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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの魂は仲間に甘い
124/156

テパの決断



 見慣れた天井が目覚めた視界に入ってきた。

雲落の巨人の所でいつも使わせてもらっているい部屋だ。

寝巻き姿で仰向けになっていて薄手の布団が掛けられていた。

足元が窮屈だと思ったた子犬のシロンが丸くなって眠っている。

銀星の管理地で大怪我をしてここに運ばれ切り飛ばされた腕を治療する為、ポットに閉じ込められたのを思い出し右腕を確かめると、繋がっていた。

白くて細い包帯が巻かれて傷口は確認できないが、指先はしっかり動かせたし触感も以前と何も変わらない。


・おはよう姉ちゃん

「おはようシロン。 どのくらい寝てたのかしら私?」

・5時間ぐらいじゃないかな?


カーテン越しに差し込んでくる陽の光が部屋の奥まで届いているので早朝なのであろう。


・今シャナ姉ちゃん呼んでくるね


シロンがするりとベットから降りて部屋を出て行ったのを見届け、右腕を使わない様に気をつけながら私もベットから降りる。

雲落の巨人が生活するサイズでできている為部屋は広い。

遺跡の水金があった地下空間と同じくらいかなと思うと、あのリザードマンに対しての怒りが再び込み上がったくる。

軽くストレッチを始めて体が温まった頃シャナウが子犬の首根っこを摘んで部屋に入ってきた。


「シャナおはよう!」

「おはようございます姉様!? ベットから起きちゃまだダメです! 怪我人なんですから!」

「え? 痛みはないしちゃんとくっついてるみたいだよ、この腕」


腕をブンブン振り回してみせる。


「やめて、姉様! まだちゃんとくっついてませんから! そんなに乱暴にしたら飛んでっちゃいますよ! 先生の許可が出るまで安静にしてないと、さっ、さぁ〜」

「腕が飛んでくとかいつの時代のロボットアニメだよ・・・」


急かされるままベットに戻ると横にさせられる。


「火星の技術ってすごいな。 切断された腕がこんなに簡単にくっつくんだもんなぁ〜」


天井に向けて伸ばした右腕をシャナウが掴み布団の中に押し込む。


「めっ!」


叱られてしまった。


「完治までどのくらいかかるんだろう?」

「早く治して仕返ししに行きたいんですか姉様?」

「もちろん! 私が大事にしていたナームの身体を傷物にしてくれた報いをに受けさせねば、私の怒りが収まらないわ」

・そん時は俺も行くから

「あんたが居たのに姉様はこんな事になったのよ、ダメ犬役立たず!」

・だからその理由は何度も説明しただろ? ミムナだってしょうがないって・・・

「言い訳は聞き飽きました。 少しは期待して任せた私が馬鹿だったわ。 今後はダメ犬には姉様を任せませんから!」

・俺だって昔よりは強くはなったんだ! 今なら姉ちゃんにだって負ける気はしないぞ!

「ふん! 一回も私の背中に土を付けた事が無いくせに!」

・そんじゃぁ、外に出るか?

「訓練場で十分よ! キャロルちゃんに見届けやくしてもらうから」

「こんな朝早く怪我人のいる部屋で兄弟喧嘩か? お前たち二人ほんと仲がいいよな。 これじゃナームもしっかり体を休められまい?」


白衣姿のミムナが入ってきてナースと子犬の言い合いはストップさせられた。


「おはようミムナ、ありがとう腕直してくれて・・・」

「まだ治っちゃいないからな! シャナ私がいいと言うまでこれを使わせてなさい」


大きな白い布をシャナウに渡して腕を胸の前で固定する仕草をする。

骨折とかした時に使う三角巾なのだろう。

大きく頷き返し綺麗にたたむと私の枕元にそっと置き「めっ!」と語気を強めて釘を刺した。

天井を向き深いため息が漏れた後ミムナに聞かねばならない事があったのを思い出す。


「ミムナブービートラップなんだけど・・・」

「話はジンジロから聞いたよ、あと水金の部屋の話もな」

「銀星の連中トラップ作動させちゃったんですかね?」

「お前達があそこに行った時に奴らが船を発見して起動させたのであれば・・・、今日の昼にこの星が取り囲まれていてもおかしくはないが、周辺の重力波の観測ではその兆候は検知されていない」

