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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの体は空を飛ぶ
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再びナームの工房



 水滴が落ちて弾ける音は心地よいと思う。ただ、恐怖を感じる程の豪雨の時は別だ。外は滝の様に水が降っている。轟音と共に落ちた水が地表をうっすら川状態に覆って2日が経っていた。工房に到着してからずっと空は厚い雨雲から大粒の水滴を飽きる事なくばら撒いているのだ。景色も見飽きて到着した午後から水晶に魂を込めるやり方をシャナウに教えてもらっていた俺は心身のリフレッシュの為シャワーを浴びている。

正直疲れた・・・。

シャナウが教えてくれた抽象的な充魂方法を、何とか習得しようと特訓しているが成果は上がっていない。「身の回りに溶け込んでいる幾多の魂を感じ、全身で受けて、体内で固め掌から水晶へ移す」のだそうだ? 

風や水の水晶を手にすれば魂を感じて使えるまでにはなったが、大気に溶け込んだ魂を未だ感じられないのだ。水晶から迸るシャワーの水滴が、綺麗な肌を伝い流れ落ちる感覚を楽しみながら考える。

 傘の広場で綿布織りの小屋を作成した次の日の朝から天気は雨で、エルフの森を出発し陸路で目指したこの工房。最初に来た空路では半日かからなかったが3日を要してしまった。俺と仲良し兄弟3名の雨で煙る森をひたすら歩き、初日の夕刻にモゼのピラミッドへ到着した。荷物はモフに背負わせたが身軽で楽しいトレッキングとはならず、泥だらけの行軍となった。幸いなのは雨の温度が高いので体力の消耗が抑えられたのと、仲良し姉弟のやりとりが少しづつ理解できて面白かった。今まではシャナウの反応からモフの考えを察していたが、モフの瞳を見つめると脳裏に別の思考が湧き出すのを感じれるまでになったのだ。奇妙な感覚だったが二人のやりとりが理解できてとても面白く退屈しなかった。危惧していた森の獣達ともモフの道案内のおかげで無かったのは幸いだった。「ガゥ!」(俺この辺で最強!)と顎を向けてきたのでとりあえずゴリゴリ撫でてやった、

 ピラミッドのエルフの間を使用させてもらい、深夜遅くまでモゼに木炭と弥生土器の作り方を教えた。綿布と高床式建築については、テトから聴くことを勧めた。他の技術もエルフで開かれる小人族の集会で開示がある事をほのめかし、他部族との友好的利用もお願いしておいた。


「シャナ? 今日は昼にガレが来るて言ってたよね?」


「はい。耳飾りが出来るので持ってきます」


シャワーを浴び終わった俺は、風の水晶から弱い風を出し濡れた髪を乾かしながら声を掛けた。


「昨日来たのはサイズ合わせだったのに調整は意外と早いね?」


「そうですね、ガレ達も雨だと屋外作業は無いでしょうから手が空いてるのだと思いますよ」


服を着て窓近くのテーブル席に座るとうっすらと湯気の出る器を手にしてシャナウは向かいの席に座った。二つ持っていた片方を「どうぞ」と言いながら俺の前に優しく置いてくれる。いつものホットレモネードだ。


「ありがとう」


両手で木製の器を持ち口にする。味は薄めだが俺はとても気に入っている。前の世界では、味付けはいつも濃いめで刺激が強いものを好んでいた気がする。スナック菓子にも香辛料を追加して食べてたなーと懐かしく思いながらぼんやりとそろそろ昼を迎えるだろう雨で煙る外を眺めていた。


「姉さま、来たみたいです。挨拶は受けないでくださいね!」


「当然拒否しますから・・・」


二人とも革の袋から水晶を数個取り出しテーブルの上へ準備しておく。昨日は急なガレ3兄弟の訪問で、挨拶攻防を繰り広げる羽目になった。今日の事前準備は怠らない。セクハラには強硬手段で対応するのだ。


「ナーム殿、シャナウ殿入ってよろしいか?」


外階段を登って2階の入り口前まで来たガレが声をかけてきた。


「どうぞ、入って構わないわよ」


シャナウの応答を受け革の扉を捲り上げてガレが入ってきた。昨日もそうだったが岩の擬態服は着ていない。革製のチョッキとズボン姿だ。雨の日は大きな葉を茂らせた木の枝を傘と擬態様にしているそうだ。


「今日は一人なのかガレ?」


テーブルの下で風の水晶を握り俺が声をかける。シャナウも身構えている。

体に付いた水滴を手で払いながら


「山から流れてくる水が多くなった。ガルとガリは待機。」


「大丈夫なのか?」


木の茂っていない山肌だから、土石流の警戒をしているのか? 心配なので聞いてみた。ガレはゆっくりテーブルに近づいてくる。


「村からは離れたいつもの流れなので大丈夫だと思う。皆で警戒だけしてる」


「何か手伝える事が有ったら言ってくれ。それと今日も挨拶は受けないからな!」


一瞬動きが停止してから数回頷きだけで返事をする。そしてゆっくりと入ってきた方へ視線をめぐらし、金色に輝く二つの瞳を見つけ固まる。3名とも返り討ちに遭って背中を壁に強打させられた後にモフに弄ばれた昨日の記憶は残っている様だ。ヨシヨシ! 小刻みな変な動きになったが二人の近くまで来ると、腰に巻いた紐を解き革袋からシャナウ用の耳飾りを取り出す。


「ありがとう、ガレ」


機嫌良さそうな声音で感謝を口にしシャナウが受け取り、右の耳に早速つけていた。小首を傾げ俺の前で一周して見せる。


「痛くないしぴったり! 似合いますか姉様?」


「とっても似合ってるよ、シャナ! なんてったってお揃いだもんね!」


俺も左耳の耳飾りが見やすい様に髪をかきあげシャナウに見せる。俺的には自分の装飾品には興味がないのだが、シャナウの喜ぶ姿は見ていて心が温かくなる。「やったー!お揃い、お揃い!」と奇声を発しながらガレを両手で持ち上げて回りながら喜んでいた。しばらく回ってからガレを無造作に床へ落とし「ふん、ふん♪」と工房奥の工作台へスキップして行った。耳飾り用の水晶を作るのだろう。ガレにテーブルに座る様促しホットレモネードを勧めた。モフを警戒した動きで席に座ると息で湯気を掻き分けながら啜っていた。


「それで? 昨日の話だけど・・・。洞窟の詳細は分かったか?」


落ち着いた頃合いを見計らってガレに昨日の洞窟の扉について聞くことにした。

雨の時期に俺達が工房へ来るのは珍しいと言ったドワーフの言葉に理由を説明すると、山の中腹にある洞窟の奥に扉があり、そこから巨人の家へ行けるかもしれないとゆう話である。


「はい、仲間に聞いたら間違いなさそうだど。 扉の前に毛皮を置いておくといつの間にか無くなっているど。 その周りに大きな足跡が残っているど」


両手をいっぱいまで広げて足跡の大きさを表す。


「その大きさだと雲落ちの巨人の物だと思う」


工作台から俺らを見ながらシャナウが言った。


「それだと雷を気にしないで巨人の家まで到着できそうだな・・・」


ガレは床から浮いている両足を子供の様にぶらぶらせせながら


「足跡は有っても実際見た奴はいないど? 扉が開くかどうかも分からないど?」


「そうだね・・・。でも、いつ晴れるか分かんないし、部屋の中でじっとしてても暇だから散歩がてらに行って見てもいいかな? 入り口から半日もかかんないんだっけか?」


小さく頷くガレを見て明日の予定を組むので有った。


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