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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの魂は仲間に甘い
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遺跡2



 アトラを出発して52日目にナイル川の河口の街に到着した。

ブービートラップの存在を知り地球に帰還し解除を最優先にと焦っていた心は予期せぬ同行者の出現で移動に時間がとられ削がれてしまった。

この旅で何度かミムナと連絡を取ったが「焦って向かっても数万年前からある装置は逃げてかない」と言われた。

買い付けてしまった奴隷達にいくら自由にしても良いと言って聞かせても誰一人離れていかないし、逆に見捨てないで欲しいとせがまれ自分との常識の違いを思い知らされた。

旅の歩みを普通の人間に合わせたのは、広い視野を持つ為に時間をかけて他の土地を知る事ができるとジンが説得して来たのと、情が沸き始めた奴隷達の従順すぎる性格に哀れみを感じたからかも知れない。

人は自分の未来を諦めてはいけないのだ、こんな奴隷根性など人間が持ってはいけない。

説いて聞かせても分かってもらえなかったので、購入者の責任を果してドキアに連れていくしかないと諦めるしかなかった。

銀星の管理地は金と暴力の階級が入り混じり複雑なピラミッドを構成していた。

他の地区から来た私達ですら新たな町に入るとその階級に準じた行動を要求され、所持する金と力の誇示を度々求められた。

食糧の買い付けだけに町に入るにも税と言う名の賄賂を要求する所も多々あったが、主人の職業を調教師と告げるとそれなりの対応をしてくれた。

それは獣賭博に欠かせない有益情報を得る為だった事も分かったが、高額な買い物ができる中層階級の客としての認識だった。

ここアレクの街は湖に面した大きな港がありアトラに次ぐ繁栄をし、人口が多いと聞かされていた。

川が扇状に広がり広大な食糧産地を東南に有し食糧と石材の流通の中継地として周辺から多くの物資が運び込まれる。

大きな闘技場も獣賭博に酒場色街とアトラにあった不必要に思える娯楽は全て揃っているらしい。

それを仕切っているのは荒らし屋ペイン。

何度も耳にする名前だが関わり合いたくないのでこの街でも食糧の買い付けだけにしたいと考えていた。


「手持ちの金貨はまだ十分有るからこの街でも食糧の調達だけにしましょう」


石造りの立派な門の前に足を止めた一行を振り返りみんなに聞こえる様に話す。


・姉ちゃん街の散策はしないのか?

「ここには荒らし屋の頭がいるらしいから派手な事して目をつけられたく無いのよね〜」

・じゃぁ、姉ちゃんは大人しくしてた方がいいね

「なんで私なの? 私はいつも揉め事は避けて全部穏便に済ませて来たでしょ?」

・はいはい、そうでした


胸に抱えたシロンが呆れ声で話す。

そう、これまで訪れた町でもチンピラに散々絡まれ水晶の魂を使う場面はあったが、大事には至っていなかった。

大体の原因は女性の立場が低過ぎるせいだった。

道で美少女を見るとからかってくる連中が多く、ヨウに「売れ!」とか「貸せ!」とか突っかかって来るのだ。

「売れ」なら分かるが「貸せ」とは何だ! 意味してる事はわかるが想像しただけで虫唾が走る。

風の斬撃で服をひん剥いて痺れさせた場面が何度もあった。

そこで今回は美少女エルフを封印し私もヨモの葉に擬態して外見は植物系モンスターになっている。

自信満々で歩き出すと早々門番に止められる。


「そこの馬に乗った旦那! この街に何の用できたんだ?」

「食糧の買い付けです。 奴隷を買って里へ帰る途中です」


長槍を持った3人の兵士姿の男達が寄って来た。

肩にはペインの紋章が刻印された皮製の鎧を付けている。


「奴隷? この草をかぶった連中か? それに奴隷に首輪も付けずに武器を持たせてか?」

「牛に手押し車引かせるとか初めて見たぜ、あんた何もんだ?」


後ろに並んだ牛車と武装させている奴隷の男を舐めるように見て同僚が口にした。


「私は凄腕の調教師。 獣の扱いは慣れています」

「ほ〜、調教師ねぇ〜。 ならこの街のレースに参加するんだろ? その乗ってる馬で出るのか?」

「食糧の買い付けだけです。 それ以外に用はありません」

「何だ、旦那は出ねえのか、つまんねえな。 この前負けた金取り戻したかったのによ」


馬の横で成り行きを見守っていた私は銭袋から銅貨を3枚取り出し早い足取りでそれぞれの門番の手に握らせて回る。


「気が利く奴隷を持ってんな旦那、そんじゃ通っていい・・・、と言いたい所だけど・・・。 今街ん中はお祭りの真っ最中で、そんなでけえ馬とか牛とか連れて歩かれたら面倒ごとが起こるぜ?」