「宙族は地球に向かって来ていない?」

「現時点ではの話だ。 そうなると、逆に奴らが事前に発見し無効化してからあの施設を利用している可能性が出てきた」

「施設ですか? あの稼働している小さなピラミッドの事ですか?」

「あーそうだよ、魂をリセットする忌まわしいピラミッドが今でも稼働しているとは・・・。 それと新たな問題も発生してしまった」


ミムナは応接セットの椅子に背を預けてから私を真剣な目で見つめてくる。


「問題? 私が? なんかしちゃダメな事しましたか?」


向こうでは結構好き勝手やっていたから思い当たる節が多すぎてどれだかわからない。


「大事なナームの体を傷物にしてしまったのはすみませんでした。 本当にごめんなさい」


まずは直近のことから謝っておこう。


「怪我はいい、生物は壊れるし死にもする物、その事ではなく・・・、場所がまずい」

「場所? 怪我した? あの遺跡の部屋の事ですか?」

「そうだ、あそこはピラミッドが集めた魂達が分解初期化されて地中に戻される場所だ・・・」

「あの水金がもしかして初期化された魂?」

「そう、この星の質量増加が降ってくる星の欠片と水を合わせても合わなかった原因は水金であろうことはわかったのは良いのだが、あの場で怪我をした時にお主の血液が取り込まれたであろう?」


脳裏に小さな球になった血液が床を転がっていく光景が蘇る。


「まず、かっ、た、ですか?」

「わからんから問題なんだ!」


頭を掻きむしる白衣の美少女エルフ。

態度はデカいが叡智を持って感情を表に悟らせないミムナがこんな取り乱し方をするのは初めて見た。


「どうなるんでしょうか?」

「知らん! 考えたくはない!」


相当何度もシュミレーションして悪い結果ばかり出たのか思考放棄したいみたいだ。

乱れた前髪奥から私を睨むジト目が井戸から這い上がってきたヒロインのそれだ。


「と、ところで。 銀星の管理地によくニルヴァー迎えに来れましたね?」


深く考えたくない私は話を別な方向へ向ける。


「グローズの方から連絡が来てミムナがリモート会談していた時に、二郎から緊急連絡が来たんですよ姉様」

「あぁ、お前達が遺跡に近づいてると知って、あ奴私に探りを入れて来よったのだ。 迷子になっている同胞を保護する為ならば上空飛行を一時容認するとな。 厄介払いしたかったのであろ?」

「グットタイミングだったんですよ姉様。 ピピタちゃんの緊急発進も見事なものでした。 走ってる姿初めて見ました」


そっけない素振りだったピピタちゃんだけど、私を迎えにくるのに走ってくれたんだと思うとなんだか嬉しい。


「まぁ〜、思わぬ収穫も沢山あったから遺跡の地下での出来事を除外すれば、切り飛ばされた腕をくっ付けてやった恩は貸し五つ! ってところだ」

「五つもですか?」

「当然だ、壊れた細胞一つ一つを修復して正確につなぎ合わせるのに、この施設のエネルギーどれだけ使ったと思っているのだ? ニルヴァーだって高速超える飛行は膨大なエネルギーを消費するのだぞ! 後で明細見せてやるから確認しとけ。 貸し五つでいいんですか?ってお前から言いたくなるはずだ。 私の優しさに涙を流すかもな!」

「ミムナの優しさと寛大さにはいつも感謝してますって」

「どうだかな? まぁ、こちら側で居る限りは面倒は見るが、それじゃ私はまだまだやる事があるんで行くが、右腕には何もさせず3日はこの部屋で過ごせ、そして外に出る時はシャナを同行させ私から許可が出るまでは腕の固定は絶対外すなよ!」


手櫛で髪を整えながらミムナは足早に部屋を出ていった。

魂があのピラミッドに吸われて水金に変えられ地球のコアに流れ込んで重力が大きくなる?

それに私の血液が微量に混じった? 何それ? 私にどうしろって言うの?

