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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの魂は仲間に甘い
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再びの闘技場2



 ナームと神狼と別れ子狸を小脇に抱えたまま早朝のアトラの市街地に歩き出す。

服装の違いのせいか見慣れない肌の色のせいか、すれ違う数多い男女がヨウを好奇な視線で返り見る。

迷いのない歩みに目的地が有るのか足取りは早い。


・お腹空いたぞヨウ! リンは肉が食いたくなったぞ!

「今朝朝食は食べなくても良いと言ってはいなかったですか?」


4足をジタバタさせて子狸が訴えているが進める速度は緩まない。


・肉があんなに焼かれているのだぞ、食わないでどうする? 神狼様の言いつけ守らないでどうする?

「リンよ、あれは”己が求めず戦いになって命奪った肉体を己が糧にすべし”だ。 何も人間が欲で奪った命の肉をすべて喰らえと言ったわけではないでしょ? お前ならそのくらい知ってる筈でしょう? 始妖四獣なのですから」

・肉がもったいない! 命がもったいないぞ! リンは食べてあげたいのだ! 


脇腹で抱えていた子狸を胸の前で両腕で抱き背中を撫でて寂しそうな顔になる。


「後で・・・、後でたっぷり食べて貰いますから暫く待ってくださいリンよ」


優しい声音で呟くヨウの真意に気づいたのかリンも暴れるのをやめる。

ヨウが神狼と意識を交わした頃、周囲には常に4匹の獣が徘徊していた。

西の猿と狐、東の猿と狸。

狼の巨体と強力な威圧の気配を感じながらも近付いた獣の強者達、それらは始妖四獣と呼ばれていた。

二人は古くからの知り合いで、神狼を強く慕う仲間だ。

リンの持つ魂の力は他の始妖四獣と同等になっている筈なのだが表に現れる態度は知り合った頃から変わっていない。

神狼に媚びうる態度をヨウは快く思ってはいなかったが、それは一つの処世術だとも思っていた。

神狼は集う獣全てに武闘の強者である事は求めていなかった。

それぞれの強さがあって良いと常に語って聞かせていた。

ただ、弛まぬ努力だけは近い物達に強いた。

遥か昔に思いを馳せるヨウの鼻にシワが刻まれて、リンが前足2本で鼻を覆った。

目の前には石造りの立派な門構えがあり敷地の中には木製の檻に人間達が煩雑に入れられた姿があった。


「死臭手前の絶望臭。 なんとも不快な所」


奴隷商人が集まる一角で一際大きい店にヨウは足を踏み入れる。


「兄さんここの商いは昼過ぎからだよ!」


門の裏手に背を預けていた槍を手にした男が話しかけてくる。


「中を見せて頂きたいのですが?」

「昼からだって言ってんだろ? これから商品仕入れたり洗ったりと忙しいんだ、奴隷買いたきゃ昼からだって! 見せもんじゃないんだ仕事の邪魔しないで帰れっつんだよ!」


勢いをつけて背中を門から離し右手に持った槍をヨウの眼前に向けて風を切る。

鼻先数センチ先で止まった青銅製の矢尻を眉一つ動かさないで見つめてから腰の皮袋に手を差し込む。

取り出した時に指先で摘まれた石銭を槍を握ったままの男へ見せつけた。


「おっ? なんだ石銭一粒じゃ昼飯も食えねえぜ、出すんならもっとマシな物だしな! さぁ、出てってくれ!」


ヨウはもう一度袋の中に手を入れて今度は銅貨を一枚取り出して見せた。


「兄ちゃん、もう一声だ! それが2枚だったら俺が店ん中案内してやるよ」

「それではお願いします」


再び取り出した手には3枚の銅貨が握られていて宙を舞って男の左の掌の上へ乗る。


「気前のいいお客さんは大好きだぜ!」


上機嫌になった男は槍を石壁に立てかけ揉み手しながら汚い歯を見せて笑った。


「どんな奴隷を探してるんだ? 女か男か? おりゃ門番だけど目には自身あっから掘り出し物紹介するぜ!」


ついて来いと手招きし屋外の皮を被った檻を少しめくり説明し出す。


「こっちは農作業用の男と女が入ってる、そしてこっちは子供だ。 んでもってこっちが練習用」

「練習?」


痩せこけ満足に体を動かせそうにない歳をとった男女が手を縛られ立ったまま檻の中に吊るされている。


「戦いの練習用さ。 新しい剣とか槍とか買ったら試しに人間切ってみたいだろ? 弓とかだったら動く的にも当ててみたいだろ? その為の練習奴隷さ。 すぐ死ぬからこいつらが一番安いぜ、1銅貨で二人だったかな?」

・獣以下だな、ここの人間!

「そうですね、生きる価値無しですね」

「そうなんだ、こいつらには生きる価値なんてねぇのさ!」


リンの双眼が赤く光り紫色のオーラが吹き出しているが案内役の男は気付いていない。

優しくリンを撫でながら怒りを抑えてと呟く。


「他には売り物はないのですか?」

「店の中には上物も特上も置いてあるけど・・・、おりゃ門番だからな。 おっと、時間外だがここの旦那に話を通してやってもいいぜ? 上客が来たって言や話は聞いてくれると思うぜ?」


盛大に揉み手する姿を見て銅貨を一枚放る。

受け取って黄ばんだ歯を見せて笑って見せると建物の奥へ姿を消していった。


「簡単にここの人間を嫌うなと神狼に言われたが、無理そうな気がしてきました」

・燃やしてしまってもいいかな? 神狼様、怒んないかな?

