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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの魂は仲間に甘い
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遺跡の地下1


 水が抜かれて大きな縦坑に姿を変えた池の底は、地上から50mは降りた場所で水平方向に通路が設けられており今は慎重に歩みを進めている最中だ。

右手に持つロッドの先から放たれる白い光に照らされた通路は火星の巨人が一人で歩くには余裕な広さ。

灰色の濡れた壁には何かしらの文字らしき絵が彫られているが私には意味不明で分からない。

ジローは地下に入ってからデータバンクにアクセスできなくなったので解読は無理だった。

左手に狼人間の姿になったポロアの手を取り子供の歩調に合わせて奥へと進んだ。

一気に抜けた水がまた満たされる危険もあったし、人体に有害なガスが充満していても即ポロアは命の危険に晒されてしまう。

シロンに相談した結果ポロアの背中にシロンが乗り獣妖怪の薄魂体でそれを覆う、そして私が手を繋ぎ万が一に備えることに決めた。


「やっぱりその薄魂体って便利ね! 空を飛べるし巨大化も出来て着ぐるみにもなるなんて」


狼少年の横顔を眺めてつぶやいた。


・姉ちゃん位に魂が何たるかを理解して使いこなしてるのに、薄魂体は操れないのか?

「なんか、こぉぅ〜、しっくりこないのよね。 自分が発しているオーラみたいなのを実体化させるとかって・・・」

・そのうち出来るよ。 長生きのエルフなんだから時間は充分あるだろ?

「そうなんだろうけど、シロンやサラが出来てるのに。 なんか悔しいわ・・・。 あっ!」


不意に床が消えた。 水に濡れて淡く反射していた光がなくなって足元は今は闇。

二人は1ミリも落下することなく歩み続ける。


「こってこてのトラップが多いわね。 壁が迫って来たり、天井が落ちて来たり、そのうち後ろから石の玉でも転がって来るかもね!」

・楽しそうだけど、普通の人間だったら死んでるからね。 俺とか姉ちゃんには意味がないだけで


トンネルを歩いて暫くしてから、これぞダンジョンと呼ばれるトラップに数回出迎えられた。

迫ってくる壁と天井は水を凍らせた巨大な氷塊を出現させて阻み、飛んできた石槍はシロンの前足の爪が打ち砕き、さっきは床までなくなった。

落ちた先には矛を上にした槍の床か毒蛇の絨毯か?

分かれ道も何度かあったが行先はポロアに決めさせた。

ダンジョンはゲームで何度も経験している、大事なのはマッピングだ。

ジローは心得ているのでせっせと図面に落としていることだろうから行先はポロアに任せているのだ。入り口の仕掛けを見破れなかった事で落ち込んでいるわけではない、断じて。

子供の生理現象に負けたなんて、絶対に思っていない、長寿なエルフの美少女なのだからそんな小さな心であるはずがない、絶対に。


 いつかからか床はもう濡れていないので通路が全て水に覆われる仕組みなのではないのであろう、さっき一際狭い箇所があったので隔壁が作動する場所だったのかもしれない。

地下に入ってから20分は歩いただろうか、行手に扉らしき壁が現れた。


・これ開くのか? 姉ちゃん?

「そだねぇ〜、鍵穴はないし取っ手も無いけど・・・、手前に両開きするタイプみたいね」


中央に垂直な切れ目があって床には左右の壁側に向かって扇が描かれている。


「何か仕掛けがあるか調べてみましょう!」


頷き返す狼少年を視界の端で確認してから扉に触れてみた。

ダークグレーのそれは今までの通路の壁とは別の石材が使用されておりほのかに暖かく感じた。

ドアノブもライオンの形をしたノッカーも無い。

辺り一帯掌で撫で回してみる。


・姉ちゃん何してるんだ?

「近づいて触ったりしてたら取っ手が出てきたりしないかなって思って」


私の記憶にある自動ドアは「手を近づけて下さい」とか書かれていたし、空力重視の洒落たスポーツカーとかドアノブがニョッキっと出てきてたし、手の届く範囲を触ってみたが扉には何も変化はなかった。

縦に天井まで伸びる割れ目の前で佇むオオカミ少年は、両手を扉に押し当てて中腰で力押しの姿勢。

丁寧に手前に開きますって床に溝が掘ってあるのになんて無駄の事をしているのかと呆れてみていたら、微かなきしみ音と共に扉は奥へと動き出した。


「なんで? この扉って押して開くの? もしかして押しても引いても開くタイプ?」


扉はオオカミ少年の手が離れても動き続け室内の全容が確認できた。

黄金の柱が中央に据え付けられた学校の教室くらいの広くはない部屋で四隅に照明がり眩しいくらいに室内は照らされている。

ため息一つつき入ろうとする私をシロンが手で静止した。


・空気が、重い。 注意して姉ちゃん。 なるべく呼吸はしない方がいいかもしれない


シロンが教えてくれてわかったけど、室内から流れて来た緩やかな空気は言われた通り重さを感じた。

匂いは無いし視界が悪いわけでもないが肌に抵抗感を感じるくらい濃厚な何かが漂っている。

頷きだけ返してから足を踏み入れた。

水中とまでは言わないが体全体に抵抗があって動きにくい。

私はエルフなのでしばらくは呼吸をしなくても大丈夫なのだが、シロンとポロアはそうもいかないのでなるべく早くこの部屋からは出なければならないだろう。

空気をかき分ける様に手を動かしながら中央まで進むと、私の腕の太さは有る黄金の柱が立つ床も黄金で出来ているのが分かった。

一瞬ここは宝物庫なのでは無いのかと頭を過ったが正方形の室内には他には何も見当たらない。

私達が入ってきた扉がゆっくりと動き出し閉じ始めたのを視界の端で確認して他の出入り口を探してみる。

三方の壁に縦の割れ目が見え同じタイプの扉はありそうなのでここに閉じ込められた訳では無さそう、勿論開くかどうかは試してみなければわからないがこの部屋がトラップの可能性は低いと私の元篭もりゲームオタクの勘が告げてくる。


「ポロアここの出口は3箇所有りそうだけど、どっちに進んだらいいと思う?」


黄金の柱以外何も無い部屋に興味を失った私は重い空気を逃れたくてオオカミ少年に問いかけた。

振り返るとオオカミ少年は石と黄金の床の境でしゃがみ込み、掌で黄金を撫でていた。


・シロンってお金に興味あったっけ?

