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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの少女は全てを愛する
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海辺のホテル



 ジリジリと肌を焼く音が聞こえそうな太陽光線を浴びながら、バウデッキ上のエアーマットに海パン一丁で横になる俺は、昨夜の出来ごとを整理するのに苦労していた。

地元の飛行場で妹を追いプライベートジェット機に乗ったまでは記憶が鮮明に残っているのだが、妹とナームと話をし始めてから映像に霞がかかって記憶が曖昧になっている。

しかし、何が起こったのかはハッキリ分かる。

深夜のイギリスの国立公園で人ならざるナーム率いる集団が、何やら悪の組織を壊滅した。

らしいのだが、現地を飛び立った飛行機は朝日の登り始めたばかりの、地中海に面した空港に着陸して迎えのバスに押し込められ、運ばれたヨットハーバーでメガヨットに乗せられて今に至る。

日本からイギリスまでの移動時間もおかしいが、イギリスからモナコまでも短すぎる。

それにヨットのリビングで見た現地のテレビでは、イギリスで起こったはずの戦闘の話題はいっさい報じられていない。

昨日の事は夢でモナコまで直行飛行したのであれば納得もいくのだが、昨夜の戦闘の記憶は現実だと俺は疑っていない。

なぜならば、痛々しい打撲の跡を隠さず際どい水着を着たポリーナが離れたエアーマットで日光浴をしているのだ。

単騎で防衛隊へ突っ込んで大暴れし、その後ナームの命で防空施設を壊滅させた女性、あの巨大な白熊に変容する瞬間も覚えている。

「兄貴、あんまりポリーナさんをジロジロ見ないで! 恥ずかしいから!」

下層のキッチンから飲み物を手にした競泳水着姿の絵里恵が戻ってきた。

「怪我・・・、大丈夫かな? って思ってただけだよ!」

「丈夫だけが取り柄の年増なんだから心配ないでしょ。 それより私もナーム様達と観光行きたかったなぁー」

俺の分も用意してくれたらしく、冷えたグラスに入ったソフトドリンクを受け取る。

「ナームさんは昨日の疲れを癒すのも戦士の役目って言ってただろ? お前昨日死ぬところだったんだぞ!」

「死ななかったんだからいいの! あぁーぁ」

サングラスをかけると隣のエアーマットにダイブした。

「最弱戦士にゾウリムシ兄は気楽で良いな。こっちは腸が煮えくりかえる思いなのに!」

「何よおばさん! ちょっと綺麗でちょっとスタイルがいいからって、兄貴はいいけどナーム様の鉾の私をバカにしないで!」

仰向けで愚痴ってた姿勢から勢いよく起き上がり拳をポリーナに向ける。

「あの方々が観光? 今の歴史を全て知っておられる方々だぞ?」

両腕で頭に枕を作った姿勢を変える事なくポリーナは裸眼で太陽を睨んでいる。

「・・・な、何が言いたいのよ紅白パンダ!」

「この船に残された連中は、戦力外と判断されたのさ」

「ちょっと、何言ってるのよ! ナーパ様は・・・私と約束したんだから! ずっと一緒だって!」

絵里恵は身動きしないポリーナの耳元で叫んだ。

「うるさいぞ最弱娘! 一緒の約束を守るために置いて行かれた。 お前が死なない様にだ・・・」

ブゥーン、ブゥーン、ブゥーン・・・

感情をあらわにする絵里恵に対して冷静な声音で話していたポリーナは、優雅に起き上がりサイドテーブルで着信振動していた端末を手に取った。

「もしもし、・・・はい、・・・ローマへ行かれたと思います。 ・・・はい、・・・お父様? ・・・何を言ってるのですか! な、なんでそうなんだよクソジジィー! ・・・はぁ? ・・・で? ・・・それは・・・、・・・はい。 ナーム様の御許可を・・・はい・・・」

通話が終わった端末をしばし見つめて絶句した様子のポリーナ。

「ナーム様はローマへ行ったの? ねぇポリーナ、ねぇったらー! 教えなさいよ紅白パンダ!」

「・・・はぁー」

眼前をうろちょろ動き回る絵里恵を無視し続けて、ギラつく太陽に顔をむけ長いため息を吐いた。

「あの方々4人は今、イタリアのローマにある遺跡で訪問計画2箇所目の魔窟を制圧されているでしょう。あくまでも私の推測ですが、観光へ出かけるとおっしゃって船を降りてから直ぐに気配を消されてしまった。 私はこう見えても野生の感は自慢でしてね鼻は効く方なのですよ。 なのにいっさいナーム様を近くに感じませんの。 目の届く範囲にはいらっしゃらないの」

「だったら今からナーム様達を追いかけましょ! イタリアって近くよね? 地中海に面してるからそんな遠くないはず、ローマって確かブーツの左足のスネ? のあたりだっけかな? 兄貴こっから飛行機でどのくらい?」

ポリーナの腕をとって思い詰めた表情で俺を見つめる。

「飛行時間は1時間ぐらいだろうけど、これから空港へ行って飛行機乗って現地向かって・・・5時間で向こうの遺跡とやらに着ければ早い方なんじゃないか?」

絵里恵の顔は見る見る半べそとなってぐしぐし泣き始めた。

「そんなんじゃ間に合わない、私ナーム様の剣に成れない・・・・。 あぁー、わぁーん」

声を出して泣き始めた絵里恵の腕を振り解きポリーナが俺の方へ向かって歩いてくる。

「いくつかの宗教を隠れ蓑に経財・軍事・資源と地球上の生き物と物資を好きなように操ってきた存在を、お前らは知っているのか? その強靭な肉体と精神それに強力な武具。 ナーム様の前に盾となり1秒と保てる技を持っているのかお前達!」

