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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
終わりと始まりの野営
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新たな世界2



 登り始めた太陽が星々たちの瞬きを薄れさせて行く。

夢での老人との会話内容をなんとか思い出そうとしたが、全く思い出す事は出来なかった。

変な夢だった。

自分が死んだ夢を見て、小島で独り生涯の懺悔するシュールな夢。

あの儀式セットの【陣】の所為なのであろうか?

眼前に広がる朝焼けの空は快晴で澄んだ空気。 

清々しい気持ちでの目覚めだったはずなのに、大事な約束を忘れ心のひっかかりが取れない居心地の悪い感覚。


「まぁー、夢の事なんてどうでもいいや。まずは焚き火に火をつけてっと!」


野宿の寝起きであっちこっち痛む肢体に、言葉で活を飛ばしモーニングコーヒーの準備を始めようと上体を起き上がらせた。

眼に映るはずの焚き火セット、すぐ横に停めてあった車、いつもの木々に囲まれた小さな野営地だったはずの姿はどこにも無い。

見渡す限りの樹海。

緩やかな風が木々の葉をまるで波の様に黒く揺らす光景が眼下に広がっている。急いで立ち上がり周囲すべてをぐるりと見渡すも、全てが樹海。


「まさか、夢の中の続きかぁ? いや、アレが真実でここは死後の世界か? どっちだ・・・?」


頭を両手で抱えてその場にしゃがみ込む。


落ち着け! 落ち着け! 


と心の中で呟き


「そう、先ずは現状を正確に把握して、判断は思慮深く。ここがあの世なら彼岸から誰かが手招きするはず、夢ならば覚めるまで待つ!」


スピリチュアル系の動画で散々言われているのは、闇を抜けた光の先で迎えに来た先立った親族に会うはず。

ゆっくりと立ち上がり自分の足元を見渡すと、小さな花が一面に敷き詰められたテニスコート位の広さの中心に立っていた。 

周囲は少し高度を増した陽の光を浴びて、黒味が多かった樹海の海原は鮮やかな緑へと色合いを変化させている。

この場は樹海に浮かぶ花の絨毯の様。 

しかし足の裏から伝わる感触は固く冷たいもの。足で花を寄せ確認出来たのは硬い石の床。 

キョロキョロ周囲の迎えの姿を探すが誰もいない。 

意を決し敷き詰められた花を潰さない様に、すり足で床の端まで進んだ。 

恐る恐る下を覗き驚愕でその場にヘタリ込んだ。

眼に飛び込んできたのは、直ぐ足元から樹海の奥深くへと消える石造りの階段。思い当たるのはピラミッドの姿形。

自分のいる場所が地面からかなりの高さで有ると分かると立ち上がる事は出来ず、四つん這いで最上階の縁を一周する。

見下ろした四方の階下の形状から、西に緩やかな階段があり東南北は垂直にも見える壁。

全て石で建造された高層物の屋上にいる事がわかった。

彼岸で手招きする姿は来て無いので、夢の続きと判断する事を決める。

花たちの上に仰向けになり、今後の行動について考えることにした。


 樹海に生息する生物たちの活動音が風に乗って聞こえてくる。

下を覗き込んだ時に、羽虫を追いかけて飛び回る鳥の姿を数羽見つける事が出来た。

しかし他の動物達は葉に隠され、声のする方向を凝視しても姿を確認する事は出来なかった。 

近くの木々を観察したが、種類は専門家でない自分には分からない。

大きな葉が目立っていたので、この土地の気候は熱帯か亜熱帯であろうと予想する。

樹海の先で確認できたのは北の方角に山並みが遥か彼方に見て取れた。

他は自分がいる高さと同じで、樹海から飛び出した建造物らしい物が11個確認できた。

周囲の状況は概ねこんな感じで、全くもって情報が足りない。

 しかし、まだ屋上の花園からは動く気には成れなかった。

見知らぬ場所での目覚めで気付くのが遅れていたが、自分の体の異変について確認しなくてはならないからだ。

自身に纏うのは袋状になった敷布団のカバーに似た硬い布に穴を開けて首だけ通した簡素な物。

裾は踝が隠れる位まであって両手を広げると昭和の演歌歌手。

掌に目をやると細く長く伸びた指、布越しに触る腕は筋肉質は少なくて柔らかく細い。

肌がきめ細かくとても綺麗だ。

これだけ見ても元の中年男とは大違いだが、決定的なものが、 あって、 なかった。

袋の中には何一つ身に付けていなかったので、両手であっちこっち弄ってみた結果。

女性の身体で有る事は明白だった。

両の胸には低反発素材の小さな丘が二つ。

掌を当てると少し溢れる位の大きさで、細く括れた腰から下の後ろの低反発丘は、いくら強く握っても筋肉の硬さは感じられない位柔らかかった。

股の付け根にあったはずの物は感覚的に無いのは分かっていたので触って確かめるのは敢えてやめておいた。

最初に違和感はあったがきっちり確認してしまうとこれ以上なく落ち込む。

顔形は確認出来ないが身体付きから15歳前後の少女の身体?


