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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの体は空を飛ぶ
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緑の小人2


 囲炉裏の周囲に散乱している鍋だったであろう破片の片付けを手伝う事にした。 手にした破片は粘土を素焼きした縄文土器とよく似ていた。 広場の周辺を囲む住居と思える建物も、ぱっと見竪穴式だ。 この村の文明レベルもナームの村と大差ないのであろう。 シャナウに目をやると緑の小人達と一緒に、忙しそうに後片付けをしてくれている。 小人達と呼んでいる葉の塊を観察してみたが、ほとんどが俺の胸の高さ位の大きさで、緑の足が生えている。 物を拾う時は、葉の間から緑の手が飛び出し器用に扱っていた。 テパと呼ばれていた葉の塊が水の入った大きな土鍋を、持ちにくそうに抱えていたので手を貸してやる。


「これ囲炉裏に運ぶのかい? テパ?」

「そうなのです、夕食の用意しないと、もうすぐ暗くなるのです!」

「じゃあ、一緒に持って行こう」


二人で持つには背丈が違いすぎるので、結局俺が一人で運び囲炉裏にセットする。 オンアは片付けには参加せず、事故の経緯を聞いてからずっと、囲炉裏の光る石の前で何やら作業をしていた。土鍋がセットされるのを見て腰を上げる。


「もう大丈夫じゃろうて、 テパよ普通に使って良いぞ!」

「ありがとうなのです、長老様!」


何度も頭であろう葉の塊の一番上がお辞儀をする。


「礼はいらんよテパ、わしらの方が小人達にびっくりさせたのじゃからな・・・。 こんな事もあろうかと、此処の囲炉裏はナームの水晶でも使える様にしとったんじゃが、少し力が落ちておったみたいじゃ。 わしの責任じゃな、許しておくれ、テパよ」


また頭を何度も下げるテパの横で俺もオンアに頭を下げる。


「長老、今回は迷惑かけました」

「構わんよ、結果として大事には至らんかったでな。 それと呼び名はオンアだけで構わぬのじゃぞ?」

「いえ、これからは長老と呼ばせていただきます」

「まぁー、好きにするとえぇー」


それだけ言うと、空中集落の方へ続く小道に向かって歩いて行った。 後ろ姿を眺めながら感謝の思いが俺の心を暖かくしてくれる。 今回の事故もそうだが、星見の台の時も、シャナウの家での風騒動の時も一番最初に訪れて心配してくれたのはオンアだ。 集団の長たる尊敬できる人柄であると認める事が出来た故の呼び方の変更だった。

 鍋から湯気が立ち上ってきた頃、シャナウも手伝いが終わったのか囲炉裏の側まで来た。


「シャナ? 小人達は何で葉っぱの塊になってるの?」

「この子達は、虫と獣除けにヨモの葉を纏ってるの。 あと汁にして体じゅうに塗ってる」

「動きにくそうだね?」

「そんな事ないと思うよ? 見てみる姉様?」

「見れるの?」

「大丈夫だと思うよ、姉様なら。 テパちょっとこっち来てくれる?」


呼ばれたテパは鍋に食材を放り込んで小走りで来てくれた。


「シャナウ様なんの御用なのでしょうか?」


「お願いがあるのだけど、葉っぱの服を姉様に見せて貰っていい?」

「全く構わないのです」


躊躇いなく返事しながらモゾモゾ動き出す。 そして、ガッサ! っと音がして葉の塊が地面へ落ちる。 その横に現れたのは、黒髪に薄緑の肌をした成熟した全裸の女性。 想像では横幅は変えずに縦だけ縮めた寸胴な体型だと思っていたので、全く違った中身に驚愕する。 身長はシャナウのおヘソくらいなのに全くの大人だ。 スタイルは大人びたボキアでそれを等倍縮小1/2にした感じだ。 あまりの艶っぽさに目のやり場に困り、急いで落ちた葉の塊を手に取り詳しく調べてみる。 地肌に接する部分は短毛の毛皮製で形はローブ。 肩と胸と腰に蔓性の植物が器用に縫い付けられていた。 細い蔓は数は少ないが、大量の軟らかい若い葉を繁らせており、手足を傷付けないのが分かった。 着込んだ時は快適では無いだろうが、邪魔にはならないであろう。 害虫除けと言っていたが、薄いヨモギに似た匂いが漂うだけだった。


「テパ、見せてくれてありがとう。 勉強になったよ!」


お礼を言って草の服を返してあげる。 直接着替えを見ない様に気を使いながら考える。肌の色と背の高さから言うと・・・、ツノが有ったらゴブリンだな? いや、女はゴブリナか? 着替えが終わったテパは頭を一回下げると鍋の方へ駆けていった。 

