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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの体は旅をする
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アトラの住人



 クッキーみたいに硬いパンをミルクに浸して口の中に放り込む。

旨味は全く感じないそれを飲みこみながら幾つかのテーブルの客がこちらに視線を向けているのがわかる。

スミスが準備した連中かドキアの一行の噂を聞きつけてやって来た連中かは分からないが、ここでは手出しはして来そうに無い。

ただの野次馬か?

他の連中は殆どが船乗りらしく、遠征の話で大盛り上がりだ。

たられば話で狸の皮を数えている奴らばかり。

でもみんな口々に男に生まれたから人生楽しまなきゃ損。

そんな話をしている。

どうせ一回きりの人生だからと。

ここの連中はドキアの人間みたいに生まれ変わりはしないのだろうか?

それとも昔の俺みたいに記憶を無くして生まれ変わっているのか?

もしかして、本当に一回きりなのかも。

三人の食事も終わり、夜の町へ出かける事にした。

ガレは結局シロンとテトが飲まなかったジョッキを飲み干し今は頗る上機嫌だ。


「ナーム様ぁ! 俺まだ、ナーム様と挨拶してなかったですよね? 挨拶!」

「したじゃ無いか! シリウスの出来が良かったから称賛してやったでしょ!」

「あれ? そうだったっけか? じゃぁ! も一回良いでしょ、ナーム様?」


シロンが首根っこを捕まえて俺との距離を取ってくれているが、セクハラ・ガレは出来上がっている。

こいつは吊るし決定だな!

テトを先頭に夜の商店を散策だ。

武器屋や防具屋を覗いてみたが、参考になる良い品は見つからない。

テトの見立てでも鉄の質は悪いし、磨きもあまい。

皮の鎧もドキアの細かな細工に遠く及ばない。

どれもこれも、木の棒よりは使える剣と裸よりは来ていた方が良い防具の評価だ。

鍛治師のガレの評価を聞くまでも無い。

今は聞いてもまともな答えを返してもらえなさそうだが。


「しっかし、ナーム様」

「何だテト?」

「ナーム様の言ってた通り、酒は飲まん方が良いですね?」


テトはガレを細い目で見ながら素直な感想を口にする。


「あれな、今は上機嫌で楽しそうだろ?」

「そおですね、気持ちは良さそうです。 人の話は聞いていないですが」

「あの上機嫌が治ると、激しい頭痛と吐き気に襲われるんだ」

「何ですかそれ? ちょっとやばい飲み物じゃ無いですか?」

「だから優しいナーム様は一口でやめておけと教えてあげたんだ」


テトは頭をかきながら


「そうっすね・・・、調子に乗ったガレが自業自得だ。 でも死んだりはしないですよね?」

「一気に量を飲んだり、毎日毎日呑み続ければ・・・死ぬな!」

「まじっすか!」

「ほれ! あんな感じだ!」


呑みすぎて路地で倒れている人影を指差す。

自分の吐瀉物で着ている物も地面も汚れていて、誰も介抱する人もいない。

気がつけば財布を盗られているのは確実だろう。


「酒怖ぇっすよ! ナーム様・・・」


左右の店を見ながら進んでいくと娼館の多い地区に入ったようだ。


「船旅の前にちゃんと女抱いて行けよぉ、安くしておくよぉ!」


シロン達が呼び込みに声をかけられる。

酔っ払いと一緒に歩いていたのでカモに見られたのかも知れない。


「ナー姉ちゃん何だここは?」

「姉ちゃんにそんなとこ聞くか?」

「いや、知らねえんだったら良いんだけど」


とりあえずナームの見た目はまだJKなのだ、答えに困るでは無いか!


「あれはね、男が女の人と子作りする所なんだ・・・」

「へぇ! 子供産んでくれる店があるんだ」

「・・・子供を産んではくれない! 作る行為だけする所!」

「子供を作らないのに子作りするとか訳わかんないよ!」

「ここはアトラだから・・・、いろいろあるんじゃない・・・?」


困った、ここはドキアとは全く性格の違う土地だ。

周りには変なタバコの匂いもするし、白い粉を鼻で吸っている奴らもいる。

人間の快楽への欲求を満たす行為があちらこちらで行われている。

ドキアでは他者からの称賛の為に自分の時間を使っている者達ばかりだったが、アトラは我欲の為だけに生きている人間だけみたいだ。

どちらかと言えば俺はこっちの方が自然に思えるのは、前世は物質世界に生きていたからか?

ここまで周りも欲にストレートでは無かった気がするが、繁華街の裏路地辺りではここと変わらんか?

