EP2-CP25 潜在能力(ハイド)
「あ、あんたね……さっきのは、冗談では済まないわよ……」
雪が疲れ切った様子で、お腹を抱えて類の前に立ちはだかる。この状態から見てかなり苦戦したと見える。
「済んだじゃないか」
真顔で言われたのが腹が立つ。
だが今はとても怒鳴るなどという体力は持ち合わせていない。
雪はその状態で、光の隣に腰を下ろし、誰が消したかわからないテレビを再度つけた。
テレビの音が部屋に流れると同時に、光がハッとなったように動じた。それを見た二人は確信した。こいつは寝ていた、っと。
髪が前に垂れていたということもあり、(そもそも存在が薄いからかもしれない)顔が見えなかったので、気づかなかったのである。
寝てるいるのか、起きているのかわからない、どこでも眠れそうなタイプの彼はさて置き、雪がテレビの方に耳を傾けると、こんなニュースが入ってきた。
「今朝、東京都通勤区のビルの屋上で、神原俊二さん、25歳が首を刺され、死亡しているのを発見しました。死因は傷口から、凶器は槍のようなもので刺されてのショック死と見られています」
まぁ、それだけでも相当の事件なのだが、さらに雪を驚かせたのは、映し出されたのその『神原』の写真。それはあの若手社長だったのだ。
「ち、ちょっと類!これって……」
類がテレビの前にしゃがんで覗き込む。それを見た類の表情が険しくなった。
「また、『奴ら』の仕業か……」
「よしっ!」
すると雪が立ち上がって類を見下ろした。
「行くんでしょ?」
「あ、ああ……」
いつもは自分から連れ出すのに、雪のほうから言われると……なんか違和感を感じた。
まぁ、そんなことは気にせず、立ち上がってドアのほうへ向かった。
「っで、お前はどうする?」
光はしばらくまったく硬直したあと、急に立ち上がってドアのほうへ足を運び出した。
類は軽く鼻で笑ったあと、家から出て、ドアを閉めた。
路地から出ようとすると、雪が例の『自殺相談所 霊の方はこちらからお入りください』という看板を見つめ、ぼーっと立っていた。
「前から気になってたんだけど……これって何?」
「ん?……あーこれか?これは看板」
「いや、そうじゃなくて、なんでこんな看板が?」
「じゃあお前は、普通のなんの変哲もない一般住宅にこんな看板が掛けてあるんですか?っと逆に問うぞ」
「意味わかんないんですけど……」
「はぁ〜。看板があるってことは、ここが店、又は会社ということだろうがっ。ったく」
まぁ、薄々感づいてはいたが、本当に店だったとは。
しかも素晴らしいことに、その店と呼ばれる場所に滅多に客が来ないのが驚きである。まぁ、こんな路地にあっても、さらにこんな名前の店では誰も入りたくはないだろう。
「じ、じゃあこの、『霊の方はこちらからお入りください』って――」
「お前少しは推理をしろよ、推理を。俺は『ゴーストマネージャー』って言ってるよね?つまり、俺は霊も客の内なんだよ。わかる?お前そんなに頭使わなかったらマジで脳が腐るぞっ」
呆れてるのか、怒っているのかよくわからない口調で雪に説明するが、とりあえず類から見る雪の好感度が下がっているということは間違いないだろう。
「じゃ、つまりここは『家』じゃなく、『店』ってことね」
「あ゛〜やっとわかった?だったらほら、さっさと行け」
「ちょ、ちょっとー」
類は雪の背中を押して、無理やり路地の外へ追い出した。
‡―†―†―‡
「ねぇー、類が普通に街歩いてもいいの?」
「おまえさぁー。マジでイライラする」
「はぁ?」
「それ2回目だし、理由も言ったし、同じこと言いたくねぇーし」
「あれ?そうだっけ」
「知らん。自分で考えろっ」
通勤区のとあるビルの前の歩道を3人は歩いていた。
冬なのに、太陽がギラギラと輝いていて、今日は少し暑め。
車がよく通っているが、この先約200メートルのところは違った。警察が道路を封鎖していたからだ。恐らく、今朝のニュースの事件と関係があるに違いない。なぜなら、そのビルの道路を付近が封鎖されていたからである。こうなってくると、絶対的に類たちは事件を調べようにも調べられない。
「どうするの?類」
「まぁー見てな」
そういって、躊躇することなく、立入禁止範囲まで近づく。
「止まれ!」
やはり、警察に止められてしまう、が。
「ここは――」
『死』
類がそう呟いたとき、警察官は目を見開いて硬直し、涙を流した。
「行くぞ」
雪と光に声をかけ、黄色い立入禁止の線を潜り抜けた。
中に入ると突然、類と光が進路を変え、ビルの路地に向かって急ぐ様子で走り始めた。
「おい!さっさとこっちに来い!」
「な、何!?」
類が突っ立っている雪の元に駆け寄り、呆れた様子で手首を掴んで路地の方へ引っ張った。
「な、何よ!?」
「お前バカだろ!何堂々と事件現場で突っ立ってんの?俺らは非関係者だぞ。それなのによく、あそこでウロウロと」
「えっ、類がなんとかやってくれたんじゃ……」
「お前、俺がどこまですごい人間だと思ってんの?まぁ、実際そうなんだが……さすがにここにいる警察官全員をどうにかするのは無理だ。とりあえずだな、ここは潜在能力で身を隠すぞ」
そう言うと、光と雪を自分に近づけさせた。
「いいか、俺から1メートルでも離れるな。数ミリでもだめだ。離れれば潜在能力が消える」
「でも、私たちが空を飛んでいたときとかは、そんなに近づかなくてもできてたんじゃない?」
「人数が3人だし、それに、潜在能力はレイノが中心の霊力だから、そのレイノを操る俺の近くにいなきゃ、3人まとめて発動するのは難しいんだっ」
そして、レイノが類が身体からニョロっとでてきて、3人の周りを何回か回ると、銀白のオーラが3人を包んだ。
「よし、行くぞ」
3人は路地を出て、問題のビルへ慎重に足を運んだ。
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