、盾の大男しか立っていなかった。

これで決まりかな?

と思った時に周囲の観客の声が耳に入ってくる。

歓声に怒声に罵声。

あぁぁ! こんなにも周りに人がいたんだ・・・。

俺戦いに集中しすぎて全然周りが見えてなかったな・・・。

こりゃ、また姉ちゃん達に叱られそうだ。

試合場の司会者が現れて参加者を確認した後


「後半、 勝者は、盾のビロー!」


そして俺は担架で姉ちゃん達のところへ運ばれて、弄られるのだった・・・。



次は、黒猫ちゃん

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