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エルフの体はとっても便利です  作者: 南 六三
エルフの魂は仲間に甘い
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アトラ城内


 壇上の声の主は両手を広げ仰々しい歓待の字句を一通り述べ黙り込む。

静寂が訪れ私の挨拶の番になったらしいので、礼句を返しグローズとの面談で来た趣旨を伝える。

返答で返された内容は自分を大地を統べるガイア王のエンケラドスと名乗り自分の偉大さを延々話し始めた。


「あなたが偉大なのは分かったんですけど、グローズに会って話をしたいのですが」

「娘よ、その帽子を取られてはいかがかな?」


こいつ私の話なんか聞いちゃいないって態度だ。

まぁ、室内なので日焼けの心配もないだろうし、いきなり天井から槍が襲って来るはずも無いと思いエンケラドスの提案を受け入れとんがり帽子を膝の上へのせた。


「おぉ〜、聞き及んだ類稀なる美貌の持ち主を超えておるな! 15、いや13歳か? 幼き肢体は・・・、ふむ、愛嬌として・・・、5年もすれば嫁一位を狙える乳と尻に成るかも知れんぞ、よかったな!」


足首から舐めるように体を這った視線が絡み合う。

背筋の産毛がざわざわ騒ぎ嫌悪感が握った拳に力を込める。


「嫁? なんじゃそりゃ、エンケラドスとやらグローズはどこか? と聞いたのだぞ! お前の色濃い妄想に付き合ってる暇は無いのだ。 早くあやつに合わせろ!」 


ミムナの苛立ちの感情が水晶を通じて湧き上がり、口調はいつもの私では無いものになっている。

壇上で指を弾く音がした後5回太鼓が鳴った。

脇から私達に椅子を運んで来た女性が新たな椅子を運んで来て、目の前に据付て立ち去る。


「さぁ喜べ女! これは5位の椅子だ。 簡単には座れぬ私の嫁5位の席であるぞ!」


話が噛み合わない自己中の自称ガイア王に苛立ちを感じつつミムナと話し合う。


・情報が足りない、現状把握が優先だな


こいつ、頭がいかれてやしないか? の念は横に置いておいて話を合わせてやった方がいいのか?


「そのような大層な椅子、私に拝ませて頂けるとは、なんと心優しい王よ。 ・・・あぁ〜、そんなのいいからグローズだしやがれってんだ!」


ダメだった、イライラが爆発しそうで付き合う気も瞬間でふっとんだ。

右手が熱い、握り締めている竹箒の先端が明るく輝き出して変な煙も上げている。


「歳はもいかぬお前には見ることも叶わぬ椅子だが、我が育ての父が強く勧める嫁。 私も誠意を持ってお前を迎えよう!」

「はぁ? 私があんたの嫁に? なんじゃそりゃ?」

「私はガイアの王。 しかし、未だ全てを手に入れておらぬ。 遠くにある小さな部族が私の偉大さを知らずに貧しき生涯を送っている。 お前は噂を聞きつけて偉大なる王の助けを求め腰入れにまいったのであろう? 話は父グローズから聞いておるぞ。 妻にして欲しいとしつこい程ねだったのであろう?」


念話の向こうで「あいつ、ぶっ殺してやる!」とミムナが叫んでいたが、この謁見の広間にグローズの気配は感じない、成り行きを何処かで見てほくそ笑んでいるのかも知れないが。


「取り急ぎの面談はグローズに申し入れしてたが、腰入れの話はそちらの誤解だ。 まずは、グローズ本人と話し合いたい事がある。 取り次いでもらえませんかエンケラドス?」


自分の席に数人の従者を呼び言葉を交わした後、立ち上がり壇上から降りて近寄ってきた。

男は内に秘めたムッツリスケベがいいに決まっている、チャラいエロ男が昔から苦手な私は自然と眉尻が釣り上がる。

湧き上がる嫌悪のオーラが自分で観れる程濃さを増している、静止が効かない。

取り巻きを引き連れ10m手前で片手を上げて歩みを止めた。


「ふむ、なかなか鋭い視線! そなた綺麗なだけでは無く刺を持った野の花の様だな」


自分の手で兜を脱ぎ乱れた白髪を手櫛で整えエロ微笑んで私を見据える。

もうとっくに瞬殺の間合いに入れているだろうシロンは片目だけこちらに向けて我介せずの表情だ。

武術を嗜んでそうな浅黒い精悍な顔つきは、横乗り系スポーツがうまそうな軽薄イケメン。

性根がおっさんの私には嫌悪感しか湧いてこないし、さっきから胃液がこみ上げてきている。


「あんたねぇ、グローズはどこかってさっきから聞いてるでしょ? そこんとこ答えなさいな! 言葉は理解してるんでしょ?」

「あぁ、なんてかわいそうなんだ。 辺境の部族は英知が足りず言葉が汚いとは本当のことだったか。 が、おいおい馴染む心配するな娘よ・・・その可愛さに合った言葉遣いをゆっくり教わると良い。 おっと、父上の事だったかな? 我が貴き父上は今は南方の海でクジラ狩りの最中だ。 帰ってきたら、ゆっくり話す機会を与えても良いぞ」

