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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの魂は仲間に甘い
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召死鱗戦2


剣とガントレットで接近戦を開始したシロンとルーゾン。 人間の領域を超えたスピードと腕力。 錆びた鉄が削られ火花が飛んで、遅れて届く衝撃音。 私の知るシロンはそこには無かった。 意識を集中し時間経過を遅延させていても視覚で捕らえる姿は滲んで見える。 両手の爪、鋭い牙、矛を付けた柔軟な尾。 攻め手の数はルーゾンが圧倒しているが、シロンは片手剣だけで軽快に受け流している。 地に挿した大楯を中心に砂塵を巻き上げながら鍔迫り合いを続ける二人を尻目に、取り巻きの2体のリザードマンを無力化したヨウが伏兵を体の正面に向けたまま後ろ向きで私の近くに飛んできて着地する。


「ナーム様この壁は?」

「あ、触っちゃダメ! 指無くなっちゃうからそれ触っちゃダメだからね! 水晶の粉であのブラスターを減衰・拡散・反射するのよ」


解せぬ視線を一瞬だけ向けて掌を光の壁に差し込んで来た。 ヨウの手は傷を負う事なくすり抜けて手首まで光に包まれる。


「神狼の言葉が、・・・今分かった気がします」

「何ヨウ? シロンが何か言ってたの?」

「ナーム様と一緒にいると頼りすぎて壁を打ち破る力が削がれてしまうと。 みずからで叡智を得れなくなると」

「叡智? 私が? そんなの持ってないわよ! キャロルちゃんに負けて240年も眠ってたし・・・、シロンはそんな弱い私を超えたいって思ったって言ってたわ」


旋風に込められていた水晶が何だか減った気がしてこぼれ落ちる水晶の量を少し増やす。


「この粉、頂いておきます」


壁に入れてた手を引き戻し胸の前に置くとヨウの薄魂体が強い太陽の光を受けて少し輝いた気がした。 不意に衝撃音が止んだと思った時ヨウの隣にシロンの姿が現れた。


「ヨウよ、私の気分は晴れた。 私は下がる、あとは任せる」

「承知しました」

「シロンどうしたの怪我したの?」


シロンの体には変わった所は見受けないが、今までに無い真剣な表情は緊急事態を物語っている。 さっきまで戦っていたルーゾンを見ると全身に切り傷があり出血していて明るく緑だった鱗の輝きが赤黒い物に変わっていた。


「あんな奴相手にもう怪我なんかしないよ姉ちゃん。 少し後ろに野暮用ができてね、あとはヨウに任せても大丈夫だから、姉ちゃんはここから動かないでね!」


それだけ言うと片足で地面を蹴り飛ばし後方へ下がっていく。 正面では雄叫びを上げるルーゾンに再生途中の二人のリザードマン。 未だ動きのない姿を隠した連中。 動くなと言われて黙っていれる状況では無いはずと考え、腰に刺したミムナ特製の杖を盾を付けた左手に持って右手に竹箒を構える。


「ナーム様は、神狼の言いつけを守ってそこでその壁の中に入っててください。 任された私があの連中の相手をしますので」


お願いする仕草で小さく頭を下げて前に出るヨウの腰から大きな3本の尾が現れる。

手にした剣を力なく足元に放ると両の手に鈍く光る長い爪が伸びた。


「あいつは逃げたのか? もう少しで、また、手足を切り飛ばしてくれた、ものを!」

「神狼が逃れる? 全身から出血している貴方如きの前から?」

「俺達は不死身だぁ〜! 流れた血の分、鱗は強化され攻撃を跳ね返す! ほら見ろ、あいつらだって簡単に倒れたりしない、再生して更に強くなってお前達の血を、浴びてもっともっと強くなるのさ!」


シロンの剣で幾筋も流された血液が腫瘍のように盛り上がり鱗を覆う鎧の形を成す。

鈍い動きで倒れた場所から歩み寄って二人もガントレットを両手に嵌め、最初の立ち位置に戻って来て各々憎悪の咆哮を放つ。 その声は地面の砂を舞い上がらせ砂塵の壁を作り視界を悪くさせた。 私が風の魂で吹き飛ばそうと意識を向けるとヨウの手が後ろを向き「何もするな!」の合図をする。 左手が一度上空を向き正面に振り下ろされると、砂塵の壁は消えて鮮血を吹き上げる3人の姿が見えた。 5mを越す間合いを無視した5指の爪による斬撃。 再生した二人は肩から腰に抜ける一戦で両断され、ルーゾンは四肢を切り飛ばされて地に倒れる。 悲鳴と呪いの言葉を発しながらも戦意を失わないのた打つ体を上から見下ろし、無言のまま両手爪の斬撃を浴びせ続けた。 吹き上げていた血飛沫が止まったが代わりに、鱗と肉と骨が細かく辺りに飛び散って3人の体の部位は見分けが付かなくなる程細かくされた。 赤く染まった地面を無表情のままゆっくり歩き何かを拾うと、潜んだ連中に向かって放った。


