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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの魂は仲間に甘い
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遺跡7(ちっちゃいおじさん)




 これまでポロアは仲の良いリンといつも一緒に居た為挨拶以外に深く話した事がなかった。

俺自身も何をしでかすか分からないナームを護衛する使命感から挙動を観察するのに忙しくて、追跡者の気配以外に興味はなかったのだ。

ナームの肩に乗っている小さな男の姿以外にポロアが見ている景色に興味が湧いて、ありきたりの天気の話からこの大陸の景色風土の話題、同行者の容姿や性格これまでの生活環境まで細かく聞いた。

獣妖怪化してから見える世界も感じれる魂も飛躍的に広がったと思っていたが、ポロアが見ている独特な世界はとても興味深いものだった。

前世の記憶がないせいで型にはめられていない子供ならではの感性、その世界感は新鮮に俺の心に響いた。

最低限しか与えられなかった食べ物と隔離されていた時間が長かったのが原因と考えられるが、ポロアは希薄な魂達でも色として見ている様だ。

そして自分に危害を及ぼす存在を光と闇で判断している。

リンは黄色でヨウは青そして俺は赤、それは明るく光っているそうだ。

色は、食べ物が黄色、心が青、力が赤、知恵が緑みたいな感じだそうだ。

ちなみにナームは白で「お日様みたいな暖かい」と、それだけは曖昧な表現で今まで会った事が無かった存在らしい。

俺は周囲から向けられる意識を明暗で判断し常に戦える準備をしているが、明るさに色を付けてはいなかった。

差し詰め俺はポロアの見ている赤色だけの世界を明暗として察知していたのだろう。

強さを求めるが故の盲目に陥っていたのかと気付かされた気がしてこれはこれで勉強になった。

小一時間程話しただろうか離れた林で草が踏まれる物音が耳に届く。


「ポロアはあっちの方に何色が居るのか分かるか?」


音が聞こえた方を指差し聞いてみる。


「僕には木しか見えません、誰かいるのですか神狼様」


ポロアにはまだ木々に遮られた遠くの気配を見通す事はできないらしい。

しかし俺にもゆっくり近づく存在の真意は読み取れなかった。

飢えた獣なら風下から近づき物音を鳴らすヘマはしないし殺気で俺には読み取れる。

雑念を消せない人間なら匂いがそれを教えてくれるがそれも無い。


「何者かが近寄って来てるけど俺にも何だか分からない。 準備だけしておくか」


慣れ親しんだモフサイズの狼姿に体を変えると引きつった顔のポロアを背中に乗せる。

人間化した姿で戦いになっても剣持ちのリザードマンであれば何も問題は無いが、子供を守ってと成ると分が悪い。

サラが巨大獣で生まれ変わってナームの側にいる理由は、己の体を盾として守りたい者があるが故。

あの時のヨウの見立て通りに役割に準じた今の俺の姿。

ポロアに怪我でもされたらナームが何をするか想像したくない。

勿論矛先は俺に対してではなく、相手を含めたこの密林全体に被害が出そうで怖い。

いつでも上空に回避できる様に広場中央へゆっくり場所を変えると前方林から黒い影が飛んできた。

小さかった影は近づくにつれて大きくなって石なのが分かった、それもポロアの身長くらいの正六面体の石。

立ち位置を少し変えると派手な音と一緒に地面へ激突した。

さっきまで俺のいた場所だ。

気付かず下敷きになっていたら背中にポロアの血で染まった狼のセンターラグが完成しているところだ。

その光景が頭に浮かんで怒りが湧いたが、殺意を纏わぬ攻撃に不信感も湧く。

意図は何なのか?

