EP1-CP8 正義の暗殺者(キラー)(2)
「弟さんはどうしてこんなことに?」
今にも泣き出しそうな優奈に、雪は恐る恐る聞いた。
「…それは私にもわからないけれど、私のせいなの。私が…もっと早く帰っていれば」
目に涙が溢れているが、表情は変わっていない。
「まぁ、そう自分を責めるなよ」
「お前が言うな!」
類の頭上に2つの拳が落ちた。
両頬に赤い手形がついた類が、優しく慰めた。だが、頬が腫れてうまく話せなかったということもあり、そもそも優奈の帰りが遅れたのは、類のせいなので、二人がゲンコツを食らわせたというわけなのである。
「あのさー、俺モグラじゃないから。俺でも痛いからね、これ」
雪と実果が今までにないすごい顔で睨みつけてくるので、さすがの類も口を閉じた。
すると、優奈が堪えていた涙を一気に流した。
「お願いです…。私の…弟を、祐を…助けて…」
そのまま顔を手で覆って伏せてしまった。
誰もが哀れんだ目で彼女を見つめるなか、テレビのすぐそばにいた雪が、小さい音で気になるニュースが耳に入った。
「今入ってきたニュースです。今朝、東京都立通学第3高校の生徒6名が自宅で丸焦げになって遺体で発見されました」
雪は、もしかしたらという気持ちで、彼女達の制服の刺繍を確認した。
『通学第3高校 守原 実果』
「あー!」
雪はさっき聞いた高校の名前と同じだったので、思わず声を上げた。
突然雪が叫ぶので実果は目を丸くして驚いた。優奈と澪はまったく動じず、そして類は、耳をふさいで「うるさいなぁ」と小声で愚痴った。
「ごめんなさい…でもこれを見て!」
雪はテレビの前から離れ、テレビを指差した。
「死因は感電死と見ていますが、遺体近くに感電するようなものがなかったため、警察は詳しく調査を進めています」
通学第3高校の生徒、6名死亡と画面右上に映された文字と画面下に映し出されている死亡者の名前が知ってる人の名前だったことに、実果は固まってしまった。
「雪、澪。お前らはここでこの子を見てろ。俺はこいつと一緒にあいつを仕留めに行く」
類がドアのすぐ横のカウンタにおいてある紺のジャケットを羽織った。
『こいつ』という言葉に実果の硬直が解けた。
「な、なんで私まで行くのよ!」
「お前の霊力は役に立つ。それに、俺は今から霊力を澪に預けるんで、戦闘できないしな」
そして、類は澪を見て、少し声を小さくして頼んだ。
雪は「霊力…?」と疑問に思ったが、口には出さなかった。
「弟さんの治療と同時に、相手の能力がわかったら知らせてくれ」
「ええ」
優奈の代わりの敵討ちだと自分に言い聞かせた実果は、しょうがなく立ち上がって、外に出る類の後についていった。
‡―†―†―‡
「なぁ」
「何よ」
実果が不機嫌そうに返事をする。
「お前のその高校には、霊力者が何人いる?」
「霊力者!?」
まるで初めて聞いたように聞き返す。
「何よ霊力者って?」
類は以外な発言に走行をやめた。
「まさか、お前ら霊力を知らないんじゃ……」
「知らないけど、それがどうかした?」
怒り口調で言い放つ。
「マジかよ……」
言葉そのままの表情をした後「まっ、いいか」と開き直って再び走行した。
「じゃあ質問を変える。お前のような能力者は何人いる?」
しばらく考えた後、実果は質問に答えた。
「う〜ん。だいたい30名くらいかな……」
「それは高校では多いほうか?」
「多いっていうより、あんまり他の高校の能力者の話を聞いたことないのよね。私達は、生徒会と名の能力者達の集いがあるけど」
「生徒会?」
「私達能力者だけで組織された6名の生徒達のこと。6名は能力者の中でもより優れて、学校生活も何の問題もない生徒。当然私も入ってる」
自慢気に言う実果に類は不機嫌な顔になって「お前が優れてるなら、俺は神だな」と呟いた。
すると、類の頭のコブが3つに増えた。言うまでもなく、実果がゲンコツを食らわせたからである。
「とにかく、他の高校の事は知らない」
「じゃあ、今朝殺された奴らのことは?」
実果は少し俯き、声のトーンが低くなった。
「……全員が能力の弱い子ばかりだった。でも、とってもいい子だった」
「ってことは、次も能力の弱い奴が狙われる可能性が高いってわけだ。誰かわかるか?」
「たぶん……リクだと思う。殺された子たちの家にも近いし……」
「そいつの家はどっちだ?」
「このまま真っ直ぐ……ってあんた今まで当てもなく走ってたわけ!?」
突然声のトーンが上がった実果の質問に平然と突然のように答えた。
「そうだけど……何か問題でも?……いいじゃないか、結局方向合ってたわけだし。それに気づかないほうもおかしいけどな」
実果は俯いてその場で立ち止まり「あんたって人はー……」という怨念の囁きを聞いて、走行スピードを急激に上げた。その後からすごい顔で実果が追いかけていく。はたから見れば鬼ごっこをしているように見えた。
‡―†―†―‡
「ここよ」
実果がクリーム色の大きな寮のほうを指差した。
「通学区にしては人が少ないなぁ」
「まぁ、今朝の事件があったから、たぶん休校になったんじゃない」
無論、今朝の事件というのは、6人の高校生が殺害されたことである。
類が寮の入り口のほうへゆっくりと歩き始める。しばらく歩いた後、立ち止まってしまった。なぜなら自動ドアらしきドアが開かないからである。
「おい、これ……」
「ああ。それ学校の生徒じゃないと入れないよ」
実果が自動ドアのほうへ歩き、着いた途端、自動ドアのセンサーの色が赤から緑に変わり、ドアが開いた。
実果はそのなかへ笑みを浮かべて入る。その笑みになぜか類は悔しさを感じていた。
その後、奥にある階段から最上階に上がり、右折。一番奥の部屋の前に来た。そして、実果がチャイムを鳴らそうしたとき、類が小声で叫んだ。
「おい!」
実果はびくっとして「何よ?」と返事した。
「もし、奴が中にいたらバレるだろうが」
「じゃあどうしろっていうの?」
「何言ってる。破壊だろ、破壊」
類が当然だろっというような態度に「は!?」と通常の声量で批判した。
「静かにしろ!」
「破壊って言ったて、どうやって?」
「お前のれい…能力でだ」
「でも……わかった。やってみる」
そう言って、ドアノブに手を掛けた。
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