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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの体は旅をする
39/156

出航



 高空から鳥の鳴き声が聞こえた。

雀やひばりの声とは違う猛禽、『鳳』の声。

ミムナを乗せた”鳥ちゃん”の来訪を知らせていた。

太陽が真南に至るまでは少し早い時間だから、予定通りだ。


「さてと、支度するかね!」


オンアの号令で”捧げ”の広場に集まったエルフの民は方々へ散っていった。

俺は大きな光る石の前にちょこんと座ったままだ。

動くな! と言われている。

村のみんなと比べ背がチッコイからだけでは無い。

使節団の参加者だから貴賓扱いにするとオンアが周知したせいだ。

予め準備され座布団前に、果物や飲み物、街の美味い処の菓子まで運ばれ、ミムナ姫の歓迎会の準備に大忙しだ。

好きでチッコクなったわけでは無いが、ボキアの血走る目には逆らえなかった・・・。

程なくして星見のピラミッドへ続く吊り橋に人影が見える頃、宴の準備は恙無く整っていた。


「ミムナ姫、寄村歓迎いたします」


オンアが膝を付き出迎える。


「・・・こんな出迎えをエルフの民がしていたのは私の記憶には無いが、どうした? オンア?」

「歓迎の席では美食を持って迎える、人間の街で今では主流の礼儀です」


問われたオンアは黙していたが隣のベイロが答える。

ミムナは黒い鎧を着込んだ従者を一人携えて”捧げ”の広場へ足を踏み入れた。


「私にその嗜好はないが?」

「存じております。 なれど、不変のエルフのしきたりが人間の良き所を真似ることに好感頂けるかとご用意致しました」

「私はお前達には変わって欲しいとは思ったことは一度もないし、できれば変わって欲しくないと願っておるが?」

「・・・受け入れなければならない事も増えてきた、とご理解頂きたい」


オンアもベイロに口添えし宴席の理解を求めた。


「ふむ、深くは求めん。 この地はお前達に任せているのだ、好きにして良い!」

「寛大なる配慮感謝します」

「所でナーム、お前の意見は?」


元々蚊帳の外の俺に話を振るか? 我介せずと光る石の前のベンチで足をブラブラさせ成り行きを見ていた俺はうなじを掻きながらミムナに歩み寄った。


「人間がエルフと仲良くなりたい様に、エルフ村のみんなも姫と仲良くなりたいだけでは?」

「無責任な奴め! まぁ、これからの話は楽しくは無いから雰囲気だけは明るくなるから良いか?」


ちょっとカチンときた!

責任を負えない俺みたいな、さっき転生してきましたって奴に、あれやこれや丸投げしといてどの口がほざく!

喰ってかかろうとする俺の意気込みを察して先にミムナが手で制す。


「文句は私の話を聞いてからで良い! この先のエルフの歩む道の話もな・・・」


意味深な言葉の裏に潜む大きな影を感じ、俺はおふざけをやめにした。

はにかむミムナの微笑の瞳は厳しく真剣な物だったから。


 ミムナは円形に囲むエルフの中心に一人座り、小さな口でクッキーをポリポリかじっていた。

エルフが準備した宴と言っても、いつもの蜂蜜入りの柑橘系の飲み物とクッキーが数枚・・・。

排他的物質世界の、怪しい高級料亭の懐石料理やノー○ン・シャブ・しゃぶ、みたいなノリであるわけがない。

テパの作品であろうクッキーを口にしながら、皆静かにミムナが話し始めるのを待っている。


「素朴で良い味だ・・・。 美味しいよ!」

「テパは希少な素材ではなく身近なもので良い味が出せる様にいつも工夫しています。 そうすればたくさんの人の口に入りますから、笑顔が増えると言ってました」


傘の東屋で聞いたテパのレシピにまつわる話をした。


「ふむ、テパらしい・・・」

「テパをご存じで?」

「・・・オンアがこの樹海の民を全て知っている様に、私も・・・知っているのだよ・・・」


口の周りにクッキーのカスを付けたまま虚空をしばらく見つめた後、意を決した様に話出す。


「戦が始まる! ・・・かもしれん・・・?」

「・・・」

「何ですか唐突に!」


ホッとレモネードが鼻から吹き出す所だった!