「もう少し見て性根を確かめましょう。 その後で神狼に許しを乞いましょう」


ヨウの背中には3本の尾が総毛立って乱舞していた。


「コラァ! テメェは門番だろ! 持ち場離れて店ん中で何してやがる!」


怒声に鞭打つ音と門番らしき男の悲鳴がした後小声の会話が聞こえ男が一人店の中から走り出してきた。

血相を変えた門番がヨウの横を走り抜け立てかけた槍の場所へ戻ると直立不動の姿勢をとった。


「営業時間外の客は相手しないんだが。 あんた上客だって? 金持ってんのか?」


素材の良さそうな布で仕上げた小綺麗な服を身に付けた初老の男が陽の刺さない暗い店内から姿を現す。

後ろに二人護衛らしき首輪を付けた奴隷を連れていた。


「ここの商品を一通り見てみたいと思いまして」

「あん? 見るだけなら帰ってくれ。 買わない客は客じゃないんでな!」


品定めする眼差しをヨウに向け爪先から頭へ向けて肩を落とし気落ちした視線で門番を睨む。


「こんな奴が上客か? ったく。 ほら出てってくれ! こっちは仕込みで忙しいんだ!」


後ろの二人に目配せして護衛の暴力で追い出そうとした目の前に黄金の輝きが現れる。

太陽の陽の光を受けて眩く輝く大金貨が男の前にかざされていた。


「欲しい物がこれで買えるそうですね」

「あんた、そんな大金で奴隷を買いに来たのか? 特上15人いや、20人は買える金額だぜ? そんなに店に揃えてる所はこのアトラには無えが・・・、時間をくれればあんたの欲しい人数集めてやるよ!」


一気に態度を変えた奴隷商人を見ても眉ひとつ動かさず尋ねる。


「商品を見せてもらえますか?」

「もちのろんで、と言いたい所だけど店の中は散らかってて、商品も洗ってないし油もまだ塗ってないんだが・・・」


上客に少しでも商品を良く見せて値を釣り上げたいのか、即座の入店を渋る奴隷商人を掌を前に出し黙らせる。


「中を見せてもらってもいいですか?」


変わらぬ声音に首を縦に振り護衛の二人にランプの準備を急かした。

 店内は石壁で区切られた屈強な男達が入れられた檻の部屋と板の間に鎖で繋がれた女達が並ぶ部屋に分かれていた。

それぞれ10人居て一人づつの特徴と商品ランクを説明し出す。

主な用途は護衛と慰み者だ。

値段は女性の方が高く容姿の整った子供が産める年齢のものが最も高価だった。

途中から子狸が飛び降り一人一人の匂いを嗅いで廻るさまを不思議に見ていた商人が胸の前で手を一つ叩く。


「あんたもしかして昨日のドッグレースで連勝したって調教師か?」


何も答えないヨウをじっくり見て一人で納得している。


「異国の服と見慣れない肌の色・・・、確か連れていたのは灰色の子犬だって聞いたが。 これは犬ではないな・・・、何匹も調教してるのか・・・」


独り言を呟く商人の相手をせずゆっくりと奴隷達を見て廻る。

歩き回る子狸を不思議そうな虚な目で見る者、空腹にヨダレを垂らして凝視し続ける者様々だが誰も声は発しない。

それもそのはず全員の口には猿轡がはめられていた。


「商品はこれだけか?」

「・・・ランクが付けられてない新しい奴隷は数名あっちの部屋に居るが、お客さんに見せられる状態じゃないんでね・・・」


渋る商人を無視して示された木製の扉に手をかけて開け放つ。

人の汚物と体臭の匂いが溢れてくるが子狸は構わず中に入って、鎖に繋がれた一人の男の子の前にお座りした。


「そうですね、その男の子を連れて行きますか」

「えっ? そんなのを買うのですか?」

「お金と人間を交換しているのでしょ?」

「しかし、・・・綺麗な服着せても小金貨1枚にもならない痩せた子供・・・」


特上の奴隷で大金をせしめようと思っていた妄想が打ち砕かれて肩を落とした商人の前に中金貨が差し出される。


「それではこれと彼を交換しましょう」

「あんたこれは中金貨ですよ? 他に何人か買えますよ。 ってか昨日大金稼いだんだったら買ってってくださいよ」

「それでは、この金で連れて行ける人間はどれですか?」

「そうこなくっちゃ! あんたも男だから特上の女は一人くらいいてもいいでしょ? それと護衛に上の男が二人、上の女は・・・おまけして4人だな・・・、服もそれなりっと・・・」


四角い板の上で小石を動かし計算すると上目遣いでヨウの出方を見て値踏みを始めた。

大抵の人間は算術は出来ない誤魔化しても言葉だけ装っておけば客は満足して帰っていく。


「ひとこと言っておく。 私は騙されるのは嫌いだ。 そのつもりなら命を賭けろ」


冷静な声と光る眼光晒され眉間に垂れた汗を拭うと板の石をもう一度動かし始める。

リンが再度提示された数分の奴隷を選び終えてヨウの肩に乗る。

支度が終えて店内から出てきた人数を数えて中金貨を奴隷商人に渡し護衛が二人同時に読み上げた書類に手印を押した。

ヨウが手にした細い鎖に繋がれた人間は大人の男が3人大人の女が5人それと男女の子供が一人づつであった。

次は、再びの闘技場3

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