EP2-CP26 泡霊
この話には、残酷な描写表現があります。
苦手な方は控えてください。
その現場のビルに向かう途中、雪が何かを発見した。それは、地面にくっついている黒い泡だった。
「ねぇ……あれって」
類は振り向いて、人差し指を口にあてた。
「声は透明にならないんだよ。ばかっ」
そう冷たく言い放って、雪の腕を引っ張った。
途中で雪が類から1メートル近く離れようとして、危うくバレそうになるというアクシデントが起こったが、それ以外は問題なく、ビルの屋上にたどり着いた。
類は屋上に着くなり、霊力で屋上にいたすべての人間を眠らせ、潜在能力を解除し、遺体に近づく。
見るも無残な姿だった。ニュースでは死因は首を刺されてっと言っていたが、恐らく、首を刺す以前に腹部を小さな何かで刺した後がある。これでも十分死に至る。首は最後のとどめというぐらいのおまけっと言ったところだ。そのほかに足に2箇所、腕に3箇所の貫通した傷がある。しかし、どれも傷の大きさ不規則で、同じ凶器で指したようには見えない。それに首以外の傷は首の出血でわかりにくい上に、大きさが小さい。
「また、派手にやりやがるな」
「うっ」
雪はそれを見て、ひどい吐き気に襲われた。と同時に、それをいつもと変わらぬ顔で見る類に少し軽蔑を覚える。
「お前はどう思う?これを見て」
突然そこに現れたように、後ろにいた光に類が問いた。
「……」
雪にはわからなかったが、類には少し動揺しているのを感じた。
なるほどな……
一瞬の思考のあと、類は納得した顔で笑みを浮かべた。
「……また、正義の暗殺者?」
吐き気をやっとの思いで我慢した雪が、口を抑えながら聞く。
「恐らくな」
少し声のトーンが高かった。
「ねぇ、類」
「ん?」
「あれって何?」
「はぁ?」
「あれっ!」
雪がビルの下の地面に向かって指を指す。類がそこ見ると、黒い泡が地面からぷつぷつを沸いている。
「泡霊」
「ほうれい?」
「成仏が中途半端の霊に見られる霊気の塊だ」
「……聞いた私がバカだった」
そういう専門的なことを言われても雪とっては理解不能だった。
(あれがあるってことは……もう間違いないな)
ポーン
類たちに聞きなれた銃声が街に響いた。
「どうも」
類よりも気が抜けた声で、相変わらず全身黒い服装の黒が隣のビルに姿を現した。
「あ、あんたは……誰?」
事実、雪は黒を知らない。まぁ、変な武器を持っているのはだいたい霊力者ということはわかるが。
「雪は下がってろ」
「まさか!こいつが正義の暗殺者!?」
「ああ。だがまぁ、ザコだがな」
「言ってくれるね。あのときは、よくもやってくれ――」
「あんたがやったのね!」
雪が黒の話を折る。
「え?何の話ですかー?俺は、別に仕事しにきたわけで、そのグロい死体のことなんて知りませんが」
「え?」
「まぁ、そいつが霊力者だったら、俺の仕事が一つ減ったわけで、大助かりだけど」
雪に怒りが込み上げてきた。何か文句を言おうとしたその時!
「こっちはお前が消えてくれたほうが、大助かりだけど、な!」
『な』の部部で、銀白のオーラを纏った右手で顔面に向かって殴った。
それを半透明の銃で防ぐが、衝撃が強すぎて、吹き飛ばされてしまった。
「人が俺らに気づかないってことは、『霊の陣』を張ったのか」
「そう。親切だろ?」
そう言いながら類に銃口を向ける。
「お前の銃で人を殺せないことぐらい、知ってるぞ」
「……」
「プラスティック如きの強度で、しかも銃弾までもがプラスティック。さらに言えば、お前は一人で……!」
台詞の最後の部分で黒がニヤリと笑みを浮かべる。
類は何かに気づいたようすで後ろを振り向く。
「残念だったな」
カチッ
銃には弾が込められてなかった。つまり、またしても偽者。
違うビルの屋上から、赤く長いポニーテール姿の明が手を上に挙げ、その先に電気球を蓄えていた。それを確認した黒は、その場から身を退いた。
「おいおい、あれはまずいだろ」
類がそう言うのも訳ない。電気という殺人的物質をさらに超高密度に密集させ、それをこっちに向けて放出しようとしているのである。無論、そんなものを受ければ、類でさせ一撃である。
「雪っ、光っ、にげろ!」
「遅ーんだよっ!」
女らしからぬ発言のあと、類たちのいるビルの屋上に手を翳した。
「死ね!」
ボッフーンッ
突然、明のところが爆破した。爆発のあと、バチリと電気がビルを駆け巡る。
「……てめぇ」
「フフッ……」
爆風で吹っ飛んだ明をバカにしたように、綺麗な黒い瞳が見下ろす。
「あ!澪さんっ」
雪が安心と嬉しさの感情がこもった笑みを浮かべる。
作戦の失敗を受けて、黒が明の元へ現れた。
「おい、ここは退くぞ」
「ざけんな!せっかく――」
「はぁ〜、少しは学習してくださいよ、明様。あんたの霊力は時間が掛かりすぎる。かと言って、俺はあいつらを殺せない」
「……ちっ」
明が悔しいそうな顔したあと、二人は一瞬にして消えてしまった。
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