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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの体は旅をする
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出航準備3



 俺が乗船する予定の新造船はなんとかなりそうな感じだ。

彼らの瞳の輝きなら、無理注文もこなしてくれるだろう! 多分・・・。

まあ、ミムナの事だ、上の木造船はハリボテの艤装でも心配ないと思ってそうだが、長い航海は出発した港に帰ってくるまでは何がおこるかわからない。

何せ命が掛かっているのだから!

あとの心配は、食料と水、そして同行者の人選・・・。

などと考えていたが、他国への使節団なのだから手土産だって必要じゃないか?

これって俺がやる仕事か? 普通は外務官僚が下っ端使ってお膳立てする所だろ?

頭の中は悶々と愚痴を垂れ流していたが、手だけはせっせと必要物資を列記していく。

 四日目になった今日はエルフの館で書類作成だ。

広いテーブルと椅子を準備してもらい、受付嬢のミラルの席の隣に設置してもらった。

理由は簡単、俺は字が書けない。

日本語は書けるがドキア語は無理!

思いついた物資を数量込みで日本語で殴り書きして、項目別に書き直しドキア語に変換する為ミラルに口頭記述してもらう。

全くもって面倒な作業をしているのだ。

シロンに書類作業手伝わせようとしたら「護衛ができなくなる!」と言い張り、館の入り口から動こうとしなかった。

それなのにテパからの差し入れのコーヒーを、あくびを盛大にぶちまけながら飲む始末だ!

あの野郎! あとで姉ちゃんの威厳でいびってやる!

10時のお茶もゆっくり飲めずにお昼が近くなる頃、大体の目処がついた。

始終恐縮しながら手伝ってくれたミラルには感謝だ。


「シロンちょっとこっち来てくれ」

「どうかされましたかナーム様?」


あくび混じりの返事と一緒に、のそりとやって来た。


「物資で意見をもらいたい、この他に必要な物とこの中で不必要な物を教えて欲しい」

「ナーム様、俺って旅とかした事無いしよく分かんないですよ?」

「かまわないよ。 こんなのは結果的には大勢の人の意見を集約した後に、何度も精査しして完成させる物なんだ。 一人に完璧を求めちゃいかんのだよ」

「そんな物ですかぁ」


気のない返事をしなだら書類に一枚一枚目を通していた。

覚めてしまったが、テパの差し入れのハーブティーを口にして一息入れる。


「清水の樽は8個ですか・・・多くないですか?」

「あのねぇ、成人男性は毎日2リットル必要なの! それでも少ないしエルフの分は入っていないんだぞ! 雨とか降ったらそれを溜めて飲むんだ」

「薪も120束とかあの船積めますかね?」

「調理にも使うし、生水だって飲めないから一回沸騰させなきゃならない。 それに航海中の夜は暗いし冷えたら眠れないし、風邪ひいちゃうだろ!」

「ところでナーム様は水晶何個持っていくの? これに書いてないね?」

「あぁぁぁ! すっかり忘れてた・・・。 それも準備しなきゃだ。 俺の手持ちが・・・・」

「それに水とか火とか入れときゃ、こんなに嵩張る物準備しなくてもいいんじゃね?」

「・・・・・」

「どうしたちっちゃい姉ちゃん? 頭痛いのか?」


机に突っ伏して頭を掻き毟る俺をシロンが心配してくれる。

シロンが心配してくれる・・・・


「だぁぁぁぁぁあ! もう一回、数の見直しだぁぁぁぁ!」

「大丈夫か?」


又シロンに心配されてしまった。


 水晶で対応できる物資を大幅に削ったが、エルフがいなくなった時の事も考え最低限は準備することにした。

シロンとミラルの意見を数回聴き、手直しして原案が出来たのは午後のお茶の時間の少し前だった。

急ぎみで根を詰めて作業してたのは、夕刻に長老達との会合があったからだ。

物資の調達の話と同行者選出の件を議題にするからだ。

お茶の時間ちょうどでテパがやって来た。

ひょこひょこ歩いてテーブルに丁寧にカップとクッキー皿を置いてから一例し帰ろうとした所を捕まえて無理矢理称賛のハグをする。


「いつもおいしいお茶ありがとうね テパ」

「ナーム様に喜んでもらえて嬉しいです」


毎回されるのでもうさすがに慣れたのか抵抗は一切しない。

仕草も表情も幼女そのものでとっても可愛い、でも中身は大人? それ以上の人生経験を持っているのだ。

あざとく演技してるのかも知れないが、可愛いものは可愛い!

