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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの魂は仲間に甘い
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キャラバン1



 夕刻宿屋の私達の狭い一室に集まった大勢の奴隷達の中心に私達は座っていた。

隣に座るポロアは未だに眠っている子狸リンを抱え撫でているが、敗者の控室に死体を受け取りに来た時は世話焼き少女の後ろに隠れて遠巻きに様子を見てるだけだった。

子供ながらに子狸が女の子になったり赤龍に変身したりする様を間近で見ていたのだ恐怖に感じてもおかしくはないが今は両手で抱き抱え膨らんだお腹をさすってあげていた。

 奴隷の数は男女合わせて24人で闘技場にいた人数より少し減っていた。

鉄の輪から解放されて主人が戦闘で敗者となったのだ生死が分からない状況ともなれば逃げるのは当然だろう、これだけ残っている方が違和感があった。


「私は奴隷と言われるあなた方の扱い方がわかりません。 どうぞ、あなた方は自由にして下さって結構なのですよ? お金と言うものはポロアが買った札を交換したものがあるでしょ。 そちらもあなた方は自由にして構わないのですと伝えたはずですが?」


テーブルには灰色の子犬の横に大きな銭袋があって、中には大金貨や中金貨が沢山詰まっていた。

ポロアがどんな札を買っていたのかは知らないがその中に大穴があったらしい。

ヨウが取り囲む奴隷達を見渡し言い聞かせるが俯いた表情はどれも暗く自由を得た喜びの笑みを浮かべる者は皆無だ。

買い出しの荷物運びを命じられた男が上目遣いでヨウを見てか細い声で呟く。


「旦那様・・・、あっしらは奴隷の身分の焼印が押されてしまってまして・・・。 主人がいないとなると捕まって鉄の輪を付けられてまた何処かへ売られてしまうのです・・・。 戦いが終わったら東に向かうと聞いておりました、ぜひお供させてください」


差し出された両手の甲に三角の火傷の跡がくっきりと残っていた。

最下層の人間扱いされない奴隷の証だそうだ。


・姉ちゃんどうするよ? ヨウが集めてしまった人間だけど、このままこの街に残していってもただ新しい主人に使われて苦しむだけ。 いっそ楽にしてやってもいいんじゃないの?

「そうですね、このまま生きる苦しみを重ねるよりは、安らかな死を与える方が良いのかもしれませんね」


言葉の意味を理解して緊張が瞬間その場を支配したが、全員が項垂れたままの瞼が閉じられその場にへたり込む。

自分達の運命を察し受け入れる姿勢に見えた。

奴隷とは生殺与奪も主人が握ってしまう絶対の法なのだろう。

二人の物騒な発言にどう答えていいか考えていたら、ちょうど子狸がゲップの音と共に目覚める。


・痛い、なんかリンは首が痛いぞ! 寝違えたかな?

・また寝ぼけているのかリンよ・・・。 今回は真っ赤な大蛇の姿であったぞ!


首筋を後ろ足で軽く掻いて一瞬目を見開き何かを思い出したかの様にポロアの膝の上からテーブルに乗る。

シロンの前で横になってお腹を見せた。


・神狼様またリンは悪さをしたのか? また叱ってくれたのか? 叱り足りないか?

・お腹を見せなくても良い。 お前は命を奪われる事は今回はしていない、気にするな

「少々予定とは違いましたが、事は上手く運んだので今回リンは叱られないでしょう」

・そうか、リンは神狼様に叱られないのか。 よかった、あれ? ポロアがいる。 ポロアが生きてる!


テーブルからポロアの膝の上に戻ると顔を盛大になめた。


・ポロアよかったな、死んでなくてよかったな! 一緒にドキアに行ってうまいもんお腹いっぱい食えるぞ!

「リンちゃん、念話で話しかけてもポロアには伝わらないんだよ。 ほら、顔がびっくりしてるから!」

・そうか、ナームみたいに聞こえてなかったな


一瞬で童の姿になってポロアの手を取って喜びの仕草をする。


「そうか、そうか、腕に怪我して血が出ただけだったのか! 血だらけで倒れて動かなかったからリンは死んだかと思ったぞ! お別れの挨拶なしで友達死んだと思ってとっても悲しかったぞ!」

