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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの体は空を飛ぶ
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工房にて1


 大地が球体で出来ていると感じられる高度まで上昇した。 今日も快晴で雲ひとつ見当たらない空を、滑空で目指すはナームの工房があると言う北の峰。 エルフの森から北に見える山脈の麓にあるらしい。 シャナウの後を「鳳」の接近に注意しながら追いかける。 連日、傘の広場で「鳳」からの回避方法は十分練習した。 と言っても、内容はシャナウとの鬼ごっこだ。 風の水晶を使い音も無く近づく鬼役のシャナウから、モガ飛行だけで逃げ切り樹海の中へ飛び込むと終了。 大きく鈍重に見える「鳳」だが小回りが利き、頭も良いらしくフェイントも仕掛けてくる厄介な相手。 当然俺は真剣に回避練習をしていたが、シャナウは空でのじゃれ合いを楽しんでいる様だった。 急停止、急旋回、急降下。 技を複合したり、崩れたバランスを建て直したり、空中での身のこなしは格段に上達したのだ。 シャナウ先生のお墨付きを貰っての今日の遠出である。

 エルフの村を出発する前に長老への連絡はしてある。 ナームが工房へ出かける時は数日留守にしていたらしいので、視察程度で日帰り予定の訪問でも伸びる事を考慮しておいた。 それと、事後報告にはなったがゴブリン村のテパに綿花からの糸紡ぎとジャガイモの食べ方を教えた事を話した。 長老からキツイ叱責を受ける事は無かったが、行動の前に相談して欲しいとお願いされた。

実質的には事後報告の叱責を受けたのだと理解出来たので、今後は自重して急ぎ過ぎない様心がける事にした。


 一度目の長距離飛行を終え最初の目的地のピラミッドに到着した。 無理をすれば一度で工房まで行けるのだが、飛行中に風で体温が奪われるので、緊急時に体の反応が遅くなる。 安全な飛行を維持するには必要な休憩だ。

星見の台から見えたピラミッドは11だったが、高空から見えた総数は30を超えていた。 近接して建っている物は無く、均等に分散している感じに見えた。 全て樹海から突き出す高さなので50m級なのだと思う。 ここの屋上も星見の台と同じでテニスコートくらいの広さだった。 よく見ると石の床面に小さな穴が何箇所もあり、細い溝で直線や曲線で幾何学模様が刻まれている。 


「シャナ、 この模様は何?」


屋上を一回りしてからシャナウが準備してくれたピクニック毛皮に腰を下ろす。


「太陽と星の動きを見る為の物なのです」


ホットレモネードを器に入れて手渡してくれた。 これは俺が背負っていた巾着袋に入っていたピクニックセットから取り出したものだ。


「天体観測してるのか・・・、エルフがここへきてしてるの?」

「この地のゴブリン村の人達がやってると思います」


縄文文明レベルで天体観測とはすごいと感心してしまう。 天の動きで季節を知れば、雨季や乾期の目安も付くから保存食の準備なんかに役立つだろう。


「ゴブリンの為にこんなの作ってあげるなんて長老も太っ腹だな」

「ここ作ったの、エルフじゃ無くゴブリン達なのです」

「え? 竪穴式に住んでて素焼きの土鍋しか持ってないのに、こんな巨大な建造物建てたの?」

「以前話した森の大火事の時、ドキアの森から食べ物をゴブリン達に分けてあげたらしいの。 貰った食べ物のお返しをしたいと言われたので、エルフ村にあった星見の台を各地に作ってもらったらしいの。 道具は貸したらしいけど詳しい話は私がエルフ村へ来る前の話だから知らないの」


言われて注意深く床を見る。 石と石の間には、それこそカッターの刃は入らない合わせ目。 平に仕上げられた表面。 俺の知る時代でも、この完成度の床を作るには巨大な機械が必要だ。 青銅すら使っていないゴブリンの技術では考えられない。


