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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの魂は仲間に甘い
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四郎のたくらみ2

四郎のたくらみ2


 両腕を頭の上に目一杯のばし、踵をお尻に近づけ全力で宇宙空間を掻き分け蹴りつける。

グレイナームが宇宙遊泳した時の平泳をジャージ姿の中年が必死の表情で繰り返す。

傍目から見たら空気も水も無い場所で何をやっているのかと嘲笑されるかも知れないが、実は試して効果があった俺が一番びっくりしている。

山上の記憶では大気圏外の宇宙は何もない虚無と思っていたが、何かまでは分からないが密度が低いが明らかに手の先足の先に抵抗を感じた。

俗に言うエーテルなのかミューロンなのか光子か、それとも電波とか重力とかなのだろうか?

とりあえず100回もがけば速度が1ミリ/秒加算される。

向かっているのは射出ポッドで一緒だった懐中電灯。

今の俺のサイズ感で10m先に浮かんでいる。

 3軸回転で最大光源の太陽があっちこっちと位置を変えて目が回り、吐き気を止める為に手をばたつかせていたら回転に変化が生じているのを発見し、モーメントを打ち消す方向へ何度も何度も手を振った。

そして回転が収まると自分の周りに散乱する機材が確認できた。

レールガンで射出された時の弾丸と緩衝材のジェル、俺より一回り大きい黒い球体に単4電池に麦球を付けただけの懐中電灯。

 正確に2000回宇宙を掻き、懐中電灯を凝視し接近を確認する。

微量であるが双方の距離が縮まっていれば後は慣性が運んでくれる。

手にしたら元の飛行コースに戻る為また泳がなければならないのだ、焦る必要はない。

銀星の爆散によって撒き散らされた細かなチリは、太陽の質量に惹かれて集まっているのか、周囲は霧が立ち込めた夕暮れに似ている。

音速の20倍を超える速度で月へと向かっているとは思えない静けさだが、俺は焦っていた。

宇宙で泳げる事は確認したが必死こいて手にした速度は、20㎜/秒だ。

マッハ20を打ち消したその上に、地球に向う月の速度分も打ち消さなければ相対速度はゼロにならない。

今試した平泳ぎでどうにかなるものではない。

最悪重力ターンで月の周回軌道に入れれば良いが、ホストコンピュータと通信ができない現状で進入速度も角度もわからない。

失敗は永遠の放浪者が太陽に捕縛されての蒸発の運命だろう。

地上ではナームの様に空を自由に飛べたので、もしかしたら宇宙に出ても真空の魂とかあって自由に飛べるかもと思っていたのは我ながら浅はかな考えだった。

反省しつつ次の策を引っ張り出す。

プランAがダメならプランBに進むだけ。

俺自身がナームだった記憶と意識体として別れて外から観察した結果、ナームはかなりの不思議ちゃんキャラに成っていたとわかった。

エルフの規格外の力を当たり前のように行使しているのに気がついていない。

キャロルちゃんとの一戦で使った氷の矢や光の矢、ましてライト○バーとか即興で使ってみせたが、その非常識さに気付くどころか「エルフなんだからできて当然!」とまで思っていた。

ミムナに乗せられて魔法少女の服を着れば、簡単に竹箒で空を飛んだりもする。

シロンの真似をして手で風の斬撃も出したり今思えば無茶苦茶していた。

しかし一旦離れて外側から見てみると、ミムナやシロンが故意にナームの能力を向上させているのが感じられた。

俺が理解したのは『この世界は思考が現実化する』って事だ。

主観実現力とでも呼ぼうか?