俺の考え事を邪魔しない様にしていたシャナウが、星が瞬き始め色が濃くなった蒼い空を見て


「姉様もう間も無く日が暮れます」

「そうだな、真っ暗になる前に私たちの村へ帰るか」

「ハイ! 姉様!」


二人立ち上がり、少し離れて料理しているテパに別れを告げる。 囲炉裏を取り囲む葉の塊に、一斉に手が生え大きく振ってくれた。 何だか微笑ましく感じながら、少し足元が見づらくなった村への細道に歩みを進めた。



 シャナウの後ろを追いながら、薄暗くなった林の中をゆっくり進む。 この辺りはドキアの空中集落よりは木々が若く小さめだ。 人の手が入っているのか下草もきちんと刈られている。 そして目に付くのは栗や胡桃の木で、小人達が採集場として手入れをしているのだろうと思う。 足元が見づらい暗さになった頃、シャナウの前方が明るくなる。 不思議に思い横から覗いてみたら、シャナウの手には輝く水晶が握られていた。


「シャナ? それって光の水晶?」

「そうですよ。 暗い時に外を歩くにはとっても便利ですよね!」

「私も使えるか試してもいいかな?」

「勿論です姉様。 風水晶も火水晶も使えたんですから、光水晶も大丈夫です!」


と言ってすぐに手渡してくれた。 掌に乗せてもらった光水晶は少し暖かかった。 発光が原因なのではなくシャナウの体温のせいだろう。 俺の体温を受けても、徐々に光量を減らし辺りは暗くなる。


「摘んだ方がいいのか? それとも握っちゃった方がいいの?」

「姉様ならつまんだ方がいいかもしれないです。 あまり一気に解放しない様に気をつけてくださいね。 風水晶と違って光水晶は割れやすいですから」


シャナウはキチンと俺のお願いを覚えていてくれたみたいだ。 俺が使う前にコツを教えてくれた。 モガと飛行術の訓練で褒めてはくれたが、怪我の一歩手前までナームの体が危険に晒されたので気を回してくれたのだろう。 早速摘んで光のレベルイメージを考える。 

一番弱そうな明かりはどんなのかな? 

懐中電灯、ランタン、蝋燭? 

どれも強さは無いがもう少し弱そうなやつで選んでみた。

 

「水晶よ! 蛍の光で輝け!」


言葉と共に念じると、指先から体温が少しずつ水晶に溶け込む感覚があった。そして淡い黄緑色の光が灯るが、手のひらの指紋がやっと見えるかどうかだ。


「姉様! すっごい綺麗な色! こんな色の光初めてみた。」

「でも暗いね・・・、じゃ今度は、懐中電灯!」


イメージ通りの明るさを達成できたのでレベルイメージを上げてみた。

今度も成功し、照射角が狭められた白い明かりが細い道の先を照らし出す。 とりあえずチャレンジは成功なので、帰りの歩みを進める。


「シャナ、私このまま練習したいから水晶持って歩いていいよね?」

「姉様・・・。 私ちゃんとついてく・・・」


何か戸惑った声音だったが、俺の服の端を遠慮がちに摘み並んで歩く形で進む。

前後より会話がしやすくなったので、緑の小人について聞いてみる事にした。


「緑の小人達は焚き火の炎は使ったりしないの?」

「だいぶ前は集落でも火を使ってたみたいだけど、やめたの」

「なんで? 私たちからわざわざ水晶と団栗交換してまで使わなくても、自分たちで火を起こした方が便利なんじゃない?」

「そうなんだけど・・・、昔、火でいっぱい小人達死んだの・・・」


声は悲しい思いを含ませて小さくなる。この先は聞いちゃダメな感じがして


「ごめんシャナ、思い出したく無い話ならもう言わなくていいよ」

「大丈夫、もう本当に昔の話だから・・・。 オンアから聞いた古い話も一緒にするね」


歩く歩幅は互いに小さくなり、お互いの距離も近づく。


「森に最初に来た小人達は14人。 大きな獣が住んでいなかったから、食べる物も住む所も最初はいっぱいあったの。 だから小人達は沢山の子供を産んで村ができた。 そしてまた沢山の子供が生まれて沢山の村が出来たの。 多かった食べ物も広かった土地もいつしか無くなり、村同士の戦いが始まってしまったの。 最初は殴り合いだった戦いも、途中から木の棒を使う様になり、最後には火を使う様になってしまったの。 村と一緒に森が焼け、さらに食べ物が少なくなって戦いが激しくなり、森と小人達はほとんど無くなってしまったの」