「エルフの道具で石は簡単に切れるのかい?」

「ちょっとコツは必要かな? でも簡単」


エルフの村でも鉄製の道具を一つも見なかったので、使用するのは魂の水晶なのだろう。 思った以上に万能な代物だ。 ファンタジー世界で言うと魔力を使った魔法器具なのだろう。 それを使える俺はもしかして、「魔法少女」・・・

頭を抱えて丸くなる。


「姉様どうしたの? 頭痛いの?」


心配してくれるシャナウに心を読まれまいと平静を装う声で


「天体観測でこの長大さはすごいなと思って感心したんだ」

「このピラミッドは観測だけに使ってる訳じゃないの」

「他の用途にも使うんだ。 お祭りとかエルフへの生贄儀式とか?」

「お祭りとか生贄とかは知らないけど、ピラミッドの中は倉庫になっててゴブリンの食べ物が詰まってる、大火事や水害で採集が出来なくなった時の為に貯めてあるみたい」

「それは長老達の指示でこれを作った?」

「作る時に、自分達で使うものを作れと言ったらしいの」


文明レベルが低いからと言って見下していたが、衣食住以外の精神面は低い訳では無いのだ。 同胞の安寧を求める精神を持っている。 深く感銘を受けながら立ち上がる。


「シャナまだ出発しなくて大丈夫だよね、 ちょっとこのピラミッドゆっくり見てきていいかな?」

「時間は十分余裕ありますから大丈夫ですが、遠くへは行かないで下さい」

「わかった、ピラミッドからは離れないよ」


屋上から下れる西側の階段へ向かう。 目覚めた初日は急すぎる階段を後ろ向きで降りたのを思い出し苦笑が漏れた。 この世界とエルフの身体に慣れた今では、普通に階段を降りれる。 

 中腹まで降りた所で、地上で動き回る草の塊に気付いた。 ゴブリン達であろう。 気にせず降りていくと俺の姿を見つけた一人が俺を指さし何やら叫んでいる。 急にゴブリン達の動きが慌ただしくなり、地上まで降りた時には全員が集まり階段の下に整列する。 お餅屋さんのショーケースにある大きなトレーに乗せられた草団子。 その先頭の団子が恭しく尋ねてきた。


「ナーム様お久しぶりでございます」

「お久しぶり、みんな元気にしてた?」


以前のナームはどんな感じでゴブリンと接していたのか知らないので、取り敢えずそれなりの内容で返答してみた。


「本日は何用で此方へ参られたのでしょうか?」

「散歩の途中で寄りました。 上で休ませてもらってます。 あ、それと皆んな畏まらず楽にして貰って構わないから」


草団子状態で身動きもしなかったゴブリン達が、ガサガサ上体を起こす。


「少しピラミッド見せてもらいたいのだけど大丈夫かな?」

「もちろんですとも。 ごゆっくりご覧ください」


ガサガサ音をさせながらまた全員が草団子に擬態した。 少し可笑しかったが


「みなさん何か作業中だったのでしょ? 私に構わず作業は続けてください。 そんなに時間を掛けずにお暇しますから」


先頭のゴブリンの合図でゴブリン達は動き出した。 初日の目覚め以来エルフの星見の台へ行っていなかったので、近くで見るのは初めてだ。 下から見上げるように地上を一周して感じたのは、マヤ文明のピラミッドに似ている事だ。 特に形態として「魔法使いのピラミッド」に近いと感じた。 中学生の歴史の時間に副読本でみた「世界のピラミッド集」の写真が頭に浮かぶ。 さっきから後ろをガサガサ音と共にくっ付いているのは、皆を先導していたゴブリンだ。


