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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの魂は仲間に甘い
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遺跡5



 右手に沈みゆく夕日を見ながら飛ぶ竹箒の上、背中には子犬のシロンを抱くポロアがいる。

アレクの宿屋で決めたブービートラップ解除に向けた人選はこの3名。

戦力的には私一人でも大丈夫だと思っていたのだが、私?の暴走を止められる戦力と多様な視点で物事を判断するためにとシロン。

そして、純粋な地球生まれの生物の意味で人間一人を同行した方が良いとミムナが提言した為のポロア。

子供を選んだのは単に空の移動が楽になるのとヨウの勧めがあったからだ。

シロンも人間を連れて行くのならポロアしかいないだろうなとあたり前のように言っていた。

私には快活で賢い子供にしか見えないのだが獣妖怪の視点ではポロアは特別な人間に見えている気がする。


「ポロア、お尻痛くなってない?」

「大丈夫ですナーム様、布いっぱいお尻に巻きましたから」

「ならいいわ。 それでも痛くなったりオシッコしたくなったりしたら遠慮しないで言いなさいね」

「はい!」


出発してまだ30分ほどだが空を飛ぶのは初めての子供なのだ、変に気を使って色々我慢させてはかわいそうなのでこまめに交わしている会話だ。


「ジローこの速度だとどのくらいで到着するかしら?」

・休憩なしで約7時間ですから深夜になります

「それじゃ、途中で野営して朝到着に調整しましょ、適当な時間と場所になったら教えて頂戴」

・了解

「あ、そうそう。 ヨウが持ってるもう一個のジローとはちゃんと連絡取れてる?」

・問題・・・ないです・・・。 サブローとは常につながっています

「サブロー?」

・便宜上必要だったので名前をつけました。 いきなり双子になったので!

「なんかさっきから感じ悪いわよ、怒ってるの?」

・もう怒ってません、元には戻れませんし諦めましたから


連絡用にとミムナから渡された水晶玉、私の記憶を持つAIを今朝二つに分けた。

別行動になるヨウ率いる人間達の無事を確認しておきたいと思って安易にとった行動だったがジローには不評だったようだ。

AIにはAIなりの自尊心が有ったのかもしれないが私には必要なアイテムだったので我慢してもらおう。

事が終わった後で機嫌取りに女性陣の沐浴に同席させてやった方がいいかもしれないと考える。

昔の私ならそれで全て許せるから私のコピーなら大丈夫なはずなので水晶玉にこれ以上気を使うのはやめにする。

星明かりに照らされる幅の広い川を左側の眼下にし密林の上をゆっくりと飛行しながら追跡者の気配を探る。

今までの旅で感じていた3つのプレッシャーは変わらず後方にあった為アレクで別れたヨウ達にリザードマンは興味は無さそうで少し安心した。

あの街で注意するのは野盗じみた人間達だけになるだろうから、ヨウとリンちゃんが居れば万が一争いになっても仲間として行動して来た人間達に死人を許すはずがないだろう。

こっちは相手が強敵であったとしても人外の二人が子供を一人守ればいいのだ、最悪な事態になればシロンがポロアを無事に逃す手筈になってる。

時代こそ違うが実物のギザ台地にあるピラミッド遺跡をこの目で見れると思うとなんかワクワクして来て鼻歌が自然と溢れて来る。

未知の大陸の空 ジローが選曲した昭和のナツメロ”飛んでイスタンブール”が耳元で聞こえて来る中、途中の野営地へ向け安全飛行に気を配って風を切った。




 生き物にとって大切な水、地表を流れれば水面輝く清流となり、空を飛ぶと雄大で自由な雲となり、時には滴となって大地に戻る。

高い山々には動物を近づけまいと白い結界を張りつつも、溶けて小川と地下水脈に姿を変え地球上の生命に不可欠な乾きを癒す力を与えてくれる。

何とも偉大な存在だが、目下早朝の密林の上空は朝霧に覆われていて視界が悪くうっとしい水の姿。

ドキアの樹海にあるエルフの里もそうだったが、昼と夜の温度差で周囲を満たした湿気が朝方にここぞとばかりに自己主張し濃霧が発生してしまう。

記憶にあるアフリカの赤道付近は乾燥した砂漠だったが、この時代は密林に覆われていてアマゾンみたいな景色だ。

昨晩は小高くなった丘の上で野営した為野生動物の来訪者に悩まされる事もなくゆっくり休めた、多分大型の黒豹だったサラの生息地だったと思い至ってシロンと交代で見張りはしたのだが来訪者はなく睡眠は十分取れた。

