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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの魂は仲間に甘い
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新たな大地2



 浮上した大地はインド洋の赤道付近からオーストラリアと繋がった大陸で、後の世の都市伝説ではムー大陸と呼ばれる物だと思う。

そして、ここアキダリの街は伝説通り4000年後には海底に沈んでしまう場所。

レッドはあえてこの場所に都市を建設した。

理由は成長には繰り返される建設と崩壊が必要だと言った。

それも、タイムリミットが決められた崩壊に向けて建設する折れぬ精神だと。

ナームは沈む街の建設を手伝うのに難色を示したが、ミムナから貰ったとてつもない力を発揮する三又の槍がなぜかツボに入ったらしく、レッドの指示の元山を吹き飛ばし高地に巨大な湖を作ったり大地を引き裂き船が通れる河を作った。

多分トライデントと呼ばれるその槍は、矛先から見ると3本の先端が正三角形の頂点に配置してあり地球の水晶とは異なるエネルギー密度の高い物が埋め込まれていた。

火星の水晶を加工したそれは念を込めて振り下ろすと、中央に黒い球が現れ目標物に飛んでいく。

そして質量の大きい物にぶつかると爆縮し対消滅、巨大な岩が砂塵と化す。

浮上したての草木も生えていない大地を思い通りに整地できたので、ナームは街創りゲームをしてる感覚だったのかもしれない。

 計画的に上下水道も配置された更地にドキアからの移民が住み始め植樹と耕作が行われた。

海から吹く湿った風を上手く受け止めれる様に設計された平地と山々。

草木は順調に育ち清らかな水を動物達に与えた。

 俺の知る時代は砂漠化が進行し問題視されていた地域があったが、植樹してもなかなか上手くいかない話は知っていた。

程よく成長した木は一食の調理の為に切り倒され、少しばかりの日陰を大地に作る草は牛の餌となる。

排泄されて次の草木の養分になるはずの糞も人間は燃やしてしまう。

緑だった山を丸裸にして乾いた大地にした大罪人は人間だと思うが、今思えば単なる利権争いだったのだろう。

種の保存や外来種反対等と声高く曰う学者や政治家は、食べ物も水も売って儲けたいだけ。

貧しく渇きの癒えない人間を争わせ憎しみから儲ける錬金術をしていただけだと。

下民にはいつまでも豊かになってほしくはないし、生活に満足してもらっては困るのだ。

故意に格差を作り収奪するシステム。

まさしくアトラで銀星の連中がしている統治そのままだ。

 深い海底にあった塩分を含んだこの大地が、こんなにも早く済んだ清水を与えてくれたのは植物のお陰だ。

日本人は世界でも珍しく自然に手を差し伸べ植物と共存してきたので、手付かずの原生林こそ少ないが緑豊かな山々と豊富な水を持っていた。

多分、シロン達獣妖怪も頑張ったのだろうが、ここの住民も島の水没で多く移り済んだのかもしれない。

西洋は自然界と人間界とを区分けし人が立ち入らない事で自然保護をしていると何かの本で読んだ事がある。

しかし人間が汚した空気や水で生命力の衰えた植物を枯れるままにしておけば、山々は岩肌だらけになってしまうだろう。

幸運にも雲がぶつかる高い山を持たない場所にはナームが力技でやってみせた地形改造か地道な植樹が必要なのだろうと改めて思った。

 


