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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの少女は全てを愛する
143/156

一番目の城3


 

「絵里恵を守る事だけ強く念じろ」

そうナームに言われた瞬間胸に痛みを感じ、体が彼女の掌に載った三角柱の小さな水晶に引っ張られる感覚。 そして吸い込まれた。 一度の瞬きで視界には天井を挟んでナームとエリの顔が見える。 自分の状態は幽体離脱的な感じなのだろうか? ナームの手の温もりを感じるおかげだろうか恐怖や焦りは湧いて来ない。 こんな感覚に冷静でいられる自分を不思議に思った。 ネットサーフィンしててオカルト掲示板にこれと似た体験談とかあったのを思い出す。 自己分体憑依だったっけ? 寝ている自分を外から見れて、視点は部屋に置かれた人形とかペットの目線になるとか書いてあったな。 俺の体は席に座ったまま項垂れ寝ているみたいで手足を動かそうとしてみても拘束されているらしく動かせない。 声を出そうと喉に意識を集中しても声帯を振動させられない。 

「ナーパ様兄貴は?」

「アレな亮介さんを危険な場所には連れては行けませんから、眠ってもらいました」

「そうですよね。 兄貴はポロアじゃない・・・、ですもんね」

「記憶喪失のゾウリムシは寝てるのが長生きの秘訣、ずっとそうして寝てればいいんですわ。 ねえ、ナーム様」

ナームは話をしながら俺を目の荒い布に巻きエリの額にハチマキ状に結んだ。

「エリちゃん、これはお守りです」

「ありがとうございます、ナーパ様」

「亮介さんそこで眠りながら絵里恵さんを守ってあげてね。 あなたなら出来るわ。 それでは行きましょう」

ナームは眠っている俺を見てからエリの額の俺を見てそう言った。

座席上部のロッカーから小さなスーツケースを取り出し白のロングコートを脱いだ。 濃紺のジャケットとスリムパンツの上に黒のマントを羽織る。 ダミニが鍔の大きなとんがり帽子を手渡すと真希先導でナームは機体後部へと通路を進み、開かれた後部ハッチから暗闇に身を投じた。

「あぁ〜、あれが戦姫の伝説の武具、吸血のマントと雷の帽子姿のナーム様なのですね! 何と勇ましいお姿! 肌が焼ける程の魂気をこんな近くで浴びれるなんてイッてしまいそうです。 あ、お待ちになってナーム様、ポリーナもお側にお供します」

とろけた顔でノロノロ通路を歩いていたポリーナも機外へと続く。 いつの間にかエリの出立は演舞時の衣装に変わっていて左手には長剣シリウスが握られていた。

「よし! 私はできる! 兄貴ソリュンを守って!」

ハッチを蹴り飛び出すと一瞬下に落ちる感覚があってから上へ向かう感覚に変わった。 周囲は暗くて何も見えない。

「さすがですわナーム様。 イギリスまで1時間とかからずあの飛行機を運ぶんですもの」

ダミニの声が頭上から聞こえ疑念が浮かぶ。 飛行機が空港を離陸したのは午前9時過ぎで機内滞在はダミニの話通り1時間もない。 それと着陸した覚えがない。 ナームは到着したと言った。 イギリスに? 直行便で13から14時間の距離だぞ?

「皆の者戦乙女の後! 我に続けぇ〜! 陣形は長蛇じゃぁ〜!」

「戦じゃ、戦いじゃ〜」

「百鬼夜行じゃ〜!」

栗磯なのか大声が少し上から聞こえるが姿は見えない。 下を見ると乗ってきた機体のシルエットが雪原の中にポツンと確認できた。 空港じゃないただの平地、それも雪の上に着陸? 日本の最新航空技術なのか? ジャパンクウォリティーなのか? 飛行機が下に見えるって事は・・・、エリ空飛んでるのかぁ〜!

「さっきから誰! ごちゃごちゃ頭に話しかけるのやめて! 集中しないと落ちちゃうんだから!」

・エリ・・・、もしかして俺の声聞こえるのか?

「兄貴? 何処いるの? あ、これ? もしかしてナーパ様がくれたお守りの中にいるの?」

・そうなんだと思う。 幽体離脱で水晶に憑依? なのかな?

「ともかく今は黙ってて、気が散っちゃうわ!」

・わかった

エリは少し上空のナームのすぐ後ろに位置取りした。 地上から30mの高さだろうか。 ナームの左右には真希とダミニ。 エリのすぐ後ろには銀毛の大きな狼とポリーナその背後には西洋の甲冑兵や武将鎧姿そして宴会で同席した妖怪達が連凧の如く続き揺らめいていた。 妖怪の式神軍団を従え先頭を歩くナーム。 まさしく戦乙女が異国の雪原の空を行軍していた。 記憶だとイギリスとの時差は8時間。 だとすると10引く8で2。 本当にここがイギリスだとすると午前2時なのだから周囲の暗さは納得できる。

「あれが御人達が手出し無用と言っていた場所か? 想像していた砦とか館ではないの」

「小さな農村ですね」

「ここは一般人が立ち入り禁止の国立公園です。 あれは管理用のビレッジとされていますが用途は全く違います」

栗磯の問いにダミニが答える。 地上2mまで高度を下げて進む一行は低い家畜用の柵の手前で一旦歩みを止めた。

「それでは参ります」

「魚鱗の陣!」

栗磯の声が場に響き後方の妖怪達が音も無く動き白い狼を先頭に左右に展開する。 エリも位置を狼の後ろナームの前へ出る。 全身に一度力を入れ「よし!」と気合をいれるとポリーナに腕を掴まれる。

