出航準備2
神殿の受付役の小柄な女性が両手で恭しく持った朱色のキレの上に金細工が乗っていた。
シャナウが付けていた水晶の網の中に入った耳飾りと同じものだ。
「ナーム様・・・、先ほどからこちらが急に光出しまして・・・、どう対処したらよろしいでしょうか?」
受付嬢はかなりあたふたしていた。
普段小人族の人達は俺に話しかけて来ない。
深く会釈するか平伏すのが習慣で話しかけるには恐れ多いと思っているらしい。
馴染みのテパですら、俺から話しかけなければ会話をしてくれないのだ。
彼女は勇気を振り絞ってここへやって来たのだろう。
「あぁ、ありがとうそこのテーブルの上に置いて頂戴」
「しかし・・・それでは・・・あの・・・」
エルフの所持品を粗末に扱えないと思っているのか、額から大量の汗を流しながら困惑の表情をしている。
どうしたものかと、シロンに目配せすると。
「ナーム様、そちらの耳飾りを御手で御受け取り下さった方が宜しいかと存じます」
敬語を頑張って使いながらシロンが促すので「ありがとう」と告げて受け取る。
ホッとした顔で一礼し立ち去ろうとする受付嬢を呼び止め
「私はエルフの民とは言え、見た通りあなた達と同じ身長です。 そして、もっとあなた達と仲良くなりたいとも考えています。 あまり気を使いすぎず接してもらえると私も嬉しいのですが」
「滅相もございません。 少しでもお怒りに触れぬようにと長老様達より申し付けられておりますので・・・、ご不快な点がございましたらどうかご容赦くださいませ」
返事をするなり、すぐさまひれ伏し恐怖からか身を震わす。
俺に気を使うなと軽く言ったつもりが、逆に怖がらせてしまった。
又シロンに助けを求める。
「ミラル、ナーム様はお怒りになっているのではないので頭をあげてください。 以前にも話しましたが、ここの神殿に姿を見せてくれるシャナウ様も、先日よりお越しのナーム様も私たちを誰一人として罰した事は有りません。 それに聖域に住うエルフの民全てが厚い温情を持って私たちを見守ってくださっています。 小人族と同じに接しても良いとは言いませんが、必要以上に恐れなくても良いのです。 エルフの民達は私たちが思う以上に広くそして穏やかなお気持ちをお持ちの方々です」
「はい、それは・・・重々承知いたしております。 それでも・・・私めに不快と思われることがありましたら何なりと申し付けください」
「私も不快と思う事があったら気兼ねなくミラルに伝えるようにします。 その事でミラルに罪とか罰とかは生じない事を約束します。 その代わり私の身の振り方で直して欲しい事があったら正直に教えてください。 何より私は皆と仲良くしたいと思っているのですから」
「ナーム様の思いのままに」
ミラルは再度平伏すと肩を窄めながら立ち去っていった。
シロンは残念な人を見る目で俺の方を見て首を左右に振っている。
どうして?
「ちっちゃい姉ちゃん・・・、さっきも言ったけどエルフの民は姉ちゃん達が思っているよりずっと怖がられているよ。 俺は十年以上一緒に暮らして来たし、人になってからもシャナといつも一緒だったから、逆に小人族の気持ちには気付きづらかったのかも知れないけど・・・」
「なんかそんな感じだね、俺は怖くない無害なエルフなんだけどね・・・。 こんなにちっこくて可愛い美少女の姿なのに!」
「美少女かどうかはさて置き俺よりちっこくても俺より強いのは事実っててててぇ」
音速を超えた速度でシロンの頬を摘み捻じ上げる。
「ごめんよ、ごめんよ姉ちゃん! 姉ちゃんは美少女でいい!」
「で? いいってどうゆう意味?」
「美少女です! とっても可愛いです! 痛いですっ・・・、千切れますから!」
手を離すと少し伸びて赤くなった頬を仕切に揉んでいた。
俺自身の容姿はともかく、ナームの容姿を悪く言われると何故か無性に腹が立って、普段は取らない行動をしてしまった。
反省!反省!