エルフ達は冷静なままで、焦っているのは俺だけ?


「そうならない様に、1000年事の会合にこちらから出向くのだが・・・。 相互不可侵条約対象外では私も圧力のかけようがなくてな・・・」

「戦って誰と・・・」

「ナームよ、お前には後で説明するし選択もさせる、ここでは静かに聞いていろ!」


ここの席で俺は部外者らしい、その通りの転生者なのだが・・・。


「他勢力の人間がドキアを含む我らの領域に介入し始めてだいぶ時間が経った。 初めは調査と様子見の渡航だったが搾取目的の侵略が遠くない未来に計画されている! まったく・・・、オンアの心配してた事が起ころうとしている訳だ・・・」


非力な者から豊かな土地と資源を奪う・・・、暴力による侵略?

俺が知る歴史の必然だ。


「しかし、座して流れに身を任せる気はない!」


拳を振り上げる少女!

目に映る迫力は、無い!

背は小さいし、声は幼い、美少女以外外見では特出した物が無い姿のミムナなのだ。

しかし、意思に強い圧力が籠もっていた。

それは、総べる者のみが持つ風格と言えるだろう。


「故に、『黒柱』を伴い選ばれた民だけで赴く、私の不在の際に有事があれば残る『三柱』は好きに使ってかまわん!」

「事は起きるとお考えか?」


ベイロの表情は今まで見た事がない真剣な面持ち。

集まった村の人達の大半は、握りしめた拳が震え開いてはいけない扉が開く様を見ているよう。


「交渉次第といったところか? 本国同士では別な動きもあって苦慮している所でな、局地での些細な衝突は無視で双方の意見が纏まっている、この地で争乱が起こっても体制には影響しないそうだ」

「それであれば、エルフと共に『四柱』交えて一気に制圧してはよろしいかと?」


ベイロ一人が語気を強めるが賛同者は現れない。

ミムナは両手で宥める様な仕草をして、ゆっくりあたりを見渡す。


「私が大事に思っているのは、樹海の民とそれを見守るお前達だ。 なぜなら、多大な時間を費やした宝だからだ。 この地で昨日生まれた人間の赤子も、朝露で落ちた今朝の青葉も皆、私の一部だから何一つ犯されたく無いし失いたくも無い、と私が欲している!」

「一つの星に、一つの民族・・・ですか?」


オンアは俯いたままで呟いたので表情は窺えないが悲痛さは感じ取れた。

「真理に目覚めぬ者達の共存は、”太陽に恋した羽虫”と本国の文献にある。 常に互いの平和を求めて戦は起きる。 今は出来れば話し合いで納めたい・・・、樹海の人間はやっと芽吹いたばかりなのだ、汚れるには幼すぎる」

「ならば尚更、先攻して・・・」

「ベイロ黙るのじゃ! ミムナにはわしらが見えぬ世界が見えとる。 わしらにはここを守れと言われた、それをなせば良いのじゃ」

「しかし・・・」


そのやりとりを見てミムナの顔には笑みが浮かぶ。


「ベイロよお前の言葉も十分わかる。 本国でも少なく無い意見だった。 しかし私の密偵の知らせを考慮すると、時間稼ぎで奴らの瓦解が見込めそうなのだ・・・。 まずは進行の遅滞を招く、その為の道化を演じるのが今回の使節団の主目的となる」

「どのくらいの時間・・・現状維持をお考えか?」

「100から150年! それで本国間に大きく動きが出る」

「・・・ならば我々はその期間、樹海と民をエルフの魂をかけて守って見せましょう」


オンアが平伏すると続いてその場のエルフが皆頭を下げた。

俺はミムナの近くで輪の中心にいるが話の内容は全く理解できなかった。

戦?

本国?

