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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの魂は仲間に甘い
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新たな大地3


 波打ち際の攻防は徐々に激しさを増しシャナウの笑い声とナームの歓声、サラの半べそが辺りりに響く。

静けさが消えた浜辺にはニルヴァーから現れた新たな二つ人影がベースキャンプに近寄ってきた。


「預言者のペットよ、お主はこんなところで何やってるのだ?」


モガ服に日傘をさしたミムナと半ズボンにTシャツ姿のレッド。

二人の身長こそ同じだがレッドはオンアと同じエルフサイズの3歳児姿。

態度と物言いは元老院のままでとっちゃん坊やの印象だ。

ここ60年アキダリアでナームに仕事をさせている上司となっている。


「見ての通り、ビーチのベースキャンプの見張りと食事の準備だよ」

「お前ら肉を食うのか野蛮人か? それにアイツらは何をしとる? 7日に一度は休ませろと言うから作業から外してあるのにあれは戦闘訓練か? 相変わらず訳分からん事ばかりしよるな」


レッドの言葉通りキャッキャウフフの戯れの域はもう垣間見れず、災害級の高波が浜辺に荒れ狂っていた。

シャナウは水の柱を一本背負いでナームに向かって投じており、それを海上を走りながら軽快に交わす。

ナームが蹴り上げた水面が大きな津波となって岸に打ち寄せる。

元々水が苦手なサラは豊かな胸を覆っていたビキニを波に奪われたのか、恥ずかしい姿で両手をバタつかせもう少しで溺れそうになっていた。


「おいジンジロゲ、サラのおっぱい見てる間にせっかくの肉が炭になるぞ!」

「おっと、やばいやばい!」


ミムナの忠告にジョナサンを水晶から遠ざけ炎を消した。


「ミムナとレッドは何でここへ? ナームが海水浴誘ったのか?」

「私に誘いの言葉はなかったが、この海に用があって来たらたまたまお前達がいただけだ」


レッドは背負っていたナップサックを下ろし、中から荷物を取り出して無断でレジャーシートに並べていく。

ミムナも勝手に上がり込んでパラソルの下で着替え始めた。

未だ戯れている三人が訪問者に気が付いていなさそうだったので、市民プールで監視員が鳴らすサイレンを波打ち際に向けて鳴らしてやった。

間も無く胸を押さえて涙目のサラをナームが宥めながら帰ってきた。

その後をシャナウがビキニを見つけて追いかけてくる。


「あ、ミムナ。 久しぶり! ミムナも泳ぎに来たの?」

「私は遊びに来たのではない。 所用があって来たのだよ」

「浮き輪を持って浜辺へ来て遊びじゃないって言われてもね〜。 誘わなかったからへそ曲げた? ってか、何でスクール水着? 名札まで付けたりして?」

「遊びに来たのでは無いが、用事で濡れる。 お前の記憶で確認して海用の準備したのだぞ。 間違ってはいまい?」


ミムナは昭和の小学生が着る紺色のスク水に『みむな』と書かれた名札を付けていた。

俺も思うにミムナの体型から言えば間違えてはいないのだが、記憶を覗かれた恥ずかしさからかナームは御立腹の様子で喰ってかかっていた。

シャナウはサラにビキニを付け直してやってから清水で体を流しパラソルの日陰で休ませてあげた。

俺は焼き終わったジョナサンを切り分け骨を鍋に入れスープの準備をする。

口論はいつも通りにナームがミムナに押し負ける形で終了して、頬を膨らせたナームがサラの隣に腰を下ろした。

呆れた表情でナームを見ていた3歳児が波打ち際に向かって歩き出し右手を空へ向けると瞬間でトライデントが現れた。

ニルヴァーから投じられたものだと理解するのに若干の時間を要した。