 両脇に木造の平家が立ち並ぶ広い石畳を3人の美女を乗せた巨大な虎が駆け抜ける。

新築の木の香りを感じたナームの深呼吸が聞こえてくる。

未だ地震が多いアキダリの家屋は木造が殆どだ。

大陸にはまだ細い樹木しか育っていないが、水没していったドキアの木を筏にして海上を運んできた物を使用したので材木は十分に有った。

河口から少し上流に港があってドキアからの穀物や鉄器、そして移住希望者が街に入ってくる。

今の住民は5千人を越した程度で計画の100万人にはまだまだ時間がかかるだろう。

人口が少ない為街中で虎を乗り回す奇行をしても行き交う人達は慣れたもので、チラ見はすれども二度見する人間は居ない。

大きな十字路を曲がり宅地整備が終わって新地状態の区画を抜けると若葉の林に突っ込んでいく。

ナームの胸が大きく膨らみ笑みが溢れたので磯風を吸い込んだのだと思った。


「見えた! 海だよシャナ! サラ!」

「わぁー、海だー」


ナームの歓声に少し棒読みのシャナウが付き合う程度で同意する。

彼女達は全員空を自由に飛べる。

ナームとシャナウは昨日もここの近所の浜辺で作業してたのだ、海が珍しいわけがない。

わざと虎の背に揺られて地上の道を選んだのは、さっきの言葉をナームが叫びたいだけだった。

社畜に成りかけて溜まったストレスをこの休日で吹き飛ばしたい気分だなと確信する。

少しそっけない二人をよそに大はしゃぎするナームは一番に虎から飛び降りて波打ち際に走って行った。

二人も砂浜に立ち荷物を広げナームに教わったベースキャンプを設営する。

大きめのレジャーシートにパラソル一つだけで設営は完了。

モガ服の濡れた裾を絞った濡れたままの手で俺はつままれパラソルに向かって投げられた。

部屋で言われた通り自力で骨組みにぶら下がり一曲目を鳴らす。

夏の海に合うスローな永ちゃんの曲にした。

ナームの反応は可もなく不可もなくって感じだ。

もちろん俺は意見や能書きをこの場で口にはしない。

なんと言ってもナームの機嫌をここで損ねれば俺は布に包まれ視界を奪われるか、海中に投げられ魚と格闘する運命になってしまう。

美女三人のキャッキャウフフが拝めなくなってしまう。

サラが虎に労いの言葉を掛けて水を準備すると、ジョナサンの下処理しますと断って林に姿を消して行った。

シャナウは小ぶりのスイカを抱えてパラソルの下にやって来た。


「姉様、これ本当に食べれるんですか? なんか変な色ですよ」

「ちょっと、待って今冷たくキンキンに冷やすからシャナ」


ポシェットから水晶を取り出すと丸いスイカの周りを氷が覆う。


「まだ、完成じゃないんだけどね。 中身は大丈夫、美味しいのよ」


ナームはマンションの近くの畑でスイカの品種改良に励んでいる。

夏の浜辺で食べたいもの1位はかき氷で2位はスイカだったのだが、周りには黒い瓜と緑の瓜はあったがなじみ深い縞模様の瓜は無かった。

いつか来る夏の浜辺に向けて頑張っている途中で今回持ってきたのは黒が2/4で緑が2/4と中途半端な状態。

ダーウィンの進化論を信じ雌蕊と雄蕊を調整したり、タネを切って違う品種とくっつけてみたりとメモをとり系図を書きながら熱心に研究していた。

日中はどちらかと言えばガテン系の作業で左腕ばかりを使っていたので、夜はリハビリがてら右腕で細かい作業をしたかったのだろうが、スイカの品種改良を選んだ理由は『みんなで浜辺に集まってスイカ割りをしたい』だった。

なんでこんな過去に転生してるのに、自分の小さく古い記憶に縛られるのかと聞きたくなったがやめにした。

とりあえずナームが楽しければ俺は気分がいいのだから。

 サラが茂みから羽がむしられ内臓が処理されたジョナサンをぶら下げて帰ってきた。

今回は人間で生まれてきたサラはここの多くの人間と同じく、黒い髪に日焼けしたブラウンの肌ワイルド系の美人さんだ。

3歳位の頃ひょっこりマンションに現れ今年で18際になって間もない筈。

マンションの管理人さんを兼ねた警備をしてくれている。


「サラちゃんごめんね。 私が処理しようと思ってたんだけど」

「シャナウ様のお手を汚す訳にはいきませんし、私は慣れてますから早かったでしょ?」


ナームもシャナウも基本は動物を殺さないので、今回のジョナサン討伐は異例中の異例だ。

ナームを含めて獣に精通したサラでさえ何度も説得したのに思いが届かなかったのだ仕方がない。

シャナウに害獣認定されてしまえばドラゴンですら生きてはいけない。


「そんじゃぁ、調味料と、水晶と、焼き串と。 ここ置いとくから二郎後はお願いね。 さっ! 二人とも泳ぎにいきましょ」


モガ服を脱ぎ下着に手をかけてその場でワンピースの水着に着替え始めると二人を急かす。

今日一番の俺のイベントが焼き鳥の準備中の背中で瞬間に終わってしまった。

走り出した三人が蹴り上げる砂の音を聞きながら、ため息一つついてジャージの袖をまくり一度ジョナサンに向かって手を合わせた。

串を刺して炎の水晶に着火した時上空から聞き慣れた高周波が肌を震わせた。

見上げた空にはニルヴァーの機体があった。

次は、新たな大地3

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