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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの魂は仲間に甘い
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キャラバン3



 集団の真ん中に降り立って辺りを見渡し材料を物色して行く。

奴隷が大事そうに抱えていた鉄製の首輪や薪になりそうな乾燥した小枝を人抱えにして手近な岩の前に放り投げた。

半ば壊れた手押し車も引っ張ってきて腕組みして脳内設計図を書き上げる。


・姉ちゃんどうしたんだ、なんか怒ってる?

「別に怒っちゃいないけど、このままだとスフィンクスに着く前に人間達が全部死んじゃうじゃない? そんなの嫌なのよ! ったく。 奴隷達がしてた鉄の首輪と足輪全部集めて持ってきて頂戴、それと近くに牛か馬が居たら1匹連れてきて!」

・食べるのか?

「食べたりしないから! 生きたまま連れてきて!」

・なんだかわかんないけど、ヨウ、リン。 ナーム様に少し手を貸してやってくれ、ちょっと機嫌が悪いから早く治まって貰わなくては居心地が悪い


シロンは草原へ駆けて行きリン達が鉄を集めてきた。

鉄の首輪を右手に持って熱を込める意識と一緒に何度か振ると伸びて指の太さの鉄棒に変わる。

同じ要領で首輪を棒に変えてつなぎ合わせて丸太を輪切りにしただけの車輪を取り外し、ずれてる中心を直し整形して外側に鉄の輪を埋め込む。

軸と軸受けは部材が足りないので今回は諦めて荷台の上に半円の鉄棒を4本渡しホロの骨組みを作った。

ボロ布と毛皮をかぶせ角を結んで内側から間に真っ直ぐな小枝を差し込んで補強しておく。

30分の炎天下の作業を一人黙々と終わらせ、冷気を纏わせ手伝ってくれたヨウにお礼を告げておく。

少しは気が晴れた。

応急処置だが直射日光は防げる場所が確保できたし、鉄製入りの真円車輪で負荷がだいぶ減るだろう。


・神狼様がでっかい牛連れてきたぞ! 食べるのか? 肉喰うのかナーム?

「食べないって言ってるでしょ! 殺したりしないからリンちゃんは心配しないで手伝って頂戴。 野生動物には詳しいんでしょ? 話とかできたりするんでしょ?」

・姉ちゃん、強そうなの連れてきたよ。 どうすんの?


立派に生えた角のを持つ黒毛の牛は大人の身長を越す大きさだった。

頭の真上に座ってるシロンがとっても小さく見える。

私が近づくと頭を下に下げ角を左右に振りながら威嚇してきた。


「リンちゃんお願い。 あの手押し車を引いて欲しいて伝えて頂戴。 水と食べ物ちゃんとあげるからって」

・牛なら神狼様は力で従わせられるぞ? リンの話を聞いてくれるかわかんないぞ?

「従わせるのは、好きじゃないの!」

・最近のナームは感情に素直ってゆうか、説明を面倒くさがってないか?

「何よ、ジン? 何が言いたいの?」

・前は「嫌なものは嫌なの!」みたいな女の言い方はしないで、理由を分かってもらえる説明を丁寧にしてた気がするけど。 変わってきたなと思ってね

「何? わがままに成ったとでも言いたいの?」

・分かって貰える努力を省く会話をしてると、いつしか分かり合えなくなるのではと老婆心ながら


ジンは私の記憶を持つAI、過去の自分の犯した誤ちで迎えた結果の話をしている。

身近であればあるほど言葉少なくとも、ちょっとした仕草で相手を理解できると信じていたが、そんな事は思い違いだったと知ったではないか。

言葉も態度も相手が自分の真意を理解してくれてるはずと考えるのは傲慢だ。

会話もスキンシップも充分を越すと思っていても分かり合えていなかった過去があったではないか。


「そうだねジン、説明する会話は大事ね。 くどいと言われても自分の思いを噛み砕いて言葉にしなきゃね・・・。 リンちゃん、私は牛さんと人間と仲良く楽しく暮らして欲しいって思ってるの。 美味しい草をたっくさん食べて、一緒に遊んだり、汚れた体を洗ってもらったり・・・、仲良くなりたいだけなのだけれど」

・ナームは牛さんと友達になりたいのだな? 