ミムナもナップサックから鞘に収まった短剣を取り出し太腿に巻きつけると浮き輪を抱えて歩き出す。

見た感じ二人は素潜り漁に出かける漁師町の兄弟。

ナームの不機嫌はどこかへ消え、釣果の期待へと変わっている。


「あの二人の用って漁なの? サザエとか、アワビとか獲りに来たのかな?」 

「ミムナもレッドも肉とか魚食べたの見た事ないですわね」

「貝とかは食べたりするのかな? それとも真珠とか探しに行くとか? 付いて行ってもいいのかな?」

「3人共海から上がったばっかりで体冷えてるだろうから、休んでた方がいいよ。 こっからでもあの二人が何しに来たのか分かるだろ?」


茹で終わったガラから肉をそぎ落とし数種類の野菜を放り込む。

深めの皿にガラと少しのスープを入れてやり、おとなしく茂みの木陰で休んでいる虎の元へと持っていった。

まだ熱いから注意する様に念を飛ばしておく。

我ながら妖精サイズなのによくぞここまで細かく気遣いをし働けると感心する。

面倒な気分は湧いてこないし、惨めさも感じない。

美女達にこき使われてるキャバクラのマネージャーは心労が絶え無いと聞くが、海を眺めて笑みを浮かべる彼女達を見ていると、この立場を楽しんでる自分がいるのを感じる。

とっても気分がいい。

部屋で留守番してなくて良かったと思っていると指笛が聞こえた。

火力をトロ火に調節して塩胡椒で味を整えてから波打ち際の二人を見ると、トライデントを空に向けてゆっくり円を書くレッドの隣でミムナが指笛を鳴らしている。

タオルを首からかけたままただ座って眺めていたナームが立ち上がり、両手で双眼鏡を作り二人の先の沖に視線を送る。


「なんか来る。 ん〜ん、サメ? 違う、イルカ? あ、クジラさんも居る!」


言い終わらないうちにナームは二人の元へ走り出していた。

俺も調理を終えてナームを追いかける。

波打ち際まで到着すると、ミムナとレッドは海面を歩行し沖へと進んでいた。

隣に居るシャナウと頷き合うと二人も海面を歩き出す。

二人の背中が近づいて口笛が聞こえてくる。


「・・・新たな星で生を受けた・・・同胞達よ・・・」


シャナウが口にする。


「あの口笛? レッドがなんか言ってるの?」

「集まったお魚さんに行ってる感じですね、姉様」


ナームには意味が理解出来ない言語を使用してレッドが語りかけてる様だ。


「目的は侵略である。 侵略とは数である。 新たな星で生き、子を産み、育てるのだ。 そして我が星の魂で全てを覆う・・・さすれば至るのだ・・・遥か高き場所へと・・・」


ナームが海面から離れ上空へと位置を変えると見下ろす水面には、千を越すイルカに数百の鯨の影が見える。


「ここに集まった数が全部火星から来た魂? ドキアや新しいこの大陸で産まれてる人間の赤ちゃんも半分は火星の魂のはずだったよね。 人間以外にも転生してたりしてたんだ」


この大陸を含めて近郊で産まれていた人間の赤ん坊の半数は産声をあげていないと聞いていた。

成長を心配する声も上がったが、3年と待たずに植物を意のままに操ったり空中を自在に移動したりとこれまでとは別種の能力を使いこなす魂だと分かった。


「獣の中にも火星とかの魂が生まれていると報告は聞いていましたが、海の生物にも生まれていたのですねナーム様・・・」

「そうだったみたいだなサラ。 人間より脳みその量が大きいとか聞いたことはあるけど、高度な魂は陸上も海中も問わず、哺乳類の意識を操作できたのか」

「少なき知識。 悲しい限りではないかミムナよ。 何故にこの程度しか持ち合わせていないのか? お前の教育不足は反省に値するぞ!」


海上のレッドがミムナに向けて言い放つ。


「知識には階層と言う物が有ります。 『宇宙を探究する前に己の足元を知れ』と昔の叔父上は私に言ったでは有りませんか。 時期がまだ至っていないのです、かの預言者には・・・」

