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  作者: 空想
20/26

EP2-CP20 謎の男

 

 ドンドンドンッ



 突然、ドアを強く叩く音が部屋に響いた。

 類が一つため息をついて、ドアの方に足を運ぶ。


「はいはい、今開けますよ〜」


 ドアを開けると、類ぐらいの歳の青年が、汗だくで慌てた様子で類の肩を掴んできた。


「ハァハァ……助けてくれ。あんた、悪霊退治……やってるんだろ?」


「……そうですが」


 めんどくさそうに言うが、類には珍しく丁寧な言い方だった。


「会社に……変なのがいるんだ」


「変なの?」


「口が5つもあって、目がない……ば、化けもんだ……」


 それを聞いた雪が、ソファーから立ち上がって、類の後ろに立って本格的に話を聞く姿勢になった。


「だが今は8時だ。会社への侵入はできないはずだが?」


 確かに、今は午後8時過ぎたという時間帯なので、通勤区のシステム上、会社への侵入はできない。


「俺は、会社連立の管理官であると同時に社長なんだ!」


 『社長』という言葉に、二人は動揺した。と言っても雪は、こんなに若いのに社長なんだ〜、と思っており、類は、なるほど社長か〜。金がもらえそうだな、と言ったぐあいである。


「じゃあ、あんたが会社を最後に出たところに、偶然遭遇したという感じか……わかった。助けてやる」


「あ、ありがとうございます」


 一瞬喜びの笑みを浮かべて、深々と頭を下げた。


「行くぞー、雪」


 雪を引きつれ、路地を出ようとする。


「あのー場所は……」


「知ってるからいい」


 そう言って、青年の視界から完全に消えてしまった。


「……え?」



 ‡―†―†―‡


 

コツコツと類の茶色の革靴の足音が真っ暗な廊下に響く。


「なんで私も来なくちゃいけないの?」


 一方雪の靴はスニーカーなので、足音はさほどしない。

 類は雪の話を普通に無視する。


「ねぇ、疑問なんだけど、さっきなんであの社長さんは、類が悪霊退治やってるってわかるの?」


「お前……馬鹿だろ?」


「はっ?」


「宣伝してるからに決まってるだろっ。宣伝しないで金になる仕事がどこにある」


「でもそんなことしたら、警察とかにバレるんじゃ……」


霊力者サイキックを通しての口コミだから、その心配はねぇーよ」


「じゃあ、あの社長さんも?」


「まぁ恐らくな。だが、自分で悪霊を倒せないとなると、弱い霊力だと思うが……」


「ふ〜ん」


 しばらく歩いていると、類が回りの殺気に気づき、足を止めた。


「どうしたの?」


「こっちだっ」


 そう言っていきなり、雪の手を掴んで、すぐそこの部屋の中に連れ込んだ。


「な、何!?」


「お前はしばらくそこでじっとしてろ」


 乱暴にドアを閉めると、類のコツコツと廊下に鳴り響く音は、やがて小さくなって消えてしまった。

ひとり取り残されてしまった雪は、部屋の中を観察……ではなく、窓から射し込む月明かりを頼りに、電気のスイッチを探索することにした。

 それは以外に近くにあり、カチッと音と共に明りがついた。

 部屋は思っていたよりも広く、そのわりには、オフィスデスクが少なかった。

雪が部屋の中央に来たその時!突然部屋の明りがパッと消えてしまった。


「な、何!?」


 急いで再び明りを点けにいこうとした……が、それは背後から襲ってくる殺気によって阻まれてしまった。

 霊感に鈍い雪でもわかるほどの嫌な気配というか、殺気は、雪の身体を完全に縛った。


 逃げたい……


 しかし、恐怖によってそれは許されなかった。


「……こんなときに……類はなにしてんのよっ」


 襲い迫る恐怖に耐え、震えた声で類に助けを求めた。

 当の類はというと、なぜか雪のいる部屋のすぐ下の部屋で、うろうろしていた。


「おかしいな……霊気が消えた」


 つまり彼は、霊気というものを頼りに、ここに来たわけだが、どこにも悪霊の姿が見当たらないので、悩んでいたのである。

 しばらく考えた後、突然なにかを感じたように、一瞬驚きの表情を浮かべ、急いで部屋を出た。

類がそうしている間に、完全に雪には死が迫っていた。

 さっきの若い社長さんの言っていたとおり、それは、黒くて丸い物体の真ん中にデカイ口が一つ。その上下左右に小さい口がひとつずつある。目はない……と言いたいところだが、実際は大きい口を取り囲む小さい4つの口の中に存在し、まばたきをしているように、開いたり閉じたりしていて、よりその恐ろしい姿を増している。