「それより、さっきからずっと光ってますけど? ナーム様?」
「あぁ、これね? どう使うんだろ?」
「知りませんよ!」
ちょっと拗ねたかシロンは冷たかった。
少しじと目でシロンを睨んでから、耳飾りを摘んだ手を眼前に持って来てマジマジと見つめる。
水晶部分が強く点滅してるのは分かるがどうしたらいいんだろ?
シャナウと同じ様に耳に付けたら良いのかと思い付けて見た。
「・・・」
何も起こらない・・・
もう一度眼前に持って来て水晶球を指で弾いて見た。
・・姉様?、姉様?
・・まだ連絡が取れんのか?
・・はい、まだ返事が来ません
・・あれほど身に付けておく様に伝えておけと言っていたのに
・・スミマセン
・・どうせ又食いもんの話でもしてたのだろ?シャナ?
・・その通りです
・・全く・・
眉間に直接会話が聞こえて来た。
シャナウとミムナの会話の様だ。
あぁ、これはあれだ。
言霊と同じで理解しようと強く念じれば相手の思念が読めるのと同じ感じだ。
眉間に近づけ思いを伝える様に思念を集中させる。
・・シャナか? 聞こえるか?
・・姉様!?、ミムナ様姉様が答えました
・・やっと繋がったか、朝からやってもう昼ではないか
・・あのぉ、急用かなんかでしたか? こちらも気付くのが遅くなってすみませんでした
・・朝からシャナが話したいと言から時間を取ったのだが、いつまで経っても戻って来ないから様子を見にきたら、使い方を教えて来ないと言うし、まして渡してもないと言うではないか?
・・はい、そうでした。 でも連絡つきました。 さすがは姉様!
・・まぁ良い、話が終わったら直ぐに来るのだぞ間に合わなくなるからな!
・・はい、ミムナ様!・・
朝からと言えばもう数時間も連絡取ろうと苦闘していたのかシャナウは?
ミムナとの連絡方法を聞いたときにでも思い出して、俺にも渡してくれれば話は早かっただろうに。
それは今更の話だし取り敢えず連絡が取れる様になったのだから、よしとしておこう。
・・それで? 急用かシャナ?
・・今朝急に声が聞きたくなっただけです
・・そうなのか? 俺の事を心配してくれてたのか?
・・もちろん私はいつも姉様を心配してますよ
・・それはありがとうよシャナ、俺もいきなり留守にするからってどっか行ったシャナの事を心配してたよ
・・姉様! 私、、
・・それよりも、この耳飾りと一緒に伝え忘れた事があったんじゃないか?
・・あれ? わかります?
・・あぁ、分かってますよ
・・やっぱり
・・視察団の人選のことだろ?
・・さすが姉様その通りです。私が決めるはずだったんだけど暫く戻れそうにないんで姉様にお願いしようかなぁと思って
・・そんな事だと思ったよ。 シロンから聞いたのは護衛2名と技術者3名で良いんだよな?
・・いえ、少し変更がありまして
・・変更?
・・はい、ミムナ様が護衛枠の一人は準備するので小人族からは1名で良いと
・・そうなのか? じゃぁ、街から選ぶのは護衛1名と技術者3名で良いんだな?
・・そうです
・・技術者の職種はどうするんだ?
・・姉様にお任せします
・・俺が勝手に人選しても良いんだな?
・・はいその通りです
・・他にやっておかなきゃならない事はあるか?
・・後は、食料と水を同行者分30日を船積みしておく事くらいですかね?
・・あのなぁ、シャナ。 エルフは食料とかの準備は簡単だけど、小人族は3日食わなきゃ動けなくなるんだぞ? 死んじゃうんだぞ? 人選も大事だけどそっちも大事な話なんだぞ!
・・姉様に任せておけば大丈夫ってミムナ様も言ってましたから、後お願いしますね。 私もう行かなきゃ、早めに帰りますから!
・・おい! シャナ! シャナ? シャナウさぁん?
言うだけ言って逃げやがった。
ほとんど丸投げじゃないか?