「ふん、うつろいにて変わらぬは後退。 積み重なっていない証。 いかにする?」

「彼女次第ですよ。 表層の感情とする個の主観は外的要因からは操作できない。 本来持つ魂とは離れた存在な事はご存知でしょ?」

「差異の量の話をしとるのだが? ここに集った同胞以外の魂をも看破出来んとは、わしも老体に鞭打って預言者を教育せねばなるまい・・・。 ふん!」

「嫌われない程度に、ご存分になさって下さい」


ミムナは海上を見渡し一頭の白イルカの背に乗った。

腿に結んだ短剣を片手に取り高く掲げて叫ぶ。


「これぞ我が母星火星の秘宝! 命ある時、この光の元に集まり助力せよ、我が同胞達よ!」


眩い光を発する短剣の周囲で、一斉にイルカ達が鳴き声をあげ、鯨が潮を噴き上げる。

俺は場違いにもアニメの1シーンを回想していた。

オリハルコンの短剣を手にシロイルカに跨り海獣と戦う少年の姿を。

地球の指導者二人と海に転生した母星の同胞との間でどんな深い話がなされたかは後にシャナウから聞く事になったが、海洋生物との触れ合いは俺にとっては短い時間だった。

ナームもシャナウもイルカさん達と一緒に泳いだ時間の短さに少し不満気味だったが、俺のサイレンの音に渋々ベースキャンプに帰って来た。


「ほれ! ナーム。 お前にやる」


パラソルの下で寛ぐミムナが手にしていた短剣を放る。


「はへぇ? くれるの? さっき火星の秘宝だって言ってたでしょ?」

「ああ、その秘宝は沢山あるからな。 ちょっと珍しいただの炭素の結晶だよ。 地球の環境下で魔法少女が使えば天候操作くらいできる力は有ると思うがな」


サバイバルナイフほどの長さでガラスに見える透明度の高い刃。

ミムナが炭素と言ったのでダイヤモンドなのかと思うが、粒としての硬度は高いが俺の知識では刃物などには成り得ない物質だ。

地球にある結晶では無いのかもしれないが、ミムナがナームに渡した時に付け加えたその持つ能力。

ナームはミムナを盲信しすぎるが故の成長を遂げている。

ミムナの助言に物理や化学の常識を超越してナームは現実化させてしまっていた。

トライデントもその一つで、効率よく周囲の魂を集める能力以外今までの水晶とは大差なかった代物が『大地を切り裂き山を吹き飛ばす槍』と言われた途端、ナームが使うとただの珍しい槍が伝説のトライデントに変わってしまう。

ナームの見えぬ所でほくそ笑むミムナの顔が今も脳裏に浮かぶが、今回は別のアイテムを超兵器に変えたいみたいだ。

ナームが強くなるのは俺も望んではいるが、最近はあまりにもミムナにいい様に使われすぎている感がある。

多分あの短剣も雲を呼び嵐を撒き散らす代物になるに違いない。


俺の冷たい視線を感じてかミムナが睨んできた。


「焼き鳥屋のオヤジ、私にも食わせるのだろ?」

「もちろんですよミムナ。 って言いたいとこだけど、肉だぞ? 食えるのか?」

「生存の可能性を最優先させているこの体は雑食に耐えられる。 食えないわけがなかろ?」

「わしは喰わん! その瓜と水を支度せい!」

「レッドダメだよ! スイカは一個しか持ってきてないんだから、スイカ割りしてからじゃないと食べないんだから! 食べたいんなら参加しなさいな!」


ナームがレッドの言葉に強く反発し休む暇も与えず伝統のスイカ割りに強制参加させる。

タオルで目隠しされグルグル回された後、右だ左だと日頃の鬱憤を晴らすが如くレッドに罵声を浴びせ始めた。

静かになった白い浜辺で繰り広げられたスイカ割り。

パラソル下の日陰で寛ぐミムナと俺は、一夏の思い出を記憶の中に録画していたはずだと、思っていた。

俺だけ。


「ジンジロ、私に報告しておく事はないか?」

「俺がミムナに報告ですか? レッドから指示された作業の進捗はレッドに報告してますよ。 レッドからの報告は届いてませんか?」


スイカ割りの騒がしい連中に視線を向けたまま、いきなりミムナから振られた話。

俺は間合いを開けずに答えた。


「お前の返答によってはサーバーへのアクセス権を制限するどころか、ここでお前の記憶が終わる事態になる事が昨晩起きた。 と私は思っているのだが? お前は・・・。 私の敵、か?」


右手にはいつの間にかちょうどビー玉が砕けそうな木槌が握られている。


「はへぇ? 敵? ミムナの? 俺がですか?」

「質問に質問で返すなバカたれか?! 粉になりたいか!」


目と目が合う。

今までに見た事が無い厳しい光。


「俺如きが火星の王に敵対するなどあり得ないでしょ」

「お前の事はただの研究材料と思っていたが、昨晩の事象を私に伝えないのであれば、この場で別れを告げるぞ。 さらばだ」

「ちょ、ちょっと待って!」


振り上げた木槌が俺に迫る。


「火星に敵対するつもりは今は無い、俺も四郎も!」

「ふん!」


俺の本体が粉砕される直前で木槌は止まり、ミムナの視線が厳しくなった。


「火星の・・・、いや、ミムナの生きる目的を俺らは知らない・・・。 けど、俺も四郎もここへ来る前の時間へ戻る為に行動すると決めている。 その役割を互いに果たすと昨晩・・・確認した」

「ふん! やっぱりナームの家へ突然現れた質量の存在は四郎か。 ニビから帰って来てその返答。 会ったのだな”奴”に」

「そうらしい・・・です。 詳しくは言えませんし知りません。 ミムナの真意を推し量れぬ現状では地球の為にもナームの為にもこの身砕けても言えません」

「私の真意か。 それを探ってレベル5や5プラスのフォルダにアクセスしてしたか?」

「・・・」

「お前の知識では検知し得ないセキュリティーは有るのだよ。 して、”奴”らの侵攻計画は私には教えられんか?」

「月に居る敵は・・・、一人・・・、です。 この身を砕かれても、後は言えません!」


目をつむり、俺は生殺をミムナに委ねる。

そう、昨晩四郎は帰って来たのだ。

地球へ向かって宇宙空間を漂う月の偵察を終えて。



次は、時間は足早に進む

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