問題は明け方に発生したこの濃霧。

気付くのが遅れて上空に避難した頃には服は濡れてしまったし体も冷やしてしまった。

ポロアは「大丈夫です」と言ってくれたが太陽が登って陽に当たるまで震えていたので痩せ我慢だったのろう。

何とも頼もしい男の子だ。

霧の中でも幅の広い川はハッキリと見えるので予定の速度を少し遅くし体を温めながら南へ飛んだ。


・そろそろ目的地上空になりますよ


ジローの言葉で前方に目を凝らすと霧を突き抜ける明らかに人工物の姿が飛び込んできた。

陽も高くなったせいで濃霧も次第に薄れ、遺跡に近づくに連れギザ台地全貌が見えて来た。

何だか嬉くなって歓声を上げながら高度をとり外周を回る。


「すっごい! 本物のピラミッドだぁ〜。 ちゃんと3つ有るし、どっこも崩れてなくて黒くてピッカピッカだ〜! マブしぃ〜!」

「・・・ナーム様、僕、ちょっと怖い・・・」

「あ、いきなり上昇したから高かったかな? ごめんねポロア」

元の飛行高度に戻してクフ王の頂点の高さで外周から圧巻の景色を堪能する。


・姉ちゃんポロアが怖がったのは高さじゃないよ。 あれ自体が禍々しいからだと思うよ

「禍々しい? あんなにおっきくて黒くてピカピカでカッコいいのに?」


進路をピラミッドに向けるとシロンから厳しい声で制止された。

ポロアが体調を崩す心配が有るのでこれ以上は近づいてはいけないらしい。

少し浮かれていた自分は周囲に気配りができていなかったようだ。

振り返ってポロアの顔を覗くと額の汗を腕で拭いながら「大丈夫です」と繰り返している。


・生命力豊富な人間でもこれ以上は近づけないか


ミムナの声がイヤリングから聞こえて来た。


「ミムナおはよう! ジローはちゃんと到着の連絡してくれたのね」

・何がおはようだ。 こっちは今昼食後のおやつの時間だよ。 定時連絡はちゃんと二人からは入っているがナーム本人からは入っていないが? ジローとサブロー・・・ップ、コホン、は、お前よりしっかりしとる。 それより早くピラミッドから離れてやれ、ポロア君が可哀そうだぞ!


言われて直ぐにピラミッドから距離をとってスフィンクスが有る方へと向かった。


「ポロア大丈夫? 気付くのが遅くてごめんなさいね、怒ったりしないんだから気分悪かったら我慢しないでいいのよ、ね」

「ごめんなさいナーム様、僕・・・」


吹き出た額の汗は引いたが小麦色の顔色は青味を増して貧血を起こしている感じに見える。

ホウキに座ってられる体調ではなさそうだったのでシロンに人間化してもらい抱き抱えて地上まで降りた。

背の高い木々に隠れていて気付かなかったが、火星で見たのと同じ人面岩がありちょうど良い広場となっていたのでポロアを休ませるにはちょうど良さそうだった。


「ポロアが具合悪くなった理由を知ってそうですねミムナ。 教えてもらってもいいかしら?」

・教えるも何も・・・、浮かれて考えなしに近づかなければナームにもわかろう簡単な事だ。 なーモフ?

「姉ちゃんも目を閉じてあの黒いピラミッド見たら分かるよ」


ミムナの声はシロンに聞こえていないはずだがタイミングはバッチリ!

密林の幹の隙間からしか見えないピラミッドを魂の視力を使って俯瞰して見た。

クフ王とカフラー王のピラミッドは稜線が黄金に縁取られているだけだったが、3つの中で一番小さなメンカウラー王のピラミッドは異質だった。

周囲から小さな黄金の魂が流星の如くいく筋にもなって闇の三角錐に吸い込まれていっている。

似た光景はドキアのエルフの里にある光る石でも見た記憶があるが、輝くあの石は新たな魂の黄金を空へと放出していたのに対して目の前のピラミッドはブラックホールと化し魂を飲み込むだけの存在。


「何あれ? 魂達が、吸い込まれていってる、気持ち悪い!」

・それは、トラップが正常に起動中だと言う事の証し、銀河中央に巣食う蛮族を呼ぶ鈴がな。 弱小で自由意志のない魂を取り込みエネルギーに換えて定時連絡を送っている。 惑星上であれが稼働していれば抗える魂が誕生するまでに永い永い時間が必要となる

「永い時間ですか、ドキアやセトにもここの影響は及んでいたのですか?」

・この地は地球の大陸の中心だったが、地殻変動で陸地が拡散し影響力が次第に少なくなった。 金星も地球も火星も。 同じ状況を経て意思と知恵とを持つ魂が育った。 知る中で地球が一番地殻の動きが遅かった。 故に未だに自力で重力から抜けられんのだよ


何とも厄介な代物だ、ただの鈴ではなく惑星上の生物の成長も許さない機能まで備えていたとは。

銀河中央の中族とは何とも狭量な精神の持ち主なのか。

今度夜空で射手座を見かけたら天の川銀河中心に向けて中指おったててからの呪いの文句をお見舞いしたくなった。

30分ほど休むと衰弱していたポロアの呼吸は元の穏やかさを取り戻し顔色も回復して来た。

火星と同じであれば人面岩の顎に当たる部分に地下へ通じる入り口がるとミムナに教えて貰いシロンにポロアを任せて一人散策したがそれらしい場所は発見できなかった。

一度シロン達の場所まで戻り報告した後、手掛かりを得る為一人上空から遺跡の全容把握に向けて竹箒に乗った。

次は、遺跡6

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