緑の小人1
目眩も治り、体の無事も確認できたので一旦東屋で休む事にした。
やはり重力が弱いせいか、身体にかかる負荷は想像していたより遥かに少ないようだ。
滑空速度もテレビで見る大型の水鳥くらいにゆっくり感じた。
着地の問題だけクリア出来たら今の世界を十二分に楽しめそうだ。
東屋で腰を下ろしシャナウを見上げながら
「シャナみたいに上手く着地できなかったなぁー」
羨ましげに目を細め呟く
「大丈夫です! 完璧でした、さっきの技!」
「いや、あれは緊急避難の対応で一歩ま・・・」
「姉様! あの技私にも教えてください!」
話に被せてお願いされても、あんなの怪我の一歩手前だ。
目の前でひらひら横に手を振りもういいと合図してやる。
まだ食い下がるシャナウに構わず、汗で濡れた水晶を服の裾で拭いテーブルに並べる。
「シャナ? さっきのでどの位風の魂とやら使ったか分かる?」
一つをシャナウへ渡す。 受け取り目を閉じると
「ちょっと減ってます」
そりゃそうだろう使ったんだからちょっとは減るわな。
だから残量知りたいんだって。逡巡し聴き方を変える。
両手を開き目の前で指を折っていく
「使う前の満タンを10として、半分使って残りは5、全部使って残りは空っぽ。 で言うと今は指何本?」
「えーと・・・。 8本? 9本??」
「あー、大体でいいんだ。私まだ中身分かんないから、途中でいきなり空っぽになったらパニック起こしちゃうだろ? ありがと、参考になったよ。」
50m上昇して2分くらいの滞空だったよな。
あれで20%の消費なら風水晶だけでの飛行はそんなに長く出来ないって事だ。
モガ滑空と風水晶上昇を併用して飛距離を伸ばすのか・・・。
などと考えながらテーブルに並べる。
「あれ? さっきここに置いてた他の水晶が無い!」
「本当だ姉様、無い! あれ? でもこれ・・・」
草で綺麗に編まれた小さなカゴを手に取って俺の目の前へ差し出す。
受け取り中を確認すると、団栗が沢山入っていた。
「シャナ、団栗が入ってる!」
「あー、大変!あの子達間違えて持ってっちゃったかも!」
「あの子達?」
「そう、緑の小人達! 時々ここで、火の水晶と団栗と交換するの」
「なぁーんだ、盗まれた訳じゃ無いんだ。よかった」
「良く無いの!姉様!」
焦った顔で両手をバタバタし始めたシャナウに、只事ではない雰囲気を感じながらも
「間違えて持って行ったんなら、緑の小人さんにきちんと話して返してもらえばいいよ」
なだめる口調で言うが
「違うの! 姉様の火の水晶はとっても危険なの!」
「え?」
「普通の私達は、さっきので言うと・・・、残りで5位の火の魂しか込めれないんだけど、姉様のは10・・・、足りない・・・!」
「10を超える火の魂入れるとどう成るんだ?」
こっちも少し焦って来た。
「姉様以外が力を取り出そうとすると・・・、」
ドォーーーーーーーーン!
「あんな感じになっちゃう・・・!」
轟音がした白煙捲き上る樹海の奥を指をさし項垂れてしまうシャナウ。
「なっちゃ駄目だろーーー! シャナ行くぞ!」
荷物を纏めて直ぐに音のした方向へ走り出した。
両手に風の水晶を握り、走りながら風神に“飛べ”と命じる。
体はあっと言う間に初回の高さまで上昇し、広場の上空から爆発音のした方角に目をやる。
村とは反対側の1kmも離れていない樹海の中に、白い煙と直立する火柱か確認できた。
強く意識を向けるだけで体は加速を始め、火柱へ向かって飛び始めた。
速度は分からないが目尻に涙が滲むくらいに顔前を風が流れる。
火柱の直前で滑空へ切り替え、旋回しながら火元へ近づいた。
着陸は念頭に無かったが、火元近くの大木中腹を目指し体を回転させ両足で受ける。
そして隣の幹に力を逃す様に蹴り返す。
2本目の幹を同様に蹴り返し、地表へ前転一回転で受け身を取る。
即座に立ち上がり火の水晶を目指した。
少しだけ開けた広場中央に、石で囲まれた囲炉裏があり中に水晶を発見した。
手に納まってしまう大きさの水晶が、腕を回しても届かない太さの赤い火柱を空へ向けて放出している。
周りには砕けた土器の破片と、緑の葉の盛り上がりが数カ所。
地面が濡れているところを見ると、お湯を沸かそうとしたみたいだ。
上空からシャナウの声が聞こえ
「姉様! 囲炉裏の光る石に触ってー!」
迷っている時間は無い。
止まれと命じた風が止まるならば、火も同じはず! 言われた通りにヘッドスライディングで火柱を避け、光る石に手を掛けた。
「炎よ止まれぇー!」
叫びながら強く念じる。
輻射熱で後頭部の髪とモガ服の背中がチリチリ音がしたが、構わず念じ続けた。
体感は長かったが、念じて3秒経たずに
バフッ! バフバフッ!
ガスコンロが配管に残ったガスを燃やし尽くす音と共に弱まった。
小さな火の水晶は尖った先端に蝋燭の小さな炎を残しおとなしくなった。
ため息を吐きながら尻餅に姿勢を変えて、ナームの身体の無事を確認する。
今日で三度目だなぁーと考えながら、後頭部の髪と背中が焼け跡なくて胸をなでおろす。
「姉様無事でよかったー!」
半べそをかきながら抱きしめられた。尻餅姿勢のまま
「シャナ? 小人達は無事か?」
抱きしめられていた力が弱くなり、名残惜しそうに離れると、一番近くの緑の葉の盛り上がりに近づいていった。
しゃがみこんで何か話しかけてから、周りに聞こえる様に大きな声を出す。
「テパー、テパは居るー?」
少し間があったが、木の陰から緑の葉っぱの塊がガサガサ音をさせながらシャナウに近寄って行った。
「テパ大丈夫? 怪我はない?」
「大丈夫、誰も怪我してない。 みんなビックリしただけ。 あ、テトが吹っ飛んだ!」
「テトはそこで無事に丸くなっているから大丈夫。 もう一回、皆んなの無事確認してちょうだいね」
シャナウにお願いされた葉っぱの塊は、あっちこっちの葉っぱの塊へ動き回る。
立ち上がり周りを見渡す俺に近づきながら
「姉様、皆んな無事みたい・・」
「よかった・・・、あんな大きな音と火柱だったから大惨事になったかと思った」
まだ小さな炎の水晶を指差し
「あれ消えなくて大丈夫? さっきも一回念じたけど消えなかったんだけど?」
「一気に大量放出すると、落ち着くまでちょっとかかるの。 多分すぐに消えちゃう」
「あー!ほんとビックリしたよ」
「わしもビックリしたぞ!!」
背中からのオンアの声に飛び上がり、口から心臓が飛び出しそうになった。
次は、緑の小人2