「彼らが・・・、ローマにいる・・・」

絵里恵が呟く。

俺の前まで歩いてきたポリーナが少し屈んで手を差し伸べてきた。

必然的にボリューミーな肢体と胸の谷間に視線がいき、気恥ずかしさから遠くに浮かぶ船へ視線を移した。

ポリーナの手をとりエスコートされるまま立ち上がると、眼前に整ったロシア系美女の顔が視界いっぱいに入る。

「ちょっと近いですポリーナさん! どうしたんですか?」

「ゾウリムシくん、君は妻帯者かね?」

「違いますけど」

「ならば問題ない・・・、な! 私を孕ませる許可をくれてやる!」

目の前の美人さんは何を言っているのでしょうか? 孕ませるの言葉に違う意味が無いか目を泳がせ、ポリーナの前から逃れようと身を捩っているといつの間にか隣に絵里恵が立っていた。

「プロポーズ! ポリーナさんが兄貴にプロポーズしてる!」

「おいこら、失礼な事を言うな。 多分、孕むの意味が違うんだ。 ポリーナさんは、ほら、外国の方だから意味違うんだよ」

キラキラ顔の絵里恵に困惑顔のポリーナ、やっぱり俺たちの勘違い、そう思った。

「プロポーズ? そんな事は言ってないわよね? 結婚とかはナーム様以外誰であってもするつもりは無いから、だけども子供は産みたいの、お父様達の願いでもあるけど私の魂の器を継承してくれる子供達をたくさん産んでおきたいから」

認識は違っていたが違っていない。

「だめ! ちゃんと兄貴と結婚してくださいポリーナさん! 子供には両親が絶対必要なんですから!」

「ちょっと待て絵里恵! なんで俺との結婚のお願いをお前がポリーナさんにするんだよ」

「兄貴の子供が欲しいとか、絶対、深い、深い、深ぁーい理由があるに決まってるでしょ! 男なんだから据え膳は毒だけど完食しなさい! ねぇポリー、いえ、これからは違うわね、義姉さん」

ポリーナの両手をとって子犬の様にポンポン飛び跳ねてる妹を見る目は穏やかだった。

(この最弱娘が妹になる? 動かない木偶人形よりは訓練相手には使えるか?)

微かにこぼれた心の声は聞かなかった事にしておこう。

ローマへ行った4人の話題から俺とポリーナの結婚の話題へと変わり、昨夜の戦闘に似た心労を感じながらも、二人の追求はこの旅が終わって日本へ帰ってからと頑なに譲らなかった俺の意見が通りひと段落した。

ポリーナ自身も排卵日はまだだから交尾は今でなくても良いと納得してくれて、初夜は結婚してからじゃないと絶対だめですから義姉さん、と真意が違う者通し仲良く俺抜きの会話に花を咲かせていた。

小さいフェリーくらいの大きさをしたメガヨットも陽が傾くにつれハーバーへ近づき、出航した時と同じバースに接岸した。

ヨット内のクローゼットから見繕った正装に着替えさせられた俺は、高位者の迎えに使われていそうな高級車に乗せられて夕方の街を移動する。

後ろには一緒にヨットに乗船していた中型・大型の動物達を乗せた黒塗りの大型バス。

移動動物園がモナコサーキットを護衛車先頭で駆け抜ける。

ドライビングゲームで走った記憶のある道路。

世界屈指のスポーツカーが爆音を響かせ疾走する富豪達が集う街。

場違い感を自分の鳥肌で認識しつつも、妹を守ると決めたからにはとことん付き合うしかない。

どんな状況が起こっても日本に無事つれて帰るまでは、俺の目的は絶対諦めてはいけない。

車窓を流れる輝く街並みを楽しそうに見ている妹の横顔を見て思っていた。


 低層階のホテルのエントランスに到着した一行は、支配人だと自己紹介してくれた紳士に案内されて一階のレストランに併設されたテラス席に通された。

獣も含めて100席はあるだろう。

「先に御着きになられた方々にはご案内済みですので、今暫くお待ちください。 当ホテルのウェルカムドリンクをすぐに準備いたします」

建物や調度品、景色をゆっくり見渡していた俺の視線がポリーナと絡む。

「私の夫となるには、品がなさすぎるな」

「うるさい、まだその話をしているのか? そんな大事な話は日本に帰ってから、母さんと相談して決めるって決めたんだから、言わないでくれるかなポリーナさん。 田舎もんなんだよ俺は、ほっといてくれ」

強がって言い切ってみたが獣以外で一行で浮いている実感はあった。

日本の文化とは違って礼には礼を持って返してはいけない風土らしい。

悪く言えば客以外の存在、建物と人間達は道端に咲く雑草の花の様に接しなければならないらしい。

ポリーナはグローバル企業の会長令嬢で秘書も兼ねているのだから、TPOに合わせた身の振り方は教育されているだろう。

絵里恵はポリーナの仕草を完璧コピーしているのでテンポは遅れているが優雅に見える。

二人ともドレスもしっかり着こなしている様に見えるから不思議だ。

獣達ですら椅子にしっかりお座りしているし、妖怪にしか見えない影も騒がずテーブルについている。

運ばれてきたシャンパンで数度唇を湿らせた後、例の4人が姿を現した。


次は、第二の目的

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