EP0-CP6 類と霊力者達(サイキックス)
実際睨んでいたのは警察だけで、類と澪は、平然と笑みを浮かべている。
「お二人さん。お久しぶりね」
「……」
澪が冷静な顔で二人に挨拶をした。その挨拶に、類は一瞬澪をチラッと見た。
「お前、この二人と知り合いか?」
「ちょっとね」
二人とも冷静に表情を変えずに、坦々と喋る。
「なぜ…なぜ、あなたがこんな奴のところに?」
澪の姿に驚いた勇が問い質す。
「おいおい。こんな奴って言い方はねぇーんじゃねーの」
類の見下した態度と言葉に、勇は一瞬顔を顰めた。
「俺が何した?俺は人を助けてるだけだ」
「あんたがやってることは、公務執行妨害及び、従犯の罪により、死刑だ」
竜が途中で言葉を挟んだ。
死刑というのは言いすぎだと思うが、類が犯した罪については正しかった。
「お前は全世界各地で指名手配されている。場合によって死刑ということもありうる」
だが、勇はそれをわかって死刑という言葉で脅した、つもりだったが、類には通じないようだ。
「たったこれだけで死刑ですか…。この日本…いや、世界はやっぱり腐ってるな」
顰めた顔で勇を睨みつけ言い放つ。
「あんたらも、なぜ霊力者なのに警察の味方をする?」
突然、竜の右腕が火花を散らし始めた。
「先輩。こいつ、殺してもいいっすか?」
無表情…というより冷酷な目で類をじっと見ている。彼の目には、類が焼き殺されている映像が映っているのであろう。時々不気味な笑みを浮かべる。
「いや、まだ話が…」
勇の言うことを無視し、類に向かって突進する。そのスピードはかなり速いものだった。その瞬間、一瞬にして右手が燃え上がる。その右手が類の顔面に襲いかかる。
「落ち着け」
類が表情一つ変えずにボソッと言った。
竜は一瞬、信じられらないというような顔で自分の右手を見た。類の目の前で燃え盛る右手を、顔面ギリギリで、しかも素手で掴まれているのである。
竜は悔しい表情で舌打ちした後、右手を掴まれてる状態で、左足を類の首目掛けて振り上げた。
その攻撃は空振りだった。なぜなら類が、瞬間移動で目の前のアパートの屋上に移動したからだ。
そこから、ふてぶてしい笑みを浮かべている。
「やるってんなら、相手になってやってもいいぞ!」
アパートの上から聞こえる、類の挑発的なセリフに、竜はますます腹立てると思われたが、それとは逆に、類と同じ笑みを浮かべた。そして今度は、両手を炎で包んだ。
「霊力放出!」
類に向かって両手を勢いよく突き出した途端、両手に燃え盛っていた炎が類のほうへ放たれた。人魂を思わせる真っ赤な炎は一直線に類目掛けて飛ぶ。
「レイノ」
類が呼ぶと、背中からレイノがニョロッと出てきて、すかさず類の右腕に入った。
類の筋肉質な左腕は拳を中心に銀白のオーラが纏っている。
類はその拳を勢いよく火の玉のほうへ突き出すと、火の玉はまるで蝋燭の火のようにフッと消えてしまった。
「後ろ!?」
突然背後に気配を感じた類は、今度は炎に包まれた左手を同じ手で防いだ。
‡―†―†―‡
「さて、あっちもやりあってるみたいだし、こっちも戦う?」
類たちのいる屋上を見ながら澪が戦闘を誘う。
それに勇は、竜の火の拳を見て、あ然の表情で固まっている雪を見て返答した。
「生憎、俺は、一般人の前で無闇に霊力を使いたくないし、それ以前に、あなたと戦う気もない」
「残念ね。久しぶりにあなたと殺りあえると思って期待してたのに…」
それは「あなたを殺せなくて残念」と言う風にも聞こえるほど殺気を感じる言葉だったが、声は冷静そのものだった。
「さっきあなた、『私がなぜここにいる』と聞いたわね」
勇がうなずく隙もなく言葉を続けた。
「逆に聞きたいわ。あなたがまだ警察にいるのか」
後ろで聞いている雪にはもちろん、勇にも意味がわからなかった。
「何の話だ」
「あら、まだわかってないの?それとも、まだ教えられてないの?」
澪はそう問い詰めると勇のほうへ、コツコツッと茶色のブーツの音を鳴らしながら前進する。
「竜は、類が『なぜ霊力者なのに警察の味方をする?』と言ったとき、彼は目の色を変えて、類に殺意を向けた…。ということは彼は知っている。……もしかしたら、自分が霊力者とばれて、開き直ったかも知れないけど。とりあえず警告しておくわ。」
勇の目の前で立ち止まった後、サングラスをはずして警告の言葉を発した。
「あなたがこのまま何も知らないと、二人とも警察に殺されるわよ」
澪の黒く鋭い眼光に思わず、一瞬目を逸らしてしまった。
彼女が警告していることは、正義の暗殺者のことである。
類が説明していたが、キラーとは、類と関わった人間というよりは、霊力者達と関わったすべての人間を殺すという警察の裏組織であり、実際の目的は類ではなく、霊力者達である。