「痛い、腕! 動かすと痛いよリンちゃん!」


喜んだり悲しんだり忙しいリンに争わず沈んだ表情で見つめ返した。


「どうしたポロア? お腹すいたのか? 喉渇いたのか?」

「旦那様は僕達が要らないみたいだからここで死ぬんだって・・・」

「そっか、ここで死ぬのか。 ならお別れの挨拶しよう、そしたら死んだらセトの山へ来い、リンが道案内してやるぞ。 一緒に遊べるぞ」

「セトの山って・・・、僕、知らないや・・・」


リンが話に参加して本題から外れすぎた。


「シロンもヨウもこの話は私に任せてもらってもいいかしら?」

・俺は問題ない

「神狼の意のままに」

「何の話だ? ナーム」

「リンちゃんは黙ってて! 話がややこしくなっちゃうでしょ!」


椅子の上に立ち手を2回叩いた。

死を受け入れて床にへたり込む奴隷達に向かって注目してもらう。


「怪我を負い虫の息の私達は訳あって陸路でここから遥か東にあるドキアの樹海へ帰ります。 ドキアには奴隷制度が存在しない人間の街が幾つもあります。 あなた方が望むならば迎え入れる事が出来る街もあるでしょう。 命を紡ぐ意志があるのであれば、自分達で準備したどり着きなさい。 手枷と足枷が外されて自分の未来に一歩進める気力があるのであればですが」


顔を上げた奴隷達の顔が少しだけ明るくなったが、童姿のリン、人間姿のヨウ、灰色子犬のシロン、獣と言葉交わす黒衣の耳長少女。

いきなり主人となって街を連れ回され、闘技場では人外の戦闘を見せられた挙句に自由にしろと言い放つ存在。

自分達を前にして蔑む視線も嘲る視線も浴びせない存在。


「・・・僕はリンちゃんと一緒がいい! 一緒にいたい!」

「なら、そうしなさい」


ポロアが元気よく叫んでヨウが許可すると、その場の総意は一気に決っした。

するとあちらこちらで話し声が湧き上がり、口々に東にある町の名前と行き方や道中の水場のありか食事の調達方法などをヨウに伝えようとしに来た。

仕事を与えれれて嬉しそうな彼らを掌で制し


「旅の支度は自分達で整えなさい。 お金とやらが必要なのであればこれを使って構いません」


膨らんだ銭袋をつかんで近くの男へ放る。

大金を受け取って目を丸くする男を気にせず立ち上がると


「これからあなた方のことはあなた方人間で決めなさい!」


言い終わると人間姿が陽炎に包まれ白狐の姿になる。

主人と思っていた人間が突如獣の姿になって息を呑む音が部屋に満ちた。

各々の視線が4人をなめる様に見渡し私の所で停止する。


「私? 私は獣に変身したりしないから! このまんまの美少女だから!」


憤慨して答えた私に安心とも残念とも取れるため息を全員が発すると、黙ったままで一人また一人と部屋から出ていく。


「出発は・・・、アトラを出立されるのはいつの予定でしょうか?」


銭袋を大事そうに抱える男が訪ねてきたのでシロンとヨウに視線を移した。

「任せる」と言われたのでここに長居したくなかった私は明日の午前中と伝えた。

驚きと焦りの表情を浮かべて頭を下げると急いで部屋を出ていく。

部屋に残ったのは私達4人とポロアと少女に世話焼きの女性。


「ナーム人間臭くなってしまったから洗ってくれ!」

こもった部屋の空気を入れ替える為かリンが窓を大きく開け放つと、子狸の姿になってシャワー室の桶に入って私を呼んでいる。

最後に私に向けられたみんなの疑念の視線、大金を持たされて勝手にしろと言われ出て行った男。

負けた演技が通じなさそうなリザードマン。

考えなければいけない事を頭の中で整理しながらリンを洗ってやり、続いて子供達を綺麗にして女性と毛玉2匹も終わらせる。

世話焼きの女性が毛玉達をブラッシングしてくれているのを横目に、自分の汗と埃を流し終えた時にはもう夜は更けていた。

子供の服の洗濯は簡単だったが女性が身につけていたものは服と呼べる品物ではなかったので私のモガ服を着せておいた。

背丈が違うので膝丈のスケスケブラウスになってしまったが仕方あるまい。

どうせ彼女をエロい視線で見るのは最近オヤジ臭が酷くなったイヤリングのジンくらいだ気にしたものではあるまい。

昨夜とは違った賑やかさが外から聞こえて来るが、危険な気配は感じないのでシロンを抱えてベッドに入って横になる。

リンとヨウは外の星を見ながら何やら話し込んでいる、子供達二人は離れたベッドで寝息を立てている。

壁に寄せられた椅子に座ったままで器用に眠っている世話焼きの女性の頭がコクコクと動いていた。

 アトラでの目的だったグローズとの面談は為されなかったが、何とか銀星管轄地での自由行動は勝ち取れた気がする。

初見の武器にルーゾンを上回る戦闘力を持つリザードマン達の出現。

意図ぜず増えてしまった人間の同行者達。

強大な力を見せつけた獣妖怪達。

自分の置かれた状況を整理してミムナに報告を済ませた私は少しだけ眠る事にした。

次は、キャラバン2

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