「ゴブリンさん、少しいいかな?」

「何なりと申しつけください」


階段のところまで一周して声をかける。


「多分、名前は以前聴いていると思うのだけれど、もう一度名前を聴いてもいいかな?」

「もちろんですとも、ナーム様。 こちらこそ先に名乗る礼儀を欠いておりまして失礼致しました。 私はエルフ村北方のゴブリン村の長をしておりますモゼと申します」


足元にかしこまる姿勢で丸くなる。


「私はエルフ村のナーム。 最初から名前を呼んでくれてるから知ってるとは思うけど」

「もちろん承知しております。 御髪の色が変わられたので、最初は別のお方かと思いました。 失礼しました」

「少し色々あってね・・・、所でここの村のゴブリン達は元気? 何か問題とか起きてない?」

「はい、村人達全員問題なく生活しておりますが、例年訪れる雨の季節が少しばかり遅れている様に感じますが如何でしょうか?」


天気を問われて全く知識が無いので、返答に困った。 本来のナームなら見守りのエルフとして即答出来たのであろう。


「そうですね、調べてみましょう。 もし大事になる様な事が有ったら知らせに来ます」


ボロが出て中身がただの中年男とバレるとまずいので、話を切り上げて階段を登っていく。 降りてくる時には気付かなかったピラミッド内部への入り口が、階段の脇に暗がりの口を開けている。 階層も分かれているのか上にも幾つか入り口があった。 近くの一つに入ってみる。 ゴブリン用に作られている為か天井が低く、エルフ村で一番背の低い俺でも首を少し傾けなければ天井に頭をぶつけてしまう。 明かりは入り口からしか入って来ないが、白い石材の為暗さはそんなに感じない。 太い柱が並ぶ室内には整然と素焼きの壺が並べられ、上には草の葉が蓋の役目で置かれていた。 一つの葉を捲り中を覗き込んだら綺麗に洗われ乾燥した胡桃が壺の口まで入っていた。 下で沢山のゴブリン達が作業していたのを思い出し、保存食の入れ替えをしていたのだと気付いた。 消費期限が長いだろう木の実でも、いつかは食べれなくなる。 定期的に確認や入れ替えをしなければ有事の際には使い物にならない。 彼らはそれを知っていて、そして実行もしている。 元の怠惰な生活をしていた俺は彼らに何かを教える資格が有るのだろうか。 外に出て階段を上る。 屋上の手前で一際大きな入り口が有ったので入ってみる。 室内の最上階にあたるこの部屋は天井は、シャナウが立っても頭をぶつけない位の高さ。 ゴブリンの身長の倍以上だ。 保存食用の壺は見あたらないが、奥の壁際に小さな壺が一つだけ置かれていた。 壺の上には小さな棚があり、光る石が大事そうに置かれてある。 近寄り壺を除くと団栗が入っていた。 稲荷神社に油揚お供えする感覚なのか? と微笑ましく思えた。

 外に出るとモゼが待っていたので、一緒に屋上へ上がる。


「シャナ、待たせてごめんね」


中央のピクニック毛皮に胡座座で、両腕を広げ太陽を仰ぎ見ている。

とても綺麗だ。 ヨガであんなポーズあった気がするが。 エルフがやると神秘さが格段に増して見える。


「姉様お帰り、 ゆっくり見れた?」

「あぁ、モゼが案内してくれたから助かったよ」


振り返るとモゼは階段上がってすぐの床に団子擬態していた。


「シャナウ様もいらっしゃっていたとは存じませんで、挨拶が遅れて大変申し訳ありません」

「モゼ久しぶりね。 こっちこそ連絡もしないで、勝手に屋上使わせてもらってごめんね」

「滅相もございません、 我々ゴブリン族はエルフの皆様方に多大なるご恩がございますれば、我らに気兼ねする必要など一切ございません。 あるもの全てをお使いください」

「いつもありがとね」


擬態したままスライムが流れ落ちるが如く階段へ消えていった。


「エルフってすごい扱われ方してるんだな? まるで神様級だ」


モガの振る舞いに感心しながら呟く。 シャナウはピクニックセットを片付けながら


「私たちは森と彼らを見守るだけ、彼らが私達をどう扱うかは彼ら次第・・・、彼らが私達を拒めばお互いの関わりが無くなるだけ・・・」

「それども見守り役は続けると?」

「そう、それがエルフの定めだから。  じゃあ姉様出発しても大丈夫?」

「よし、いくか!」


二人でピクニックセットを背負い、2回目の滑空位置へ上る事にした


次は、工房にて2

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