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  作者: 空想
22/26

EP2-CP22 お風呂

「あ〜、最近面白いの、やってないなぁ〜」


翌朝、一番早く起きた――と言っても、朝11時――雪が、類愛用のソファーでテレビをつけての感想だった。

 結局昨日は、類は愛用のソファーで、雪とひかるは、地下で寝たのだった。

 光はというと、たぶんまだベットで寝ている。『たぶん』と曖昧なのは、朝、光の姿を見ていないし、寝ているという確認もしていないので、予想である。

 類の方は、朝ソファーにもいなかったことだけで、外出したと決め付けた。というか、実際類がどこへ行ってなにをしようとどうでもいいことなので、そんなに気にしなかった。結果、類の居場所は知らないという結論にたどり着く。

 雪は、全チャンネルを一通り見た後、テレビをプチっと消して、ソファーの背もたれに、ため息をしながら思いっきりもたれかかった。


「はぁ〜、軟禁って結構暇。類もいないし……あ!」


 雪は起床時間10分で類がいないことに気づいた。

 と、その時、類愛用のソファの斜め向かいにあるキッチンの奥から、なんと類が現れた。

 突如現れた類は、タオルを腰に巻き、上半身裸。つまりは、風呂上りという格好でこちらに向かってくる。さらにその証拠として、髪が濡れ、特徴的な斜め4方向だけの長い髪の毛が垂れていた。


「な……あんた、どこから来たのよっ。……それ以前にその格好……」


「いやっ、誰がどう見たって風呂上りだろーが」


「いやいや、誰がどう見たって変態よっ」


 雪の言うことも一理ある。


「だいたい、風呂上りって言ったって、どこにそう呼べるものがあるのよ!それ以前に、どっから湧いたのよっ」


「湧いたって、俺は虫ですか?」


「だってそうじゃない。出入り口もない、誰もいなかったほぼ密室に近いキッチンから、突然、タオルを腰に巻いた上半身裸の変態が出てきたら、それはもはや人間ではないと思っても変じゃないと思うけどっ!」


「出入り口もない?何言ってんだ。通路なら、あそこに――」


「え!?」


 類がキッチンの奥の方を指すので、そのほうへ急いで向かうと、なんと、突き当たり左に廊下があるではないか。

 その廊下の一番奥にドアがひとつ、左側にも一つあった。

 前々からこの家の構造に疑問を持っていた雪の謎が解決した。と同時に、この家の新たなる謎が生じた。


「なんで、このこと――」


「教えなかったかって?それはお前の好奇心のなさと、推理力のなさのせいだろ。俺のせいにすんな。だいたい、『ここってなんでドアがないんだろう』と思ってんだったら、少しは自分で調べるか推理しろっ」


 つまり、この家は玄関から見ると、『L』字型になっている。外見は四角形なのに、中の構造がL字型はおかしい、と雪は前々から思っていたのである。だったら自分で、そこに繋がるドアを探したり、推理しろ、と類は言っているのである。

 まぁ、キッチンの奥に通路があるなんて、人の家のキッチンをお構いなく物色するよっぽどの失礼な人か、設計者でもない限りわかるはずがない。その設計者は誰かと言えば、だいたい予想はつくが……


「ってことは、ここにお風呂が?」


「当たり前だ。……まさかっ、お前ずっと風呂入って――」



 バシっ



 類の右頬にビンタが命中した。


「そんなわけないでしょっ。ったく、夜こっそり銭湯に行ってたわよ」


「人の爆睡を利用して夜に外出するとは……」


「賢いでしょ?」


「いや、その上に『ずる』が付くな」



 バシッ



 今度は左頬に……恐らく言わなくてもわかるだろう。


「とりあえず安心した〜。もうわざわざ銭湯に行かなくてよくなるし。……お風呂ってことは、トイレは?」


「あるぞ。風呂んとこに」


 類がそういうと、急いで廊下を走った。

 雪が左側のドアを開けようとしたとき、


「風呂場は奥のほうだ」


 と言われたので、ドアノブから手を離して、奥のドアノブの方へ手を伸ばした。

 そこには、ピカピカの白いタイルの壁床に、清潔感漂うトイレとシャワーに浴槽があった。


「良かったー。だって地下のトイレって汚いんだもん」


「ああ。ここは澪が管理してるからな」


「さすがっ!すごいなぁ澪さんは」


「ところで……」


「ん?なに?」


「お前さ、その制服洗わないの?」


「失礼ねっ。ちゃんと銭湯のついで、洗濯してますよっ」


 こいつこの制服何着持ってんだ?


「ちなみさ、それは何日ペースで?」


「な、何よ突然……。まぁいいけど、だいたい2日に1回ぐらいかな」


 なるほど、だいたい2着持っていて、それを着回してるのか。それにしても、とことん哀れだな。澪が戻ってきたら、澪にこいつの服を買ってこさせるか。じゃないと、さすがにこのスタイルは飽きる。

 と、一人で勝手に考える。


「じゃ、私、お風呂入るから、ほらっ」


「何?」


「だから……」


「だから何?」


 雪は改めてこの類という男を鈍感だと悟った。

 つまりは、雪は今からお風呂に入りたいので、男性の類はとっとと出ていけ、と合図しているのであるが、まったくその意味を理解できていない。


「じゃあ何?一緒に入りたいの?別にいいけどっ」


 笑みを浮かべ、類を睨みつけて、わざとらしい冗談を言う。


「ああ。じゃあ入るかっ」


「ええっ!」


 予想外の発言に、危うく転びそうになった。


「はぁ〜、お前はバカだな。まず1に、今の台詞で、男は普通に『入る』っていうだろうがっ」


 やっぱこの人変態だわ


「第2に、俺は変態じゃない。これは一般的男性論だ」


 ううっ……


「第3に、俺はこの家にいるときは、お前にレイノを託してる。だから、考えてることはお見通しだ」


 ……

 いつの間にか、冗談を仕掛けたつもりが、類の冗談の術中にはまってしまっていた。


「第4に、お前と言えども、女と風呂を―」



 ブシっ



 さっきと違って、鈍い音が風呂場に響き渡る。

 威力はそうとうなものだった。あの類が軽く吹き飛んだのだ。しかも顔面グーパンチなので、ダメージはさらに増す。


「俺、前々から思ってたんだけどさ、お前鍛えてんの?すごく痛いんだけど……」


「もう一度殴られたいの?」


 怒るという口調ではない。『無』だった。その言葉には、何も感情が込められていなかった。逆にそれが怖い。


「じゃあ、邪魔しないでね。それと、レイノは私の身体から追い出してね」



バタンっ



 超乱暴にドアを閉めた。


「……俺の服、中にあるんですけど……」


最後まで読んでいただきありがとうございます^−^

誤字脱字や気になる点などがあればご指摘ください。

次話もよろしくおねがいします。

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