「おい小娘! その場所変われ! 弱い奴がナーム様の前では汚い血でナーム様のお靴が汚れてしまうではないか!」

「だーめ! ここは私の場所なの! シリウスの場所なの!」

ポリーナの腕を振り解き睨みつける。

「弱兵二人でそこに突っ立ってればいい。 ナーム様の邪魔だ! 道を開けろ」

横を滑るように一列に並んだ三人が通りすぎる。 ダミニの言葉が耳に痛い。

「気づきましたわね」

真希の呟きが聞こえた後石造りの低い建物に明かりが灯り雪原の狼が照らされ暗闇に浮かび上がる。 その他にも探照灯が現れ一団が照らし出される。 近くの雪原にいくつもの雪煙が上がり少し間を置き銃声が連続し聞こえた。

「私の・・・、私のナーム様に銃口向けた奴は誰だぁ〜! てめぇら皆殺しだぁ〜!」

エリと揉めていたかと思ったらポリーナは光に向かって突進してしまった。 陣形の先頭を突き抜けて正面の探照灯に当身をかまして建物中に姿を消す。

「初陣のバカには構うな! このまま進め!」

狼の咆哮が辺りを震わせ威嚇射撃で止まらなかった歩みの速度を上げる。 ポリーナが飛び込んだ建物の明かりは消え銃声と激突音、獣の咆哮が響きそれが建物を変え、明かりは一つずつ消えていく。 守備隊が放つ銃弾は威嚇では無く前を進む妖怪達を正確に打ち抜いているのだが誰一人として雪原に倒れるものはない。 雪煙が背後に上がるばかり。 業を煮やしたか建物裏から6輪装甲車が左右に姿を表し上部重火器が火を噴く。 先頭の狼が建物に達すると遠吠えを発した。 それを受けて左右の妖怪達はそれぞれ乱射を続ける装甲車に目標を定め、角砂糖に群がる蟻が如く取り付き無力化していく。 周囲を照らしていた探照灯はずべて消えて辺りはいつの間にか上がった建物の火の手で赤く染まっていた。 最後に探照灯の消えた建物から狼が姿を見せる。

「班に分かれ一帯の建物を制圧しろ! 散開!」

裏手にも幾つか建物が有るのか爆発音と獣の咆哮が聞こえる。

「真希よ地上戦力はこんな物か?」

「入り口の守備はさほど整えていないわ。 ここまで到達出来ないように周囲にファランクスと防空ミサイルがハリネズミで配置されてるわ。 守備隊の数も公園外周の方が多いわよ。 ナーム様がレーダーに探知出来ない速度で内側に飛行機を運んでくれたおかげですわ」

「であれば司令部は今頃大慌てだな、ガハハハ!」

俺は真希と狼の会話を聞いても何を言っているのか理解できなかった。

「それで栗磯。 外周の施設だけど」

「おう、今、西の守り手を分けて向かわせたぜ。 爺さん達の飛行機壊したらかわいそうだし。 それに、あれに乗って帰る予定だしな!」

「ナーム様のお乗りになった私の作った飛行機を壊そうとしてる奴がいるですって!」

建物の影から荒い息遣いを吐きながら大きな獣が姿を現す。 血で体毛に赤い斑点をつけた巨大な白熊が後ろ足で立っていた。

「白熊が怪我して紅白パンダになってるぅ〜。 うけるぅ〜!」

「ゾウリムシの妹! 私が怪我で自分の体を汚すはずがないわ! 奴らの返り血じゃ!」

エリの軽口に白熊がポリーナの声で返しナームの前で睨み合う。

「ポリーナさん帰りの便が欠航しない様に守って頂けますか?」

「戦姫のお心のままに! すぐに片付けてお側に戻って参ります」

白熊はナームの言葉を受けて頭を下げてから強く地を蹴り迎撃ミサイル並みの軌跡を描いて闇の空に消えていった。

「はぁ、やはりみんなを連れて来るとこう成りますか・・・。 もう少し穏便に事を進めたかったのですが・・・」

「何を言ってるナー姉ちゃん! 戦の狼煙は派手な方が華やかではないか!」

「栗磯、ナーム様は無駄に命を奪わない優しいお考えのお方。 あなたならお分かりでしょう?」

「当然知っとる。 しかし、遠くに隠れて飛び道具を使って命を狙うとか、分厚い装甲の中から強力な火器で生身を狙う戦士なぞ、生まれ変わりを早めてやらんとな! ガハハハ」

「強い気配は建物の先の小さな丘の下」

狼のガサツな笑い声に少し眉をひそめたナームが呟く。

「はい、その通りですわナーム様。 この地の首魁は地下の施設を根城にしていて今の滞在を確認しています」

「内偵ありがとう真希」

「ナー姉ちゃんどうするよ。 丘に大穴開けるか?」

「道があるならそこを通って行きます」

「では、あちらの建物から入りましょう」

真希が掌で一つの建物を示しそれに向かって歩き始める。 四人はその後をついて行った。

次は、一番目の城4

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