ナームは意識せずもう神様の領域まで足を踏み入れてるのに気がついていない。

あの時、小汚い中年がエルフの少女になる不思議が起きた。

その世界のエルフは不思議な力を使って空を自由に飛んでいた。

当然自分にも出来ると単純に意識深層に記憶され、空を飛んで風を操り水を湧かせた。

そして思い付いた事を次から次へと現実化させてきた。

それは外見と置かれた状況からくる思い込みの深さが成してきたと俺は悟った。

拍車を掛けたのは、様々な魂の存在だろう。

もし不思議能力の源が『魔力』とか『マナ』とかの呼び名だったらナームは使えないと諦めていたかもしれない。

万物に宿る魂は八百万の神が居る日本人の真相意識に深く根付いていて素直に受け入れられた気がする。

ナームの力の底上げを目論むミムナの最終目標は分からないが、シロンは自分の立ち位置は女神を守る神獣だと俺に教えてくれた。

最強の女神を守る最強の神獣になるのだと。

今後とも二人に無理難題をけしかけられて、何となくこなしてしまうだろうと思うと俺も頭が痛い。

しかしここはナームを見習って俺は不思議ちゃんに成らねばならない!

俺だけの現実を俺の意思の力で作るのだ!

 伸ばした手の先に収まった懐中電灯を小さい光の点になった地球に向け点滅させる。

無・事・飛・行・中

同じ内容のモールス信号を放ってから胸元に引き寄せ強く握りしめる。

そう、俺はやる!

地球を救うヒーローに成る!

宇宙怪獣をやっつける為に、Mー7X 星雲からやってきた、あのいかした赤と銀のボディースーツのスーパーヒーローに!

散らばった原色絵の具が渦を巻き、タイトル画面が出てくるのを鮮明に脳裏に描きながらライトを点灯させ変身シーンのポーズをとった。


「シュワッチ!」


閉じていた目を開き顔の前に手を翳す。

見事に赤い手袋をはめて腕は銀色だった。

成功だ! 大成功だ!

俺の意識も自分の姿を変化させられるまでに強化されていたのだ。

喜び勇んで懐中電灯を回収した位置に向けてあのカッコいい「売る虎マン」の飛行姿勢をとった。

気合を入れて「ワッチィ!」と叫んだ。


「・・・」

近くにある黒い球体との位置が少し遠ざかっているからベクトルに変化が生じていないんだと気付く。

何度も声を張り上げて飛行姿勢に力を込めるも変化無し・・・。

ライトを離しとりあえず無心で2000回平泳ぎで宇宙を泳ぐ。

黒い球体の距離が変化していないのを確認して膝を抱え体躯座りの姿勢。

何が足りないのだろう?

この姿はバッタライダーより爆発5色ジャンプより宇宙向きだと確信していたのだ。

ナームはちゃんと魔法少女になれたのに、俺はヒーローになりきれていない。

問題は大きさか?

赤銀スーツは確か身長40mだったはず。

俺は20cm足らずで変化はない。

それに全身をしっかり見ると、スーツが体に密着していなく子供が寝巻きに着るキャラクター着ぐるみみたいに安っぽい。

分離したこの意識になって姿も山上に時代の物となり、不幸は全部周りのせいだと思い込み、そして塞ぎ込んでた無力でた孤独な中年の現実を俺は思い出してしまったのだろうか?

努力しても報われない理不尽な世の中現実を。

胸の前で組んでいた腕が赤く光る。

忘れていた・・・、ヒーローのタイムリミット、3分を知らせる点滅。


「そこだけは忠実に再現するんかい!」


言い終わらないうちに姿は緑のジャージーに戻っていた。

理解していた、わかっていた、あの小さな独身寮の部屋の中で酔い潰れる日々でも。

知識が足りなかったのだと・・・、選択した行動が間違っていたのだと。


思慮深さ・・・(基礎知識・周囲観察眼・未来予想)


「急いだり、焦ったりしちゃダメ! くっふっ!」


ここの時代へ飛ばされた時の思いが蘇りシャナウの声が聞こえた感じがした。

そうだ、どんな状況でも俺は後悔しない道を選ぶと決めたではないか!

