EP2-CP19 無限の発想力
「呼ノ陣」
そのテーブルに置いた紙の上に手を叩きつけた。
突然のことで驚く雪の目の前に、陣が消えると同時に一人の少年が姿を現した。
その少年はレイノのように透けていたが、表情も読み取れ、どっからどう見ても人間という姿をしていた。けど、紙からニョロっと出てきたので、雪から見ればそれが人間ではないということは明らかである。
すると、その少年は被っていたシルクハットを取って、右脇に挟んでいた2冊の本と同じところに挟み、
「どうも」
と丁寧に一礼した。
雪もそれに条件反射で軽く会釈した。
雪の会釈を確認したあとすぐに、類の方に素早く振り向いて睨みつけた。
天井の明りが反射して、メガネがキラーンっと光っている。
「あなたには助けられましたが、いきなり呼び出されては困ります。僕も僕で忙しいんですっ」
すると類は鼻で笑い、不快な笑みを浮かべたあと、嫌な目で睨みつけた。
「そんなこと言っていいのかー?学。契約、切ってもいいんだぞー」
「うっ……」
どうやら、類はこの学という少年の弱みを握っているらしい。
学は、再び類を強く睨んだあと、150cm弱の小柄な身体に似合わないスーツの中から、懐中時計を取り出して、時間を確認したあと、ため息を一つついた。
「それで、何のようですか?」
その言葉を待っていましたっという顔で笑みを浮かべる。
「そいつの発想力を試すテストと、その訓練をしてほしい」
「それだけですか?」
「ああ」
学はテーブルから降りて、雪の前に立ち、手を伸ばした。
「僕は学です。よろしくおねがいします」
「わ、私は雪です……。よろしくおねがいします」
お互いに挨拶を交わしたあと、類がテーブルとテレビの間にある、一人専用のソファーに腰を掛けた。
「じゃっ、さっさと始めてくれ」
「はい」
そう返事をしたあと、軽く部屋の同じところ往復する。
「では雪さん、問題です。あなたは今、直方体の箱の中にいます。その箱はあなたのサイズにぴったりの箱です。一歩も歩くことはできません。さて、この状況であなたが出来ること。又は、これから起こりうることは、全部で何パターンあるでしょうか」
その問題を聞いて、類は鼻で笑った。
雪はというと、真剣に深く考えている。
普通に考えれば『0』。けど引っ掛けという可能性もあるし……といった具合である。
「1!」
「不正解です」
即答させてしまった。
「やっぱりなかったな。発想力」
「じゃあ、類はわかったの?」
「ああ。無限だろ?」
「正解」
はぁ!?……
「僕は、あなたが箱に閉じ込められるとは言いましたが、どこに箱があるとは言っていません。道路だったら、轢かれるかもしれませんし、冷蔵庫だったり、刑務所だったり。はたまた宇宙だったりっと可能性はさまざまです。つまり、場所だけで無限。そこで起こりうる出来事がさらに無限です。よって答えは『無限』。又は『X』となります」
なんとも曲がった正答だが、言っていることは正しい。
「というわけで、僕はこれで……」
「おいっ、待て」
透けているスーツの襟を掴んで、学の移動を阻止する。
「どこへいく?」
「明日あたりにまた来ますから、今日はこれで!」
そうあわてた様子で、ポンっと消えていってしまった。
「なんだったの今の……」
目を丸くした様子の雪が、類に確認をとる。
「学か?あいつは俺の……なんていうか、あれだ。ん〜滞在者というか、なんというか」
「さっき、契約とかなんとか言ってたけど?」
「ああ〜、あれは、あいつの推薦状を出すという代わりに、霊界のジャッチを待つ間、俺の言うことを聞くって感じの関係か……な?」
「それって奴隷ってこと!?」
「言い方悪いな〜。せめて召使いと呼んでほしいものだな」
とりあえず、学は類の言うことを聞かないといけないという哀れな状況ということに変わりない。
「あんたって最低ね」
怒るというより、呆れたという言い草だったが、どこか本気ではないような言い方でもあった。
少しは俺のことがわかってきたようだな……
類は雪の顔を見て、笑みをこぼした。
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