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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの少女は全てを愛する
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目覚めてからやるべき事



 ソリュンの剣舞の後少し会話をしたが「ナームパパ」と呼ばれた時は少しバツの悪さを感じた。 幼い時に別れてから一度も連絡を取らなかった山上の意固地さに今更ながら心が痛んだのだ。 なので大戦の時に手にしていたシリウスを償いの思いで渡したのに、リンちゃんが戦士の何たらとか修行とか言い出して少し驚いた。 床の間の飾りのつもりであげたのに、今生のソリュンを戦士にさせるつもりなんか無いのだ。 シロンから近況の報告を聞いている最中ポロアは席を外した。 念話が聞こえていないらしかったのでつまらなかったのだろう。

「してナーム様、これからの予定をお聞かせいただきたい」

シロンの問いで宴会場内が静まり返る。

・私の予定ですか?

「そうです。 山上さんの旅立ちの一年前に目覚めたのには理由がある。 いかがでしょう?」

・あの月食まで・・・、あと一年あるのですね・・・。 癒しの呪縛を設定したジロー、何か言いなさいな! 何でさっきから黙ったままなのですか?」

眼前の御膳に置かれた小さな皿の上に場所を移した二個の水晶球は何も反応を返さない。

「その御人達は50年前『道は整った』と語った後、姿を見せてはくれていません・・・」

何の反応も示さない水晶をしばし見続け折檻が必要かとも思ったが、今のナームの体は思い通りに動かないし周囲の魂気を自由に使えそうに無い。

・二人は狸寝入りですか・・・。 あなた達の話は私の体が全開した後でたっぷり聞かせてもらう事にします。

「どうかお手柔らかにお願いいたしますナーム様。お二方は粉骨砕身で我らに助力してくださいましたのですから」

私の語威にテパが手心を願いでる。 水晶達の思惑も見当がつかない訳でも無かったのでシロンを正面に見据え直す。

・私のこの手で片付けなければいけない事。 それを成す為なのでしょうね・・・。

「その成す事とは?」

・・・・魔王退治かな? あれ? 悪魔退治だったかな? まぁそんな事。

どよめきが場内に沸き起こったが、驚きや恐れではなく喜びの声が聞こえる。

「承知! 皆聴いたか! 戦の準備だ!」

振り向きざま拳を高く上げ叫ぶシロンに場内全員が呼応する。

「戦だ戦だ!」

「ナーム軍の復活じゃぁ〜」

「今生の花咲かせる時が来たのじゃ〜!」

・ちょっと、ちょっと、待ってみんな! みんなを巻き込むつもりは無いのよ!

「姉様を一人にしちゃ絶対だめ! シャナウ様からきつく言い渡されていますから、絶対無理ですよ」

サラが私の腿を何度か叩き耳打ちする。

「御人から放置の命を受けて残存する魔窟は三箇所ありますが」

・その全てを、・・・私の手で終わらせてあげる必要があるのです・・・。 ですが、みなさんは、・・・もう輪廻の回廊を抜けているではありませんか。 今更私の争いに付き合ってくれなくても良いのですよ。

「ナーム様、私達の魂は常にナーム様と一緒にいたいのです。 解脱しても尚お側にいたいのです。 何卒寛容なる配慮にてご容赦下さいまし」

テパの言葉に一同が頭を下げて懇願の意を口にしていた。

「ナー姉ちゃん諦めろよ。 ここのみんなナー姉ちゃんの子供みたいなもんだろ? どこまでも一緒に付いてくよ。 天国でも地獄でも、新しく姉ちゃんが作る宇宙にでもな」

・私が作る、新しい宇宙、・・・そこまでの叡智を得て、それでも私と居たいと・・・。

「唯一無二の残された地球に生まれた我らの望みじゃのぉ〜。 拒んだとて無理じゃのぉ〜」

いまだに肉をほうばり続けるリンちゃんも宣う。

なんだかなぁ〜と思いながらソリュンに目をやると、シリウスを抱き抱えニマニマ顔で私を見返している。 テーマパークへ連れて行く約束を守れなかった代わりにと渡した剣が要らぬ仕事をしてしまったようだ。

・まずは皆さん落ち着いて。 私の体調が回復してからもう一度お話ししましょう

「承知! 言質は頂いた。 皆、飲みそして喰らい、ナーム様の全快を祈願しろ!」

「おおさぁ〜!」

・ちょっとシロン! 言質って何? もいっかい話し合う事だよね?

