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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの少女は全てを愛する
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第二の目的



 和柄の派手な開襟シャツにカーキ色した七分丈のズボンを履いた栗磯が左右の肩を振りながら歩いてくる。 街中で正面から歩いてきて欲しくない筆頭の業界員そのものだ。 隣には白を基調とした和装の真希、柄は風と雪だろうか? ダミニはいつもの黒いライダージャケットに革のパンツ。 そしてナームはオレンジ色のパーカーで頭を覆い、ショートパンツにスニーカー繁華街でたむろしている小娘姿。

絵里恵が勢いよく立ち上がりナームに駆け寄って、コーディネートを褒めてから日中の別行動について問いただすが、軽くいなされ元の席に座らせられた。

海を望める特等席に彼らが着席するとレストラン側の扉が開かれ、数名の楽団が現れゆっくりとした曲を奏で始める。 そして静かなディナーが始まった。

ウェイターがコース料理を各テーブルに配膳を始めて間も無く、椅子を引きずる音を立てて絵里恵がナームに向き座り直す。

「最弱妹、不作法だぞ!」

ポリーナの叱責を意に返さず剥れた表情でナームに話しかける。

「私、今日観光に行かれたナーム様のお話を早くお聞きしたいんです!」

一瞬肌寒さと異和を感じ首を巡らすと、真希さんの体が青白く光っているのに気がついた。

「絵里恵、食事の席でする話か? 後でも・・・」

田舎者と言われたばかりなのだ、和を乱す原因が妹なら止めなければと口にしたが、ポリーナと絵里恵は俺の話は聞いてくれていない。

「広範囲隠匿の術・・・、恐ろしい女」

「おいしく食事をしたいの! 兄貴は黙ってて! 観光の話が気になって食べ物が喉を通らないのよ。 みんなだってそうでしょ? ナーム様の僕でも戦力外とかで仲間はずれされるのは嫌なの! 盾になって死ねずに守られるばかりが嫌だから、みんな目覚めたナーム様についてきたのに・・・」

同席の思いは絵里恵と一緒なのか、すがる眼差しをナームに向けている。

当のナームは口元まで運んだスープを飲めぬまま思案している。

「美沙の娘、今回の旅の目的は出発前に打ち合わせした通り、これまで手出し無用とされていた3箇所、裏社会の重要施設制圧によって抑圧された社会を解放させる為だと言う事は理解しているか?」

「もちろんです、栗磯様」

油で固めた髪の毛に太い指を差し込んで、口に入れたクロワッサンを咀嚼しながら絵里恵のほかにも聞こえる様に話す

「ならば、戦いに至らず制圧可能な場合は、お前達の同行は必要無い事を理解せよ!」

最後は強い口調で言い放つ。

「それならそれで、教えてくれても」

いいすがる絵里恵に視線を向けたナームが栗磯を掌で制して話し始めた。

「絵里ちゃんも他のみんなも聞いて。 ここのホテルはね・・・」

「ちょっとまったぁー!」

ナームの話を遮り中年親父のダミ声が響いた。

「ナームが折角みんなと食事ができるからって楽しみにしてたディナーだぞ! ナームに喋らせたら可哀想だろ?」

声はテーブルの中央から聞こえる。

「テパが隠匿の術を使ってくれたから、俺が皆んなにあれこれ話してやんよ!」

「あっ! 緑のおじさん!」

絵里恵が歓声を上げてテーブルに身を乗り出し伸ばした手に何かを握った。

ゆっくり椅子に座り直し大事そうに握った拳を胸の前で抱き抱える。

話の腰を折られたナームは眉間に皺を寄せてはいたが掌で放任の仕草をして食事を再開する。

ナームと同席している3名も黙して食事に手を伸ばした。

「おじさん今まで何処へ行ってたの! 私神社でおじさん呼び出せるように一生懸命、一生懸命舞ったのよ! 何年も何年も・・・、何世代も」

「すまんなソリュン、訳あって死んだふりをしていたんだよ。 すまんすまん」

優しくテーブル上に戻された拳をゆっくり開くと、20cm位の人影が立っていた。

痩せこけた肢体に張り出した下腹、緑のボロキレを腰に巻いた浅黒い肌。

自室のパソコンの前で見た小さいおじさんの姿がそこにあった。

「死んだふりなんてずるいじゃない! 近くにいて見守ってくれるって言ってたじゃない!」

「正確には、あれだ・・・、死んでたのをさっきナームに起こされた。 でも約束は守ってたぞ! 姿は見せられなかったけどソリュンの側にはいつも居たからな」

絵里恵の掌に乗って親指を優しく撫でている。

旧友と数年ぶりに会った表情で涙を滲ませているが、俺の目には餓鬼が絵里恵に取り憑いた感じがして背筋が凍っていた。

「テーブルの上にバグが乗るとは、成敗!」

言葉と共にポリーナの握る肉用ナイフが餓鬼に振り下ろされた。

神速の振り下ろしを片手で受け止めた餓鬼は何食わぬ顔でポリーナを見返す。

「細い腰とデカイ乳は好みだけど、了見の狭さとデカイ尻は好みじゃない。 喧嘩なら買ってやるから後にしてくれないか、ガレ達の娘? 今は楽しい食事に花を添える俺の話を聞きな!」