「自ら招いた食糧難で自滅の道を歩んでしまったのか・・・? いや、長老達はどうした? ドキアの森と小人達を見守る役目だろ? 途中で止めなかったのか?」

「長老達は見守るだけ。 道を決めるのは小人達なの、どんな道でも・・・」

「そのまま進めば全て無くなると長老達はわかっているのに、教えてやる事もしなかったのか?」

「小人達は己で未来へ繋がる道を見つけなければならない。 長老はとても辛そうに話していたのを覚えてる」

「難しいな・・・、 ただ手を引いて上へ導くのは簡単だが、それは小人達には成長にならないと判断したのか・・・」

「そして小人達が自ら進んで願わなければ、力を貸す事も出来ないと話していたわ。 でも、その時焼け残っていたのは大いなる光の石がある私たちの住む森だけで、初めて小人達は長老に助けを求めたの」

「それで? 長老は小人達に英知を与えてやったのか?」

「火を使うなら水の近くで使え!って・・・」

「え? それだけ?」

「そう・・、小人達に告げたのはそれだけ。 でも、焼けた土地を森へと戻すのに私達で種を蒔き、苗を植え、水をやったわ。 何年も掛かったけど、やっと森は元の姿を取り戻した」

「それで今みたいになったのか?」

「いえ、また戦いになったの・・・」


もう少しで広場へ着きそうだが、辺りはもう真っ暗で懐中電灯の明かりでは心もとない。 握る水晶を明るく拡散する車のフォグランプをイメージして灯し話の続きを促す。


「長老の話を守り小人達は川の近くでしか火は使わなくなったけど、今度は川の近くにある食べ物の採集場が取り尽くされてしまって、また食べ物が少なくなっちゃって戦いが始まって小人達の数は減ったの」


なんだか懲りない連中だと思ってみたが、記憶ある地球の世界史も規模こそ違え似た様な事やってるよな? 小人達の話とは言え笑えない話だ。 頷きだけシャナウに返す。


「戦い疲れた代表達が長老の所へ助けを求めてやって来て、森の中でも安心して生活出来る水晶を貸し与える事で、森を枯らさず採集が出来る様に成ったのが今から220年前の事なのです」

「なるほど・・・、さっきの集落で素焼きの土鍋を使ってたって事は、川での火は今でも使い続けてるみたいだね」

「はいその通りです。 各集落で川辺も採集場所も交わらない様に話し合って、敵対関係になってる所は今はないみたい。 一時期増えた人数も、採取される食べ物に合わせて自分達で調整しているの」

「聞いていると少しずつ文明レベルが発展している感じがするね! 小人達の集落って幾つくらいに分かれてるの?」

「集落の数は大小12村あって、全部合わせた人の数が約6600人でしょうか? 山の小人を合わせると8000人くらいだと思います。森にはまだ養える力は有るとは思うのですが」

「そうだな、余裕があると思っているくらいの人数じゃないと、予期しない災害かなんかで一気に食料とか調達できなくなるからな。 そうなったらまた戦いになっちまうもんな。 長老はこれ以上文明レベル上げる気ないのかな?」

「姉様が言う文明は分かんないけど、道を決めるのは小人達。 私達からの関わりはしないのが長老の考えかただから」

「うん、分かった。 ありがとうシャナ、今日は飛行術や風水晶なんかも教えてくれてとっても助かった。 私思い出せない事が多過ぎて迷惑ばっかりかけちゃってるね。 ごめんね。」

「何言ってるのですか姉様! 私が姉様に教えて貰った事なんか、今日の何倍も何倍もいっぱいなんですから!!」


シャナウが隣でバタバタとオーバーリアクションし始めた頃、東屋がある広場へたどり着いた。 眩しいくらい光らせていた水晶を弱め、こぼれ落ちそうな星空に目をやる。 俺が口を挟む事柄でも無いし、2千年この地を見守って来た長老達に意見するなど烏滸がましい。 それよりもこの世界の知識が足りなすぎて自分の身の置き所が不確かなのだ。 出来るだけ客観的な情報を集めなければ、行動おこす判断材料がない。 今日幾つかの水晶自体は使ってみたが、動作原理も不明のままではいずれ足をすくわれるだろう。 飛べる様になったのだから次は気になるナームの工房で、なんらしかの情報が得られればと天頂に輝きを増した星達をを眺めた。


次は、ナームの部屋で思う事

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