 恐怖で動けない雪に向かってゆっくり、浮遊している状態で近づいていく。


 

 どうして動かないの……



 雪の表情は恐怖というより、焦りの表情のほうが強くなっていた。

 彼女自身は、動けないのは恐怖のせいだと思っているのだが、実際はあの4つの眼によって、金縛り状態にあっていたのである。

 雪の額から汗が流れ落ちる。

 殺されるなら、さっさと殺してほしいのにも関わらず、この悪霊はノロノロと、まるで雪の恐怖と焦りを楽しんでいるかのように近づいてくる。

 そしてとうとう、その恐怖から逃れるときが来た。

 その悪霊は雪の目の前にまで近寄り、大きい口をいっぱいに開いた。その口の中の正体は眼ではなく、腕だった。

 口の奥から伸びてきた2本の腕は、雪の首に一直線に向かい、ガッチリと捕らえた。


「うっ……」


 どんどん口の中へと引きずり込まれていく。


 もう……だめだ……


 雪がそう思ったそのとき!突如上から降ってきた刃によって、その腕は切断され、その反動で雪はその悪霊から離された。



 グサッ


 

 その音が聞こえた数秒後、悪霊は徐々に透けて、最終的に完全に消えた。

 その消えた悪霊の背後には、暗くてよく見えないが、人影があった。

 月光に当たっている髪が紫なことから、類ではないと確信した。あと男ということも。

 悪霊を殺した→が、類ではない→誰?→左手に変な鎌を持っている→私を殺せる?→殺せる……→逃げる?→無理→とりあえず距離をとる、という思考順序でゆっくり後ろへ数歩退がる。


「わっ!」


 数歩退がりすぎて、椅子の足に足を掛け、お尻から床に転んでしまった。

 それと同時に、その人影がこちらに向かってくる。



 殺される!



 雪は再びを恐怖を感じたが、意外にも手を差し伸べてきたので、恐怖感が吹き飛んだ。

 少し戸惑いながらも、その人の手を取った。とても冷たかった。


「きゃっ」


 突然、その手が強引に引いたため、その人の胸に飛び込み、抱きついた状態になってしまった。


「雪!」


 聞き覚えのある声で呼び、部屋のドアを乱暴に開けて入ってきた。

 そして、部屋の明りを点ける。


「あ……」


 雪と類が同時に声を上げた。

 最悪のタイミングである。


「ち、違うの類。これは―」


 雪が慌てて、その問題の彼から離れたが、もう遅かった。


「いや、いいんだ。俺は何も見てない。悪かったな二人の時間を邪魔して」


 類がわざとらしく、片手で目をふさいだ。


「だから、違うだってば!」


 そんなこと言ってももう手遅れだった。雪は既に、類の冗談という術中に入ってしまったのである。


「まさか、あの子があそこまで欲に飢えていたとは……」


 嫌味たらしく、雪にぎりぎり聞こえる程度の小声で呟く。

 類の冗談に利用されている彼のほうはというと、無表情でただ立ち尽くしている。

 さっきまで紫に見えていた髪の色は黒くなっている。というよりは、実際は紫だが、光の当たり方によって黒にも見えてしまう。

 服装はその髪と同色の黒のフード付きローブに、ただの黒いズボンに黒い靴という、真っ黒い服装だった。


「はぁー。そろそろこの冗談にも飽きてきたな」


 類の誤解を解こうとしている雪を楽しむ類は、その彼に気づいて、その冗談を切り上げた。


 うっ、またやられた……


 雪は悔しい表情を浮かべると、黙って部屋から出て行った。


最後まで読んでいただきありがとうございます^−^

誤字脱字や気になる点などがあればご指摘ください。

次話もよろしくおねがいします。

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