「違げえねぇ〜な、今朝も肉屋の連中が仕入れが足りねえって騒いでたからな。 肉屋に卸すんなら紹介すっけど、その気がないのにそのまま街に入ったら、あれだ・・・、出る時は奴隷に引かせる羽目になってるぜ?」

「それは困りましたね〜」


門番達の話は親切心からでは無いのは下卑た笑みとギラつく視線からわかる。

嘘では無いにしても小銭欲しさの問答に聞こえる。

銭袋から9枚の銅貨を取り出しさっきと同じに3枚ずつ握らせる。


「そうだそうだ、ここと南門の間に空き地が有るからそこに奴隷と荷車置いて買い出しに行ったらいいんじゃ無いか? うん、その方が揉め事起きないで旦那の用事が済むんじゃ無いか?」

「そ、そうだな。 このまま街に入られたらせっかくの祭りで揉め事起こされちまうし、入れた俺らも頭に叱られちまうからな」

「ならば、あなた方の言葉通りにここと南門の間の空き地で連れの皆には待機してもらう事にしましょう」


そんなうまい話は無いに決まっているが、カモを目にした野盗視線の門番達の言葉に従って街には入らず南門を目指す事にした。

間も無く日が暮れて辺りは暗くなる。

塀に囲まれた街の中と違い外の危険度は数段増す。

これまでの旅で一行を襲って来た殆どは野生動物だったが今夜は違った連中が集まって来るのは確実だろう。

よそ者はどの時代でも略奪の対象にされてしまうのだろうか。

武装しているとは言え奴隷の男達以外は強力なサーベルタイガーや巨大な黒豹を連れていない調教師の主人だけ。

金の持ち合わせは分からないだろうが高値になってる肉が4頭、大人数でも襲う価値ありと判断したのだろう。


「私おとなしくしてたけど・・・、揉め事には巻き込まれそうねシロン」

・素直にその空き地に行くのか? 食糧は何とかなるからこのまま遺跡とやらに向かったらいいんじゃ無いのかな?

「そうなんだけど、出来れば川を渡って向こう岸へ行きたかったのよ」

・でも遺跡って川を渡る前だって言ってなかった姉ちゃん

「そうよ、スフィンクスはこのまま川沿いを登っていけば在るのだけれど、万が一の時の為に対岸にベースキャンプを設けたかったの。 ついて来てる連中絶対邪魔しに来ると思わない?」

・どうだろうね? ただ管理地から出るのを確認したいだけで尾行してるのかも知れないし、姉ちゃんの計画知って何か邪魔して来るかも知んないし

「だから遺跡に行く時は一緒にいる人間達とは少し離れて、すぐに逃げられる状況にしておきたいと思ってたの」

・だったら船で川を登ったらいいんじゃ無い? どうせアレクでも船で向こう岸へ渡るしか無いんだろ?


そうだ、言われてみればこの時代に川に橋なんか無いのだから渡し船に乗らねば対岸へ渡る為には泳ぐしかない。

それにここアレクは支流になった一本の川で東側へ行くには他にも何本もの川を渡らねばならない。


「ジンあんたの考えは?」

・このまま湖の岸辺を進むコースだと大きな川を6本渡らねばなりませんが、船を入手出来ればスフィンクスにも対岸にも渡れます。

「ギザの台地はこっからだと3日ぐらいかしら?」

・そうだね、今までの速度だと3日目の朝方に到着できる距離だ

「ミムナはなんか言ってる?」

・遺跡に着いたら入る前に連絡しろと言ってたけど、それだけかな? まぁ、命に囚われてはいけないとは言ってたけど・・・

「どう言う意味なの?」


AIが口籠った事に違和感を感じ先頭を歩いていた場所を後続の馬に譲り道端にたたずむ。


・一つ前置きさせてもらって言い難い事を言わせてもらうよ。 俺も今のナームと考え方も感じ方も同じだからね、とね。

「何よ、言いなさいな!」

・感情のまま行動するのは動物の生存本能で善悪は無い、結果を受け入れるだけで良い・・・


心臓が跳ねる痛みが襲う。

普段意識できない程遅いエルフの鼓動が激しく脈打ち両手両足に脈動を感じた。

視界が細くなり遠くに在る南門の松明の炎が眼底を焦がす熱を運んでいる。

山上の走馬灯が脳裏に投射され激痛が後頭部を乱打した。

思考は鮮明だったが足がもつれ片膝を地面に付き両手で上半身を支えねばならなかった。


・大丈夫か? ・・・ナーム?