ミムナとの会話内容を思い出しながらこれからの予定を考えてみたが何も浮かんでこない。


「やりました! 許可出ました姉様! これから姉様と一緒の生活がまた送れます私! 弱っちい犬っころじゃないから安心してくださいね! 絶対無理させませんから」

・まだ言ってるし・・・

「さっさ、姉様は怪我人なんですからゆっくり寝て下さい。 眠ったら犬っころに上下関係を分からせてあげますから♪」


シャナウの不穏な発言に眠っちゃダメな予感がして、アトラでの土産話とミムナの助手の仕事内容を丁寧に聞いて時間を費やした。






 ミムナの指示通り3日間を雲落の巨人の部屋で過ごした。

うっかり寝てしまった後、シャナウとシロンがボロボロになって帰って来た時は驚いた。

双方とも目が血走り闘気を剥き出しのまま入室して来て、勝負に決着がついていない様子だったので私から薮を突っつくのは止めておいた。

都合3回対戦し3回目にシロンが「参った」を言ったらしいが、逆にシャナウがそれを認めなかったらしい。

不毛な戦いにシロンは終止符を打ちたかったのだろうが、姉の威厳が弟の譲歩察しそれを受け入れなかったのだろう。

武器に縛りをかけず二人とも人の姿で対戦したたしい。

シャナウであれば上位装備『黒柱』もあるしシロンであれば『神狼』変化もできる。

奥の手を使わないまでも本気の戦闘をしたらしい。

シャナウが「犬っころ」から「シロン」に呼び方を変えたので、弱くないのは認めたのかもしれない。

その強さを認められたシロンは課せられた受難に合っていた。

体調が戻ったポロアを連れエルフの里に帰ってきて早々、シロンはサラに捕まり地面と肉球に挟まれて今に至る。

東屋に居るここ2日の定位置として。


「そろそろ許してやっても良いんじゃない? サラ?」

「ダメです! 狐を使って私達を騙した分とナーム様を守れなかった罰としては軽いくらいです!」

「そうです姉様! 下僕としての立場をわからせてあげているのです。 これは躾けです!」


ポロアの傍で仕事を見守る艶っぽい人形サラが語気を強める。

ポロアはミムナから健康診断と事情聴取?とやらを受けてすぐに解放されてドキアの住人に保護される事になり、今はテバの店のお手伝いを勉強中だ。

躾けられている子犬のシロンは呆れているのか反論せず、二人の気分が晴れるのを待つ戦法に徹している。

実害は有って無いが如しなのだ「私は正解だと思うよシロン」心の中で労っておく。

いつものおいしいお茶とお菓子をご馳走になっていると、ゆっくりとした足取りで老婆姿のテパがやってきた。


「皆様、私もご一緒してもよろしいかな?」

「もちろん、さっさ、ここに座って」


腰をずらし私の隣に座る場所を確保しテパに手招きする。

年老いて動きはゆっくりとなってしまったが、席に座った背筋は強い意志と同じでまっすぐ伸びている綺麗な姿勢だ。


「ナーム様が怪我をなさるとは・・・」


この場で何度も聞いた言葉をつぶやく。

右腕を固定した私の姿を見て一番驚いたのはテパだった。

これまで争い事に関心を示さなかったのに細かい状況も珍しく熱心に聞いてきた。


「テパ、もう心配しなくて良いのよ? 痛みは無いしちゃんとくっついてるもの」


掌を握って見せ三角巾から外した腕をブンブン振って見せる。


「めっ!」


シャナウには叱られてしまったのでゆっくり腕は三角巾の中に戻す。

テパは少し首を振ってみせてシロンの方へ首を向ける。


「シロン、お前がその生まれた体の土地に帰るのはいつじゃ?」

・こっちに向かっている仲間がいる。 そいつらが到着して疲れを癒してもらってからに成るだろう。 半年はここに居させてもらいたい

「お前を追い出したくて聞いたのでは無いのじゃ。 その予定であれば間に合いそうじゃから・・・、帰りのついでに私の道案内を頼みたいのじゃ」

・・・・わかった

「何勝手に安請け合いしてんのシロン! テパのこの体でセトの島まで行

けるわけないでしょ!」

・姉ちゃん、テパは・・・

「私から話すよシロン。 ナーム様、私はナーム様の笑顔が大好きじゃから、その為に生まれその為に生きてきた。 今生は間も無く終えるじゃろ。 次はシロンと共にエルフの、ナーム様の盾に成ろうと決めたのじゃよ」

「盾って! テパ、こんな私の為じゃなく自分の事一番に考えて生きて頂戴!」

「考えておりますよナーム様、私の一番の喜びはナーム様の事を思い生きる日々ですから」


周りのみんなは何も言わない。

子犬のシロンが巨大な豹の前足を跳ね上げ人間の姿になりテパに歩み寄る。


「ではその時、友として迎えに行き道案内を務めさせてもらおう」

「頼むぞよシロン」


伸ばされた手をテパが握り返す。


「ねぇ、なんでみんな何も言わないで黙ってるの? テパがここから居なくなっちゃうのよ?」

「人は、どう生まれ、どう死ぬか、そしてどう生きるか、その魂が決めるのですよ姉様」

「だけど、そうかもしれないけど、私の為とか、私の笑顔とか言われても・・・」

「俺たちがナーム様を想う事が重いとか相応しく無いとか思ってますか? それは大きな筋違いですよ。 俺が俺を称賛する生き方を選んでいるだけです。 サラもそうでしょうしテパもそう。 

このドキアに住む人間も動物も虫や草木ですらその根幹で生きているんです。 ナーム様はナーム様の生き方を貫けば良いのです。 想いに相応しくないと言うのであれば、もっと大きく、もっと強くなって下さい」


深く腰を折り一礼してから子犬の姿になって豹の肉球の下に潜り込んでいった。

居合わせた面々はいつに無く晴れやかな表情で、私だけが納得していない顔をしていたであろう。

そう、将来への目標はあっても、みんなが持っている生きる意味の確固たるものを私は持っていないと感じてしまったから。

次は、にぎやかな樹海

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