火星がどっかの星と戦争間近で睨み合っていて? 

その勢力がこの地球でも覇権を狙っている?

何じゃぁそりゃ? 

どこのスペースオペラのお話?

たかが諸外国への使節団だと思っていたが、とりあえずそれなりの警戒心は持って準備していたつもりだ。

しかし、場合によっては戦争が勃発してもおかしく無い国へ出向くのだと?

俺の心も物資もそんなつもりで準備していない!

何で重大な話を教えずに俺に丸投げした!


「ミ・ミ・ミムナぁ! お・おれは・きぃちゃいないぞ!」

「言ってない。 言いたくなかった!」

「そ・そ・それって、詐欺だろぉ!」

「世界を回って見聞を広げるのは、楽しそうなのは、事実だ。 嘘では無い!」

「交渉次第で戦争とかって、重大な歴史の転換点になってたりしないか? 3流政治家の外遊とかと訳が違う! 俺なんかがお遊びでついていっていい訳が無い!」


恥も外聞もなく半ベソ描きながらミムナの襟首を掴み問いただす。


「この時間にお前が訪れた。 誰かの意志か、天の悪戯か。 私はお前が重要な鍵に見えてならない」

「鍵とか意志とかわけわかんないし!」

「ならば、黙ってついて来て歴史の転換点を目撃するのも面白く無いか? 結果闘うとなってもお前の立ち位置はどこを選んでもいいのだぞ、私達と一緒でも良いし、敵になっても良い。 双方の敵になっても良いし、逃げてどこかの山で仙人になっても良いだろう。 私は咎めん」

「それって俺の同行はミムナには何もいい事がない様にしか聞こえない・・・」

「いい事・・・? 私は歴史が動くかも知れん場所に、お前と言う不確定な鍵を持参する優越感を持って向かえる。 これは私にとっていい事だよ?」


天国と地獄の岐路に置かれた手駒が進む先を決めるダイヤル。

彼女はどちらの道も楽しんで進む覚悟で回そうとしている。

求める最良の道が選ばれなくても、後悔と反省せず与えられた道を俺は進めるのだろうか?

ミムナの様に逆境を楽しむ心構えを持てるのだろうか?

無理だ、今までの俺だったら無理だ。

しかし、ナームは?

2000年以上生きられるエルフの体、逆境に陥っても這い上がれる時間は十二分にあるのでは?

前世の50年、眠っていた240年? それをこえて2000年? 理解の範疇外だ。

逆境や苦境、孤独の中でも小さな幸せを見つければ生きていけるか?

