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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
終わりと始まりの野営
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樹海の村2



 布一枚の扉から、戻ったよと告げながらオンアが帰ってきた。さっきと同じ向かいの敷物に腰を下ろし


「しかし、ナームはどこ行ったんじゃろうなぁ?」


かぼそく呟くのが耳に入った。


「申し訳ないです・・・」

「おっと、すまぬな! お主に問うたのでは無いのじゃ、気にしないでくれ。 少しはお主も落ち着いたかな?」


オンアは壁の光る石に顔を向け、遥か彼方へ思いを届ける眼差しで見つめる。


「今日の陽が・・・、昇ってくる暫く前に、雷鳴が二度轟いたのじゃ」

「?」

「星々たちを隠す雲など、一つも出とらんかったにな・・・」

「もしかしてそれは俺が目覚めたピラミッドの方でですか?」


器を口元に運び残りを空にしてから床に置き、腰の辺りから取り出した透明な筒から新たに液体を注ぎ込む。 湯気が上がっている所を見ると保温出来る入れ物なのであろう。 手をこちらに差し伸べるので同じく空にしてからオンアに手渡すと新しく注いでくれた。


「そうじゃよ、ナームはあの星見の台で祈りを捧げるのが役目でな。 時折、一人で行っておったわ」


光る石の遥か先をまた見つめてオンアは呟く。


「わしらはこの“地の呪縛”から解き放たれた空高くにおる者を“至る者”と呼んでおる。 其奴にこの地の安寧と皆の魂の解放を祈り、捧げるのが我らの定め。 ナームはまだ見習いじゃったのじゃが・・・」


遠くに焦点を合わせたままの顔を俺に向けて


「お主はあの場で目覚めたのであろう? 何か覚えておる事は無いのか?」


昨夜からの出来事を、何度も繰り返し繰り返し思い返してみても、自分がここにいる理由もどうやって辿り着いたかの道も思い出せない。


「申し訳ないオンア、さっきの夢で見た話以外には何も覚えてい無い。気がついたらあそこで横になっていて・・・。 雷も覚えは無いんです」


湯気の立ち上る器を両の手で包み込む様に見つめながら答えた。


「そうか、お主は特別な定めを持ちナームと入れ替わったやも知れぬな・・・」


オンアはゆっくりした動作で立ち上がると、棚の上に置かれてあった光る石を手に取り、部屋の中央に大事そうに置く。


「わしもお主を見定めねばならぬが、お主もこの世界が知りたかろ? まずは、この地のあらましを話すとしよう」


オンアの表情は何かを念じる祈祷師の様な顔になり。瞼を閉じたままで語り始めた。


「わしらが“雲落ちの巨人”に育てられた仲間と共に、荒地だったこの地にやって来たのは今から2千年前の事じゃ」


オンアは右手に杖を持ち、石を軽く突いた。まばゆい光が発し一瞬目が眩む。霞んだ視力が回復すると辺りの景色が一変していた。

渇ききった荒野に自分は立っていて、目の前にはさっきと変わらない座ったままのオンアが居る。


「どこだ、ここは?」

「ただのわしの記憶の中じゃ」

「え?」

「この石の力を借りてお主にも見える様にしてやってるだけの、只の幻じゃよ、怖がらんでもえぇ」


村の作りやオンアの装いで文明レベルを石器時代に近いのかと思っていたが、魔法みたいな術が使える世界だとは驚愕だ。


「すごい、すごい術ですね」


周囲は草一本見えない荒野が遠くの地平線まで続いて見える。近くに見えた小石を手に取ろうと歩き出すと、直ぐに見えない壁に遮られ進めなくなる。


「お主、動かん方が良いぞ! 目に見えるは幻じゃと言ったろうに。 体はあの部屋に居るのじゃから、間違って部屋から出たら下まで落ちるのじゃぞ!」


耳の後ろに冷たい汗が湧いて出る。そろりそろりとオンアの前へ移動し正座をする。


「そう長い話には成らんから、そのまま大人しく見聞きしとりゃいい」


小さく頷くと理解したと見て取って話を進めてくれた。


「乾いた大地に草の種を蒔き水をやり獣たちを導いた。花を育て虫と鳥達を導いた。長い日照りで何もかも無くなり荒地に返った。又草を育てる事から始めた。 幾度目かにようやく肥えた土に木が育ち、水を蓄えた大地は日照りに負けない力を得た」