「夢で女の体になるて、どんだけ欲求不満なんだ?」


また頭を抱えてしゃがみ込む。

俺の無意識はいつもこんなの求めていたのか?

女装の趣味ってあったっけか・・・?

それとも、もしかしてアレか? 

この夢から覚めるには何か達成しなきゃダメ的なイベントでも仕組まれているのか?

しゃがんだ姿勢から体育座りへ座り直し、羞恥と疑問ばかりが過ぎる頭で呆然と樹海の彼方に目をやる。

俺の欲求不満が今の夢を見させているのなら、思慮深い選択手ではないが不満を解消してやれば目覚める可能性があるのでは? 

欲求不満の解消はアダルトサイトによると男も女もアレしかないかな? 

不埒な感慨と思いつつ目を閉じてから両手を胸元へ近づけた。


「何をしておるのじゃ!」


いきなり掛けられた声にびっくりして


「いえ!まだ何もやってません!」

「?」

「えっ・・・? まだ・・・何も・・・、あんた誰?」


唯一この場へ来れる階段の方向から歩み寄る者は、同じ装いで筋肉の削げ落ちた病床からさっき抜け出して来ました? 的な見た目の老婆。


「お主がいつもの捧げに来んかったでな、探しておったのじゃが・・・、ん?」


老婆の眉間にシワが刻まれ訝しげな声音で


「ナームよその髪はどうしたのじゃ?」


今にも彼岸へ旅出しそうな老婆をずっと観察していたが、俺を 「ナーム」 と呼ぶって事は、この娘の知り合いで、俺の体は別の誰かの体で、夢の中で入れ替わったって事かな。

そんなアニメ見た事あるな。


「髪ですか?」


顎先で綺麗に切りそろえてある黒髪を右手でつまみ 目の前で綺麗に整ったキューティクルを眺める。


「汚れてなんかないですよ。鳥の糞でも付いてますか?」


ちょっと頭を傾げて老婆が見やすい様に首を巡らす。 

老婆の訝しげな素振りに変化はないが


「・・・良かろう、付いて参れ!」

「あのー・・・、もしかしてあなたはお迎え役の人ですか?」


さっきまでは明晰夢と思おとしていたが、迎えに来たと聞いてあの世の案内役では? と感じたが老婆には全く見覚えがない、迎えは所縁深い親族のはず。

それに、全盛期の姿で現れるらしいので老婆姿は無いはず。


「もう鳳が動き出してもおかしく無い時間じゃ。 ナーム・・・お主、も雛の餌には成りたくはあるまい?」


背筋がざわめく、逃場など無い此の屋上で野生動物に襲われるなど全く予想していなかったのだ。 

夢ならば死んで野営地で目覚めるかもしれないが。

こんなはっきりした意識で野生動物に襲われて生きながら食べられる等、夢でもあの世でも経験したく無い。 

「コク、コク!」と、頷きだけ返し老婆へ歩み寄る。

ゆっくりした足取りで老婆は階段のある屋上の縁へと歩みを進める。 

その後を周囲をキョロキョロ警戒しながら付いていく事にした。


 自分は高所恐怖症では無いと思っていたが縁石も手摺も無い高所は経験した事がなかった。 

此の下りの階段も一段一段が高いうえに、狭く幅も無い。

恐怖を覚えた。

踏み外して下に到着した頃は、火を通せば美味しいハンバーグの具、位には細かくなっていそうだ。

下を見なくて済む様に後ろ向きで『3点確保の原理』で降りる事にする。

両手両足を階段につけ常に3箇所は床面に接地させておき動かすのは1箇所のみ。

雛の朝食になるのもハンバーグに成るのも御免被りたい。

老婆は既に遥か彼方をすたすたと平地を歩くリズムで降っており、時折振り返っては小首を傾げる仕草をしていたが、少し前からは降るのをやめ待っていてくれる姿が股の間から見て取れた。

案外優しいのかもと思った時、周囲が一瞬だけ暗く成る。


「あやつ、今日は少し遅いな。昨夜の雷で眠れなんだか?」


老婆の視線の先にある階上に目をやると、屋上の周りには細かな花が周囲へ高く舞い上がっていた。

その上空にセスナ機より一回りは大きそうな翼を広げた、さっき陽を遮ったであろう鳥の姿があった。

ここからは影しか見えないが猛禽類であろうと形で想像する。


「おい婆さん!大丈夫なのか、あれ?」

「わしは兎も角、お前さんは美味そうじゃから気をつけなされ! あいつが今朝寝坊して助かったのぉー! はぁはぁはぁっ!」


高笑いをしながらすたすた下って行く老婆から離れまいと、4足を限界まで動かし追いかける事にしたのは当然の判断であろう。


次は、樹海の村1

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