しゃがんでテパの両肩に手を置いて、疑問に思った事を聞いてみる。


「ねぇテパ? 魂が一緒なら大きくなったら私が知ってるあの時みたいな姿になるのかな?」


俺の知っているテパはグラマラスでナイスボディーな姿だった。


「・・・、同じ姿にはならないですね。 今の父さんと母さんどちらか似た大人の姿になりますよ」

「そうなの? 魂の転生は容姿には影響しないんだ?」

「はい、運動能力で成長差は出るみたいですけど、ちょうどシロンさんとかは前世と同格までになった年齢は確か・・・・」

「11歳で前世の絶頂期を超えました!」


シロンは腰に両腕をつけ大胸筋をピクピクさせながら振り向きざまに答えていた。


「転生で成長に影響を受ける物と受けない物があるのか、記憶とかはどうなの? 完全に数代前とか覚えてる物なの?」

「強烈な印象は残ってますけど、大半がおぼろです。 ですから機織りなどは前世の記憶を思い出したら直ぐに手掛けないと、あっと言う間に腕は落ちてしまいます」

「そうなのか、記憶も継続させるには転生後の努力や修練の継続が必要なんだ」

「ありがとうテパ、とっても参考になった」

「私なんかの話で良かったらいつでも聞いてください」

「みんな私の前だと恐縮し過ぎちゃってこんな話聞きずらかったんだ。又なんかあったらよろしくね! でもホントテパは可愛いねぇ、も一回ハグ!」


立ち去ろうとした所をも一回捕まえてハグしてやった。


「転生での継承箇所とか俺でも教えてやれるのに」


口惜しげに俺を見てくるシロンはまだ大胸筋を踊らせている。


「だってお前の継承は、筋肉とか筋肉とか速さとか、だろ?」

「当然! 戦士はそれが全てじゃないか!」

「それ以外を知りたかったんだよ!」


呆れた顔をして、手であっち行ってろと合図する。


「なんで?」

「同行者選択に必要だからに決まってるでしょ? 全部で四人。 30日の外洋航海だとそれじゃ少なすぎるから、一人で何役もこなしてくれる人が居ると助かるんだよ」

「俺は強いし、戦える! 狩も出来るし木登りだって得意だ!」

「魚は?」

「生臭いから嫌い!」

「・・・海にはウサギは泳いじゃいないし、木の実なんかも無いぞ?」


俺は額に手を当てて天井を仰ぎ見る。


「所でシロン、お前泳げるのか?」

「俺は沈まない!」




「ただ浮くんじゃなくて、前へ進めるのかって聞いてんだ」

「・・・少しは」


扉の前で犬かきの姿勢で手だけクイクイ動かしている。


「同行者に推薦するって約束あれ、無しなっ!」

「なんでだよちっちゃい姉ちゃん協力してくれるって言ってたじゃ無いか?」

「泳げない奴連れてってどうすんだよ! 海落ちたら速攻で死んじゃうじゃ無いか!」


シロンとのたあいも無い話をしているうちに会合の時間となった。


 エルフの館の隣に小さな集会所がありそこが会合場所となっていた。

定刻少し前に入室したらもう五名全員集まっていた。

東屋でお茶している時にそれぞれ挨拶を交わしているので皆見知った顔だ。

最年長の白い見事な顎髭を蓄えた今回の議長役が席を立ち話し始める。


「今回は定例の意見交換会にナーム様に出席頂き誠に有難うございます。 退屈な時間となりましょうがご容赦いただけますようによろしくお願いいたします」


残りの長老も一斉に立ち上がり深々と俺に向けて一礼する。

俺は片手を上げるだけでそれを受けた。

俺自身不遜な態度だと思うがエルフとしての立場で振る舞ってくれとシロンにきつく言われているのだ。

まずは樹海全体の現状報告がなされた。雨季が終わって川の水量が安定し始めた事、増水で起こった各地の水害と復旧状況、今季作物に与える影響と収穫予想量、灌漑工事の進捗状況と物資人材の補充と報告は多岐にわたってなされた。