「こんな体になってしまいましたから、これで戦いは終わりですか?」


不可視の迷彩を纏って戦いを生還していた連中にやっと動きが出た。 ルーゾンが後方へ放ったブラスターが姿を消した位置に陽炎が現れ、黒さを増すと伏兵が姿を現す。 中二隊のルーゾンとは明らかに違った体格。 両手両足、尾まで巨大で成体形と思われた。 以前のルーゾンよりも立派な体でキャロルちゃんとほぼ同格体が8人。 右腕に火器だろう太くて黒い筒が装着されていて着込んだ鎧からは軍の特殊部隊を連想させた。


「終わりなわけないでしょ! 神様呼ばわりされてる俺らが人間如きに負けるわけにはいかないもんでね〜。 保険だったんだが、うちらが出る羽目になるとは・・・。 軍の武器まで持ち出してミンチにされるとは。 やっぱ、あれだねぇ〜、弱い奴は何をしても弱い。 よねぇ〜」


見た目はゴジ○の着ぐるみそのものでヨウの身長の3倍はある。 装着されているプロテクターの隙間から見える鱗は黒い輝きで傷跡が無数にあり歴戦の勇姿たる風格だ。 面倒臭そうに足を運び鉾矢の陣形でヨウと対峙した。 左右の二人が筒の付いた腕を上ると赤く光りヨウの立っていた地面を撫でるように撃ち抜く。 散乱していた肉片が焼ける匂いと、脂が上げる煙が立ち込める。 先頭の返事をした司令官らしい男が手を挙げると攻撃が止み黒く焦げた地面が燻る音だけ残った。 高出力のブラスターを回避したヨウは半身の自然体で私を庇う位置に立つ。


「同感です、己の弱さを知らぬ者は強者にあらず」

「言うねぇ〜。 地球でそんなの言ったのはあんたが初めてだよ、侮ってたらオイラも痛い目みそうだ。 怖いねぇ〜世界ってやつは狭いようで広いってわけだ? ルーゾンお前らはここでおしまいだ、グローズ閣下に2度も恥を掻かせたからな〜」


指の間に三つの魂の核を挟んでこちらに見せつけると一気に握りつぶした。 ゆっくり開かれた掌から砕けた核が地面へ落ちてゆく。


「では第2回戦の開幕だな」

「決闘なんだから、2回戦目なんてルール違反じゃないの?」

「馬鹿かお前? ここじゃ俺がルールだ火星の人形は黙って蒸発しちまいな!」


言葉が終わらぬうちに魚鱗の陣形に変わった相手が一斉に大筒のブラスターを連射して来た。 ヨウは腰を落とし体の前に両手で円を描き私の作った障壁と同じ物を出現させ4本の光線を一人で受け止めた。 眩く閃光し続ける空間に拳を叩き込み向けられた先のリザードマンが蒸発する。


「ほぉ〜。 バケモンみたいなのが地球にもいたなんて、あんた自分が弱いと思ってんの? ホントかぁ?」


余裕だった司令官らしいリザードマンが強固なファイティングポーズを構えヨウを厳しい眼光で睨む。


「私より強いお方がいるのですから、私は弱者に変わりはありません」


抑揚もなく答えるヨウがとてもカッコよく見えた。 女だったら惚れてる所だ。


「そんじゃ、オイラがあんたに自分の弱さを教えてやんよ!」


ゴジ○の巨体が霞み姿を消すとヨウの立ち位置に現れる。


「オイラの牙から逃れたのはあんたが初めてだ。 こりゃぁ、楽しくなって来たぜ!」


忽然と私の隣に姿を現したヨウが残念そうな表情をする。


「私も、楽しみたかったのですが残念です。 ナーム様少し位置を変えねばならなくなりました」


声が後ろから聞こえた時には腰に手が当てられ何処かへ運ばれていた。

次は、召死鱗戦3

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