「・・・あんた・・・、オレの一番の急所だと知ってて・・・、言葉にしたのか?」

・AIでも俺の事は知っている・・・、今はそれでも・・・言葉にしなければならないと思った


額から汗が噴き出る。

両手は熱を持ち、炎を超して地表を溶かしている。

それとは反し平坦な自分は意識を分析する余裕はあり過去世に対しての憎悪と後悔の念が爆発的に増幅している事に気付く。


『変わりな山上! 和多志が全てを灰にしてやんよ! ギャハ、ギャハハハ!』


腹の底から響く声はキョウコのもの。

何でここで? こんな所で? 重大局面でも何でも無いただチンピラ相手に肩透かしをすれば済むはずの状況では無いか!


・俺はナームの行動にずべて賛同する・・・。 感情のままに俺を砕くも良し、全てを灰にするも良し、だ


何を言ってるのジン?

奥底から湧き出る感情を解放すればどうなるかぐらい私のコピーなら想像できるだろうに、感情に任せろって!

感情? 今の私の感情? 怒ってる? 哀れんでる? 失望している? 悲しんでる?

誰に!

仲間に? 奴隷に? この地の人間に? 火星人に? 銀星人に? 地球人に? それとも自分に?

パシッ!

両頬に痛みを感じ視界が暗黒から引き戻される。

忌々しいと溢すキョウコの呟きが腹の奥底に沈んでいく。


「姉ちゃん! 大丈夫か! しっかりしろよ!」


腕の中で抱えていた子犬が人間の姿で目の前に佇み両手を私の頬に当てている。

ひんやり冷たくて、のぼせた顔面の熱を奪ってくれた。

数回瞬きして周囲の状況をエルフの体に認識させる。

体を覆っていたヨモの葉擬態は何処かへ消え失せてブラック・JKの姿になっていて、目の前にはシロンが心配そうな眼差しを向けて瞳を覗き込んでいる。

その後ろにはヨウが3本の尾を大きく広げ胸の前で両手から長く伸びた爪を交差させ厳しい顔をこちらに向けている。

遠くには両手を広げ白目を剥いた子狸を抱えたポロアがこちらを心配そうに見ている。

何でだ? こんな状況はエルフの少女になって初めての感覚。

180年前のキョウコの出現はシロンの死に直面して内側から殻を破られた感じで瞬間的なものだった。

でも今回はジンの言葉で殻に亀裂が走った感覚。

鍵なのか封印なのか知らないが危険な脆さを感じた。

深い深呼吸を意識的に何度かしゆっくり立ち上がる。

両手を突いていた地面にはくっきり手形がついた黒光りする石があった。


「大丈夫そう・・・、いきなりどうしたんだろう私?」

「こっちが聞きたいよ! いきなりこの街吹き飛ばす勢いで闘気を振りまくからびっくりしたよ!」

「話に聞いたキョウコの片鱗が、これですか・・・」


尾を消したヨウも近寄って来て私の顔色を伺う。


・砕かないでくれてありがとうナーム。 この事はお互いのために後でゆっくり話し合った方がいいね

「あんたミムナから私の知らない情報もらって何か知ってるの? 隠し事したらただじゃ置かないんだからね!」 

・俺はナームの最大の味方です、隠し事はしません。 俺の持ってる情報は全部開示してます。

「じゃぁ何でもったいぶった言い方の後に私が変になったのよ!」

・ナームは俺で、俺はナーム。 山上だから・・・

「はぁ? あんた、後できっちり説明してもらうからね! 今日はこの街に宿をとって全員で泊まりますからね!」


腰に手を当て決意を込めて先行く人間達にも聞こえるように叫んだ。

急に決まった一行の行動指針にシロンは呆れた表情だけ返し行動開始する。

指示された中間の原っぱを通り過ぎて南門に到着し、門番に銀貨を一枚ずつ握らせるとすんなり街に通してくれた。

手持ちの金貨をチラつかせ近くの宿屋をほぼ貸し切る事も出来て今夜はゆっくり休む事を宣言する。

もちろん私はジンとの話し合いを朝まで続ける事となった。

次は、遺跡3

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