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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの魂は仲間に甘い
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火星人地球侵略



 ドキアの街と巨木樹海の側にあるエルフの館。

その横にはエルフ護衛者の宿舎があった。 

常駐者はサーベルタイガーのサラ一匹だったが、現在はシロンとヨウそれにリンが間借りしていた。


「ここへ連れてきた人間達の生活も大分落ち着いてきたし、お前達の旅の疲れもそろそろ癒えてきたのではないか?」


テーブル中央のオイルランタンを囲む席でシロンが話し出す。


「日本へ帰るのか神狼様、リンはまだここで食べてないお菓子いっぱいあるぞ!」

「リンその呼び名はやめなさい。 現在の我らの故郷はセトと言う名前です」

「ナームはいつも言ってるけど、それはいいのか?」

「ナー姉ちゃんは口には出してないぞリンよ、時々強い想念では発しているがそれは気が付かないフリをしてあげなさい」

「そうですよリン、あなたが子供のフリして相手の警戒心を下げている事だってみんな口にして話したりしないでしょ?」


サラの問題発言に手にした器を取り落しそうに慌てたフリをするリンを見ながら3人はため息をついた。


「サ、サラはいつから? そんなふうに思ってた?」

「最初に河原で会った時からですよ。 ナーム様にあの対応は正解でしたがシャナウ様もお見通しだったみたいですけど?」

「怒ってるのかサラ?」

「まさか、敵意の無い偽りの姿くらい私には分かりますよ。 真意を見せない狐よりは好感は持てますわ」

「そんなにヨウを嫌ってくれるなサラ。 二人の生い立ちは部屋を借りた日に話したではないか」

「狐が人間嫌いでもエルフ嫌いでも何でも構わないけど、ナーム様を避けるのは許せないのよ!」

「私はあの方を嫌いなわけではない・・・、苦手なだけだ・・・。 強大な魂を持って力を秘めておられるのに、思考は短絡で幼い、演技で無いと感じる事に苛立つのだ」


再びリンに3人の視線が向くと「ぐぬぬぅ!」と頬を膨らます。


「まぁ、良くも悪くもナー姉ちゃんは昔っから性格変わってないからな。 知識も増えて力も増したって本人は言ってるけど、姿に変化が無いからなのかな?」

「バーちゃまナームになれば性格も変わるのか?」

「そう成るかもしれないが、数千年先だろうな。 それよりさっきの話だ、そろそろ戻ろうと思っているのだが?」


リンは二人に任せると仕草で示して子狸の姿に戻り、壁際に準備された藁の寝床で丸くなった。

サラは風除けの布をリンの背中に優しくかけてやる。


「この街も人間も十分観察できましたから出発はいつでも構いませんが、新しく作ったと言う山の街を帰りに立ち寄りたいのですが」

「連れてきた人間達がこれから住む場所が心配か? それとも、ペイン達がドキアに仕掛けてくる戦いが心配か?」

「アレクの街のペイン、ですか? そいつはリンが喰らってしまいましたけど?」


意表をつかれたのか数秒固まったシロンが寝息を立てるリンを振り返る。


「お前達二人、俺たちと別れてからあの街で何をしていた?」

「船旅の為に金貨が必要なのを知りましてレースに参加し手に入れました。それから私とリンがペインから強引に夕食に招かれ屋敷で酒を振るまわれ食事してると肉を粗末に扱うペインにリンがいきなり腹を立てまして・・・」


ヨウの言葉を手のひらで制してため息をつく。


「アレクの街はどうなった?」

「廃墟になりました。 女、子供に少しの怪我人が出ましたが武器を手にした男達はリンの腹の中です。 その一件で船がなかなか手に入らず日数を要しました」

「その話、報告は来てなかったな。 水晶の三郎は何と?」

「私は持ってません。 うるさいのでテラミスに持たせました」


平然と言ってのけたヨウから視線を外しサラを見る。

あの地の輩の災難が相当嬉しいのか怖いくらいの笑顔だ。

三郎が二郎に連絡していないのは考えにくい。

二郎は多くの人間が死んだ事を承知でナームに負担に成らない様に知らせなかった?

だとしたら、今後この話題はしない方が良さそうだ。


・揺れてる!