抱えた膝の腕を解き座禅の姿勢に変える。

瞼を閉じて深く深く内心を見つめる。

小さな水晶玉の奥で輝く小さな意識を見つけ今成すべき事を再確認する。

プランはまだまだ準備してきた。

薄魂体の変身で上手くいかないのであれば火星の科学技術もある。

サーバーの中に有ったニルヴァーが空間を移動する原理。

理解するのに時間がかかったが簡単に言えば物体の質量を変化させ、0.9%〜119.9%の間で増減させる。

周期が1MHzを超えると物質は磁力線と反磁力線と共鳴し推力を得る。

アインシュタインさんが質量の変化はエネルギーの増減とか言ってたので何となく理解したが反磁力はs極n極の事では無いと理解するには時間がかかった。

理科の実験で磁石の上にプラ板を置いて砂鉄を振り掛けると幾重にも黒い線が現れるが、磁力線は鉄を引き寄せる線と鉄を彈く線2本を周囲に作用させていたらしい。

見えないが有るのだと思い込むしかない。

モーターで車を動かしたりダービンで発電したりするには反磁力線は考慮に入れなくても作用するが、地球を取り巻く磁場から電力を生み出し続けるフリーエネルギーとUFOの飛行には不可欠な知識。

地球から離れて飛び続けるこの俺も地球の磁力も太陽の磁力も確実に届いていて、実際に影響を受けているのだ。

目には見えない周囲を交差する磁力線と反磁力線の波を乗りこなす事で空間の移動は可能。

エネルギーの増減?

簡単だ、俺には時間を飛び越えた不思議ちゃんナーム譲りの精神エネルギーがあるではないか!

思考の中でエネルギー増減を単気筒のピストンに置き換える。

キャブから吸い込むのは俺のナームへの思い、娘の様な恋人の様なこの身に変えても守りたい強い思い。

シートに跨り右足でキックスタートを踏み込んだ。

スロットルを絞ると回転計の針が振れ1MHzを超える。

左足でギアを1速に入れ、握ったクラッチレバーを離すと妄想内のS Rは宇宙空間を駆け出して行った。



 夕霧で霞む無重力空間を突っ走る単気筒のS R。

と、俺の脳内には変換されているが実際は10mmの水晶玉。

宇宙空間で自由な移動を模索した結果、形状は流線型の飛行機でもなければアダムスキー型のU F Oでもなかった。

物理と化学の知識では否定されてしまいそうな星間移動法に俺はロマンを感じてしまう。

煙突から黒煙を吐きながらアンドロメダに向う超特急列車や、海底に沈んだ大戦の戦艦が放射能除去装置を手に入れる為に旅立つ話。

心沸き立つ思いでテレビにかじりついてた幼い頃を思い出す。

その影響で宇宙空間なのに内燃機関の単車なのかもしれない。

行きたい所に気軽に連れて行ってくれる乗り物は俺にとってはこいつしか思い浮かばなかった。

自分の知識外を否定し、他者の行為にダメ出ししか出来ない奴らは、出来る分け無いと言うだろう。

想像力の乏しい連中よ、俺はS Rで月へ向かうぞ、無理と嘲る前に自分で宇宙を飛んでみろ!


「ヒャッハー! 最高! 海岸沿いのバイパスも爽快だったけど、宇宙も気持ちいいー! 俺の単車は最高にイカしてるぜ!」


誰にも聞こえないと思うと不思議と大声になった。

ハンドルを左右に小気味よく振りながら進行方向から飛んでくる岩石を避けSRを蛇行させた。

こんなのもし帰れてもナームには教えられないな・・・、絶対バカにされる。

浮かれた気持ちを少しだけセーブして一路月を目指す。

 レールガンで初速は得たとしても向かう月は未だに火星公転軌道の外に存在するため時間はかなりかかる。

地球には4600年後の到着なのだ。


次は、火星人地球侵略

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