・これ普通の金じゃ無いんだ・・・。 こんなの初めてみた

・何? どうしたの?


私もオオカミ少年の隣へ行き金色の床を見てみた。

滑らかな表面は埃も傷も一切なく鏡の如く磨き上げられていて魔法少女姿の私とポロアの顔とその横に肩から覗く子犬の姿が映っていた。

黄金の鏡って薄魂体映んないのねっと思っていたら映像が不意に歪んだ。

ポロアと子犬は何もして無いが、オオカミ少年の指先から伸びた長い爪が黄金の床の上をなぞっていた。

爪の先から広がる円形の波紋は水溜りに広がるそれと同じもの。

元素記号:Au、原子番号79のGOLDの融点は1064℃だ。

この床が融解したそれが溜まっているとすればここまで間近に近づけば相当な輻射熱を感じるはずだが熱は全く感じない。


・私もこんなの初めて見たわ


腰に刺したロッドを抜き黄金の溜まりにゆっくり突き刺してみた。

鏡の表面に近づいたロッドはなんの抵抗も感じさせないまま飲み込まれるように吸い込まれ短くなる。

ゆっくりと引き上げるとロッドは元の長さを取り戻し、鏡から離れた時はロッドの先にまとわりついた黄金が雫となって鏡に吸い込まれ綺麗な波紋を小さく広げた。

粘性が大きいせいなのか、質量のせいなのか、水より波紋は浅く小さかった。

中央に立っている黄金の柱が目に入り手に持ったロッドを向けて空気の弾丸を放ってみたら蛇口から流れる水道を手刀で切った時の様に切断されて断面は黄金の床に秒で吸い込まれた。


・子供の頃・・・、水銀はあるのに水金は無いのは不思議に思った事もあったけど・・・。 あったのね・・・

・こんな水みたいな銀もあるのか?

・あ、シロンは知らなくて当たり前だけど、これと同じ感じの銀色が有るのを私は知ってるけど、金色が有るのは逆に知らなかったわ。 この目で見てる今でも信じられない


水銀は体に良いとされ薬として飲まれた時期もあったけど、実際は人体には摂取してはいけないものだったと学校で習った記憶はあるが、工業製品としては重宝されいろんな需要があったはず。

水金ともなれば違った製品を創れる可能性を秘めているのではないか?

あれこれと頭の中で想像してみたけど、ふとこの部屋の空気の重さが気になった。

水銀の融点はー38.83℃で沸点は356.7℃だ。

沸騰した金属が気体になるかどうかは記憶にないが、微粒子サイズにまで小さくなった金属は空気中に長く浮遊するのは知っている。

もしかしてこの部屋の空気の重さはこの水金の微粒子が舞っているおかげなのか? もしそうなら人体への影響がわかっていない今一刻も早くここから出なければならない!

しゃがんだ姿勢のままのオオカミ少年の手を左手で取り立ち上がろうとした瞬間、私は空中を飛んでいた。

右腕と横腹に激痛が走り何者かに攻撃されたのだと察した時には壁に後頭部から激突した後だった。

脳震盪を起こして飛びそうになる意識を奥歯を限界まだ噛み締めて堪える。

口内の唾を飲み込むと血の味がした。

霞む視界に入って来たのは大きな黒い影、それはリザードマンだった。

私を睨んで盛大な咆哮を放ち仁王立ちして Combo決めてくる姿勢はとっていない。

腕と横腹の痛みに耐えながら壁に背を預けてなんとか立ち上がってオオカミ少年を見る。

飛ばされている時も左手に握ったオオカミ少年の手は離さなかったので一緒に壁に激突したはずだ。

一撃をもらった私がクッションになってポロアが怪我をしてなければ良いがと思ったら、オオカミ少年は私の左手の先にしっかり立っていてロッドを咥えていた? いや、私の右腕が握ったロッドを咥えていた! いやいや、私の右腕が切り飛ばされてオオカミ少年は私と一緒に飛ばされる時に空中の腕を咥えていたのだ。

そうだ、私もしっかり見ていたではないか!

激痛と激怒でとっ散らかった思考が徐々に収まり現状を理解する。

気配を全く感じさせずに右後ろから放たれたリザードマンの鉤爪は私の右腕を両断した後、ミムナ製のロッドで勢いを殺されて横腹で止まり間髪入れずに回転しながら繰り出された高速尾の薙ぎ払いで壁まで飛ばされたのだ。

舞い散る血飛沫とナームの細い腕が空中で回転する光景が蘇ってきた。

右腕に痛みは有るが流血は止めている。

切り飛ばされた腕からも滴る血はないが、舞い散った時の物は小さな赤玉になって石の床を転がり黄金の床へと吸い込まれていく。

空気の密度が濃いから表面張力で球体になってるのかな? と呑気に考えて怒りと痛みから気を紛らそうとしたが・・・、無理だった。


「このトカゲやろぉ〜、てめぇぇぇぇ〜! ぶっ殺す!」

次は、遺跡の地下2

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