人選もそうだけど、食料も含めた出向準備を済ませとけって話だろ?後17日の間に。
どこ行くのか、どんなルートが有るのか、ましてや寄港地が確保しているのかさえ分からない出航準備を俺に任せるのか? なんか危険な香りしかしないな・・・。
水晶玉と無言で睨めっこしていた俺を待機姿勢で見守っていたシロンは心配そうに覗き込んできた。
「ちっちゃい姉ちゃん大丈夫か?」
「あぁ、少し目眩がしたけど、何とかね」
「目眩? 横になるか? 目覚めて間も無かったもんな気づかなくてゴメンよ」
「体調のほうはいいんだ。 シャナとの会話内容が唐突で目眩を感じただけだ」
「そうなのか? ちっこいから体調崩したら大変だよ?」
シロンの頬に向けて飛ばした手は、硬くて大きなシロンの手によって防がれてしまった。
「ちっ!」
軽く舌打ちすると
「そうそう簡単には取らせませんよ!」
勝ち誇った様にこっちをニマニマ笑顔で見返していた。
次からは音速を越して摘んでやる!と決意させるシロンの笑顔だった。
テパが持って来てくれたどんぐりとホットドックで昼食を済ませ足早に船着場へ向かった。
シャナウから連絡があってから急に口数が少なくなった俺をシロンは咎める事なく着かず離れず護衛してくれた。
俺に与えられた任務の重大さをひしひしと感じ、少ない俺の経験から最善策を見出さなくてはならないのだ。
四人の人選もそうだが長い船旅を、安全な航海で終わらせなければならないので有る。 エルフの身体はいざとなればどうにでもなりそうだが、同行者はそう簡単には行くまい。
人族は海上ではとても非力な存在なのだから。
誰が行くにしても四人の安全は死守しなければならない。
足早で着いた港は小さなものだった。
元は石材運搬に使っていただろう港は、外洋を渡れる大型船が接岸できる様なものでは無く、大きくても長さ20m級で手一杯吃水も3mが限界そうに見えた。
完成されていると聞かされていた今回の視察団の船も見にいく。
まだ進水されて無いそれは、港のすぐ脇に置かれていた。
それは、想像の斜め上を行く船だった。
形状は上から見ると木の葉の形で異様に中央の船腹が広い。
ハルの形状は深いV型で高速船によく見る形。
モーターボートとかパワーボートのそれ、と言った方がわかりやすいだろうか。
そして、進水した時の吃水線は非常に浅く、レジャー用のジェットボート並みに見えた。
俺の知識であればこの船体には1000馬力のエンジンを2機積んでジェット推進が妥当なところだが、船尾にはもちろん貧弱な舵以外見受けられない。
推進力と言える物は、船首付近と船尾付近に慎ましく付けられたマストだけ。
開いた口が塞がらないとはこの事だ。
こんな船で外洋なんか出たら一日ともたずに、海底のカニかタコの餌になってしまう。
いや、この港から河口まで辿り着けるかも不安だ。
呆けた顔で周囲を見渡すと、仕切にこちらにチラチラ視線を向ける人影があった。
一度俺は凝視し、その男を手招きする。
チラ見していた中年の男は己を指差し一度周囲を見渡してからこちらに視線を戻した。
俺は深くうなづきまた手招きする。
肩を竦めながら近寄って来た男に「テトかい?」と声を掛けた。
男は首を大きく縦に何度も振ってから、地にひれ伏した。
「テト、私にたいそうな挨拶は不要だよ、立って詳しくこの船の事を教えてくれ」
「ナーム様、私は何分まだ見習いの船大工でして大した説明はできないと思いますが・・・」
「見習いなのは知っているよ、俺は正直に話してくれそうな昔からの知人と話をしたいだけなんだ」
「私などが知人などと恐れ多い話です」
「私の誘いに乗ってくれて、機織小屋を一緒に汗を流しながら建てたのを知人と呼んじゃダメなのか?」
「いえそんな事はありません・・・、何なりとお聞きください」
テトは少々口籠もりながらも真摯に答えてくれた。
船の設計に小人族は関与しておらずシャナウから渡された図面に沿って作られた物で、船大工の間で航行不可能の結論に達した会議の結果をシャナウに上申するも、全て却下され図面通りの仕上がりだけを再三に渡り要求された事を教えてくれた。