寝息を立てていたリンが立ち上がり長い髭をピクピク揺らしている。

少しして足元から振動が伝わってきて地震だと感じた。


「最近多いのよ地震。 あまり大きく無いんだけどね」

「そうなのか? リンどっちだ?」


鼻と耳を細かく動かし突き出された前足は真南を指していた。


「ここを出立する日は明日ナー姉ちゃんと話して決める。 ヨウの行きたいと言った山の街とここから南の地を調べてからになりそうだけどな」


ヨウは黙って頷きリンは藁の上で再び丸くなった。

まくれた布をリンに掛け直すサラの表情は少し寂しさを帯びていた。




 早朝ミムナに呼び出され数名のエルフと共に鳥ちゃんの背に運ばれて雲落の巨人の所へ来ていた。

広場の清掃途中だったので小言の一つでも言ってやろうと足早に執務室に向かった。


「呼ぶのはいいんですけど、朝早過ぎると思うんですけど!」

「おー、来たかナーム」

「ミムナおはよう」「おはようございますミムナ様」「おはようございます」

「みんなおはよう! さぁ、こっちだ、私について来い!」


挨拶もそこそこで小走りに駆け出すミムナは私の小言を気にせず上機嫌だ。

後を追い廊下を進むといつもお世話になってる医務室へ到着する。

室内には処置代の横に小さなベットが置かれていた。

数は5つ。

赤青緑桃黄と鮮やかなタグが目を引いた。

満面の笑顔で手招きされてベットに近づくと低い柵で覆われた中に小さなエルフが寝かされていた。

生まれて間もない赤ん坊が。


「ミムナ生まれたんですね!」

「おうさ! シャナに色々手伝ってもらったから計画通り順当に皆五体満足に生まれたぞ!」

「あら、可愛い赤ちゃんですね」

「本当に!」

「エルフの赤ちゃんですわね」


里から同行したエルフの女性達は溶ろけそうな目尻で柵の中を覗き込み、ミムナは小さな胸を目一杯にのけぞらせて褒めてもらいたいらしい。

シャナウは忙しなくベットを行き交いながら変顔を作ってあやし始める。

私も赤いタグが付いた一つの柵に近づき爪先立ちで覗き込みむ。

可愛い・・・、が大きい。

私はドキアの街の人間達の赤ん坊を何人も見てきてが、目の前の赤ん坊はサイズが二回り以上大きい。

身長は人間の3歳児並みだ。


「ミムナこの赤ちゃんは? もしかして・・・」

「そうだ! 地球侵略の第一歩だ!」

「いや、いや。 そうじゃなくて、お母さんはミムナなのか? 5人も一気に産んだの」

「・・・私はお前の常識を疑うよ・・・。 大丈夫か? お前と別れたのはいつだ? こんなデカイ赤ん坊をこのお腹に孕んでいたとでも言うのか? それも5人だぞ!」 

「ん、あ、それは分かるんだけど。 遺伝子とか卵子とか・・・、父親とか誰かなって?? 地球侵略?」


初めて見たエルフの赤ん坊、どおしても一番先に頭に浮かんだのは赤ちゃんの両親の事だったので機が動転していて、ミムナの地球侵略の言葉が尖った右耳から尖った左耳へ脳味噌をスルーしてしまっていた。


「ナームが分かり易くするのにちゃんと役割別に色分けもしたんだぞ! こいつがまとめ役のレッドで、こいつがクール担当の青な、でもって・・・」

「そこは、説明しなくて結構! どうせ私を揶揄う為に準備したんでしょ?」

「つまらん、もっと話題を広げて今後の侵略計画を説明しようと思ったのに!」

「姉様・・・、ミムナはこの赤ん坊の為に寝ないで機器の調整や監視をずっと一人でやってたのです。 多分疲れから来るHi、なんだと思います」


シャナウが耳元で囁く。

そう言われればこんなに饒舌にふざけたミムナは火星の酔っ払いお姉さん以来だ。


「ハイハイ、ミムナお疲れ様。 一人で大変なお仕事お疲れ様、この子達の面倒見させに私達を呼んだんでしょ? あとは任せて休んでもいいわよ」


少し呆れ顔で椅子に身を投げるミムナを確認してからベットの柵を下にずらしそっとレッドを抱かせてもらう。

大きくて重いがとっても可愛い。


「ぱぶ〜!」落とすでないぞ預言者ナーム

「そんな事するわけないでしょ、・・・?」


腕の赤ん坊と視線が絡む。

伸ばされた小さな手が私の頬に触れ順に胸をさすり始めた。


「あらあら、私のおっぱい欲しいのかしら? お腹が空いてるの?」

「あぎゃ〜ぁ」この『ちっぱい』ではわしの腹は膨れん、成長が遅れるではないか! あっちの娘の乳を飲ませろ!