あの狭い野営地の星空の様な・・・。

諦めた。

物事の流れがとっくに俺を巻き込んで進んでいる。

ミムナの掌の上だとしても、もう、簡単には降りれない実感は十分にある。

襟首から手を離しへたり込むとミムナは俺の頭を小さな手でポンポン叩いた。


「お前はお前の人生をしっかり楽しめ!」

「ミムナ俺を弄んでないか?」

「私にそんな悪趣味はない」


あっち行けと掌で合図され渋々離れて座る。


「これからのエルフの民達の予定に関してはオンアに申し渡している。 皆協力して進めてもらいたい。 私の忠実な民達よ、私はいつもお前達と共にある」


ミムナは両手を高く広げ車座のエルフ達を見渡した。

一瞬輝いて見えたから、ミムナが称賛を与えいたのかも知れないが、ふてくされていた俺は何も感じなかった。


 エルフの村で初めて行われた、昼食歓迎会はキナ臭い話で終わった。

俺の気持ちは消化しきれないカッチカッチのビーフジャーキーを胃に詰め込んだ感じで、少ない胃液では腹痛を起こす一歩手前。

消化には時間が必要だ。

詳細な打ち合わせと言いながらミムナは長老達を伴いオンアの家へ向かったので、俺は自宅へと帰ることにした。

結界門で夕刻に集合し乗船予定だからだ。

布の扉の前に立ち人の気配に振り返ると、『黒柱』が立っていた。



「お前はミムナの護衛役だろ? ミムナはオンアの家だ。 あっちだぞ!」


不機嫌が口調に漏れて嫌な言い方になってしまった。

眉間にシワもよっていたに違いない。

『黒柱』は小脇に抱えた小さな箱を差し出して、受け取れと俺に促している様だ。


「お前・・・、喋れないのか?」


『黒柱』は小さく頷く。

何で喋れないこんな奴連れて行くかな? ミムナの真意にまた疑問を感じた。


「受け取ればいいんだよな?」


頷き返すのを最後まで見る事なく、強引に手で掴んで自室へ入った。

ニートが二階の小さな城を歩く様な、大きく床を踏みつける音が自分の足元から出るのを遠くに聞きながら座る。

ついでに受け取った箱も乱暴に床に置いた。

この地に来てこんなに心がざわつき居心地が悪いのは初めてだ。

俺が鍵?

何じゃそりゃ?

勝手にナームの体を占拠して予定を狂わせた俺への腹いせか何かか?

・・・そんな事は無い・・・。

俺の理解をはるかに超えている壮大な話題に俺がついて行けてないのだ。

行き先のわからない電車に乗ってしまった不安感。

自分の小ささに気付き尻込みしている。

何度も味わったチキン野郎な己に俺は苛立っているのだ。

小さい事も、無知な事も、無力な事も、俺は知っているでは無いか・・・。

無い物ねだりの駄々っ子を己の内に見つけてなんかスッキリした。

俺の魂いは、情けない俺のままだと実感したから。

歴史を左右する力など俺には無いのは俺自身が知っている。

しかし、歴史が動く瞬間に同席できるかも知れないのには魅力を感じる。

ミムナが言った通り、楽しそうだ!

しばらく腕を組み考えていたが、部屋に籠もって無い物ねだりしているよりは、痴れ者と罵られながらも世界を見て回れるのはとても魅力的だ。

そこで気づいた。

最近の俺はネガティブな沼から抜け出すのが早くなった。

以前の俺は、悪い方、暗い方の恨み節をつまみに安酒を飲んで酔い潰れていたのに。

ナームになってからは落ち込みスパイラルにはハマっていない。

鏡を見ればわかる。

快活そうな面立ち、健康そのものの身体。

俗にラッキョが転んだだけで笑い転げそうな年頃のナーム。

無精髭で背中を丸め、眉間にシワが深く刻まれた酒焼けの顔では無い。

精神が外観で良い方向へ矯正されてる気がする。

そうだ、こんな可愛子ちゃんには落ち込んだ顔は似合わない。

頬を両手でパシリと叩き膝下の箱を開けた。

衣装が入っていた。

取り出し並べてみるとナームの防具の様だ。

ミムナが俺用に準備してくれたのだろう。

少し嬉しくなって着替えることにした。

その頃にはウジウジと悩む俺はどこかへ消え去っていた。


 西の地平線が夕焼けで赤く染まった頃俺は結界門に立っていた。

側には『黒柱』が立ちミムナの到着を待っている。

着替えて部屋で長時間ドタバタしていた時もずっと外で待っていたらしくここへは一緒に来たのだ。

ドタバタとは着込んだ防具が魔法少女戦士のそれに似ていたのでミムナの悪気を感じ豹柄のクッションに八つ当たりしていたからだ。

最終的には人生の長旅での恥はかき捨て・・・。

と諦めの境地に至るまでのクッションとの長時間に及ぶ格闘の間。

ミムナの護衛の戦士なのに何故に俺に付き添うのか?

そもそも、”雲落ちの巨人”の所で出会った相手にこの人間サイズは居なかった。

誰が入っているのだろう?


「あなた名前は?」


気になったので肘を突っついてみた。

金属製とばかり思っていた鎧は、冷たさと硬さを感じさせないプラスチック? みたいな触感。

気になって間近にみると細かい繊維が表面を覆っていてカーボンみたいだ。

身長がシロンと同じくらいだったので『黒柱』は膝を曲げ目線を同じになるまで下げてくれた。


「顔を見せてはくれないの?」


甲の部分だけ横に振り応じられないと答えた。


・しばらく内緒だから・・・


・何? シャナウか?