図面通りに仕上げたものの船大工の間には不満の声が溢れていて、未だに収まっていないとのことだった。
さもありなん
俺が見ただけでも高出力のユニットがなければ動きそうが無いのだ、風と人力の櫂だけではこの船型は航行出来ない。
「この船の動かし方に着いては何も説明されていないんだな?」
「はいその通りです」
テトはボリボリと頭を掻いた。
俺も同じく頭を搔く。
「済まないこれは建造を依頼したこちらの落ち度だ。 すまないが設計図を見せてもらえるか?」
「はいただいま持って来ます」
「あ! 小さい物じゃ無いんだろ? 俺も行こう」
「ではこちらですけど、かなり散らかってますよ?」
「俺は気にしないよ。 木屑だらけで一緒に作業してたの覚えてるだろ?」
「もちろんです!」
テトは一瞬誇りに満ちた顔を見せてから、肩を竦めて歩き始めた。
新造船のすぐ脇に小さな小屋があり、中には船大工の棟梁らしき姿の体格の良い男が座っていた。
「棟梁! ナーム様が新造船の視察に見られました」
棟梁は椅子を跳ね飛ばす勢いで立ち上がり駆け寄ると、目の前に大仰にひれ伏した。
「これはナーム様がいらしゃってたとはつゆ知らず失礼しました。 テトくるなら来るって早く知らせろコノヤロー!」
「細かな挨拶や礼儀などはどうでもいいので、依頼された船の図面を見せてくれるかい?」
「勿論ですとも、こちらです」
机の横にいくつも丸められた筒状のものが立て掛けてあって、その中から一つ抜き取ると慣れた手つきで机の上へ広げた。
大きさはA0サイズと言ったところだ
「こちらが側面図になります」
細部まで書き込まれた図面は素晴らしい出来で、用紙も紙では無く薄手のプラスチックの様に光沢のあるものだった。
ざっと目を通し次を出す様に顎で促す。
「こちらが上面図になります」
次にも一通り目を通し、腕を組んで考える素振りだけして見せた。
船体の外観をさっき見て俺の思った通りの仕組みで航行するのが想像できてしまった。
「他にも図面がありますが、ナーム様ご覧になりますか?」
棟梁は俺が何かに文句を付けに来たのかと怯えているのだろう、さっきから膝も声も震えている。
「テト大きめの紙とペンを準備してくれ」
「はい只今お持ちします!」
部屋を元気よく出て行った、とてもいづらい雰囲気だったのだろう。
室内には俺とシロンと棟梁の三人だけとなった。
「棟梁! この船は水の上を進めるか?」
「・・・・あのぉ・・・」
「正直に言って構わない。 図面を見るだけでは俺は川も下れない船だと思うぞ」
「・・・・お言葉の通りです。 こんなの作ってもエルフの民の逆鱗に触れるのではと思ってシャナウ様に何度も上申したのですが・・・」
「その話はさっきもテトに聞いた・・・。建造を依頼したはずのエルフの説明が足りなくて本当に申し訳なかった」
俺はテーブルに頭がつきそうなくらい深く下げた。
「何をされるのですかナーム様!おやめください!」
棟梁は逆に俺の前へひれ伏し俺の詫びをやめる事を懇願して来た。
「ナーム様それくらいでおやめ下さい。 棟梁が困っています。 詳しく訳を聞かせてやってもよろしいのでは無いですか?」
シロンが棟梁へ助け舟を出した。
俺が顔を上げたときにテトが大きめの紙を持って帰って来た。
側面図をもう一度出してもらいその上にテトが持って来た紙をのせる。
見辛いが船体がうっすらと見えるのでその上から船体を大まかにペンでなぞる。
そして、正面の図面も出してもらい、側面図横に同様になぞった。
「棟梁さん、船大工でこの船の建造で不満を持っていて尚且つ図面に詳しいものがいたら呼んでくれないか? 俺から足りなかった説明をしたい」
「不満なんてそんなめっそうもございません・・・」
「テト思いつく優秀な船大工を数名連れて来てくれ」
「はい、只今連れて来ます!」
室内にはまた気まずそうな噴気が漂ったが、テトがすぐに戻って来たので解消される。
一緒に来たのは三名で室内は少し手狭になったが仕方あるまい。