腕の中の赤ちゃんは両手をいっぱいに伸ばし、近くのグラマーエルフ女性を求め泣き声を張り上げる。

聞き覚えのある男の声が赤ちゃんの鳴き声に混じって違和感が半端ない。

私があやしきれないと見て手を伸ばされた里のエルフが受け取り、求めれれるままモガ服の胸元を開き乳房を吸わせた。


「はむ、はむ」これこそ成長の糧となる乳! 預言者ナームの『ちっぱい』では、わしは餓死させられるところじゃったわい

「おい! 待てこら! さっきから頭に話しかけてるのはお前か!」

「はぁ〜あ?」いかにも。 わしの名はレッド、地球侵略火星軍の総督である!


抜け抜けと言い切った赤ん坊に指をさし、ミムナに問い正そうと近寄る。


「叔父上、しばらくは赤ん坊でいて下さいと・・・、先程お願いしたではありませんか?」

「ぶぃぅ〜」わしが空腹なのに乳も出ない『ちっぱい』を近付ける等と、愚かな事を預言者ナームがするからじゃ!


妙に高かったテンションがいつも通りになったミムナはゆっくり立ち上がり、3名のエルフに赤ん坊を託すと私とシャナウを指差して別室へ招いた。


「あいつ、あいつナームのオッパイを『ちっぱい』って言った!」

「お前を会わせたのは失敗だった。立て込んでた問題が一区切りついてちょっと私は浮かれてたようだ。 叔父上も自由になったからと言ってよりによってナームを揶揄うとは・・・」


小さなテーブルを挟んでミムナと向き合う。

シャナウはしきりと振り返ってるところを見ると赤ちゃんの方が気にかかるらしい。


「ミムナ叔父上ってまさか?」

「火星のひだまりで会ったろ? 隣の部屋の赤ん坊は全員あの席に座ってた長老連中だよ」


私をグレイ山上と呼び横柄な態度をとった火星元老院の巨人達。

侵略軍総督とか言ってたからマジもんで地球乗っ取りしに来たのか!


「地球侵略って本気だったのか?」

「昔からナームには言ってたはずだが? 突然の銀星の攻撃で火星は壊滅、計画が前倒しになったまでの事。 それに銀星自体の侵略目標もこの星なのだと知っておろう?」

「それは、聞いてたし、知てるけど。 赤ん坊5人で侵略とか・・・」

「記念すべき計画の1ページナームが来たついでに現場で立ち会ってもらっただけだ。 火星の地球侵略が気に食わなくてお前が阻止したくば、この場であいつらを殺せばいい」


挑戦的な瞳で見られても、私に抵抗できない生まれたばかりの赤ちゃんを殺す事なんて出来る筈が無い。

それに今までミムナは人間も自然もエルフに見守らせ調和の道を歩いてきた、侵略計画が決まっているのならば教えてもらって身の置き所を決めればいい。


「赤ちゃんを殺すとか簡単に言わないで! もっと、こー、んー! ちゃんと説明して!」

「そうだな、概略だけは話すとさっきも言ったであろうに、自分で勝手に盛り上がって私の話を打ち切ったのはナームであろう?」

「・・・はい、・・・そうでした」

「まったく。 話を最後まで聞かないで勝手に思い込む癖はいつになったら治るのだ?」

「今後精進するよう努力します」

「違う! 精進します。 だ!」

「はい、精進しますっ!」

「そうしてくれよ。 お前の軸がブレブレだとこっちの計画も定まらんのだからな!」


ナマ返事を返すときつく睨み返しテーブルの上へタブレットを乱暴に置く。


「お前達二人を今朝ここへ呼んだのは、急ぎこの話をする為だ。 侵略の1ページ目に立ち合いして貰ったのはついでだ」


タブレットを操作するとテーブル上の空間に地球の3D映像が映し出された。

次は。ミムナの計画

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