・あれ? 話せた?

・どう言うことだ?


言霊が通じたのに困惑したのか『黒柱』はうなじを搔く。

シャナウの困惑の仕草だ。


・お前体のサイズ小さくしちまったのか? どうして?

・こんなに早く姉様と話せるとは思わなかった。 詳しい話は船でするね姉様。 ミムナは姉様とも詳しい話は船でするって言ってた。

・何でわざわざ船で・・・、話なんてどこでもできるだろ?

・エルフの村の近くだとちょっと困るんだって、なんか事情があるみたい

・相変わらず勝手な奴だ、俺の知りたい事は全部後回しか!

・あっ! ミムナが来たよ!


山の様に黒く大きく盛り上がる巨木の下にミムナが一人で歩いてくるのが見えた。

エルフの見送りはないらしい。


「二人とも待たせたね! じゃぁ行こうか!」

「船に乗ったらゆっくり時間をかけて話を聴かせてもらいますからねミムナ!」


返事もせず小さく肩を窄めるミムナを先頭に俺達は門を抜け港の桟橋へと向かった。


 店仕舞いするにも就寝するにも早い時間なのに誰一人とも出会う事なく港に着く。

それもそのはず、街中の人々が桟橋へ続く道の両脇にひしめき無言のまま平伏している。

見送りは要らないとは言ったが、そりゃ無理な話だよな・・・。

最上位の敬うべきドキアの樹海の姫が旅立つのだ。

皆ミムナの姿は見た事もないだろうから、伏した姿勢からでも一眼でも見たいのだろう。

恐怖と好奇心のせめぎ合いで好奇心がかった気持ちはわかる。


「皆顔を上げよ!」


威圧ある少女の声が辺りに響く。


「私がドキアの姫、ミムナである! しかとこの姿を見よ!」


時間を要したが少しずつ頭が上がりミムナを注視する。

それを見て一つ頷くと桟橋へと歩きながら話し出す。


「この森は美しい・・・。 この森は豊かだ・・・。 動物も人間もエルフも、皆顔なじみの知り合いだ。 何よりも周りに笑顔が溢れる様にと皆が願い生きている。 それが私の宝であり誇りだ。 私の姿は小さくか弱く見えるだろうが、みんなを背負って空を飛べるくらい本当はものすっごく強いのだぞぉ!」


最前列で正座している男の子の頭をゴシゴシ撫でながらミムナは豪快に笑う。

誰もが疑ってなどいない。

エルフが認めた姫なのだから。

歩みを再開した後を俺と『黒柱』はついて行く。


「私は少しの間留守にするが、みんながこの森に居てくれるから安心して出かけられる。 それをみんなは誇りに思って良いのだ。 では、後を頼んだ!」


桟橋の袂で振り返り一同を見渡して軽くてを上げ挨拶すると、満足したのか一人で『樹皇』へ乗り込んでいった。

その後に続こうとした時テパがテケテケ駆け寄ってきた。


「ナーム様これを!」


手にしていたのは小さな布の包み。

受け取るとほのかに暖かかった。


「クッキーかな?」

「そうです」

「ありがとう 大事に食べるねテパ。 みんな無事に連れて帰ってくるから」


優しく頭を撫でてから俺も船に乗り込んだ。

船上には同行者の四人はもう乗り込んでいて、準備が完了していることを伝えてきた。

遠くから太鼓の音が聞こえ、舫が解かれ帆を張らずに船は動き出す。

船尾に集まった四人は別れの挨拶を何度も叫びながらいるまでも手を振っていた。

俺は『黒柱』と舳先へ向かい前方を監視しながら、温かい包みの感触を味わう。

勇気をもらえた。

そんな気がした・・・。

大海に向け星明かりだけで照らされた暗い河を『樹皇』は進む。

俺の消化しきれていない疑念と共に。


次はちょっと一息1

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