飛行術2
柱を囲む低い丸テーブル前でしゃがみ、俺から受け取った水晶を並び始めた。
7個有った水晶を4と2と1に分けて説明し始める。
「こっちが姉様封入の風の水晶4個、火の水晶2個。 こっちは空っぽ」
それぞれ指差しながら説明してくれるが、しゃがんで顔を近づけて見ても全く見分けが付かない。
魂が別人だから見分けられないのか?
俺使えないんじゃねぇか?
疑問に思ってる俺を他所に、シャナウは熱心に教えようとしてくれる。
「水晶には魂を封じ込めてあるの。 風の魂、光の魂、火の魂、水の魂。」
「魂?」
「私には細かく分かんないけど、姉様が教えてくれた時にそう言ってたの。 この世界に在る物は全てに魂が在るんだって。 ただ、薄く溶けてる物から固まって形を作ってるものまでいっぱいあるって言ってた」
多神教的、八百万神的な考え方か? 胸の前で腕を組んで聞き入る。
「風の魂は目に見えなくて薄いけど、全身で感じれるからって最初に教えてくれたの」
なぜか俺を見る目が熱くなってる気がするが今は無視しておこう。
4個並んだ中から二つ取り両手に待つ。
「どんな感じで使ったらいいの? コツとかイメージとか最初に教えてね」
東屋から出てシャナウは両手を広げた。
手には水晶が握られている。
「一番いっぱい出せるのはとんがった方なんだけど、飛ぶには少し力を出せれば良いから、向きは気にしないで手の平で握って、自分が行きたい所に連れて行ってって、手の中にお願いするの!」
日中の陽当たり良いこの場所でも分かるくらいに、両手が淡く光り徐々にシャナウの体が浮き始める。
そして、つま先が地面から離れた。
集中して観察すると、手に握る水晶が直接風を噴出しているのでは無い。
全身から重力の逆方向へ微風が漏れ出している感じだ。
3m位の高さに風で靡く白いモガ姿。
制止してる様は、海外の教会の絵画で観る女神の様。
思わず見とれてしまう。
「すごい! 綺麗だ!」
心から感嘆の言葉が漏れる。
まるで奇跡を見せられている様だ。
ゆっくり地面に降り立ったシャナウは照れながら近寄り
「次は姉様の番!」
照れたのかハニカミながら、やってみてと促す。
シャナウが降り立った場所へ移動し向きを変えて同じ姿勢をとる。
風の魂か・・・? 風と言って思い出すのは風神雷神。
目を閉じ風神の持つ大きな袋を脳裏に描く。
そして強く願う。
「風神よ空に導け!」
全身に鳥肌が立つ感覚と共に重力から解き放たれる。
瞼を開いて見えた光景は樹海の海原。
広場にいるシャナウは遥か眼下に小さく見える。
垂直に50mは上昇した事に驚愕したが、恐怖感は感じなかった。
それとは逆に両手から強烈な力を感じた。
開いた両腕を閉じても浮遊状態は維持できた。
不思議な感覚を覚えながら周囲をゆっくり見渡す。
「姉様—!」
声と一緒にシャナウが同じ高さまで登ってきた。
「やっぱり姉様すごい! 覚えてなくてもちゃんと出来た!」
抱き着いて来たシャナウのお陰で、直立していたバランスが崩れるが浮遊状態は維持している。
なかなか離れないシャナウを優しく押しやり
「シャナ、上へ来たのはいいけど、降りるのはどうやるの?」
「モガで飛んでもいいし、水晶に降ろしてってお願いしても降りられるよ」
「キャぁぁぁぁぁぁぁぁー!」
「姉さまぁー!」
自分の口から発せられた悲鳴に自分で驚きながら、垂直に落下し始めた姿勢を水平にすべく手足をバタつかせ、何とか滑空姿勢へ移行出来た。
「姉様すごーい! もう完璧!」
褒め上手なのか、分かっていないのか、楽しそうなシャナウの声が後ろから追いかけて来る。
集中力が切れたら墜落しそうなので、相手をするのはやめておいた。
何故ならば問題は着陸だからである。
本物の飛行機もラジコン飛行機も大事故は離陸と着陸に集中する。
意図せず離陸できたが安全な着陸を緊急に求められていた。
上から見えた小さかった広場はもう視界一杯で、地面が間近に迫っている。
体はラダーに成る部位がないので、両足を飛行機のエルロンとエレベータに成る様、膝を曲げたり足を開いたりと忙しく動かす。広場から外れない旋回コースに入った所でハードランディング。
瞬間頭を腕で庇い前転する事で胸で着地するのは避けられた。
何回転したか分からないが、全身枯葉だらけで埃まみれ。
回る目と気持ち悪さを抑えながら立ち上がった。
「姉様! 今の技初めて見ました! ちょーカッコ良かったです!」
ボールを拾って来た子犬が燥ぐ様に、スパルタ師匠が駆け寄って来た。
難易度高いの分かってて、ワザとやらせて無いかこの娘?
記憶の無いナームに仕返しとかしてない?
悪い方に勘ぐりたく成るのを抑えつつ、埃を優しく払ってくれるシャナウのされるままにした。
次は、緑の小人族1