同行を拒否するいい策を考える猶予時間を得るために提案したが、誰も聞いてくれない。 シロンもそうだが戦闘狂の連中だ、〜退治とか戦闘を臭わせる話は失言だった。 少し考えれば分かりそうなものだったのに、目覚めて間もないせいか私の脳はまだ酸欠ぎみなのかもしれない。 疲れからか両肩が重くなって背もたれに背中をつけて少し背伸びをした。

「ナーム様休憩はこのくらいにしてリハビリを続けましょ。 久々の戦いの前でワクワクしてきました、さぁーさぁ〜」

返答も聞かず私を抱えたサラが立ち上がるとテラミスがイヤリングのカゴに入った水晶を渡してくれる。 賑やかさを増した宴会場から露天風呂へと私は強制連行されてしまった。




 サラの入浴マッサージを受けている最中ソリュンやテラミスも様子を見にやってきて色々話をした。 その話の中で山上の記憶と少し齟齬があり違和感を感じたが理由に思い当たることがあったので後日要確認と心に記憶する。ガイアの視点で俯瞰した地上はマクロなもので個人個人の人生を追跡するミクロな部分は受肉した今は思い出せない。 瞑想し視点を上階へ移動させてもエルフの脳で処理できるのは数人の近況くらいだった。 狭界のガイア宇宙であっても肉体に拘束された魂にとっては広大な空間の重なり。 いまだに何も返事をしない両耳の水晶玉連中には苛立ちを覚えるが、体調が戻るまでに今の自分の考えをまとめて、それからでも折檻は遅くはないと自分に言い聞かせる。

「今のうち私の裸体を十分拝んでおきなさい。 後で思いっきりいじってやるんだからね!」

やっと動かせるようになった口で誰もいなくなった浴室の天井に向かって叫んだ。

お湯に浮かんで少し眠気を覚えた頃男性の脱衣所に人の気配が現れた。 すぐにポロアだと分かった。 恐る恐る浴場に足を運んで来たので体を浴槽の底に沈める。 案の定、ポロアは一人で温泉を堪能したく女湯に入浴者がいないのを確認したのち渓流が望める縁で黄昏れ始めた。 ポロアが記憶を取り戻さないのは誰かの意思なのだろうと思うが、山上と同じに自分の過去生の魂が鍵をかけたのか、それとも自分以外の誰かの魂が鍵を掛けたのか興味が湧いた。 旧知の魂だし今生では親子だった、ここは混浴なのだ天国で極楽なのだ、エルフ美女の姿で少し悪戯して探ってやろう。 ホラー映画さながらポロアの隣に水中からゆっくり顔を出す。 数分待っても気付いてくれなかったが、ボソッと私の容姿を褒めてくれたのでお礼を言ったらビックリしてた。 気づくの遅すぎて結構笑えた。 そんでもって色々話をした。 もちろん元父親とは伝えずドキアの樹海から始まるナームの記憶を都市伝説風の胡散臭さで伝えたり、好みの女性のタイプとか将来の夢とか根掘り葉掘り聞いてやった。 今日初めてあった胡散臭い外人に教えてくれた内容が全て本心である訳はないが楽しい時間を過ごすことができた。 今の私に分かるのは記憶の鍵は本人の過去世の魂が施錠したもので、理由は不明。 強制解除は不可能では無さそうだがここはポロアの意思を尊重すべきだと思った。 私には弄り甲斐がある旧知の魂。 リハビリの暇つぶしに付き合って貰うくらい問題ないだろう、しばらく一緒に行動しようと決めるのであった。

次は、エルフの同居人

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