「まずは、自己紹介だね。 私はナーム、エルフの民です。 今回皆さんが手掛けた船で海外へ視察に向かう一人です」
皆が俺を承知しているのかブンブンと大振りに頷いて見せる。
そしてテト以外のメンバーがそれぞれ自己紹介をしてくれた。
「では、この船の問題点に気付いた人はいますか?」
棟梁は小さく腰の位置に手が上がりそれ以外は全員顔の横まで手が上がった。
俺も頷いて見せてから
「さっき実物の船体を見せてもらいましたが、皆さんはこの図面通りに忠実に作ってくれた事を感謝します。 ただ、細部では合格点を出せないでしょう」
皆の顔が青ざめ身体に震えが走っているのがわかった。
「ナーム様それは少々言い過ぎです」
シロンがこのままではまずいと思ったのか口を挟んだ。
それを手で静止して
「安心してください。 それは一重にこちらの依頼した図面に落ち度があったからです。 あなた方に責任を取らせる事は何一つありません。 こちらでお詫びの品でも渡したいくらいです」
一瞬凍りついた場の空気は一気に元の温度に戻った感じだ。
だが誰の呼吸音も聞こえない、息を殺している様だ。
「この船はこのままでは風が吹いても櫂で漕いでも川の流れに乗っても操船は出来ません。 なぜならば図面に描かれていない場所があるからです」
船大工全員が声を出さず互いの顔を交互に見ながら首を傾げていた。
俺は先ほどトレースした側面の下に少し間を開けて大きな楕円、正面の下に同じく間を開けて小さな楕円を書き足した。
側面図には上下を繋ぐ柱を前後2本、正面には柱を左右一本ずつ書き足し皆を見渡す。
「この船には水中になる所にエルフの船がくっ付きます」
皆口をアングリ開けた状態で図面を凝視している。
当たり前だ、水中を進む船など彼らは想像もしていなかっただろう。
「もう一つお詫びしなくてはいけません。 この船が航行する時の海面はこの線になるでしょう。 そして速度は空の王者『鳳』よりも早い!」
側面と前面の建造された船底の下に一本の線を書き足した。
そう、この木造船は水中翼船の様に海面の上を航行するのだ。
船大工達は顎が外れるのでは無いかと思えるぐらい開けられて、中にはよだれも垂れているのにも気づかず呆けている者もいた。
「この図面を渡したものは、あなた方にいらない心配をさせない様にと気遣ってエルフの船の事を故意に隠していたと思いますが、航海方法も航行速度も知らないままで疑念に囚われ作った船は沈んでしまいます。 私も含めてこの街から四名の同行者が乗船する予定です。 沈んで貰っては困るのです!」
皆顎の位置が元通りになって見開かれた目はギラギラと輝いている。
「私が見た感じでは、Vハルや船型は元の図面で速度に耐え得る設計値だと思いますが、船体下部の表面のしありがもう少し滑らかでないと水の抵抗を受け続けると破壊される可能性がある事と、竜骨から伸びる各部に補強材を検討してもらいたい事です」
もうテーブルの上は戦場になっていた。
各自の担当部署であろう定規や分度器やコンパスを駆使して測り始め、頭を掻き毟る者、唾を浴びせながら口論始める者それぞれだった。
俺は呆気に取られているシロンと棟梁を手招きして外へとドアを開けた。
一気に蒸し暑くなった室内から抜け出せて人心地付き深呼吸した後、棟梁に向き直りもう一度頭を軽く下げた。
「棟梁申し訳なかった。 最初から伝えるべき建造上重要な内容を今更になって開示する形になって・・・・」
「・・・はぁ、水の上を『鳳』の速さで進む船ですか・・・。 私どもでは想像も出来ませんな・・・」
「棟梁、エルフの船のことは・・・」
「勿論誰にも漏らしません、さっきの連中にもきつく漏らさぬ様に約束させます」
「よろしく頼みます、また近いうちに様子を見に来ますので」
「それでは私も失礼して、会議に参加します」
棟梁の肩は落ちてはいたが、瞳は爛々と輝き、持ち上がった難題の大波を乗り越えてやると伝えてくれていた。
背中姿に両の手を合わせ拝んでおく。
何せ船には乗船する人達の命がかかっているのだから。
次は出航準備3