林に動きが出てまた木の上に黒い影が空に上がる。

今度は8個だ。

またゆっくり場所を変えると正確な狙いで落ちて来て3個3列並んだ。

視点を高く取るため石の上へ飛び上がるが投擲者の姿は確認できない。

再度5個の影が現れたので空へ逃げることにした。

直上20mに達した頃地上には9・4・1と石が積まれた小さなピラミッドが完成していた。

敵の姿を探しているとナームが近寄ってくる気配を感じた。


「シロンお待たせ! いろいろ発見したわよ!」

・姉ちゃんおかえり

「どうしたのそんな格好してポロア乗せて? 待ちくたびれて散歩にでも行くつもりだったの?」


何を呑気なと、思いながらナームの方に視線を向けると肩に乗ってる小さな男の姿が俺にも見えた。

俺の認識も上書きされてポロアに同調できたみたいだ。

見慣れない緑の服を着る初老の小さい男。


・何者かが攻撃して来たから逃げて来たんだよ

「攻撃? 大丈夫だった? 二人とも怪我とかしなかった?」

「大丈夫ですナーム様、神狼様が守ってくれました」

「なら良かった、それで誰が攻撃して来たの? 追って来てるリザードマン? それとも人間?」


周囲に殺気が無いせいか緊迫感が無いままのいつもの声音。


・相手はよく分からないんだけど石を投げて来たんだ。 下を見てよ


言われて出来上がった小さなピラミッドを見て何か考え込んでいる表情。


「ビルダー? 黄色いビルダーを捕まえろって? 何言ってるのミムナ、え・・・、何で・・・、私がぁ? ・・・」


水晶を通して何やらミムナと話をしている様だ。

会話が終わるのを待とうとしたら林からまた石が俺達に向かって飛んできた。

狙いは確かで真っ直ぐ向かってくる。


・石、飛んできてるんですけど?


話に夢中なナームに小声で教えてやると一度視線を石に向け右手の人差し指でさした。

瞬間光の矢が数十本放たれ石の塊が砂塵と化す。

無造作に行う力の解放に呆れてため息が漏れたと同時に間近で人外の力を目撃したポロアが怖がって無いかと心配になった。

もしも恐怖で失禁したりしたら俺の背中にシミができてしまう。

その後空中に留まっての会話が続いたが林からの投石は無かった。

有効打を認識できず諦めたのか、次策を準備中なのか相手の意識を読み取れない以上判断しようがない。


「それじゃ取り敢えず確認だけだからね! あとはピピタちゃんと何とかして頂戴。 ったく・・・、シロン相手の姿だけ確認しましょ。 そしたらこの場は撤退って事にします。 いい?」

・俺は問題ないよ、怪我もしなかったし殺意も感じなかったし。 ちょっとしつこいなって感じたけど


石の飛んできた場所に向かう途中で俺とポロアは上昇を指示された。

ナーム一人で林に向かって飛んで行き木の枝で隠れてしまい暫く姿が見えなくなった。

気配で位置だけは確認しながらポロアの状態を聞いておく。


・ポロア、俺の声が聞こえるか?

「え? え?」

・体調は大丈夫か? さっきのナーム怖く無かったか?


念話は届いてはいない様だったが気配だけは察した様で困惑の気配は伝わって来た。


「僕は大丈夫です。 神狼様の背中はフワッフワのモフモフで何があっても安心な感じがします」


両手で首筋に抱きついて撫でながら返事を返して来た。

ドキアでも獣と人間が念話で会話ができる人間は少なかったので、気配でも意思を読み取ったポロアは特別な存在で在ると思わざるを得ない。

豊富な生命力の成せる技だとは思うが、この地でポロアが誕生した意味は何だろうかとしばし無言で思案した。

 林の中を高速で飛ぶ気配はナームのものだ。

それ以外に大きな気配は感じないが時折光って砂煙が上がるのは、空中でナームが迎撃した同じ事が起こっているのだろう。

俺も手を貸す場面があるかも知れないと気を張って戦闘態勢で準備していたが、下からは笑い声と楽しい気配しか感じ取れなかったので呆れる他ない。

全く・・・、いつも説明不足で勝手に行動して、それを心配させない為だと軽く言って退けるあの性格。

逆に心配かけてる自覚は全くないようで困ってしまう。

一際大きな閃光が起こると、そこからナームが姿を現し上昇して来た。

顔はいつものニマニマ顔で林での攻防は楽しかったのであろうけど心配していたと苦言しておく。


・姉ちゃんちゃんと説明してくれないと変に心配するだろ? 近くにあいつらも居るんだから本気の戦闘になったらこっちだって戦術練らなきゃダメなんだから!

「あっ、ごめんねシロン。 でも戦略は根本的に変更しないんだから大丈夫! 遺跡探索チームは私が前に出てガーン! とやってシロンがポロアを守ってチョンチョン! って感じでいいから! 私が助けて欲しい時は前で狼煙あげるからシロンはそれまで後ろでチョンチョンの担当ね」


笑って誤魔化しているが小さな男は呆れ顔で厳しくナームを諭している。

信頼は一瞬で消えて無くなるが築くのには長い時間が必要だとか何とか。

全くその通りだと思って


・その通りです御仁


と念話で頷くと小さい男が視線を俺に向ける。


・シロン俺の声が聞こえるのか?

・聞こえますとも、小さき緑の御仁

「何? 何でいきなりジローと念話できる様になったのシロン。 それに小さき緑の御仁って?」


俺はナームが世界に及ぼす影響範囲を広げるべく、意識体の実体化に向けて言葉を選んで説明し始めた。

次は、遺跡8(ちっちゃいおじさん2)

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