勇の怪力や、竜の手の発火も、彼らが霊力者だからできることであり、彼らも警察だからと言って例外ではない。霊力者ということがわかれば、クビ程度ではない。即死刑である。
勇はしばらく考え込むように下を向き、動かなかった。
‡―†―†―‡
(いったいどうやって上がってきた…)
そう思った類が竜の後ろのほうを見ると、1メートルにも満たない隙間があった。
(なるほど、カベキックか…)
路地の狭さを利用して、上がってきたとわかった。
「あんたの霊力…いったいどうなってる?」
「つまり、俺の魂が何か?って聞いてるわけか?」
ぐいぐいと左手を押し付けながら聞かれた類は、こっちもそれに負けずと、ぐいぐいと押し返しながら聞き返した。
「あんたの行動や、先輩に聞いたところによると、あんた多数の霊力を使う。その数は多種霊力者どころではない」
「そのことか…。その質問に答えるのは簡単なことだ。…俺の霊力が霊そのものだからだ」
そもそも霊力とは、己の魂を一時的に霊化させたものを霊力という。霊力が霊そのものというのは、当たり前のように聞こえるが、それはつまり、魂自体が元々幽霊だということになる。簡単に言えば、類はある意味人間ではないのである。
目の前にいる奴が、人間ではないとわかれば、誰だって動揺し、身を退くだろう。竜もその一般的な行動をとったが、その隙に類が掌を完全に開いた左手を竜に翳した。
「霊力放出」
類の左腕の銀白のオーラが竜に放たれた。
避けたいのは山々だが、飛び退いてしまったため、空中では身動きが取れない。
そして、そのオーラは見事にヒットしたのだが、竜になんら変わりはない。竜も不発に終わったのかと思うが、その異変に気づくのにそう時間は掛からなかった。
竜が両手を発火させようとするが発火しない。歩こうとしても動けない。
首から下がまったく動かなくなっていたのだ。
「身体が…」
「思考共有を応用した、金縛りはどうだ?」
類は腕を組み、自慢気に言う。
霊は人間の身体に入って、ある程度の暗示をかけて金縛りを行う。そして、だいたいの運動神経を霊力によって遮断するという霊の力を自分の力に応用したのだ。
「じゃあな」
手で身振りをすると、屋上から飛び降り、澪の隣に猫のようにピタッと着地した。
「行くぞ澪」
「ええ」
硬直する雪を抱え、さっきの出入りしにくいドアのほうへ向かった。
勇は逃げ出す二人にハッとなり「待て」と呼び止めるが、聞くはずもなく部屋に入っていった。
急いで駆けつけ、ドアを開けると勇は目を丸くした。そこには何もない空き家があるだけで、誰もいなかったのである。
    
‡―†―†―‡
類たちは、ちゃんとさっきの部屋に戻ってきていた。
まだ完全に硬直が解けていない雪が心配そうに聞いた。
「ねぇ、あの人達、ここに入ってこない?大丈夫?」
「心配するな。ここは特殊な祓いがある。奴らは入ってこれない」
「祓い」という言葉を無視して、雪は少しほっとした。竜の燃えている手と冷酷な目を見たせいで、少し恐怖感を覚えてしまっていたのだ。
少し落ち着いた雪が疑問に思い問う。
「じゃあ、どうしてわざわざ外に?」
「警告するためだ」
類がいつものように、だるそうに答える。雪はその答えにあまり満足していなかったが、類も疲れていたようだし、何より自分が疲れていたので、次の機会に詳しく聞こう、と思っていた。
「類、勇たちは…」
澪がサングラスを掛け直し、普段の冷静な声で言う。
「いずれわかることだ。それに、あいつら簡単に死ぬような奴らじゃないし、今はほっといてやればいい」
類はドアから見て左の壁にあるソファに寝転がり、目を瞑った。
しばらくもたたないうちに、微かにいびきが聞こえる。あまりの早寝に雪は呆れてしまった。
「疲れたでしょう、コーヒーでも飲む?」
玄関のすぐ隣にある台所に向かう澪に、優しく聞かれた雪は「は、はい」と慌てて返事をした。
今日は本当に不思議なというより、疲れた一日という印象のほうが強かった。何より、類と一緒にいたことがイライラしたり怒鳴ったりと、疲れる原因だった。だが本音を言えば楽しかった。こんな気持ちは久しぶりだった。雪はふと死んでしまった昔の友達のことを思い出した。今思えば、結構似ているかもと思ったが、あとから、友達のほうが優しいと思い直した。
あいつが助けなかったら、今私はいない。こんな気持ちになることもなかった。類のおかげで、生きる楽しさを思い出した。雪はもう自殺しないと決意した。
雪は類の方を見た。手の平に火傷の後が残っている。そして、澪がコーヒーをもってくるまでの間、しばらく類の寝顔を眺めていた。
ありがとう…類
読んでいただきありがとうございます^−^
EP0完結です。
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次章もよろしくおねがいします。
 