「ここに居ない? グローズが不在だと? クッソ無駄足だったか・・・」


席を立ちかけた時シロンが指先で摘んだ小さな鱗を突き出した。


「昨日これを預かった。 ここにいる閣下に渡せと言われた」


従者が歩み寄り鱗を受け取ると疑わしい眼光全開でシロンと鱗を見つめてエンケラドスの掌へと託す。


「ルーゾン殿の召死鱗? ・・・どちらが受け取りましたか?」


シロンと一度視線を合わせ念話を終え二人同時に手を上げる。


「ただ渡せとは言われたのだけれど、閣下じゃ無くて貴方でもその意味がわかるのですか?」


若輩者が醸し出す性的欲求が滲み出たチャラさが薄れて初めて真剣な面持ちになった。


「私は父上よりこのガイアの王として唯一認められた強者。 地上の世界は全て私に与えられた。 ただ・・・これは故郷が海の大いなる方々の決闘の証。 あぁ、何たる事か! 辺境の小娘が妻になれる奇跡が、底無し沼に足を取られた小鹿の様にすでに絶たれていたとは・・・」

「グローズは留守。 そのキモいのはルーゾンからの果たし状。 あんたは地上の王様役。 大体私も想像ついてきたけど、貴方は1000年条約って知ってるかしら?」 


死んだ妻へ向ける悲しみの表情を私に向けたまま小さくうなづく。


「太古より結ばれている、離れた海との約束事であるな。 新たな約束はまだ先、途中の変更は条約締結理念に反するのであり得ない。 と父上は言っていた」


ミムナが向こうで地団駄を踏んでる姿が脳裏に過ぎる。

地上に人間の支配する国を作り地球を独立させる話は前回グローズから提言されたもの。

このチャラい金ピカ王が担ぎ上げられた人間で、各地域から輿入れを受け入れ財力と武力を前面に出して近隣地域を取り込んでる途中なのであろう。

それを裏から操り銀星本陣の到着準備を整える。


「はぁ〜ぁ、それじゃ、ここに長く居ても仕方ないわね。 決闘約束の闘技場にでも行きましょうかシロン」


頷くシロンを見てから椅子から立ち上がり、思い出した様に小さく飛び上がり体を震わせ未だ死人を見る目の金ピカチャラ王に


「私達は・・・、闘技場に行くと・・・、小鹿の様に死んじゃうのね・・・」


悲しげな声音と水晶で潤ませた瞳で訴えかける。

当然猿芝居だ。


「確実にそうなる。 逃げることは叶うまい」

「万が一・・・、生き延びたら?」

「あり得んが、生きていたら側室の末席に・・・」

「万が一、生きていても怪我してたら側室は無理! だし来た道の海は渡れないかも知れないわ。 東の森に帰って年老いた母の面倒を見なくてはならないのに・・・。 はぁ・・・」

「ガイアの東が辺境のジャングルドキアだったな。 奇跡的に命を繋いだのなら帰りは海に面した門からで無くても良いぞ。 ここから東に幾つもある私の都市で休みながら帰るとよかろう」

「あら、それじゃ貴方のお父さんの管理地東に抜けてドキアに帰らせてもらうわね!」

「叶わぬ想いを抱き召死鱗の舞台へ赴くか・・・。 その幼き中の潔さ気に入った、その血肉無駄にはしない、亡骸は貴き我がしもべ達に喰らわせてあげよう」


現知は取ったので足は出口に向かっていたが後ろで物騒なことを呟かれたので振り返る。


「しもべ達って?」

「ここへ来る途中の橋の下でまどろんでいなかったか? 神々しい私のしもべ達が?」


こいつもグローズ同様頭が逝かれているらしい、私達が死んだらワニの餌確定だそうだ。

呆れて返事を返すのも面倒になりシロンの袖を引き足早で謁見の間を後にした。





 行先を邪魔するものは誰一人現れず、すんなり一番通りへ戻ってきた。

途中ミムナとすり合わせをした銀星勢力側の内容はこんな感じだ。

地球外で行われている惑星間戦争を地球管理地区間の戦争にしたくない思惑がグローズにはあり、ミムナと同じく時間的猶予を欲していると推察した。

人間も含めた総兵力で言えば地球の銀星勢力は巨大だが、エルフとリザードマンとの直接戦闘を回避したいのではないかとミムナは言う。

原因はリザードマンの魂の核を看破し瞬殺したナームの戦闘力への対抗策が整っていないのではないかとの思いだ。

一人のエルフが4人のリザードマン戦士を戦闘不能にしたのだから火星の地球戦力を過大評価していることは間違いない。

自分の息のかかった人間に人間達を征服させその間にエルフに対抗する武器や戦術を準備するのであろう。

ニビの内側にあった夥しい数のリザードマンの核、それらを地球で育てる環境づくりも準備しているのかも知れない。

グローズの城の中でリザードマンを一人も見かけなかったのは疑念が湧くが昨日湖では任務途中のルーゾンに会っている。

鯨狩りのグローズといい水中で奴らは何かを準備中なのは間違いなさそうだ。

ミムナは海中の情報は集めていなかったので緊急に対策を講じる準備をするらしい。

条約継続が確認できたので各管理地でリザードマンとエルフの戦闘行為はしない方針だが、試合はミムナの許可が出た。


・向こうからの決闘の申し込みなのだ、受けても問題はあるまい?


私個人は試合も殺し合いも避けたい。

痛いのは嫌だし、仲間が怪我をしたり死んだりするのは耐えられない。

黙ったままで隣を歩くシロンを見上げ、絶対に誰かに殺させたりはしないと心に誓った。


次は、再びの闘技場1

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