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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの魂は仲間に甘い
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強制送還



 薄暗く狭い船内にはピピタちゃんが操縦席に一人座っていた。

見えない力に拘束されてた体が床にゆっくり移動し着地すると肢体に自由が戻ってくる。

同じく仰向け状態で浮んだポロアには床がせり上がり寝台に寝かされた状態になった。

私の足元には斬り飛ばされた腕と子犬が居て不安そうな唸り声を出していた。


「ナーム乗った。 無いか? 忘れ物?」


こちらに向き直らず操船コンソールをいじりながら聞いてくる。


「ちょっと、ピピタちゃん! いきなりアブダクションとか聞いちゃいないわ! 私トカゲ野郎をミンチにしに行くから降ろして頂戴!」

「忘れ物、無いか?」

「忘れ物? う〜んと。 竹箒は・・・池の辺りに立て掛けてたっけか? まぁ〜、あれはいいけど」

「よし!」

「え、よく無いから、私やり残した事あるから降りたいから、ハッチ開けてピピタちゃん!」


コンソールのボタンをひとつ押して操作を終えたピピタちゃんが椅子から立ち上がりポロアの方へ近づく。

まだ意識が朦朧としているのか半開きになった瞼で私に助けを求めてくる。

体の自由が効かない状態でいきなり初めて見る宇宙人のグレイが近寄ってくるのだ、恐怖に感じても仕方がない。

急いで寝台に寄り添い私の友達だからと説明してあげると体の緊張は緩んだように見えた。


「友達じゃない! 今のナーム!」


強い口調で拒絶された。

火星への宇宙旅行で仲良くなれたと思っていたのに、グレイからエルフの姿に戻って親密度も元の位置まで格下げされてしまったようだ。

寝台から幾つか細いアームが伸びてポロアの体に光を照射し始めた。

家畜の内臓や血液を抜き取るグレイの話は知っているが、人間には無関心でもピピタちゃんは治療をしてくれてるのだろうと良い方向に思うことにする。

本質的には悪い子では無いのだ、多分・・・。


「いや、そんな事より、お願いピピタちゃん! ハッチ開けて私をおろしてちょうだい!」

「ナーム、うるさい。 犬っころも、ナームもあっち行け!」


3本指を空中にかざすとハッチの開く音が聞こえ、壁の一部が開き機外の冷たい空気が流れ込んでくる。


「ありがとう、ピピタちゃん!」


なんとなく下がってしまった激怒ゲージと闘気のゲージを増加させながら外へ飛び出すと辺りは暗闇だった。

さっきまでは夕方になるまでにはまだ時間があると思っていたのに、空には満天の星と眼前には雲落の巨人の洞窟の入り口。

私の感覚ではニルヴァーに回収されて3分と経っていないはずなのに数千キロを隔てたドキアに帰っていた。


「二郎! これは・・・どうゆう事! ・・・かしら?」

「ニル曰く、A点からB点への移動時間は必要か? と・・・」

「必要に決まってるでしょ! 3分で5千キロとか時速何キロで飛んできたのよ・・・、私の力で今から戻ったってアイツらミンチにできないでしょ! 常識無視にも程があるわ!」