報告を聞く限りでは管理は行き届いており、問題点を見つけて対応策を可能な限り取っていると言う内容だった。

街の運営に関しては俺は一切口出しする気は無かったので黙って聞いていた。

じっくりと長老達の姿を見ると、もうゴブリンと呼ぶには相応しく無いのでは?と思う。

俺の身長が小人サイズになった事もあるが、彼らは以前全身に塗っていた緑の虫除けを使ってはいないし擬態用のヨモの葉も纏っていない。

ただ緑の服を着た普通の人間だ。

生活拠点が森から街へ移り発展した結果、獣の心配も害虫の心配も無くなって生活習慣も変化したのだ。

240年間でもう森の緑の小人『ゴブリン』と呼ぶには相応しく無くなったのかも知れないな、時間の流れ自体を俺が受け入れなければならないと頭の隅で考えていた。


「ナーム様、何かご意見がございましたらお伺いします」


議長が促すので少しだけ俺の意見を伝える事にした。


「私は皆さんの成長と発展をとても嬉しく思っています。 あなた方の中にも記憶として残している方もいると思いますが。 同族同士の争い事程、無残で無益な事はないと承知しているはずです。 これから先も今の様な賢明な判断で、人族だけでは無くドキアに住む全ての命が安らげる道を探し進んで行ってもらいたいと私は願います。 その道を進む限りエルフの民は皆さんを称賛し続けるでしょう」


どんだけ高い所から話してんだ俺! と思いながら軽く長老達を労ったつもりだったが、皆涙と鼻水まで流していた。

一人が手を叩くと、長老全員が叩き出し狭い集会場が割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

しばらく煩いのを我慢して俺は椅子から立ち上がり皆を手で制した。


「皆さんにこそ私が拍手を送ります」


俺の小さな手で鳴らされる拍手を聴き、彼らは声を出しながら号泣してしまった。

ちょっと持ち上げ過ぎたか? と内心でテヘペロしてしまった。

長老達が落ち着くのを待って、俺の交渉開始だ。


「シャナウから皆さんに伝わっているとは思いますが、ドキアがエルフのミムナ姫を伴って使節団を派遣します。 新造船でもう協力は頂いていて感謝しておりますが、渡航間に必要な物資と人材の協力もお願いしたいのです。 人員は全部で四名。 護衛の戦士一名、船大工一名、鍛冶師一名、料理人一名です。 それと可能であればの事ですが、ドキアに住う賢き民の中には一人で複数の知識を身につけている者もいるでしょうから、天文、医療も合わせて詳しいかだであれば助かります。 物資に関してはこちらを参照ください」


必死で作った必要物資が書かれた紙を議長に渡す。

確認してから他の長老へと渡す。


「さほど多量と思えない物ばかりですので問題なく準備できます。 人材に関してこの場でははっきりとお答えできかねますが?」

「もちろんです、まずは本人に参加の意思がなければなりません。決して強要はしないでください、可能であれば公募して集まった中から適任者を選んでいただきたい」

「はい! 戦士シロンが立候補します!」


長老達がゴニョゴニョ話始めたが直ぐに治る。


「戦士枠でシロン君、決定します!」


議長の奴が即決しやがった。


「それでは後の三名を募集しますので、決定の後の報告でよろしいでしょうか?」

「ミムナ姫が16日後にこちらへ来られます。 出航は最短でその日になりますので留意お願いします」

「エルフの民の御心のままに」


全員が深く頭を下げた所で会合は終了した。

シロンの先導で建物から出て神殿へ向かう。

もう空に濃い紫に変わっていて数個の星が見えた。

ミラルが受付で俺たちの帰りを待っていたので、書類作業の労いと今日の業務終了を告げ帰宅させた。


「シロン同行者に決定しておめでとう」


ジト目で言ったつもりだったが本人は気にするでもなく。


「有難う! やったードキアの樹海以外の所が見れる!」


小躍りしながら喜んでいた。


「明日から泳ぎの特訓な!」

「・・・・・・!」


置き台詞を残し俺は聖域の門から帰宅路につくのだった。






次は出航準備4

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