宿屋では居心地が悪く感じていたが、実際に街中を歩くと懐かしさを感じる。

多分、俺の魂は利己的なこの町と同じ所で育って来たのだろう。

奴隷商の区画へ入った頃、宿屋から尾行していた連中が距離を詰めてくるのを感じた。

まだ、上機嫌のガレをテトに預けてシロンが側へ来る。


「ナー姉ちゃん、どうする?」


シロンも気付いていたのだろう。


「まずは、出方を見よう。 基本私は手出しはしないからそのつもりで」

「わかった、任せてナー姉ちゃん!」


進める歩みの先に見た事のある人影があった。

中央門で裸にひん剥かれた奴隷商のやつだ。

確か名前は、ホイット。


「ドキアの一行さん、夜の散歩ですかな?」

「ここは、夜も明るいから夕食の散歩にはちょうど良いからね、何か用ですか」

「昼は少しばかり恥をかかされましたからねぇ、ちょっとお礼をしたくてねぇ」


私は小娘役なのでシロンの後ろでテトとガレと一緒に成り行きを見守る。


「戦うのならば相手をするぞ、お前が戦うのか?」

「私は剣よりも計算の方が得意でねぇ、相手はこちらの方がしてくれます」


ホイットが両腕で指し示す暗い路地から長剣を手に下げた人影が姿を現す。

黒い肌に白髪。

壁の中の使用人と同じ。

今まで見て来た壁外の人間と一線を画す存在。

シロンは表情を変えないまま、足の位置を少しずらす。

俺と立会した時の構えだ。

俺と同じでただの人間では無いと感じたらしい。

尾行して来た人数も加わって、周囲は完全に取り囲まれた。

さすがのガレも状況が飲み込めたらしく大人しくしてくれているのは助かる。

俺もマントを背中に回し腰のロッドに手をかけておく。


「名前は名乗らなくて良いかな?」


シロンが余裕ぶった言い方で聞いた。


「・・・お前の名前は知っている、シロン・ヌケサク。 俺の名はアスラン」

「プププッ!」

「そこで笑うか? ナー姉ちゃん?」


煽られてシロンが短気にならないように、声に出して笑ってみたが叱られた。


「お前には恨みはないがこれも仕事だ、死んでもらう!」


アスランが呟くと同時にシロンへ斬りかかる。

間合いを詰める速度は尋常では無い速さだ、人間としては。

相手の動きを封じる策か、剣は大外の上から足首を狙っていた。

シロンは軽く身を翻し交わして見せる。

シロンは剣を抜いていない。

使っても無駄な事は理解したようだ。

相手の剣はさっき見てきた商店の物よりは上等そうだが、シロンの持つシリウスでは一合で折れてしまうだろう。

耐えられる剣か瞬殺するのならば抜くだろうが、相手の力量を図るのに間合いの近い拳を選んだようだ。

足を躱されるとアスランの2撃目は剣の惰性を利用した回し切りでシロンの腹を深く狙ってきた。

流れは無駄なく力が入ってなくとても滑らかだ、普通の人間相手であれば交わせない間合いだろう。

シロンは軽く体を回し腰につけたままの剣の鞘で受けたて、自分から距離をとる。

目も体も十分について言ってる。

と言うより、余裕そうだ。


「・・・殺さないのか?」


アスランがシロンに問う。


「何で俺がお前を殺さなきゃならねえんだ?」


シロンは頸を気怠そうにポリポリかいている。


「俺がお前を殺そうとしているのに、俺を殺せるお前はそうしない?」

「殺し合いだけが戦いじゃ無い。 俺はお前より強いのがわかったからそれで満足だ。 本気で殺し合いする必要はここでは無い」

「・・・そうな・・のか?」

「これ以上俺達を攻撃するのなら、これから一生歩けない身体にしてやるだけ」


シロンが俺を見るので親指を立ててGJサインを出してやった。

ホイットが血流の悪い絵白い顔で今の成り行きを見守っていたが我慢の限界だったようだ。

短気なやつだ。


「おら! この人数なんだ払った金貨の分の仕事しやがれ!」


声をかけられ動いたのは周りを取り囲む30人近い用心棒風の男達。

一斉にシロン目掛けて斬りかかる。

俺の方にも二人きやがった。

美少女に斬りかかってくるとは、命知らずな奴め!

シロンはアスランに近い速度で一人ずつ往なして手刀で昏倒させている。

しかし、俺は容赦はしない。

か弱い美少女に大剣を本気で降りかかってくる奴らは許さない。

腰のロッドを抜いて足の腱を音速を越して軽く叩いてやった。

二人とも俺を通り過ぎると地面に横たわり呻き声を上げながら足首を押さえている。

片方のアキレス腱を粉砕してやった。

一生松葉杖生活だろう。

この土地で飯が食える仕事につければの話だが。

シロンの方も難なく終わった様子で、ホイットをいじっている。


「おい、奴隷商のホイットさん、俺ぁ昼に言ったと思うが、仲間に手だししやがったな?」

「あっ! そのぉ・・・、怪我とかさせる前に・・・全員やられちゃいましたけど・・・?」

「手は出しただろ?」

「ハイ! 出しました。 そうです私が出すように言いました。 ハイ!」

「ハイ! ハイ! ハイ! ハイ! そこまでぇ!」


シロンの話の持って行き方が、なんかドラマに出て来るチンピラっぽくなったので割って入る。


「奴隷商のホイットさん? もう気が済んだかな? お昼の恥の上塗り、まだ続けますか?」

「いぃぇ! もう、きっちり、さっぱりしました。 私はもう生まれてからの人生恥だらけでして、一つや二つ増えてももう怒ったりしない・・・、ごめんなさい、もうあなた方には係わりません、許してください!」


地にひれ伏し拝んできたので、勘弁してやる。


「それじゃぁ、ちょっとおじさんの知ってる事いろいろ教えてもらっていいかしら?」

「ハイ! 何でも聞いてください。 隠し事は一切しません!」


有力者の情報源ゲットだぜ!

それから時間を掛けて町の情報を隅々まで聞き出すのだった。

次は、アトラにあった闘技場

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