「そうよ、他の人間とも仲良く成って欲しいの。 殺したり虐めたりは絶対させないからって伝えて頂戴」


リンは大きな牛に近づき身振り手振りでしばらく会話を交わした。


・喉が乾いたから水飲みたいって言ってるぞナーム。 それと背中が痒いって


手押し車から桶を取り出し水晶の水で満たしてやる。

ブラシを手に牛のお腹へ歩み寄るとポロアがニコニコ顔で近づいてきた。

私では背中に手が届きそうになかったのでポロアとリンにお願いして背中に登ってブラッシングしてもらった。

二人で楽しそうに牛の痒いところを聞いてはブラシで擦って、広い背中でジャレ合っている。

牛さんの懐柔作戦を横目で見ながら手押し車を牛車にすべく簡易な改良を終わらせた。

 陽が傾き直射日光が和らいでから長めの休憩を終わらせ最初の村へ向けて出発する。

牛の背中に獣3匹と子供二人を乗せ幌付きの荷台が引かれて行く。

後ろには人間達が列をなしそれに続いた。

歩みの速度は人力とは明らかに違い小走りに近い速さに成ったので、日暮れまでには最初の村へ到着できそうだった。

幌が作る日陰を竹箒に跨ってゆっくり飛ぶ私に男が恐る恐る歩み寄ってきて牛車について色々聞いてきた。

野に居る牛や馬、家畜化された牛や豚どれも食糧として殺してきたらしく、人間が使役する習慣はなかったらしい。

人間を奴隷として使うのが簡単で当たり前な時代、根気強く動物を調教し使役するのは闘技用として高額を獲れる猛獣ばかりだったそうだ。

家族に接するように動物達に接すれば、仲良くなれていろんな手伝いもしてくれると伝えると納得してなさそうな顔で列の後ろに下がって行った。

その後別な男が現れて荷車の改良箇所を細かく聞いてきたので簡単に説明してやる。

村に着いて手に入れられるようだったら牛車は増やすつもりだと話すと是非手伝わせて欲しいと頼まれた。

一人でやるよりは手数が多い方がいいに決まっている二つ返事で快諾しておいた。

 予定通りに最初の村に到着したが、上空で見た時よりも遥かに大きい町と言える場所だった。

広くは無い両側に木造の小屋が立ち並ぶ道を今は人の姿のヨウが牛の前を歩き一行を先導している。

道の先に先行して宿屋を物色しているシロンが大きく手を降っている姿が見えた。

夕方の町を進む巨大な牛が引く手押し車を見て町の人々が驚嘆しているのがわかる。

私も左右の店に注意を払って入手可能な品々を口にしてジンに覚えてもらう。

これからの長旅、人間達の生存率を上げる準備をできる限りしておかねば、私の寝覚が悪くなる気がして仕方がない。

最低限の品揃えが確認できたので宿屋で休憩したら、ヨウに頼んで買い出しに付き合ってもらおう。

宿の裏手に荷車置き場があったので牛さんにはそこで休んでもらい、交代で人間の見張りも立ってもらうことにした。

綺麗な水で体を洗って水と飼葉を準備し終わるとリンと子供達が姿を現す。

昼からの懐柔作戦は子供達にも効果があったようで「牛さんと一緒に寝る」とポロアがリンを抱えて背中によじ登っている。

続いて登るソリュンにも牛は嫌がるそぶりも見せずにおとなしくしていた。

しかしここは肉が主食の大陸で暴力優位な土地柄、牛を見る人間の瞳はどれもこれも食の欲求で卑しい輝きを放っているのは心配だ。

リンにも牛さんが人間に害されないように注意してくれと頼むと「友達だからな、当然」と返事をしてくれた。

女性ばかりの大部屋でシャワーを浴びてさっぱりした後テラミスを誘って一階の男衆の部屋に行く。

扉を開けて目に飛び込んできたのは机を重ねた上の雛壇に座らされた子犬と狐、床には男達が平伏して拝んでいる景色。


・姉ちゃん、俺姉ちゃんと一緒の部屋で寝たい

・私は外で牛の見張りをしたいのですが、許可をいただけますかナーム様?


二人ともこんな扱いは苦手なのだろう、奴隷の主人、旦那様、これはそれを越して神様扱いだからな。


「男達だけの会話も必要かと思って決めた部屋割りだけど、まぁ二人に任せるわよ。 見る限り一緒だと同部屋の男性達もゆっくり休めそうになさそうだものね・・・。 それより、買い出しに行くわよ、ヨウ付き合って頂戴ね。 それと荷物運びで力自慢の男性が、5人は必要かしらね」

・俺も付いてく。 知らない町の夜の散歩は楽しいからな!

「承知しました、お供しますナーム様」


人の姿になって数名の男達を指差し同行を指示する。

美女と美少女と男が6人と1匹、松明の明かりが幾つも灯る一つ目の夜の町に出かけるのであった。


次は、キャラバン4

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