周囲の景色は超速再生の3D映画の様に、草が生えそして枯れ又芽吹いた草が枯れるのを繰り返し、辺りは若い葉をたくさん抱えた林に変わった。


「実がなる木が増え仲間も動物達も増えた。 緑の増えたこの地に巨人達は大層喜び、光る大いなる石をこの地に託した。 そして小人達を連れて来た」


周囲は樹海へ変わり、光る石を中心に囲むオンアと同じ装いの人影と外側に群がる緑の肌をした小人達が見えた。


「それが千年程前の事。 わしらは光る石と共に、この森と小人達を見守るのが定められた民なのじゃ。 そしていつしか定めからの解放も祈る民ともなった。 始まりが有ったのじゃから終わりも有って然るべきじゃからな・・・」


辺りは元の薄暗い部屋へと変わり、強い光を放っていた石は元の明るさへ戻って行く。


「2千年もこの地に居るのかぁー長いな。オンアは何代目の長老なんですか?」

「何代目とはどうゆう意味じゃ?」

「最初の長老が亡くなって替わりの人が長老になってを繰り返して行くでしょ? 2千年だったら200代目くらいですかね?」


オンアは訝しむ表情でこちらを睨む。


「お主は少し理解力がナームには及んでおらぬな、痴れ者の魂か?」

「え?」

「見せた景色はわしの記憶と言ったはずじゃ。お主は、耳に入った言葉は魂まで届いておらん様じゃな・・・。ナームも不憫な運命じゃな・・・」


両肩を落とし心底落ち込んだ雰囲気で俯くオンアは、小さい体躯が一際小さくなった様に見える。


「そ、そ、それって、オンアは2千年生きてるって事ですよ!まさか!そんな、そんなの信じられない・・・」


わざわざ俺に嘘を語る必要も無いのは分かるのだが、理解の範疇を超えた内容に思考が付いて行かない。


「お主が持ってる小さき魂では推し量れぬやも知れんが、真を見抜く曇らぬ眼を、これからでも遅くは無いじゃろから育てるのじゃな。 前の世に縛られず知恵を得、生かせば殻を破れるやも知れんしな」


言葉が出て来ない。知識が足りないとかの話ではなく、常識が全く違う世界だ。 呆けていた俺を暫く放置してくれたが、待ちくたびれた様子で


「お主がここへ来る前の世界について聞いても良いかの?」

「はい構いませんが・・・」


断る理由は無い。逆に何かしらの解決策を見出せるかも知れないからだ。

オンアは杖を握るとまた光る石に当てた。

眉間の頭蓋が何かに引っ張られる違和感が生じ前のめりになる。 瞬間部屋の景色が一変し、生まれ育った実家の田舎風景になる。 懐かしい小さい頃の家族団欒風景、小学校の教室から見える田園、単車で走り回った峠道、喧騒渦巻く都会の風景、巨大な工場で蠢く機械と人の列。


「ほう、此処とは全く違う、別の世界じゃの」


50年間の超超高速再生の風景はあっという間に終わり小さな部屋に戻った。

いきなりの所業に文句をつけたかったが、強い疲労感で眉間の違和感を指で揉みほぐすしか出来なかった。


「敵意も害意も無いのは分かった。 有るのは強い困惑のみのようじゃな。 お主の世界に少し興味はあるがまた今度見せて貰おう。 ゆっくり考えを整理してから、お主自身が今後の身の置き所を決めるが良かろうて。 帰るにしても、留まるにしてもな。 このドキアの森に仇なさぬならば滞在を許そう、自由に過ごすが良い」

「えっ?」

「お主よ!度々するその返しはナームはせんかったぞ! 声に出すときは言葉を纏めてからにせんと、緑の小人族と変わらんぞ! この村ではナームとして過ごして貰わねばならんから、言葉遣いにはきを付けてもらわんとな!」


本質的な浅はかさを見透かされた感じがして恐縮しながらも聞き返した。


「オンアその理由を聞いてもよろしいでしょうか?」

「この村の住人は少ない。 ナームが居なくなったにしても中身が別人になったとしても大事になる。 ナームがしていた仕事も手伝って貰わねばならんからな」

「それってバレたらもっと大変な事になるんじゃ無いですか?」

「もちろん其の時は、お主に“雲落ちの巨人”の所へ行って貰う事になるよ!」

「巨人の生贄にするんですか?」


座ったまま全速力でオンアの前から最大限遠ざかる。 が、狭い室内ですぐに壁へと背中がぶつかった。


「人を人が喰らう話はこの地では耳にした事は無いな。 彼の地の鱗族とは違うからな」


自分の精神年齢は50歳、なので強い恐怖感は感じていない筈なのだが、このナームと言う少女の身体は感情が表に現れやすい為か小刻みに体が震えてしまう。これからどうなってしまうのか考えるだけで、ため息だけが漏れた。


次は、元気なシャナウ1

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