渾身の力を込めた震えているポリーナの腕が押し返され、見えない力で強制的に着席させられる。

歯を剥き出しに不快感を示すポリーナから餓鬼を庇う位置取りで絵里恵が立ちはだかった。

「おじさんを虐めないで!」

ナームの席以外の注目を集めた餓鬼がテーブル中央の花瓶に生けられたバラの花びらの上へ飛翔した。

「まぁーゆっくり、ここのうまい食事でも続けてくれ魂の同胞達よ」

その姿をやっと確認した周囲の獣と異形の者達は歓迎の言葉を口々に漏らした。

「まずは、ここだな。 このホテルの建つ場所。 ここはな、ナームが2回目のアトラへ向かった時に入場前日夜営した場所だ」

見た目に反して温和そうな中年のよく通る声で話し始める。

「2回目のアトラって言うと」

「そうだぞソリュン、お前達と初めて会う前の日にいた場所だ。 あの時より海は近いしアトラの外壁の明かりも無いがな」

「あの女神様が手を差し伸べてくれた日、その前の日に私達を見てくれてた場所がここ」

絵里恵は夢遊病患者の様に立ち上がって海が見える手摺の方へ歩き始める。

「あ、そうそう。 時間もこんな感じだったかな? ルーゾンのガキが挨拶に来てたっけな・・・」

誰かの人物名が話に出てきて周囲の気温が一気に下がった。

「なぁーお前ら。 そんなに殺気ダダ漏れにしないでくれるかい? テパの術でも抑えられなくなったら、この街狂人だらけになっちまうだろ?」

「おじさん何言ってるのよ! ルーゾンは唯一ナーム様に傷を負わせた宿敵じゃない! おじさんだってただ殺すだけじゃ物足りないって、地獄の業火で燻製にしてやるって、あれほど怒ってたでしょ!」

「そうだな、700年前の最終決戦でグローズを滅ぼして銀星勢力は壊滅、シロンに八つ裂きにされたルーゾンは遁走、その後隠れ家を強襲して残党と協定を結んだ。 そうだったよなソリュン?」

懐かしいのか悔しいのか表情を変えながら自分の席へ戻ってきた。

とんでも内容の話に俺が口を挟む余地はなく、気持ちが悪い餓鬼の話を黙って聞く。

「あの時は弱虫だったから戦争に参加できなくって、宿敵のルーゾンが生き延びたって聞いてとても悔しかった」

「それで、今日ナーム達が行った観光はルーゾンの地下迷宮だ」

「な、な、なんでぇー? なんで私を置いてったの!」

餓鬼の足場だったバラごと掴み叫びながら派手に腕を振り回す絵里恵。

「だ、だから話を最後まで聞けってソリュン!」

「一対一だったら腕の2・3本ぶった斬ってやったのにィー!」

「わかった、わかったから! 目が回るからー」

体を動かして少しは落ち着いたのか、拗ねた表情でゆっくり花びらの落ちた茎の上へ拳を戻す。

「ふぅー、さっきシロンも言ってただろ? 話せる相手なら対話で解決できるって。 そりゃ白髪の奴らの守備隊とは少しは揉めたが、少しだったし、ルーゾンはこのメンツ見て戦意喪失してたしな」

「ルーゾンに会って殺さないで話合いをして帰ってきたのおじさん?」

「そうだよソリュン。 それがナームの意思だ。 彼らの組織は協定はしっかり守ってる。 金融の錬金術師に自分の血肉を食わせ長寿化させたり、麻薬や石油で戦争の種を植え付けた尖兵だったのは違いはないが協定違反じゃない。 弱体化したリザードマンをいい様に使つり指示をしていたヤツ、そいつが悪の元凶だからな、そいつを始末する事で簡単に話合いで解決したのさ。 奴らも母星を失って生きる土地はここしかない。 和解協定で種族繁殖はこの地の人間種が絶滅した後になってる。 奴らはほぼ不死だから時間は関係ないしな」

「だからと言ってナーム様の無念をそのままにしてしまっていいの?」

「本人がいいと言ってるんだから外野がとやかく言っても嫌われるだけだからな・・・」

嫌われるの言葉に一瞬体を硬直させた絵里恵は食事を続けるナームに視線を送る。

微笑むナームを見て叱られた子犬のように大人しくなった絵里恵は着席して冷めたスープを飲み始めた。

「そしてだ、悲しきリザードマンを顎で操ってたやつがいる場所。 それが、・・・あれ? あっ! この話は俺がしちゃいけなかったな。 いかんいかん・・・、よぉ! ポロア! お前なんかおとなしいな? どうしたお腹でも痛いのか?」

茎を蹴り俺の目の前へ降り立った餓鬼が、俺に話しかけてきた。

温泉の宴会以来、時折周囲の連中が俺を指して呼ぶ名で。

「お前邪悪な餓鬼じゃないのか?」

「何言ってるの兄貴? 緑のおじさんじゃない、なんに見えてんの?」

「お、俺には、妖怪図鑑に出てくる屍肉喰らいの餓鬼にしか見えない」

「そっか、そっか、今のポロアにはそう見えてるか・・・。 まぁ仕方ないよな、上がりの途中で心残りを見に寄っただけだもんな。 うん、うん。 立派になったもんだよ、本当に」

「何言ってるんだ」

「何? 兄貴が上がりの途中って、まさかでしょ?」

俺と絵里恵の声が重なる。

妹は俺の顔をしばらく見つめると席を立ちナームの所へ駆けて行った。

食事の手を止めて絵里恵としばらく会話を交わすと、いきなりその場で声をあげて泣き始める。

何が何だかわからないが、新たな湯気を上げるコース料理が運ばれてきたので冷める前にと思いフォークとナイフを手に取る。

隣のポリーナは体が自由になったのか肉用フォークを手に取り餓鬼を突っつき始めた。

応戦する餓鬼が持つのポリーナの席のデザート用のフォークとナイフ。

最後のデザートが出てきた時にテーブルマナーを教えてやろうと心に決め、断片の情報整理で味がしない高級サーロインステーキを口に放り込んだ。

次は、森の小屋1

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