「3分じゃなく0.2秒だが? と・・・」


私は膝から崩れ落ちて顎を上げて夜空を眺めた。

行く筋も流れる銀星のかけらと一緒に目尻から熱いものが流れる。

ナームの体に傷を負わせてしまった。

それも、利き腕の先を失わせてしまった・・・。

相手に報復も出来ないままおめおめと連れ戻されてしまった。

鼻水と一緒に嗚咽が漏れる、この状況を作ったのは私だが、が。


「二郎! アンタがピピタちゃんを呼んだのね!」

「俺が思う最善の行動をしたまでです」

「何が俺よ! AIの分際で私の命令も承諾もなく! 勝手な事してくれちゃって!」


八つ当たりである。

自分でも筋違いとは感じていても、このやり場のない悲しみも怒りも暴走しそうでどうしようもない。

長寿のエルフになって知識と経験が増えても、精神の成長には寄与してないのだ。

そんな自分を見つけてまた悲しくなり、耳で揺れる水晶玉を左手で鷲掴みした。


「姉様!」


シャナウの声が洞窟の奥から響いてきた。

猛烈な速度で接近し眼前で急停止する。

空中に浮かぶ長い板を握っていた両手を離し私をきつく抱きしめる。

懐かしいいい匂いがした。


「心配しました・・・。 無事に帰ってきてよかった・・・。 姉様・・・」

「シャナただいま、帰って来たけど・・・無事じゃないし、目的も達成できなかったんだよね・・・」


抱きしめられる力が一層強くなると抱き上げられ宙に浮いた板の上へ寝かせられる。


「大体の話は聞いています姉様。 今はとりあえずミムナの所へ急ぎましょう」

「ミムナの所?」

「はい、腕、元に戻るかもしれません!」

「治るのかこの腕?」

「時間との勝負です! モフ! 姉様の腕はどこ?」


尻尾を股の下に隠した子犬がゆっくりと腕を持ち上げてきた。

シャナウはそれを優しく受け取る。


「アンタもついて来なさい!」


きつい口調と共に俊足の蹴りが繰り出され子犬は遠い崖下へと飛んでいった。

動き出し爆走するストレッチャーの上で風が切る音と悲しげな子犬の遠吠えが聞こえていた。





 火星へ行く時の着替えに使った部屋に運ばれ服を脱がされあの時と同じポッドに寝かされた。

右手に握られたままだったロッドがナース姿に着替えたシャナウによって抜き取られ、液体の入った細長い試験管に漬けられる。

ポッドの中にも液体が流れ込み肩が隠れるところで止まった。

枕をしているので耳は濡れていないが、慎ましやかな胸とおへその舌のお腹が水面に浮いてるちょっと恥ずかしい姿。

シャナウとは一緒にシャワーを浴びる仲だけど何か目隠しは欲しかった。

機器をシャナウが操作するとポッドと試験管の下から気泡が同時に湧き始めた。


「おい、シャナ! シャナが処置するのか?」


私を大袈裟に扱うので口を出さない様に控えていたが心配になって聞いてみる。


「手術はミムナ先生が執刀しますから安心してください姉様。 ・・・先生準備ができました」

「先生? 執刀? な!」


正面の扉が開きオーバーアクションで白衣に袖を通しながらミムナが入ってきた。


「キミ! カルテ!」

「はい先生」

「今日は右上腕欠損部位結合か?」

「はい先生」


シャナウがブルーのマスクと手袋をミムナに手渡す。


「あ、あのぉ〜。 お二人とも何をし・て・る・の・で・す・か?」

「患者は口を出すでない! 全身麻酔をかけられたいのか?」

「あ、いや、その〜」

「大丈夫だ。 私失敗しないんで!」

「・・・」

「そうです、患者さん! 先生に任せておけば何も心配いりません! チョチョイのちょいで腕くっついちゃいますから、その後で倍返し! です!」

「・・・」


頭痛がしてきた。

ミムナの奴、私の記憶から魔法少女のアニメだけではなくT Vドラマまで見てたのか? ついでにシャナウまで巻き込んでナームの体の一大事だとゆうのに!


「お前らふざけてるのか? ってか、火星の一大事で準備が忙しいからとか言っといて、私の記憶から引っ張り出したTVドラマとか見手たのか?」


話の途中でミムナが小さな手で指を鳴らすと、ポッドの上面がガラスで覆われ隔離されてしまう。

向こうの話し声も聞こえなくなったので、こちらでいくら悪態をついても届いてなさそうだった。

二人でドラマの続きをしばらくしてから思い出したかのように私の処置を開始した。

処置と言っても試験管で煮込んでる姿の腕をポッドに換装して終わりである。

その後は近くのテーブルにお茶を準備してナースステーションでのちょっと一息シーンが始まった。

無音のポッド内と開きたいのちょうど良い暖かさで眠気が襲ってきた。

ドラマには子犬が迷い込んできて看護師に手ひどくあしらわれるシーンや、緑の小人が現れ医師に何かを手渡し医師が大喜びして小躍りするシーンもあったが多分夢、そう夢に違いない。

私は諦めて本格的な睡眠を取ることにした。

次は、テパの決断

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